8 / 35
空間の鼓動 4
しおりを挟む4
フラットは、胡坐をかいて座りこんでいた。
「わたしたちも、五人だけになったな」
時乃も、寂しさを隠せない。茶色の瞳が潤んでいた。だが、さっぱりした気質のため、直ぐに気持ちを切り替えた。逆にこの性格が、悪とか、冷酷とか言われる。
「フィン計画は、続行で、OSの宣伝、販売拠点、人員の確保、たのむ」
フィンは、青い瞳を澄香に向け。
「了解!澄香。計画通り進めますぅ」
時乃は、メルティに、優しく顔を向け。
「メルティ!後藤家の人たちのことをたのむ。雑用で申し訳ないが、助けてあげてほしい」
時乃はメイティに視線を移し。
「メイティ引き続き、フィンの補佐をたのむ」
時乃は、フラットのことを一番心配していた。顔には出さないが、部下を失ったことで、一番辛いのではと考えていた。
「フラット!少し休むといい。わたしが、やれることはやる」
フラットは、気の強そうな顔をしっかり保ち。
「いや、大丈夫!澄香の手伝いをしよう。そうだな!日本征服でも」
フラットは、少し目に笑みを浮かべ。
「幼稚園バスでも乗っ取るか」
時乃は、お腹を抱えて笑う。フラットが冗談なのか、そんなことを言ったので。
「フラット!面白いじゃないか。では、こう言うのはどうだ。坊主に強力育毛剤を掻けるとか」
フラットは、薄茶色の瞳に涙を浮かべて、大笑いした。
「澄香!最高。ほんと悪だな、お前」
「そうと決まれば、強力育毛剤を持ってくる」
時乃は、有明に入ると、住居区画に移動した。そして、ショッピングモールに入る。人気はなく、自動自立型のロボットが、清掃などの作業をしている。
時乃は、薬局に入り、強力育毛剤を手に取る。
『一晩で、あなたもロン毛。毛ロヨンハイ』
買い物籠に、五十本ほど入れる。フルオートレジで、カードをスキャンして、清算する。
※
フラットは、デジタル迷彩服を着用。背中には最軽量のSPCシステム。空を飛ぶための機械である。燃料は、圧縮燃料。地球のものではないので、小型で高性能である。
時乃は、有明から出てきた。育毛剤を二人分に分け、フラットに渡す。
「フラット!作戦実行」
「了解!澄香」
(アリス。SPC軽量型)
(空間転移)聖方陣が形成される。
時乃は、窓から勢いよく飛び出す。同時に、SPCが装着され、千切れた風船のように、軽く空へ浮き上がる。
フラットもマニュアル操作で、SPCを起動、空へ浮かんで行く。
「フラット、大きな寺の坊主から適当に狙おう」
「了解!澄香」
フラットは、デジタル迷彩を使用して、夜の闇に溶け込んだ。
(空間転移。深さ十五秒)
時乃の体が、半透明になる。色薄くなった真鋳色の髪が、月の光をあびて、怪しく光る。時乃は、寺に侵入すると、音も無く移動し、坊主の寝ている枕元に膝をついた。
(通常空間へ)
時乃は、素早く催眠スプレーを使用し、頭に強力育毛剤を丁寧に手で塗りこむ。
「明日が楽しみだな、お坊さん」
(空間転移、深さ十五秒)
時乃は、半透明になり、再び夜の闇に消えていった。
夜の空をロールしながら、飛行する。月の光が、真鋳色の髪に反射し怪しく光る。
時乃は、後藤家の二階に、ふわっと降り立ち。
(通常空間へ)
時乃は、フィン、メイティの前に数歩歩いて行く。突然酷い頭痛が起こり、そして、意識を失いその場に倒れた。
フィンは、慌てて時乃を支える。
「澄香!どうしたの」
日本人が、普通にこれを見たら『ばちが、あたったのじゃ。たたりじゃ』と言ったかもしれない。
時乃は、朝まで目を覚まさなかった。最初に後藤家で眠りについた三畳の部屋に、真鋳色の髪を広げて布団の中にいた。
しばらくすると、時乃は、頭を押さえながら可愛らしい寝巻き姿で出てきた。
「澄香、大丈夫ぅ」
フィンが心配そうに近寄る
「いや。頭が痛い。初めてだ、こんなの」
「んー」
フィンが、頭を少し傾け、手を時乃の生体USBにつける。
「この世界で、空間制御の力を使うと、反動があるようですね。本来、こちらの世界ではないものですから、当然かもしれないぅ」
時乃は、頭を押さえながら。
「そうか、長くは戦えないな」
「ゆくゆくは、亜空間に戻る必要があるかもしれないぅ」
「ふむ」
フィンは、先を見越したように。
「早々ですが、日本人のバトルPパイロット及び士官を育成しては、どうでしょう」
「なるほど。そうきたか、しかしこの地球の人間で大丈夫なのか」
「地球人は、思った以上に優秀ですよ」
「了解した。速やかに実行を」
「了解、澄香」
時乃は、顔を上げて。
「皆は?」
「下で、食事をしていますよ」
「なるほど」
時乃は、頭に手をあてながら一階に下りる。
リビングの扉を開けると、テーブルに、後藤五郎、輝、メルティ、メイティ、フラットが食事をしていた。メルティが料理全般しているので、素晴らしい料理が用意されている。
フラットが時乃に気づき。
「澄香大丈夫か、俺が帰ってきたときには、意識がなくて驚いたぞ」
時乃は、心配かけないように。
「大丈夫だ」と言った。
「ならいいけどな。昨日のことニュースに出ているぞ、ほら」
『今朝、九州各地の寺の住職の頭髪が、ロン毛になるという、怪事件が発生しました。現在、警察では、捜査本部を設置して調査しています』
フラットは、目を細めて、時乃を見る。
「悪だなー澄香は」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる