天翔る、美章園!0.5 <大地の精霊使い>

星雲八号

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        1

 石原瑠奈と九十九人の日本人は、医療センターへ移動した。衛生状態が悪いと判断された人から優先に、お風呂に行くことになり、食事が必要な人には、簡単な食糧が与えられた。石原は、警察から事情聴取されていた。
 巡回中の医者は、石原の猫耳が気になってしかたがない。たまにぴくりと動くのが気になるのである。
 医者は、警察と相談して、石原瑠奈を検査室に連れてきた。そして、耳の接合部分を見て驚いた。縫っていないのに、接合しているからである。無理に取ると危険と感じ、簡単な問診をして、他の日本人と入れ変わることになった。
 警察から連絡を受け、石原瑠奈の母が迎えに来た。
「瑠奈…あなた、本当に瑠奈なの?生まれつき歩けない、あなたが、どうして歩いているの?それに、変な服着て、耳まで付けて…」
「お母さんDNA鑑定しますか」と警察。
「お願いします」と母。
 石原瑠奈は、検査室で、身体の検査を含め、採血し、その後、母と長く今までのことを話した。

         *

 時乃澄香は、天王寺とシルフィーヌをリビングに案内した。
「何この黒くて四角いの?」
「それは、テレビだね」
そう言うと、時乃は、リモコンでテレビをつけた。

『宇宙人の町で、保護された百人の行方不明だった日本人は、現在、警察により、身元を確認し、速やかに、家族のもとに帰す準備をしています。政府は、異世界との関係を考慮し、同盟諸国と連携し、対処する方向を模索する姿勢であります』

 テレビカメラに、猫耳、巫女装束の少女が、顔が見えないアングルで映っていた。
「みてみて、瑠奈いるよ」
 シルフィーヌは、テレビの横や後ろを見て不思議がっている。そしてテレビの横の機械を見つけて、
「これ何?」
「それは、ゲームだな。わたしもひと時はまったけど、シルフィーヌみたいなタイプは、遊ばない方がいい」
「ふ~ん」
 時乃は、テレビを消すと、赤ちゃんを天王寺に抱かせ、電気ポットでお湯を沸かし、インスタントのステックコーヒーを入れる。よく混ぜた後に、二人に渡した。
「何これ?黒い飲み物」
「それは、コーヒー地球の飲み物だ」
「へー」
 シルフィーヌは、思い切って飲んでみた。
「甘苦い。でも、美味しいです」
「それは、良かった。さて二人とも、その異世界の服目立ちすぎるね。天王寺は、わたしの服着れそうだけど、シルフィーヌには、小さすぎるかな。そうだ!フィンの服なら丁度いいかもしれない」
 そう言うと、時乃は、フィンのクローゼットから、シルフィーヌが着れそうな服を持ってきた。それは、白のブラウスに黒のジャケットとミニスカートにニーソ、とてもフィンが着ていたとは、思えない、服である。
「シルフィーヌ着てみて」
「いいけど、後ろ向いていて」
「わかった」
 シルフィーヌは、精霊使いがよく着る服を脱ぎ、着替えた。
「に・似合うかな」
「まるで、オフィスレディだね」
 時乃は、天王寺にも服を用意した。しかし、時乃は、ゴスロリ系の服しかなく、天王寺は、恥ずかしそうに着替えた。
「似合いますか、時乃澄香様」
 時乃は、赤ちゃんを抱きながら、
「似合うね。あと澄香でいいぞ」
「では、澄香様!ありがとうございます。ところで、その赤ちゃんは、澄香様の」
「最後まで言わなくてもいい。この赤ちゃんは、実は」
 突然赤ちゃんが話だし、
「私は、澄香の副官フラットだ!今は、動けないが、時期に動けるようになる」
「赤ちゃんがしゃべった」
 シルフィーヌは、赤ちゃんにつんつんした。
「やめろ!そういうことを、するなといいたいんだ」
 シルフィーヌは「ふ~ん」と言い。他の家電製品を見ていた。
「この、白いの、何?」
「それは、パソコンだね。世界中の情報が分かる」
「どう使うの?」
 時乃は、丁寧に説明し、ネットサーフィンできるようにしてあげた。
 シルフィーヌには、いいおもちゃができたので、しばらく静かになりそうである。
「天王寺、思うのだが、小さなころに、神隠しにあったと思うがどうだ?」
「はい。小学校一年の時でした。たまたま通った、神社で黒い渦のようなものを見て、近づいたら吸い込まれ、メトシェラに行きました。運よく、貴族に絡まれていたところを、ジェスト様が助けてくださり、生き延びることができました」
「ジェストも多くの日本人を助けたな、お礼をしないといけない」
 天王寺は、立ち上がり、
「ジェスト様ももういい年齢になられました。こう言うのもなんですが、伴侶が与えられるといいかと思います」
「天王寺がなれば?」と時乃。
「いえ自分は、なれないのです」
「どうして?」
「自分は、染色体がXXYなのです」
 時乃は、自分も性別がないので、あまり驚かなかったが、憑代であった後藤健二の記憶から、ごく少人数であり、行き場のない、辛いことであると感じた。
「なるほど、理解した。ジェストのことも、これから、良い伴侶が与えられるように、こちらからも、何かとおせっかいさせてもらおう。では、行き場のない、天王寺。もしよければ、わたしのロシア基地で働ないか?」
 天王寺は、座りなおし、
「いいのですか?自分のような中途半端な人間」
「かまわん。一人でも戦力の欲しい時だからな。近いうちに、プレアディスに行くこともあるかもしれない。それまでに、あらゆる、戦闘兵器を乗りこなせるようになって欲しい」
 天王寺は、正座をして頭を下げた。
「ありがとうございます。澄香様、自分は、全力で付いていきます」
「しばらくは、この家でゆっくりするといい」
 そう言うと、天王寺を部屋に案内した。

