35 / 58
第四章 青海の檻
02
しおりを挟む
ホールエントランスは船のほぼ中央に位置する広々とした空間で、船を垂直に貫くように螺旋階段が設置され、上階から下階まで行き来できる。
壁際にはいくつかの自動販売機が静かな唸り声をあげ、ホールの隅の方には小さいながらガラス張りの喫煙ブースがある。
隼はホールエントランスに近づくと一旦歩みを止め、入り口の縁に身を隠すようにしながら中の様子をうかがう。
息を殺してじっと耳を澄ましながら辺りを見回すと、丁度隼の居る反対側の方、螺旋階段の辺りに二人の男がうろうろしている。
二人とも船員の服を着てはいるが、明らかに挙動が不自然だ。そして手にはなにか黒くてごつい物を持っている。どうやら銃を所持しているようだ。
「しかしよぉ、ガキども前の方に全部集めてんだから、こんな所に見張りしてたって意味ないんじゃねぇ?」
「だよなぁ。でも、ま、面倒な事はせずにこうやってサボれるわけだから楽でいいんじゃねぇか?」
二人の男がタバコを加えながら、緊張感の欠片もない様子で談笑している。およそ見張りの役割に見合うような連中ではないようだ。辺りを全く警戒していない。ほぼ素人のようだ。
(……さて。どうするか)
隼は見張り二人をどう処理するか、隠密に事を進めるために一瞬思案する。
と、そこへ。
ポケットに入れていた携帯電話が着信のベルをけたたましく鳴らす。
狭い通路側に居るからベルの音は大きく反響してホールに居る見張りの二人の耳にも届く。
(ちっ。マズったな…。このタイミングで鳴らしやがって。ロブのアホめ。)
携帯電話を消音設定にしていなかった隼の迂闊さ。この辺りがやはり船酔いで鈍っている思考力の表れだろう。ちなみにこの携帯電話の番号を知っているのはロバートしかいない。電話をかけてきたロバートを呪いながら、どう動くか瞬時に判断する。
(この一瞬でやるなら…あれか)
隼は独り呟くとツールナイフのブレードを引き上げ、直ぐ上の天井を見上げた。
ホールに携帯の着信ベルが大きく鳴り響く。
「…ひっ!」
「! おいっ。誰かいやがるっ」
携帯ベルの音に酷く驚愕した見張りの二人は、互いに顔を見合わせながら顔に緊張の色を浮かべる。まさか誰かが居るというのは思いもよらなかったのだろう。
「お、おい。どっ、どうする?」
「何ビビってんだよ。オマエ行けよ」
「いやオマエこそ行けよ。どうせガキが隠れてんだろうし」
どっちが見に行く、行かない、なんて二人で数分ほどグダグダやりながら、結局二人で確かめに行くことで落ち着いた。
縦列に並び五メートル程の間隔を開けて、男二人は通路に向かっていく。
手には銃を持ちながらも、腰が引けながら前に進んでいく二人。辺りをきょろきょろと落ち着きなく見回しながら、緊張の面持ちで通路を進む。
軍事訓練も何も受けていない、完全な素人の仕草だ。
先頭の男がビクビクしながらもゆっくり歩みを進め、音がしたと思われる辺りの船室のドアを開けようとする。
一瞬頭の上の空気が揺らぐ。そして。
狭い通路の天井に、まるで突っ張り棒の様に手足を伸ばして天井に張り付き隠れてた隼が突如、後方に付いてた男の後ろへと、正にハヤブサが舞い降りるかのように音も無く降り立つ。
後方の男が妙な気配を後ろに気付いた時、男の運命はそこで終わった。
隼は男の後ろ髪を掴み、ぐっと前へと押し込み強引に俯かせると、隼のツールナイフが男の盆の窪に、生命維持に重要な神経系の集束する延髄にずむりと突き立てる。
頭蓋骨と頸椎の隙間をつきナイフのブレードが延髄を切断すると、白目をむきながら男は声を上げる間もなく絶命し、そのまま床に崩れ落ちる。
どさり、と何かが床に倒れ落ちる音に驚いて前方にいたもう一人の男が、不意にこちらを向く。
相棒が床に何故か倒れてる、そう認識した瞬間には男の胸元に隼が黒豹の様に飛び込み、今度は男の喉元へツールナイフが突き刺さる。
喉に一瞬固く冷たいものが入り込んできた刹那、それは灼ける様な激痛へと変わる。
声帯を切断されてるので男が断末魔を上げようとするが、ひゅーという空気が漏れる音の後、ゴボゴボと口から湧き水の様に溢れ出した血が邪魔をして、叫ぶこともできない。
もう一人の男もそのまま絶命すると、近くの船室へそのまま二人纏めて男の死体を放り込む。当然男達の持っていた拳銃と弾丸を奪い、それを装備する。
(……さて。)
改めて隼は思案する。
先程の銃を持ってる男達の存在のおかげで、この船が何者かに乗っ取られたことはハッキリした。
相手の規模と目的を知りたいところだが、まずは美優を始め同乗している生徒たちがどこに集められているか把握する必要がある。
(さっき船室で聞こえた銃声は間違いなく外からの音だった。…ということはおそらく集められているのは船前方部のデッキ上か)
周囲を警戒しながら、隼はホールエントランスに歩みを進め、中央にある上下垂直に船を穿つ螺旋階段の前まで来ると、その階段には目もくれず、そのまま外の通路へとつながる扉へと歩みを急ぐ。
扉を薄く開け予め手鏡で通路の様子を確認した後、隼はホールエントランスから外の三階通路へと出る。
(続く)
壁際にはいくつかの自動販売機が静かな唸り声をあげ、ホールの隅の方には小さいながらガラス張りの喫煙ブースがある。
隼はホールエントランスに近づくと一旦歩みを止め、入り口の縁に身を隠すようにしながら中の様子をうかがう。
