猫と結婚した悪役令嬢

尾形モモ

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衝突

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 婚約者であるルドルフ王太子とは衝突が絶えなかった。

 私、クララ・リントナー公爵令嬢からしたら彼は体だけ育った大きな子どもだった。

 頭が足りない。素直に反省しない。口ばかり達者で、そのくせ責任を取ろうとはしない。その都度、私が口を酸っぱく——それはもう、そのうち口が溶け出してしまうのではないかと言うぐらい酸っぱくして咎めるようにしているのだが、彼は全く反省を見せない。それどころか

「お前はまるでおとぎ話に出てくる魔女や悪役令嬢のようだな」

 とせせら笑うのである。




 ……正直、自分でも鏡を見て「か弱いレディー」なんて顔つきではないなと思うことがある。

 両親によく似た顔はやたら眼光が鋭く、存在するだけで威圧感を放っている。ただじっと見ているだけのつもりなのに「睨んでいる」と言われたり、無愛想だ無表情だと陰口を叩かれたりすることも少なくない。それぐらい私の顔は悪い顔をしているのである。

 一応、自己弁護をするならそれでも「美人」と言っていい顔だと思う。だって美しい花には棘があるって言うし、毒を持っている動物や植物はそれを示すために警戒色を体に纏うものだし。きっと私はたぶん、美少女のはずである。……悪役顔だけど。




 それでも、最後は日頃の行いがものを言うのである。

 周りにぶつくさ言われても真面目にやっていれば、それがいつしか「信頼」になる。そう、信じていたのだが。




「お前は、俺の愛するを虐めただろう! 公爵令嬢という立場を利用してのその行い、断じて許されるものではない!」

「お言葉ですが殿下、私は『婚約者のいる異性にベタベタ近寄るべきではない』と注意して差し上げただけです。虐めなどという卑劣な行いをしたことは一切ございません」



「うるさい! どうせ俺との結婚に平民である彼女が邪魔になると思ったのだろう! 嫉妬なんて見苦しいぞ!」

「公爵、平民などと身分であれこれ言っているのは殿下の方ではありませんか。現在はそのような身分制度で他人を差別する時代ではございません!」



「またそうやって屁理屈を! お前なんて公爵令嬢じゃなければ絶対に婚約者にしなかったんだぞ!」

「私だって、殿下が王太子でなければ婚約者になろうとなんてしませんでした!」



「黙れ! お前なんかと結婚するぐらいなら俺は一生、独身を貫くからな!」

「私だって、貴方のような男性と結婚するぐらいなら犬猫と結婚した方がマシです!」
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