 シルフィーヌは、パソコンに夢中であった。
その様子を時乃は、見て、以前の自分を思い出していた。
「澄香、見てみて、瑠奈が映ってるよ」
「どれどれ、動画サイトだね」
「動画サイト?」
 時乃は、動画について説明した。
「文字が流れている。えーと。可愛い、猫耳巫女、れいむ、本当に異世界は、あったんだ。とか書いてあるよ」
 時乃は、コメントについて説明した。その後、会社に電話し、フィンが特別に選抜していた。日本人社員の一人を家に呼ぶことにした。
 フィンは、時乃と『フィレオ』の契約にある永遠の友である。しかし前大戦により戦死した。フィンは、存命中、時乃の会社スクエアーフォーにおいて、信頼できる社員と交流を深め、自分亡き後も考えて、多くの機密事項を授けておいた。

「澄香、瑠奈いなくなった」
 石原瑠奈は、カメラから外れ、コメントが荒れていた。
 時乃は、赤ちゃんを抱きながら、行ったり来たりしていた。すると、呼び鈴が鳴り、カメラで確認して、ドアを開ける。入って来たのは、二十五歳位で、身長百七十五センチ、黒髪を短髪にし、前髪は長く眉毛まである。サイドに流した髪から覗く容姿は、端麗で
好きにならない人いないでしょう。と言う感じである。黒のスーツを着こなし、できる男にしか見えない。
「時乃様、全て整っております。フィン様亡き後、この水野正院がサポートいたします」
「うむ。頼む。早速だが、この家で使えてくれる、メイドを頼みたいのだが」
「承知いたしました。人器でもいいのですか?」
「人器?」
「フィン様は、そう呼ばれていました」
 水野は、資料を時乃に見せる。
「なるほど、バトルPを日本人仕様にしたのか」
 時乃は、資料を返し、水野に家に上がるように勧めた。
「おじゃまいたします」
 時乃は、リビングに案内すると、水野は、シルフィーヌに気づき。
「エルフ?」
 すると、気が付いたシルフィーヌは、
「エルフじゃないエロフだ」
 と言うと、パソコンに戻る。窓が何重にも開き、収拾がつかない状況であった。
 水野は、シルフィーヌが持つ、マウスに手を添え優しく、パソコンを教えた。
 その間に、時乃は、天王寺を連れてきた。そして、二人に、水野を紹介し、天王寺は、明日にでも、ロシアに行く予定になった。
 お茶を飲み、話も弾んだ。シルフィーヌは、水野の顔を長い間見ていた。この日本人は、今までの、日本人と違うと感じていた。
 水野は、席を外し、スマートフォンで、電話をし、席に戻ってきた。
「時乃様、スバルキリアと言う乗り物ご存じですか?」
「いや、知らないな」
「こちらになります」
 水野は、資料を渡した。小型の航空機で、ヘリコプターのローターがない形体で、ユニークな形である。
「フィンは、これも製造していたのか?」
「はい。第四工場にて、私たち、第八営業部、直下の者で、作業にあたりました。ですので、外部には、一切もれていません」
 時乃は、日本人の有能さに感心した。
「天王寺は、明日、この機体で、ロシアに行けるわけだ」
「そこなのですが、実は、パイロットがいないので、天王寺様には、こちらで、パスポート用意しますので、明日は、旅客機での移動をお願いします」
「なるほど、いたしかたない。いいか天王寺」
「はい、澄香様の命令とあらば、いかようにも動く所存であります」
 天王寺は、片膝を付、頭を下げる。シルフィーヌは、まだ、水野の顔を見ていた。
 しばらくすると、呼び鈴が鳴り、時乃がカメラを見ると、メイド服姿の若い女性が見える安全を確認してから、ドアを開ける。
「初めまして、時乃様、第八営業部、人器の斉藤杏子と申します。メイド作業全般させていただきます」
「よろしくたのむ。さあ上がってくれ」
 時乃は、赤ちゃんを抱きながら、斉藤に勧める。
 リビングに入り、時乃は、斉藤を紹介した。その間も、シルフィーヌは、水野の顔を見ていた。
 水野は、まだ、仕事があると言うことで、会社に戻ることになった。玄関で、別れを告げると、シルフィーヌは、元気をなくした。
 そんなシルフィーヌを見ても、恋愛事にうとい時乃は、首を傾げていた。

        2

 石原瑠奈は、警察署に移動していた。そこで、コーヒーをいただき、これまでの経緯を細かに聞かれた。警察も以前なら信じない話だが、去年十二月に異世界人との戦争があり、現実として受け止めていた。
 長く警察官と話をし、服と、耳のことを聞かれた。そこで、服は、現地の人に買ってもらい、耳は、獣人族に変装する必要があったので付けたことを語った。
 石原瑠奈の母親は、DNA鑑定の結果をもらい、喜び、瑠奈を迎えに来た。
 母は、書面にサインをし、瑠奈を引き取り、車に乗せ、家に向かった。
 家では、兄真咲が待っていた。真咲も、巫女服と猫耳に、お腹が痛くなるほど笑った。そして、足が治ったことに関して触れることなく、電動車椅子を片づけた。
 石原瑠奈は、自分の部屋に入ると、お気入りのぬいぐるみ達に迎えられ、嬉しくて、ベッドにダイブした。そして、あの時、高遠美鈴が与えた試練のことも思い出し、長島魚人の言葉を思い出した。
 しばらくして、石原瑠奈は、服を着替えた。巫女服は、大切にしまい。いつものカジュアルなモノトーンの服を着た。シルフィーヌに買ってもらったショルダーバッグは、そのまま愛用することにした。
 母に出かけることを告げると、怒られた。
 時乃と連絡取りたいと思ったが、連絡の取りようが分からない。高遠とも連絡の取り方がわからない。なら、
「聖方陣展開!テレポートゲート」
 空間が割れ、高遠美鈴のアパートにゲートは、開いた。靴下のまま、ゲートをくぐる。二階に行く階段をゆっくり上る。嫌な音がする。二階の廊下も嫌な音がする。時折、住民の生活音がする。高遠の部屋のノブを回すが、開かない。そもそも、直接部屋に繫がらなかったのかと疑問を感じた。すると肩に重みを感じた。振り向くと、制服姿の高遠美鈴が、立っていた。
「我契約者よ。その部屋は、私がいないと機能しないようにできている。ところで、疲れはないかい?」
「もう大丈夫です。早く時乃と連絡取りたくて、高遠さんなら、なんとかなるかなーと思って」
「私も、携帯とか言うの持っていないからな。まあ、入りたまえ」
 そう言うと、部屋のノブを回し中へ入る。やはり、布団と段ボールしかない四畳半の部屋である。
「もう一回寝るかい?」
「遠慮しておきます」
 石原は、背中が汗ばむ気がした。
「家知っているんだろ」と高遠。
「はい。知っています。ですが、座標が見えないのです」
「あーなるほど、結界か、なら、タクシーで行けばいいのでは?」
「母が見張っていて、靴がとりに行けないの」
「私の所に来ても、靴はないぞ」
「借りれないの?」
「我契約者よ。これは特例だ、私が今履いていた靴を履くがいい」
「ほんとに!ありがとう」
 石原は、喜び、立ち上がり、靴を履いた。何故か、サイズが丁度良い。不思議である。心から礼を言うと、石原は、外に出た。スマートフォンでタクシーを呼び、時乃の家に向かった。車中タクシーの運転手は、猫耳をルームミラーでよく見ていた。

        *

 時乃の家に着き、タクシーを降りる。呼び鈴を押すと、時乃が赤ちゃんを抱いて出てきた。
「澄香、おじゃまじゃない?」
「かまわんよ。ただ、今、不思議な問題に直面しているがな」
「?」
 石原は、何のことかよく分からなかったが、家に入るように勧められ入る。そして、リビングに行くと、シルフィーヌが泣いていた。
 時乃に聞いても、何が原因なのか分からないようであった。
「シルフィーヌ、メトシェラに帰りたいの?」
「帰りたくない!」
「どうして泣いているの?あわあわが飲みたいの」
「そういう冗談嫌いだ」
 シルフィーヌは、いっそう頑固になった。
「ところで、あの方はどなたですか?」
「メイドの斉藤さん」
 するとシルフィーヌは、指を指し、
「斉藤じゃなくて、水野がいい」
「水野って誰?」
「水野は、わたしの会社で働く社員だ」
「へーわたしの会社…」
 石原は、驚き立ち上がった。
「時乃って、社長か何かなの?というか、どこの会社?」
「言ってなかったか?スクエアーフォーだよ」
「あのOS風林火山の会社じゃない」
 石原は、力が抜けアヒル座りをした。その後、正座になり、
「その水野さんは、もしかして、素敵な男性社員とかですか!」
 シルフィーヌは、わかりやすく、『ズッキューン』とハートを打ち抜かれたように、横に倒れた。それを見た石原は、
「ははーん。これは好きになったの▼■●」
 シルフィーヌは、石原の口を押えた。
「わかったから、離して、まずは、相手をしっかり知らないとね。だよね、澄香」
「その惚れた、腫れたとか、わたしにはよくわからない」
 石原瑠奈は、腕を組み考えた。まずは、身辺調査の必要がある。シルフィーヌは、戦友だし、変な相手と付き合って欲しくない。
「澄香、その水野さんとは、会えたりしないの?」
「明日、天王寺をロシアに送ることになっている」
「私とシルフィーヌも一緒にいけないの?」
「石原、たぶん。君は、世界中で注目されているぞ、そんな人物が、空港にいたら大騒ぎだ」
「私って、そんなに目立っているの?」
「知らないの?」
 シルフィーヌは、驚いていた。そして、パソコンを立ち上げ、動画サイトを見せた。それを観た石原は、リビングに転がった。
「石原、耳取るかい?」
「できるの?」
「たぶん。できる。赤ちゃん抱っこしてくれるかい」
 時乃は、石原に赤ちゃんを渡した。
「聖方陣展開、我契約の者にとりつきし、アイテムをあるべき姿へ!」
 すると、猫耳は、落ち、形が変わり、黒い猫になった。
「えーこの猫は、メトシェラの猫?」
「そういうことになるな。まあ、この猫については、シルフィーヌが知っているだろう?」
 シルフィーヌは、もう泣いていなかった。
「それは、いわゆる使い魔。だって、瑠奈って危なかっしいから、闇医者に宿してもらったの」
「ふーでは、この猫は、どうしたらいいのかな?」
「お兄ちゃんが猫嫌いだから、飼えないですよ」と石原。
「あたし、飼えない」
「分かっていたことだが、わたしが飼うことになりそうだね。闇化した時の対処のこともあるから、しかたがない」
「今更だけど、澄香、この子誰の赤ちゃん?」
「その子は、わたしの副官フラット・F・吉田だ。見た目は、赤ちゃんだが」
「石原、一度この家で会ったことあるな、フラットだよ」
「赤ちゃんがしゃべった!」
「怖いだろ」
「がくがくぷるぷる」
「フラットそんなに、驚かすな」
 時乃は、猫を抱き上げると、背中に何かを指で書いた。
「この猫の名前は、いっちょん」
「あはは、澄香のネームセンスが酷い」
 と石原は、大笑いした。
「では、石原と、シルフィーヌもロシアに行けるように、手配しよう」
「シルフィーヌ良かったね」
「あたしは、別に、あいつのこと、そんなに気にしていないよ。ただ、その、なんか、心が熱くなって…」
「それを、▼■●」
 シルフィーヌは、石原の口を押えた。