息を殺してじっと耳を澄ましながら辺りを見回すと、丁度隼の居る反対側の方、螺旋階段の辺りに二人の男がうろうろしている。
二人とも船員の服を着てはいるが、明らかに挙動が不自然だ。そして手にはなにか黒くてごつい物を持っている。どうやら銃を所持しているようだ。
「しかしよぉ、ガキども前の方に全部集めてんだから、こんな所に見張りしてたって意味ないんじゃねぇ?」
「だよなぁ。でも、ま、面倒な事はせずにこうやってサボれるわけだから楽でいいんじゃねぇか?」
二人の男がタバコを加えながら、緊張感の欠片もない様子で談笑している。およそ見張りの役割に見合うような連中ではないようだ。辺りを全く警戒していない。ほぼ素人のようだ。
(……さて。どうするか)
隼は見張り二人をどう処理するか、隠密に事を進めるために一瞬思案する。
と、そこへ。
ポケットに入れていた携帯電話が着信のベルをけたたましく鳴らす。
狭い通路側に居るからベルの音は大きく反響してホールに居る見張りの二人の耳にも届く。
(ちっ。マズったな…。このタイミングで鳴らしやがって。ロブのアホめ。)
携帯電話を消音設定にしていなかった隼の迂闊さ。この辺りがやはり船酔いで鈍っている思考力の表れだろう。ちなみにこの携帯電話の番号を知っているのはロバートしかいない。電話をかけてきたロバートを呪いながら、どう動くか瞬時に判断する。
(この一瞬でやるなら…あれか)
隼は独り呟くとツールナイフのブレードを引き上げ、直ぐ上の天井を見上げた。
ホールに携帯の着信ベルが大きく鳴り響く。
「…ひっ!」
「! おいっ。誰かいやがるっ」
携帯ベルの音に酷く驚愕した見張りの二人は、互いに顔を見合わせながら顔に緊張の色を浮かべる。まさか誰かが居るというのは思いもよらなかったのだろう。
「お、おい。どっ、どうする?」
「何ビビってんだよ。オマエ行けよ」
「いやオマエこそ行けよ。どうせガキが隠れてんだろうし」
どっちが見に行く、行かない、なんて二人で数分ほどグダグダやりながら、結局二人で確かめに行くことで落ち着いた。
縦列に並び五メートル程の間隔を開けて、男二人は通路に向かっていく。
手には銃を持ちながらも、腰が引けながら前に進んでいく二人。辺りをきょろきょろと落ち着きなく見回しながら、緊張の面持ちで通路を進む。
軍事訓練も何も受けていない、完全な素人の仕草だ。
先頭の男がビクビクしながらもゆっくり歩みを進め、音がしたと思われる辺りの船室のドアを開けようとする。
一瞬頭の上の空気が揺らぐ。そして。
狭い通路の天井に、まるで突っ張り棒の様に手足を伸ばして天井に張り付き隠れてた隼が突如、後方に付いてた男の後ろへと、正にハヤブサが舞い降りるかのように音も無く降り立つ。
後方の男が妙な気配を後ろに気付いた時、男の運命はそこで終わった。
隼は男の後ろ髪を掴み、ぐっと前へと押し込み強引に俯かせると、隼のツールナイフが男の盆の窪に、生命維持に重要な神経系の集束する延髄にずむりと突き立てる。
頭蓋骨と頸椎の隙間をつきナイフのブレードが延髄を切断すると、白目をむきながら男は声を上げる間もなく絶命し、そのまま床に崩れ落ちる。
どさり、と何かが床に倒れ落ちる音に驚いて前方にいたもう一人の男が、不意にこちらを向く。
相棒が床に何故か倒れてる、そう認識した瞬間には男の胸元に隼が黒豹の様に飛び込み、今度は男の喉元へツールナイフが突き刺さる。
喉に一瞬固く冷たいものが入り込んできた刹那、それは灼ける様な激痛へと変わる。
声帯を切断されてるので男が断末魔を上げようとするが、ひゅーという空気が漏れる音の後、ゴボゴボと口から湧き水の様に溢れ出した血が邪魔をして、叫ぶこともできない。
もう一人の男もそのまま絶命すると、近くの船室へそのまま二人纏めて男の死体を放り込む。当然男達の持っていた拳銃と弾丸を奪い、それを装備する。
(……さて。)
改めて隼は思案する。
先程の銃を持ってる男達の存在のおかげで、この船が何者かに乗っ取られたことはハッキリした。
相手の規模と目的を知りたいところだが、まずは美優を始め同乗している生徒たちがどこに集められているか把握する必要がある。
(さっき船室で聞こえた銃声は間違いなく外からの音だった。…ということはおそらく集められているのは船前方部のデッキ上か)
周囲を警戒しながら、隼はホールエントランスに歩みを進め、中央にある上下垂直に船を穿つ螺旋階段の前まで来ると、その階段には目もくれず、そのまま外の通路へとつながる扉へと歩みを急ぐ。
扉を薄く開け予め手鏡で通路の様子を確認した後、隼はホールエントランスから外の三階通路へと出る。
(続く)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
シチュエーションセリフ集 男女兼用
奏
ファンタジー
色々なシチュエーションのセリフを集めたものです。ご自由にお使いください。セリフは改変やアドリブもOKです。
ACT-LINESというまとめサイトもありますので
興味のある方はご覧下さい
https://seigeki-odai.crayonsite.com/
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる