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本編

#16 リペポのタルト

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私とサリーは今廊下にいる。お土産の紙袋に入ったタルトを左手に持って。まだかな、まだかなってソワソワしてたら1週間がほんとあっという間だったわ。今日はどんなお話が出来るのかしら。


「お邪魔します」

「わ、こんにちは! リリー嬢とサリーさん、どうぞ中に」


1週間ぶりに訪れた特別A教室。ざっと1、2歩進んで立ち止まる。あれれ? 最近戸惑うことが多すぎる気がする。でも此処ってなんか......そのぉ......。


「あー・・・・・・私、いや私たち? 場所を間違えてしまったかしら」


ここで、合ってる? 特別A教室。いやいや合ってなくない? だって前回とまったく部屋が異なるのだけど。元々の家具からカーテンの色まで目に入るもの全部が違う。とてもセンスのいい、居心地の良さそうな部屋。何一ついじられてなかった平凡な教室とはまるで天と地の差がある。


「急いであの前の教室に移動した方が良いのでは? 」

「いや教室は合っている、ここは少し前に模様替えをしたから。......もしかして前の方が良かったか? 」


ふぁっ! 模様替え!? 壁紙から机、ソファ、カーテン、絨毯、その他諸々。この1週間の間にって早過ぎない?何があったのかしら。思わずすぐ隣に距離を詰めていたウィンを凝視する。でもまぁ本当に素敵なピカピカの空間に生まれ違ったのには間違えがない。とっても素敵。


「え、あぁっ!そんなことないわウィン。此処はとても素敵な場所です。あのカーテンの色、私の好きなスノーホワイトに似てますし」

「そう。なら良かった」


てんてんてん、と空白の時間。うぅぅっ耐えられないこの圧! 視線が鋭く噛み合って逃れられない。


「あーあー、えーっこほん。......ウィン様、カインさん、本日はなんとじゃじゃーん!! タルトを用意させていただきました!早速お食べになりませんか? 」

「あああっ! そうそう本日は手土産にタルトをね、サリー早く用意して食べましょう」


サリーの少し棒読みとも言えるナイスアシスト (本当にナイスなのか・・・・・・?) のおかげで助かった。
こんな時どうすればいいのかやっぱりまったく分からないし、これから分かる気もしない。
ふぁーあ、まだ全然慣れないこの空間に雰囲気。
この前の馴染みある教室の雰囲気ですら無くなったからそわそわが止まらない。

うわぁ!!! タルト!!! サリーによって分けられたタルトは陽の光にあたりキラキラしてて美味しそう。

今日お土産に持ってきたタルトは、私の好みを熟知したシェフが作ってくれたリペポのカラメルタルト。ジュワッと口内に広がる広がる甘さと苦味のバランスが絶妙で、永遠に食べられる。今日は久々に食べられるから嬉しいわ。


「「「「いただきます」」」」


ザクッ、ほろっ、シャキッいろんな食感が楽しめる。フォークを食べる手が止まらない。タルトはやっぱり最高ねぇ。美味しいぃ。


「リペポか、とても美味いな」

「ですよねぇ。私このタルト大好きなんですの」

「リペポは私も好きだ、捨てるところがないしな。このように果実は甘くいろんな料理に合うし、皮は染料にするととても綺麗な色になる。この制服に着いているエンブレムの色もそうだ。種なんか貴重な薬の材料になるからな」

「あらウィンそれだけじゃありませんわ。リペポの皮は乾燥させてお茶にしたり、入浴剤にしても身体に良いらしく使い道は沢山あるんですって」

「リリーそれを言うなら、リペポの葉と果実を混ぜたものは体を痛めた時によく効くらしい」
 
「そうなのですね」

「あぁ、そうだカイン。その後ろの本棚から、下から2番目左側にある青い背表紙の図鑑2を取ってくれ」

「はぁーい、っとこれのことですね? 」

「あぁありがとう......そう、確かこのページ。リリー見てくれ。ここに リペポ についてよく載っている」

「本当ですね! あら、この絵家にあるリペポの木にそっくり」


少し身を乗り出して机の上に広げられた図鑑を眺める。種類、育てかた、効能やらいくつもの項目に分けられてリペポについて述べられている。ふむふむ、お茶にする時は皮は多めに入れるのがコツなのね。この葉の形は見たことある、よく紋章に使われているような......。


「リリーの言っていた入浴剤については書かれてないな」

「あっとそれはリペポを作っている方々が家でしているだけであって、そんな有名なことじゃないのかもしれません」

「いや、貴重な情報だ。メモして挟んでおこう」


筆をとった彼の背後からチラチラとのぞく高い影。どんな本が入っているのだろうと気になっていた大きな本棚。めちゃくちゃ気になる。もしかして全てこのような図鑑が並んでいるのかしら! そうだとしたら是非とも全てを拝見したい。


「あぁついでにこの前言っていた染料の本。ここに置いてあるのは本当に一部なのだが良かったら」

「いいのですか!? 」


これが分かりやすいと、そっと手渡された本は少し古びているけれど、大切に大切に読み継がれてきたことがわかる。ゆっくりページをめくっていくと、瞬く間にその本の虜になった。

「それはきっとあのレポートの12ページに書いてあった赤っぽい色したドレスの原料に使われたものだ」

「私は1つ前のページの染料だと思ったのですが。だってほらここには紫がかっている絵がのっていますよ? 」

「この実は少々特殊で、何回かに分けて染めていく。液は少し紫がかっているけど、干して乾かして液につけてを繰り返し、最後に月の光に当てるとあの色になるんだ」

「なるほど......」


いつの間にか邪魔にならない程度に隣からウィンが解説を入れてくれていて。すらすらと饒舌に語ってくれるものだから、これまでの染料に関する様々な謎が解けていく。ウィンの染料講座をひたすらに聞いて染料スキルが上がったわ。こんなに詳しく学べて嬉しい!


「あぁそうだ、これを見て欲しい」


さっと立ち上がったウィンが机の方へと歩いていく。次はなんだろう?
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