 時乃は、二人に、明日は、早いから、休むように勧めた。あと石原には、テレポートゲートをあまり使わないように注意した。時乃には、空間が歪んだので、使ったのが分かったようである。
 石原は、高遠のアパートにタクシーで移動し、靴を返し、高遠に頼んで、テレポートゲートが時乃にばれないようにしてもらい、家の自室に帰った。そして、明日の用意をした。

        3

 石原瑠奈は、猫耳が取れたので、心が楽になった、母も今日のお出かけも許してくれた。
 朝から、豪華な食事を用意してもらい。祝福をいただいた。

 時乃は、赤ちゃんの世話と猫の世話で非常に忙しかった。幸い、斉藤が家のことを十分してくれるので、助かっていた。シルフィーヌと天王寺は、起きてきて、食事をした。
 時乃は、天王寺に、ゴスロリの服を何着か持たせてあげた。
 呼び鈴が鳴ったので、カメラを見て、入ってくるように、指示を出す。
 水野は、ドアを開け、入る前に、一礼してから、家に上がった。
 シルフィーヌは、水野を見ると喜び、
「水野、もうご飯食べたの、これ、ヨーグルト、食べかけだけどいらない?」
「自分は、朝食べてきたので、お一人で食べてください」
「ちぇえ」
 シルフィーヌは、残念そうに、ヨーグルトを食べた。

