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酒は飲んでも飲まれるな
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「お待たせしました、エージさん」
羞恥プレイに耐え、一人寂しく佇む俺に天使の声が降り注ぐ。この声はポンコツ女神のそれではない、自らの欠点を克服しようと努力する優しいサモナー少女のものだ。
無事に報告が済んだらしいマリーは哀れなる俺に駆け寄り、変質者を見る目の中から俺を救い出してくれる。
「あぁ、うん。その、それでどこに行く?」
なんとかこの場を離れたい一心であやふやな言葉を吐く俺に、マリーは「うーん……」と首を傾げる。
「私はお酒が飲めないので、できればそういったものが出ないお店に行きたいのですが……エージさんはどうですか?」
「あー、いや、俺は……」
そこで俺は視線を泳がせ、マリーからぎこちなく目を逸らす。
俺に飲酒ができるかどうか? その答えは単純に言えばYesだ、けれどそれを素直に口にできない。
実は未成年だったから? 酔っぱらったら暴れるから? 否、そういう問題じゃない。
俺は――仕事のストレスから逃げるため、頻繁に飲酒していたのだ。
寝ようとしても、明日の仕事のことを考えるだけで眠れない。黙っていたら職場で言われたことや、嫌な体験ばかり思い出して発狂しそうになる。だから俺は、アルコールに逃げた。安いチューハイに、ほんのちょっとのおつまみ。体に悪いのはわかっていたが、摂取しなければ心が壊れそうだった。
だから俺は、飲んで食べて現実逃避し、そうしてまた社畜としてストレスを溜めて……という負の無限ループにはまっていたわけで、生まれ変わった今はあまり酒を飲みたいとは思わない。
だから俺も、アルコールはパスという意見に賛同で……代わりにマリーの方こそ、食べたいものはないのか聞いてみる。
「そうですね、私が好きなのは果物をベースにしたソースやジュースを出してくれるお店です。エージさんは、甘いものはお好きですか?」
「うーん、まぁ嫌いじゃないな」
「なら、そこでいいですか?」
マリーの言葉に、一応俺は頷く。
……社畜時代に飲んでた安いチューハイも、そういうフルーツ系の味がしたから正直ちょっとトラウマが刺激されるが……
お金を出してくれるのはマリーだ、ここであれこれ文句を言うほど自己中にはなれない。
そういうわけで俺はマリーが好きだという、そのお店へ行くことになるのだった。
羞恥プレイに耐え、一人寂しく佇む俺に天使の声が降り注ぐ。この声はポンコツ女神のそれではない、自らの欠点を克服しようと努力する優しいサモナー少女のものだ。
無事に報告が済んだらしいマリーは哀れなる俺に駆け寄り、変質者を見る目の中から俺を救い出してくれる。
「あぁ、うん。その、それでどこに行く?」
なんとかこの場を離れたい一心であやふやな言葉を吐く俺に、マリーは「うーん……」と首を傾げる。
「私はお酒が飲めないので、できればそういったものが出ないお店に行きたいのですが……エージさんはどうですか?」
「あー、いや、俺は……」
そこで俺は視線を泳がせ、マリーからぎこちなく目を逸らす。
俺に飲酒ができるかどうか? その答えは単純に言えばYesだ、けれどそれを素直に口にできない。
実は未成年だったから? 酔っぱらったら暴れるから? 否、そういう問題じゃない。
俺は――仕事のストレスから逃げるため、頻繁に飲酒していたのだ。
寝ようとしても、明日の仕事のことを考えるだけで眠れない。黙っていたら職場で言われたことや、嫌な体験ばかり思い出して発狂しそうになる。だから俺は、アルコールに逃げた。安いチューハイに、ほんのちょっとのおつまみ。体に悪いのはわかっていたが、摂取しなければ心が壊れそうだった。
だから俺は、飲んで食べて現実逃避し、そうしてまた社畜としてストレスを溜めて……という負の無限ループにはまっていたわけで、生まれ変わった今はあまり酒を飲みたいとは思わない。
だから俺も、アルコールはパスという意見に賛同で……代わりにマリーの方こそ、食べたいものはないのか聞いてみる。
「そうですね、私が好きなのは果物をベースにしたソースやジュースを出してくれるお店です。エージさんは、甘いものはお好きですか?」
「うーん、まぁ嫌いじゃないな」
「なら、そこでいいですか?」
マリーの言葉に、一応俺は頷く。
……社畜時代に飲んでた安いチューハイも、そういうフルーツ系の味がしたから正直ちょっとトラウマが刺激されるが……
お金を出してくれるのはマリーだ、ここであれこれ文句を言うほど自己中にはなれない。
そういうわけで俺はマリーが好きだという、そのお店へ行くことになるのだった。
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