19 / 44
第19話 多重債務者の気分だぜ!
しおりを挟む
「せいやぁぁぁっ!」
先制攻撃を仕掛けたのはマリだ。
ゴブリンキングの探知圏ギリギリの間合いから、一瞬で距離を潰して渾身の一撃を放つ。
しかし。
ゴブリンキングは穏やかな動作で、手に持った杖を前方に突き出す。
マリの一撃はあっさりと受け止められた。
黄金杖。
ゴブリンキングの持つ得物だ。
武器としての強力なスペックだけでなく、ギルドでも高額買取されるアイテムだ。
魔物の使用する武器は基本的に魔物の死とともに消滅する。
しかし、稀に消滅せずに、アイテムとして残留することがある。
レアアイテムと呼ばれるそれは冒険者にとっては貴重な臨時収入となる。
……今回は意識しないけどな。
とにかく勝って生き残ること。
注目すべきはマリの攻撃を受け止めたキングの反応速度だろう。
攻撃の失敗を悟ったマリだが、その場に居つくことはない。
すかさず壁に飛び移る。
さらに逆側の壁へ、また逆の壁へ、天井へ。
キングの周囲を上下左右に飛び回り、敵の意識を撹乱する。
さしものキングもこの動きには面食らったか、視線が完全にマリを追っている。
そこが俺にとってのチャンスとなる!
「イィィィヤァァッ!!」
魔素を纏わせた刀で斬撃を放つ。
狙いは脚。
剣道では有効部位ではないが、敵の機動力を削る事は、長期戦にもつれ込んだ際にアドバンテージとなるはず。
しかし。
俺の攻撃もすんでのところで杖に遮られる。
---このタイミングでも甘いのか!
あ。
やばい。
俺の顔面を粉砕する軌道で横薙ぎが来る気がする。
回避!回避!回避!
全霊を持って体をのけ反らせて、薙ぎの軌道から頭を外させる。
その直後にキングの杖が、直前まで俺の頭があった空間を凄まじい勢いで走り抜ける。
あぶねえっ!ほんの少しでも遅れていたら!
「おおっ!」
後ろでオサム君が唸るのが聞こえる。
かなり際どいタイミングだったからな。
キングはというと、なぜかわずかに呆けた様子を見せていた。
……まさか躱されたのが意外だったのか?
そりゃ躱すよ。案山子じゃあるまいし。
こっちも命賭けなんだから。
その逡巡は殺し合いの中じゃ致命的な隙となる。
「せいっ!」
マリの新型トンファーがキングの後頭部を強かに打ち抜いた。
強烈!
しかも恐ろしいのはここからだ。
マリの強みはスピード。
当然、一発もらって終わりじゃない。
顔へ!脇へ!腿へ!腹へ!頭へ!
迅速にして強烈なマリの連撃がキングの全身を蹂躙する。
その一発一発が並のゴブリンを粉砕する破壊力だ。
しかし敵もさるもの。
衝撃にたたらを踏みながらも、杖を握りしめ応戦を試みる。
パワー。そしてタフネス。
やはりホブとはモノが違う。
ガン!
キングが泰然と振るう杖が、マリのトンファーを弾きとばす。
ほんの一瞬、マリの動きが止められる。
ニィ。酷薄な笑みを浮かべながら、キングは強烈極まる横薙ぎを放つ。
普通ならば回避不可能な間合い。
しかし既にマリは退避の動作に入っている。
一瞬で壁に飛び移ったマリには、その攻撃は届かない。
打ち合わせ通りだ。
一度でも攻撃を止められたら、即座に間合いを外すべし。
足を止めての接近戦になれば、ボスモンスターの身体能力には決してかなわない。
オサム君を交えたブリーフィングに従い、マリは再度壁へ、天井へ。
立体的な軌道で戦場を飛び回る。
追撃を仕掛けようと、マリを視線で追うキング。
だから、甘いっての!
