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最低の告白~友人が悪役令嬢にされそうになった~

ハナ・ムラサキ③

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 エドワード王子が人の話を聞かない人間だとは思っていたが、まさかここまでとは……っていうか、もう今日で卒業なんだから退学は意味ないんじゃないですか? そんな言葉が喉から出そうになるけれど、飲み込む。頭を抱えて項垂れる私に、何を勘違いしたのか王子は一転して優しく声をかける。

「もう、心配することはないのだぞハナ。公爵令嬢相手にやり返すことができず、今まで一人で耐えてきたのだろう。だが、もう大丈夫だ。泣くのはよせ」

 馴れ馴れしく私の頭に触れようとするエドワード王子。だけど私はその手を払いのけた。

「王子、いい加減になさってください」

 驚愕に目を見開くエドワード王子を、私は正面から睨みつける。

 私はジェドの留学生であり、ライジェル王家の人間であるエドワード王子との関係性を悪化させるようなことをすべきではない。けれど、このまま王子の暴走を止めなかったら今度はヴィクトリア様が濡れ衣を着せられてしまう。この傍若無人なバカ王子は忘れているかもしれないが、ヴィクトリア様のご実家であるデューク公爵家は外交において無視できない存在だ。その令嬢が無実の罪を着せられるのを黙っていたらどの道、ジェドとライジェルの関係悪化は免れないだろう。



 何より。右も左もわからなかった私を卒業まで支えてくださった良き先輩であり親友を、このまま見捨てるなんてできない。



「ヴィクトリア様は異国での生活に慣れない私を何度も助けてくださいました。可愛がられこそすれ、虐められたことなんてただの一度もございません」

「だが、ヴィクトリアがハナの黒髪を『濡れたカラスのようだ』とことあるごとに嘲笑っていたと聞いているぞ。実際それを聞いたと証言する生徒だって、大勢いる!」

 王子の言葉に、周囲の生徒が何人か頷く。

 王子が言わせているのか、あるいは実際に見たのか。そりゃまぁ事実ではあるんだけど、口を出すなら少しぐらいジェドの文化を勉強すればいいのにね。そう思いながら私は説明する。



「確かに、ヴィクトリア様が私にそのような言葉をおかけしたことは何度かあります。ですが、それは決して侮辱などではございません。ここ、ライジェルでのカラスは死を告げる不吉な鳥であるとされていますが、ジェドでは神の使いであるとされる縁起のいい鳥なのです。加えて『烏の濡れ羽色』とは、艶やかな黒髪を表す褒め言葉です。ヴィクトリア様はジェドの文化を勉強して、ジェドの言葉で私の容姿を褒めてくださったのです」



 国によって言葉が変われば、表現だって変わる。ライジェルにある表現がジェドにはないこともあれば、その逆もまたしかり。そういった文化の違いを勉強するのも私の目的なのだ。同時に私を通してジェドのことを知ってもらうのも留学生としての私の任務だったのだけど、残念ながらそこは私の力不足だったらしい。
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