         *

 水野は、鳳重工製のワゴン車で、天王寺とシルフィーヌを乗せ、石原瑠奈の家に向かった。
 シルフィーヌは、車に乗ると、落ち着かない様子で、あちらこちらに移動しながら、
「あの、青と黄色と赤のあれなんだ」
「そんなことも知らないのか」と天王寺。
「ロシアは知っているのか?」
「あたりまえだ、これでも日本人だぞ」
「ふーん。頭いいんだ」
 そうこうしていると、石原瑠奈の家に着き、水野は、石原の母に挨拶をし、時乃からの、贈り物を渡した。
 石原瑠奈は、母に心配をかけないように、長く話をし、車に乗った。
 空港までの道のり、シルフィーヌは、あれやこれや質問していた。
「あの7と書いた、四角い建物なんだ?」
「あれは、コンビニと言って、二十四時間開いている。スーパーよ」
「スーパー?」
「ほら、メトシェラにもあるお店が、もっと色々な品物を売っている感じ」
「よらないのか?」とシルフィーヌ。
「シルフィーヌ、飛行機の出発時間があるからだめ」
「ふーん。なら帰りよる」
 シルフィーヌは、ぷいっと横を向く。
短時間高速を走り、鹿児島空港に着く。水野と三人は、自分の荷物を持ち、搭乗手続きをする。その間も、シルフィーヌは、落ち着かない様子で、あちらこちらを見ている。石原と天王寺が、両腕を押え、飛行機まで、連れて行く、やっとのことで、シルフィーヌを窓側の席に座らせると。ごそごそ、色々さわり始める。ヘッドフォンを見つけると耳につけて、石原に、
「はい、お腹出して、息をすって、吐いてー」
「シルフィーヌ何しているの?」と石原。
「医者」
 石原は、思った。自分も、メトシェラに行った時は、見るもの全てが、日本で言うあれかなとか、考えたことを思い出していた。
「それはね、こう使うの」
 石原は、ヘッドフォンのジャックを力いっぱい差し込んだ。JPOPの音楽がいきなり流れ、シルフィーヌは、目が白黒し、大きな声を出した。すぐに、天王寺が、口を押え、座らせると、石原が、ヘッドフォンを外し、
「これは、音楽を聴く道具なんだよ」
 シルフィーヌは、メトシェラの音楽を思い出していた。
「いあ。これ、音楽と違う」
 そんな感じで、あったが、離陸の時にエンジンが高鳴ると、シルフィーヌは、震えていた。
「大地の精霊よ。大地の精霊よ」
 飛行機のベルト着用のサインが消えるころ、シルフィーヌは、気を失っていた。そのおかげで、成田空港に着陸する時に、騒がれずにすんだ。水野は、シルフィーヌをおんぶし、国際線に移動した。しばらくして、シルフィーヌは、意識を取り戻し、心地よい揺れを感じた。目を開けると、水野に、おんぶされていることが分かり、気絶したふりをした。とても心が高鳴り、嬉しかったから、少しでも、この時間を大切にしたかったのである。
 椅子に下されたシルフィーヌは、気が付いたふりをして、
「いあー寝ちゃったよ」
「寝るのと気絶だと違う気がするがな」
 天王寺は、突っ込みを入れた。
 国際線での手続きも終わり、出国手続きをする。正規のパスポートが一日で作れるわけはないので、三人が持っているパスポートは、第八営業部によって作られたものである。難なく出国すると、飛行機に乗る。そして、シルフィーヌは気絶した。
 ハバロフスクの空港に着くと、シルフィーヌは、また、心地よい揺れを感じていた。薄目を開け、水野がおんぶしてくれていることを確認すると、気絶したふりをした。
 水野は、シルフィーヌを椅子に下すと、スマートフォンで、スクエアーフォーのロシア支部の者と電話をした。
 シルフィーヌは、起きたふりをして、伸びをした。
 入国手続きも問題なく進み、空港の外へ出た。見たことのない文字に、シルフィーヌは、困惑していた。それは、天王寺も石原もそうである。
「ここ地球だよな。そして日本語じゃないんだ」
「ここは、外国で、ロシア語なの。そうかーメトシェラは一国だし、考えてみたら、公用語が日本語でしたね」
「そうそう、不思議でしょ。メトシェラ語だけど、日本語なんだよね。最初あった日本人が普通に話しているから、驚いたよ」
 そう言うと、シルフィーヌは、売店とかに、興味がひかれうろうろしている。
 しばらくすると、白のハイエースが、停車し、スーツ姿の中年日本人が降りてきた。水野と握手をし、話だすと、天王寺が呼ばれた。
その後、石原とシルフィーヌも呼ばれ、挨拶をした。四人は、ハイエースに乗り、倉知の運転で、基地へと向かった。
 シルフィーヌは、やはり、あちらこちらに移動しながら、外様子を見ている。
 基地に着くと、倉知の案内で、応接室に入った。秘書がお茶を用意し、いただくことになった。
「熱いぞ、このお茶、さては、火の精霊使いだな」
 とかシルフィーヌは、意味不明なことを言っている。
 その語、基地内を案内された。ロシア製の戦闘機や、ヘリコプターがあり、シルフィーヌは、乗るのは嫌だけど、見る分には、楽しそうであった。その後、天王寺は、寄宿舎に案内され、荷物を置いた。とても清潔な部屋で、基地内にあるとは、思えない素晴らしさであった。石原とシルフィーヌも覗いていたが、二人とも、安心した。
 お昼に、ボルシチをいただいた。あまりの美味しさに、シルフィーヌのテンションはあがり、「うめー」と何回も言っていた。水野もその様子を見ていた。
 水野は、最初シルフィーヌを美人だけど、あほな子と思って相手にしていなかった。しかし、ロシア行に同行して、何度も、おんぶし、その言動を聞いていると、どこか憎めない、愛らしさを覚えていた。
 日帰りの強行軍と言うこともあり、食事後、直ぐに、天王寺と別れることになった。
「天王寺、元気でな。あたしも、日本でいっぱい勉強するよ。きっとまた、一緒に働けるよ!」
 シルフィーヌは、天王寺に抱き着いた。その後ろから、
「あの時、叩かれたのは、凄く痛かったけど、今は、とても良い思い出です。私の友、天王子」
 石原は、天王寺と握手をした。
 三人は、ハイエースに乗り、基地から出ていった。天王寺は、長く手を振り、感謝を表した。

        *

 帰りの空港で、お産土を売っている店があった。シルフィーヌは、マトリョーシカで遊んでいた。店主は、ご立腹で、嫌味な咳払いをしていた。
 水野は、よほど欲しいのだと、判断し、マトリョーシカを買ってあげた。
 飛行機に乗るまでのテンションは高かったシルフィーヌだが、離陸する時には、気絶していた。成田に着き、おんぶされたまま、入国手続きをし、そのまま、国内線へ移動。水野は、
「起きていますね。シルフィーヌさん」
 と言ったが、返事もなく、気絶しているふりをする。水野も慣れてきたのか、そのまま、飛行機の座席に下ろし、ベルトを付ける。離陸の時に「ひっ」と声が聞こえたと思ったら、シルフィーヌは、気絶していた。
 鹿児島空港でも同じであったが、駐車場に止めてあった車に座らされると、
「んーよく寝た。飛行機なんて全然怖くないよ」
 とシルフィーヌは、足を震わせながら言っていた。
 水野は、車を走らせ、宇宙人の町に向かった。途中コンビニにより、シルフィーヌに、から揚げを買ってあげた。
「日本の鶏肉は、旨いな」
 町に入り、先に、石原の家に向かった。家に着くと、石原瑠奈は、水野にお礼を言い、シルフィーヌとも握手をした。水野は、時乃の家に着くと、シルフィーヌを降ろし、マトリョーシカをしっかり持たせた。
 呼び鈴を押すと、赤ちゃんを抱いた時乃澄香が出てきた。水野は、頭を下げると、シルフィーヌの背中を押した。シルフィーヌは、まだ、水野といたい気持ちでいっぱいであったが、握手して別れた。
 時乃とシルフィーヌは、食堂で、食事をしながら、今日一日の出来事を聞いた。飛行機が快適すぎて、寝てしまったとシルフィーヌは、嘘を言っていた。時乃は、見抜いていたが、知らないふりをしていた。
「シルフィーヌ、昨日お風呂に入らなかったが何故だ?」
「だって精霊が清めてくれるもん」
「地球には、精霊はいない」
「またまた、ご冗談を」
「本当だ、精霊を使ってみるといい」
「どうなっても知らないよ!我!召喚するサンドゴーレム」
 シルフィーヌはかっこよく言ったが、何も召喚されなかった。
「えーい。おかしいな。プラントウォール」
 何も出なかった。
「そんな…」
「メトシェラに帰るかい?」
「帰らない!水野のいない世界なんか行きたくない。精霊もいらない!」
「ふーわたしには、恋とかなんとかは、よく分からないが、それなのか」
「そうだ、あたしは、水野が好きだ。だから、日本の常識を覚える」
 そう言うと、自分の部屋に入っていった。シルフィーヌは、マトリョーシカを出しては入れ出しては入れして、夜遅くまで遊んでいた。

        4

 シルフィーヌは、朝遅くまで寝ていた。
時乃は、朝ごはんを早くにすませ、赤ちゃんにミルクあげ、猫にご飯をあげた。
 時乃の食事など家事全般は、斉藤がしてくれるので、かなり楽ができるので助かっていた。時間を余すと、不思議なもので、時乃は、シルフィーヌと水野をデートさせようと考えていた。
「フラットあの二人のため、ひと肌脱ぐのがいいよな」
「恋もわからない澄香に、そんなことできるのか不安だな。逆に、澄香が惚れられるとか?あるかもしれないぞ」
 赤ちゃんは、そう話すと寝てしまった。
 時乃は、赤ちゃんをベッドに寝かせると、シルフィーヌを起こしにいった。
「シルフィーヌ起きているか、入るぞ」
 時乃が入ると、マトリョーシカが、子だくさんになり、転がっていた。なんとなくびっくりさせようと、時乃は、掃除機を持ってきて、ノズルのヘッドを外し、シルフィーヌの横腹に付け、スイッチを入れる。
『ぶよよよ』
 と変な音がし、シルフィーヌは、笑いながら飛び起きた。
「時乃澄香!あなたは御使いのくせに、卑怯なことしすぎ!」
「申し訳ない。どうしても試してみたかたのだ」
「自分の体ですればいいじゃない」
「それだと、わかりきったことではないか、他人にするから面白い」
「やっぱり面白いんだ。伝説の御使いが呆れる」
 シルフィーヌは、ぷいっと横を向いた。そこで、時乃は、とっておきのカードをちらつかせる。
「水野が今度、大阪に行くことになった。そこでだシルフィーヌも早く日本の文化を習得して欲しいだから、一緒に行ってもらおうかと思っている。
「マ・ジ・デ・ス・カ」
「変な日本語知っているな」
「時乃様先ほどは、ご無礼なこと言い申し訳ありません」
「いいよ、いいよ。わたしも悪かった。行くのかい?行かないのかい」
「是非、いかせてほしいです」
「明日、始発の新幹線で行く予定だ。何故なら石原から、メールで、シルフィーヌは、飛行機乗ると、失神すると書いてあったからな」
 シルフィーヌは内心(瑠奈のばか)と思ったが、飛行機でないなら、失神することなく、水野とトークできると、考え喜んだ。
 時乃は、水野にシルフィーヌを大阪観光させるように指示を出した。表向きは、美章園自治区という場所の偵察である。
「シルフィーヌ、そろそろお風呂入らないと、臭うと思うぞ」
「そんなこと…」
 臭いをかぐと、少しまずいと思った。時乃にお風呂の使い方を教わり、体を洗った。
 お風呂からあがると、もうお昼であったので、食事をする。斉藤の作る料理は、とても美味しかった。
 時乃は、思った。ポッドに入る前から、料理が得意だったのだろう。斉藤の情報を見ると、交通事故で首から下が麻痺と書いてある。
 人器は、生身の体を、バイタルプラントにあるポッドの中に入れ、シールドウェーブというハッキングできない電波で操作する機械の体である。時乃の世界では、バトルPと呼ばれていた。

 シルフィーヌは、食事が終わると、鞄を持ってきた。中から、金のコインを出し、時乃に日本円に変えて欲しいと願った。時乃は、快く、変えてあげた。

        *

 大阪行の当日、シルフィーヌは、フィンが残してくれた服から、チャンネルと書いた長袖のTシャツに、チェックのミニスカート、寒いので、黒のタイツ、そして、紺のショート丈のコートを着る。
 呼び鈴が鳴り、時乃が出る前に、鞄を掴み、ドアを開ける。そこには、何時ものスーツ姿の水野がいた。
 水野は、挨拶すると、車へエスコートした。時乃は、後ろから見ていて、微笑ましく思えた。
 駅の駐車場に車を止め、新幹線の搭乗口に向かう。切符を機械に通す方法を説明し、先にシルフィーヌを行かし、出てきた切符を大切に保管するように指示した。
 ホームで待つこと数分、時間通りに新幹線は来た。時乃の配慮で、グリーン車に入り席に着く。窓際はシルフィーヌである。
 おしぼりがキャビンアテンダントから受け取り、水野は、顔を拭いた。それを見たシルフィーヌも顔を拭いた。
 新幹線が動き出すと、シルフィーヌは、落ち着きを失い、右や左を見渡す。
 ワゴンサービスが来ると、袋から千円札を出しアイスクリームを買う。おつりは、袋にじゃらりと入れた。
 アイスを食べると、あまりの美味しさに、
「うめー」
 と大きな声で言った。
「水野も食べる?」
「自分はいいですから、お好きなだけ食べてください。ただ、お金を大切にしなければいけません。わかりましたか?」
「メトシェラでは、こんな感じだったけど、どうすればいいの?」
「まず財布を買いましょう。そうですねエロメスなんてどうですか?シルフィーヌらしい一品かと」
 シルフィーヌは、軽く、水野の肩を叩いた。それが、嫌だったのかうけたのかは、わからなかった。
 博多に着き、乗り換えをした。今度もグリーン車に乗り、大阪へ向かった。途中、岡山駅で『ままかり寿司』に特別何か感じたので、水野に買ってきてもらった。
「いっただきまーす」
 シルフィーヌは、美味しくいただき満足であった。水野も普通の弁当を買い食べた。
 シルフィーヌは、
「その玉子焼き食べたいな」
 と指を自分の唇にあてる。
 水野はため息をしてから、玉子焼きを箸で掴み、シルフィーヌの口に入れてあげる。
「やっぱり、斉藤の玉子焼きと同じくらい美味しい」
 また。水野の肩を叩く。
 新大阪に着くと、人ごみで、水野を見失いそうになり、腕にしがみついた。
 地下鉄に乗るため、階段を下りる。風が鉄臭い感じがした。
 なんとか座ることができ、難波まで来た。地上へ出ると、まだ、冬。しかもビル街のため、吹き抜ける風も冷たい。
「シルフィーヌこれを」
 いつの間にか水野は、呼び捨てで呼んでいる。そして使い捨てカイロを渡す。
「温かい!何これ、魔法?」
「いえ、科学の産物です。では、歩きましょう」
 そう言うと水野は歩きだし、シルフィーヌは、カイロを持った手をコートのポケットに入れ、付いていった。
 シルフィーヌは、ビルの看板などに目が行き、あちらこちらを見ている。
「あ!コンビニ」
「買いませんよ」
「ぶー」
 タイトーステーションと言うビルを南に曲がった。そこは、今までの街並みと違い、熱気に満ちていた。
「ここは、時乃様の好きな場所の一つで『オタロード』と呼ばれているところです」
「ほへーメイドが何か配っているけど」
「あれは、メイド喫茶のチラシ配布ですね」
「メイド喫茶?」
「喫茶店という場所で、お茶やコーヒー軽食を食べます。そこで、メイドの登場です。メイドは、料理を運んだり、レジをしたりします。行ってみますか?」
「行きたいけど、あんな可愛い子がいる店に行くと、水野は、鼻の下伸ばして、だらしなくなりそう。いかない」
 しばらく進むと、フィギュアを売っている店があり、中へ入る。そして、オメンライダーアマゾンズのフィギュアを購入した。箱が大きくかさばるが、とてもシルフィーヌは、嬉しかった。
 その後、水野の勧めで、ゲームセンターに入った。音がうるさく何をしているのかわからなかった。水野は、クレーンゲームを勧め、一通り説明を聞き、遊んでみる。
「えーとれない」
「そんなに早く取られたら儲からないですよ」
 そう言うと、水野は、華麗に扱い、大きな箱のフィギュアを自分の物とした。それを、シルフィーヌに渡した。
「得意なの?」
「いろんな場面で、この手のことができると、便利なのです。第八営業部ですから」
 シルフィーヌは、そうなんだと思った。でも、女性の心を掴むのにも、有効な気がして、水野のことを少し疑った。
 その後、同人誌を扱っている店に来た。
「何この絵の付いた読み物?」
「漫画を知らないのですか?」
「メトシェラには、ラノベしかなかったよ」
「そうですか。一読されてはいかがですか」
 妖怪を擬人化したものを読んでみる。なかなか面白かったので、
「これ買って帰ろう」
「はい。いいと思いますよ」
 シルフィーヌは、お金を払い、フィギュアの袋に入れた。
 その後、電気店やパーツショップなどを見て回った。
 荷物も増えたので、宅配便で送ることにした。時間も二時を回っていたので、何か食事をすることにした。水野は、天神橋に美味しいお好み焼きやがあるというので、タクシーで移動する。
 天神橋筋商店街は、人で溢れていた。シルフィーヌは、迷子になることを恐れ、水野の腕にしがみついた。
 そのお好み焼き屋は、小さな店であった。シルフィーヌは、初めて食べるお好み焼きに、感動した。
「何これ、美味しい」
「自分も人生の中で、これほど美味しいお好み焼きは食べたことありません」
 シルフィーヌは、これほど、人生の中で楽しい日が来るとは思ってもいなかった。水野の食べかけの、あのお好み焼きを一口自分の口に運ぶ、妄想をしていた。
「さて、シルフィーヌ、仕事です。美章園駅にある美章園自治区の観察です」
「はい。よくわからないでけど、ついていくよ」
 二人は、鉄道を乗り継ぎ、天王寺駅に着いた。
「天王寺だって、ここのことロシア知っているのかな」
「今度聞いてみてはいかがですか?」
「だね。楽しみ、楽しみ」
 そこに、二十歳ぐらいの男女が通りかかった。
「!嘘だろ。人違いならわるいな。もしかして、シルフィーヌ?」
「誰?」
「おれだよ俺、メトシェラで助けてもろうた遠藤や」
「遠藤!遠藤真一」
「そうや遠藤や、やっぱりシルフィーヌか、容姿でまるわかりや。誤解を招く前に紹介する。彼女の東野日永や、実はもうすぐ結婚するねん。そや、結婚式に来てくれへん。招待状出すで、住所教えてもらえると助かるで。それにしても地球にくるとは度胸あるな。で、そちらの方は?」
「水野は、あたしの…す好きな人です」
「シルフィーヌそんな大声ださなくても」
 水野は、人々が見て笑い去っていくのが辛かった。
「そっか、シルフィーヌにも好きな人できたんや、よかった、よかった。そう言えば、あの時渡した、オメンライダーのフィギュアまだあるの?」
「妹たちが大切にしているよ。何故か、弟たちは興味しめさなくて」
「大切にしてもろうてるなら、良かった」
「水野、住所教えてあげて」
「いいでしょう。ですが、大声で先ほどのようなことを言わないでください」
「わっかりました」
 シルフィーヌは、敬礼して、ふざけて返事をした。
 遠藤たちと別れたシルフィーヌと水野は、阪和線に乗り、美章園駅で降りた。帰宅時間になったのか、高校生たちが、多かった。
 美章園自治区と呼ばれる辺りに来ると、鈴蘭の刺繍の入った制服を着ている生徒が多くいた。ふと、シルフィーヌの耳に聞こえてきた。
「ラーニャあとで、家に来るですのよ」
「あっしは、すぐにでも行きたいでやんす」
『ラーニャ』どこかで聞いた覚えがあった。
しかしそれが、誰だったか思い出せない。 水野は、自治区をぐるりと一周すると、駅
に戻り、シルフィーヌの手を取り、電車を乗
り継ぎ新大阪に着いた。まだ、時間があった
ので、新大阪ステーションストアで、水野は、婦人物の財を買いラッピングしたものを、シルフィーヌに渡した。
「ありがとう、いいの?」
「不思議なものですね。一日あなたといたら、愛おしく思えてきました。これは、心からの贈り物です。大切に使ってください」
 その後、二人は、お産土に『みたらしだんご』を買い。新幹線に乗った。帰りもグリーン車なので、おしぼりをもらった。水野は、顔を拭いたので、シルフィーヌも顔を拭いた。帰りの新幹線は、直通なので、博多での乗り換えがない。シルフィーヌは、ワゴンサービスであれやこれや買い込み、食べたり飲んだりしていた。
『次は、宇宙人、宇宙人の町です』
「さあ、おりますよシルフィーヌ」
 すっかり寝ていたので、水野は、おんぶして降り、車に寝かせ、時乃澄香の家に移動した。
 水野は、シルフィーヌをおんぶしたまま、呼び鈴を鳴らした。時乃は、赤ちゃんをだいたまま、二人を出迎え、中に入るように勧めた。
 シルフィーヌは、ソファーで寝ていたが、目を覚まし、水野を探した。
「水野いないの?」
「シルフィーヌが長く寝ているので、帰ってしまった」
「そんなーしょぼんぬ」
「いらない知識はあるな。しょぼんぬとか」
 時乃は、シルフィーヌに食事を勧めた。
 二人は、斉藤の料理を食べた。美味しくてたまらなかった。
「地球って、あわあわないの?」
「あわあわ?」
「そうそう、泡がぱーっと出て飲むと気持ちよくなるの」
「それって、ビールと言う酒ではないのか?」
「酒ではないよ。だって十四歳になると飲んでいいんだもん」
 赤ちゃんが目を見開き、
「間違いなく、澄香が飲んだビールと言う酒だな。もっとも澄香は、ん百歳だけどな」
「シルフィーヌって本当の所何歳?」
「正真正銘十六歳です」
 赤ちゃんは言った。
「お酒は、二十歳からな。これ日本の法律」
「ちぇえ」
 シルフィーヌは、ぷいっと横を向く。
「水野もシルフィーヌも進展あってよかった」
 シルフィーヌは、夜遅くまで、時乃に大阪での出来事を話した。もちろん遠藤のことも熱く語った。
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