「シャアァッァァ!」
俺の渾身の斬撃が、今度こそキングの胴体を斜めに裂く。
鮮血が飛び散る。
……やや浅いか!しかし!
「どぉぉぉぉりゃああっ!」
少しでも俺に気を取られれば、今度はマリの連撃の餌食だ。
高性能のトンファーが、マリの魔素をキングの肉体奥深くまで貫かせる。
値段相当の働きをしてくれるぜ!
このままいけるところまで行ってやる!
と思った刹那---
「ウツミんさん!後ろ!」
マリの声に反応し、真後ろに刀で斬撃を放つ。
そこには一体のゴブリン。
まさに俺を襲わんというタイミングだが、斬り飛ばしてやったぜ。
しかし、あたりを見渡せば。
そこらじゅうの壁から、次から次へとゴブリン達が出現してくる。
既に2匹、いや3匹。
たった今、4匹目が壁から現れた。
つまり---
「第二段階だ!打ち合わせ通りいくぞ!」
---
ゴブリンキングの特殊能力。
それは、ゴブリンの大量召喚。
一定程度のダメージを受けたキングは、自分の周囲の壁から、断続的にゴブリンを産み出す。
その速度、なんと約1秒に1匹。
産み出されたゴブリン達は、兵としてキングの敵を数の力で蹂躙する。
……ゴブリンキングが初めて発見されてから、その恐ろしさが冒険者の中で定着するには時間がかかったという。
キングに挑むような冒険者は、大概ゴブリン程度は簡単に倒せる連中だ。
甘く見る者も多いだろう。
だが、普段一度に戦うゴブリンなど、多くても5-6匹程度。
秒単位で産み出されるゴブリン達に、当時多くの冒険者たちが圧殺されたらしい。
倒し切れなかった場合の対処法はただ一つ。
逃げること。
幸い、キングの戦闘領域の外までは、このゴブリン達は追ってこない。
ただし、逃げた後もゴブリン達はひたすら増え続け、戦闘領域を埋め尽くす。
その後、一時間に一度のリポップのタイミングでゴブリン達は消滅するが、その際にキングのダメージは完全回復する。
つまり、ボス狩りをしたければ、このゴブリンの群れを乗り越えてキングを倒す必要がある。
「行け!マリ!」
「うんっ!」
空気を切り裂いて飛び出したマリが、ゴブリン達を文字通り乗り越えてキングに襲い掛かる。
そう、俺にはマリがいる。
彼女の機動力なら、ゴブリンの肉壁などなんのその。
壁を、天井を伝って陣形の隙間を縫い、王将の元へと辿り着く。
「そりゃあぁぁぁぁっ!」
マリの攻撃はキングに防がれる。
---周囲にゴブリンがいる分、攻撃の軌道が限定されていたかっ!
俺も役割を果たすべく、キングの傍のゴブリンに斬りかかる。
俺たちは事前に役割分担を決めていた。
主力のマリがキングを担当。
俺は周囲のゴブリンを殲滅し、マリのサポート。
マリが戦いやすい空間を作るのが俺の仕事だ。
可能ならば、先ほどまでのように、キングを相手に援護射撃を仕掛けてマリを助けてやる。
幸い、今の俺ならゴブリン1匹を一撃で屠ることができる。
断続的に日本刀を振るい続け、ゴブリンどもを斬りまくる。
……ただ眼の前のゴブリンを斬るだけじゃダメだ。
周囲を見据えろ。数手先を読め。最適な行動を選べ。
どこに行くのが一番有利だ。
俺がマリなら、俺にどこにいて欲しい。
三方向からゴブリンが襲ってくる。
つい空いた方向に逃げたくなるが、それは悪手。
それはマリやキングと反対方向。
この状況で相棒と完全に分断されるのは、全滅とほぼイコールだ。
だから俺は---あえて敵の多い方向に飛び込む!
