学野さんは学校にいたくない

まなびと放課後

　授業。休み時間。昼食。掃除。もろもろの雑事をこなせば、待望の放課後がやってくる。

（っやった！　終わった！　学校終わりだ！　もう帰れる！）

　内心、小躍りしたいまなびだがそれを露わにすることはない。クラスメートたちへ適当にさよならを告げ、本当は走って学校を去りたいのを我慢しつつ下駄箱へ向かう。



「――あっ」

　そんなまなびの姿を見て、思わず声を上げる者がいた。



　その男子生徒は、まなびと同じ色の上履きを履いている。この学校では、上履きの色で学年を識別するのだ。

　そんな爪先から目線を上げれば、先にあるのは目鼻立ちのはっきりとした精悍な顔つき。すらりとした高身長のスタイルは、その顔を最高に良く見せる効果を発揮していた。

　街行く少女に「この人をどう思いますか？」と尋ねたら全員「イケメン」と答えるようなわかりやすく見た目の良い顔つき。まなびと並んだなら、きっと美男美女カップルとして見栄えするだろう。だが今、彼が連れているのはまなびとは別の少女だ。その女子生徒がさっと、その少年の後ろに姿を隠したのでまなびはそのイケメンとばっちり目が合う。



「！……」

「……！」



　まなびは何も言わず、さっとその少年から目を逸らす。

　彼は何か言いたげだったが、まなびは小走りでその場を立ち去ってしまった。背中に感じる視線も、たまたまその場に居合わせた同級生も、まなびは気にしない。



　まなびはとにかく、学校にいたくない。自分の好きなところに行きたい、自分が楽しいと思えることをしたい。学校ではそれができない、だから学校を離れる。今のまなびの気持ちは、たった一つ。

「さっさと学校から出たい」

　その気持ちだけで動く、今のまなびはある意味で最強の存在だった。