ゴブリンの数は……7匹か!
「だりゃああっ!」
あえて刀を振るわず、正面のゴブリンに体当たりして、つばぜり合いの形になる。
すかさず体を入れ替え、突き飛ばす。
そのゴブリンは、ほかのゴブリンが棍棒を振りぬく軌道上に入ることになる。
ぐしゃり。後方で何かが砕ける音を聞いた。
その結果を見届けることなく俺は左のゴブリンに突きを放つ。
首ではなく、胴体。
深手を負ったゴブリンがその場にうずくまる。
その後ろにいるゴブリンにとってみれば、急に足元に障害物ができたようなものだ。
もんどりうって倒れ、そのまま後続のゴブリンどもも雪崩のように倒れこんでくれる。
「はぁっ!」
さらに、俺は真横に向かって蹴りを放つ。
---視界の外だが、今、そこにいるはずだ!
渾身の蹴りが、ゴブリンのどてっぱらにまともに入る。
勢いで後ろに吹き飛ぶゴブリンは、狙い通りの場所に転がってくれた。
そこはキングの攻撃の軌道上。
マリを狙った筈の杖は、打撃の途中でゴブリンを粉砕することで勢いを失う。
おかげで、マリの眼前でキングが無防備な体勢を晒すことになる!
「せいっやぁぁ!」
この好機を逃すまいとマリがキングにトンファーを振るう。
しかし、それでも防がれる。
……諦める事なく壁から壁へと飛び回るマリ。
しかしもはやキングに動揺はない。
悠然と構え、マリの動きの軌道を感じ取っている。
「っ!行くな、マリ!読まれてる!」
ゴブリンに阻まれた俺には、声で指示するのが精一杯だ。
俺の指示コーチングを受けたマリは咄嗟に突撃の軌道を逸らした。
キングは強烈な一撃を振るう。
直撃こそ免れたマリだが、黄金杖が肩の当たりを掠め、それだけで勢い良く吹き飛ばされる。
—-今のは危なかった。
完全にカウンターのタイミングが掴まれていた。
軌道を変えていなかったら、どうなっていたか。
よく見ると、キングには先ほどからほとんどダメージが入っていない。
逆にマリのほうは。
致命傷こそないものの、全身に裂傷を負っている。
「……まだまだっ!」
鮮血に染まる顔には、なお闘志が燃えている。
だがその息遣いは荒い。
震える膝が、消耗の激しさを物語っている。
……予想以上の戦闘力だ。
これがボスモンスターか。
マリの速さをもってしても、単調な攻撃は通用しない、か。
一対一では劣勢。ましてゴブリンどもの妨害もある。
そう言ってる俺の状況も芳しくない。
周囲のゴブリンの数はどんどん増えている。
既にゴブリンは9匹にまで増えている。
魔石を投げつけてマリを援護する暇もない。
「畜生、がぁぁっ!」
苛立ちを込めて刀を振るうが、倒す速度よりも増える速度のほうが早い。
多重債務者の気分だぜ!
地面をごろごろと転がりつつ優位なポジションを模索するも、徐々に追い詰められていく感覚がある。
「そらっ!」
真後ろに向かって回復薬を投げる。
そこにマリがいるはずなんだ。
ダン!ダンダン!
息を吹き返した相棒が、再度戦場を駆け巡る音が聞こえる。
しかし、この調子では二人とも長くはもたない。
このままでは……負ける。
やむを得ん!
「マリ!作戦変更だ!」
ゴブリンどもを斬りまくりながら、俺は声を張り上げる。
「キングは俺がやる!」
プランBの発動だ。
おっかないから、できればやりたくなかったが。
先制攻撃を仕掛けたのはマリだ。
ゴブリンキングの探知圏ギリギリの間合いから、一瞬で距離を潰して渾身の一撃を放つ。
しかし。
ゴブリンキングは穏やかな動作で、手に持った杖を前方に突き出す。
マリの一撃はあっさりと受け止められた。
黄金杖。
ゴブリンキングの持つ得物だ。
武器としての強力なスペックだけでなく、ギルドでも高額買取されるアイテムだ。
魔物の使用する武器は基本的に魔物の死とともに消滅する。
しかし、稀に消滅せずに、アイテムとして残留することがある。
レアアイテムと呼ばれるそれは冒険者にとっては貴重な臨時収入となる。
……今回は意識しないけどな。
とにかく勝って生き残ること。
注目すべきはマリの攻撃を受け止めたキングの反応速度だろう。
攻撃の失敗を悟ったマリだが、その場に居つくことはない。
すかさず壁に飛び移る。
さらに逆側の壁へ、また逆の壁へ、天井へ。
キングの周囲を上下左右に飛び回り、敵の意識を撹乱する。
さしものキングもこの動きには面食らったか、視線が完全にマリを追っている。
そこが俺にとってのチャンスとなる!
「イィィィヤァァッ!!」
魔素を纏わせた刀で斬撃を放つ。
狙いは脚。
剣道では有効部位ではないが、敵の機動力を削る事は、長期戦にもつれ込んだ際にアドバンテージとなるはず。
しかし。
俺の攻撃もすんでのところで杖に遮られる。
---このタイミングでも甘いのか!
あ。
やばい。
俺の顔面を粉砕する軌道で横薙ぎが来る気がする。
回避!回避!回避!
全霊を持って体をのけ反らせて、薙ぎの軌道から頭を外させる。
その直後にキングの杖が、直前まで俺の頭があった空間を凄まじい勢いで走り抜ける。
あぶねえっ!ほんの少しでも遅れていたら!
「おおっ!」
後ろでオサム君が唸るのが聞こえる。
かなり際どいタイミングだったからな。
キングはというと、なぜかわずかに呆けた様子を見せていた。
……まさか躱されたのが意外だったのか?
そりゃ躱すよ。案山子じゃあるまいし。
こっちも命賭けなんだから。
その逡巡は殺し合いの中じゃ致命的な隙となる。
「せいっ!」
マリの新型トンファーがキングの後頭部を強かに打ち抜いた。
強烈!
しかも恐ろしいのはここからだ。
マリの強みはスピード。
当然、一発もらって終わりじゃない。
顔へ!脇へ!腿へ!腹へ!頭へ!
迅速にして強烈なマリの連撃がキングの全身を蹂躙する。
その一発一発が並のゴブリンを粉砕する破壊力だ。
しかし敵もさるもの。
衝撃にたたらを踏みながらも、杖を握りしめ応戦を試みる。
パワー。そしてタフネス。
やはりホブとはモノが違う。
ガン!
キングが泰然と振るう杖が、マリのトンファーを弾きとばす。
ほんの一瞬、マリの動きが止められる。
ニィ。酷薄な笑みを浮かべながら、キングは強烈極まる横薙ぎを放つ。
普通ならば回避不可能な間合い。
しかし既にマリは退避の動作に入っている。
一瞬で壁に飛び移ったマリには、その攻撃は届かない。
打ち合わせ通りだ。
一度でも攻撃を止められたら、即座に間合いを外すべし。
足を止めての接近戦になれば、ボスモンスターの身体能力には決してかなわない。
オサム君を交えたブリーフィングに従い、マリは再度壁へ、天井へ。
立体的な軌道で戦場を飛び回る。
追撃を仕掛けようと、マリを視線で追うキング。
だから、甘いっての!
「シャアァッァァ!」
俺の渾身の斬撃が、今度こそキングの胴体を斜めに裂く。
鮮血が飛び散る。
……やや浅いか!しかし!
「どぉぉぉぉりゃああっ!」
少しでも俺に気を取られれば、今度はマリの連撃の餌食だ。
高性能のトンファーが、マリの魔素をキングの肉体奥深くまで貫かせる。
値段相当の働きをしてくれるぜ!
このままいけるところまで行ってやる!
と思った刹那---
「ウツミんさん!後ろ!」
マリの声に反応し、真後ろに刀で斬撃を放つ。
そこには一体のゴブリン。
まさに俺を襲わんというタイミングだが、斬り飛ばしてやったぜ。
しかし、あたりを見渡せば。
そこらじゅうの壁から、次から次へとゴブリン達が出現してくる。
既に2匹、いや3匹。
たった今、4匹目が壁から現れた。
つまり---
「第二段階だ!打ち合わせ通りいくぞ!」
---
ゴブリンキングの特殊能力。
それは、ゴブリンの大量召喚。
一定程度のダメージを受けたキングは、自分の周囲の壁から、断続的にゴブリンを産み出す。
その速度、なんと約1秒に1匹。
産み出されたゴブリン達は、兵としてキングの敵を数の力で蹂躙する。
……ゴブリンキングが初めて発見されてから、その恐ろしさが冒険者の中で定着するには時間がかかったという。
キングに挑むような冒険者は、大概ゴブリン程度は簡単に倒せる連中だ。
甘く見る者も多いだろう。
だが、普段一度に戦うゴブリンなど、多くても5-6匹程度。
秒単位で産み出されるゴブリン達に、当時多くの冒険者たちが圧殺されたらしい。
倒し切れなかった場合の対処法はただ一つ。
逃げること。
幸い、キングの戦闘領域の外までは、このゴブリン達は追ってこない。
ただし、逃げた後もゴブリン達はひたすら増え続け、戦闘領域を埋め尽くす。
その後、一時間に一度のリポップのタイミングでゴブリン達は消滅するが、その際にキングのダメージは完全回復する。
つまり、ボス狩りをしたければ、このゴブリンの群れを乗り越えてキングを倒す必要がある。
「行け!マリ!」
「うんっ!」
空気を切り裂いて飛び出したマリが、ゴブリン達を文字通り乗り越えてキングに襲い掛かる。
そう、俺にはマリがいる。
彼女の機動力なら、ゴブリンの肉壁などなんのその。
壁を、天井を伝って陣形の隙間を縫い、王将の元へと辿り着く。
「そりゃあぁぁぁぁっ!」
マリの攻撃はキングに防がれる。
---周囲にゴブリンがいる分、攻撃の軌道が限定されていたかっ!
俺も役割を果たすべく、キングの傍のゴブリンに斬りかかる。
俺たちは事前に役割分担を決めていた。
主力のマリがキングを担当。
俺は周囲のゴブリンを殲滅し、マリのサポート。
マリが戦いやすい空間を作るのが俺の仕事だ。
可能ならば、先ほどまでのように、キングを相手に援護射撃を仕掛けてマリを助けてやる。
幸い、今の俺ならゴブリン1匹を一撃で屠ることができる。
断続的に日本刀を振るい続け、ゴブリンどもを斬りまくる。
……ただ眼の前のゴブリンを斬るだけじゃダメだ。
周囲を見据えろ。数手先を読め。最適な行動を選べ。
どこに行くのが一番有利だ。
俺がマリなら、俺にどこにいて欲しい。
三方向からゴブリンが襲ってくる。
つい空いた方向に逃げたくなるが、それは悪手。
それはマリやキングと反対方向。
この状況で相棒と完全に分断されるのは、全滅とほぼイコールだ。
だから俺は---あえて敵の多い方向に飛び込む!
ゴブリンの数は……7匹か!
「だりゃああっ!」
あえて刀を振るわず、正面のゴブリンに体当たりして、つばぜり合いの形になる。
すかさず体を入れ替え、突き飛ばす。
そのゴブリンは、ほかのゴブリンが棍棒を振りぬく軌道上に入ることになる。
ぐしゃり。後方で何かが砕ける音を聞いた。
その結果を見届けることなく俺は左のゴブリンに突きを放つ。
首ではなく、胴体。
深手を負ったゴブリンがその場にうずくまる。
その後ろにいるゴブリンにとってみれば、急に足元に障害物ができたようなものだ。
もんどりうって倒れ、そのまま後続のゴブリンどもも雪崩のように倒れこんでくれる。
「はぁっ!」
さらに、俺は真横に向かって蹴りを放つ。
---視界の外だが、今、そこにいるはずだ!
渾身の蹴りが、ゴブリンのどてっぱらにまともに入る。
勢いで後ろに吹き飛ぶゴブリンは、狙い通りの場所に転がってくれた。
そこはキングの攻撃の軌道上。
マリを狙った筈の杖は、打撃の途中でゴブリンを粉砕することで勢いを失う。
おかげで、マリの眼前でキングが無防備な体勢を晒すことになる!
「せいっやぁぁ!」
この好機を逃すまいとマリがキングにトンファーを振るう。
しかし、それでも防がれる。
……諦める事なく壁から壁へと飛び回るマリ。
しかしもはやキングに動揺はない。
悠然と構え、マリの動きの軌道を感じ取っている。
「っ!行くな、マリ!読まれてる!」
ゴブリンに阻まれた俺には、声で指示するのが精一杯だ。
俺の指示コーチングを受けたマリは咄嗟に突撃の軌道を逸らした。
キングは強烈な一撃を振るう。
直撃こそ免れたマリだが、黄金杖が肩の当たりを掠め、それだけで勢い良く吹き飛ばされる。
—-今のは危なかった。
完全にカウンターのタイミングが掴まれていた。
軌道を変えていなかったら、どうなっていたか。
よく見ると、キングには先ほどからほとんどダメージが入っていない。
逆にマリのほうは。
致命傷こそないものの、全身に裂傷を負っている。
「……まだまだっ!」
鮮血に染まる顔には、なお闘志が燃えている。
だがその息遣いは荒い。
震える膝が、消耗の激しさを物語っている。
……予想以上の戦闘力だ。
これがボスモンスターか。
マリの速さをもってしても、単調な攻撃は通用しない、か。
一対一では劣勢。ましてゴブリンどもの妨害もある。
そう言ってる俺の状況も芳しくない。
周囲のゴブリンの数はどんどん増えている。
既にゴブリンは9匹にまで増えている。
魔石を投げつけてマリを援護する暇もない。
「畜生、がぁぁっ!」
苛立ちを込めて刀を振るうが、倒す速度よりも増える速度のほうが早い。
多重債務者の気分だぜ!
地面をごろごろと転がりつつ優位なポジションを模索するも、徐々に追い詰められていく感覚がある。
「そらっ!」
真後ろに向かって回復薬を投げる。
そこにマリがいるはずなんだ。
ダン!ダンダン!
息を吹き返した相棒が、再度戦場を駆け巡る音が聞こえる。
しかし、この調子では二人とも長くはもたない。
このままでは……負ける。
やむを得ん!
「マリ!作戦変更だ!」
ゴブリンどもを斬りまくりながら、俺は声を張り上げる。
「キングは俺がやる!」
プランBの発動だ。
おっかないから、できればやりたくなかったが。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
税金師 異世界の確定申告請け負い〼
じんじゅ
ファンタジー
皆さんこんにちは。
この世界では多くの方が働いています。外に出て利益を稼ぐ冒険者、そんな冒険者を休ませる宿屋、はたまた宿屋を作る大工、そんな皆んなを相手にするご飯屋など等。
綺麗な水を飲めるのはインフラを国が整備してくれるから。隣の国に襲われないのは、守ってくれる騎士がいるから。
これも全部、みんなが稼いだお金から「税」という形で国に納めたものを財源に行なっている。
これは、そんな皆様の税を計算することを生業にした「税金師」達の話である。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる