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本編

#11 帰宅

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ガタンゴトンと馬車に揺られて数十分。ようやく家につくと、サリーが出迎えてくれた。サリーに伝えたい仮面舞踏会の感想が多すぎて思わず駆け寄る。


「おかえりなさいませ、お嬢様。ドレス沢山見れましたか? 」

「サリー! あのね、今日はとっても楽しかったわ。ドレスだけじゃなくて話したい事が沢山あるのよ」

「まぁ珍しいわね、お部屋に戻って聞かせてちょうだいな」

「ええ、沢山聞いてもらいたいわ」


何からサリーに話そうかゆっくり頭の中で考える。
今日見た沢山のドレスから? ジュリーのドレスは最高だった。あのドレスを思い出すだけで幸せになれる。他にもなかなか良いものを見れたけど......。
いや、やっぱり先にウィンのことを話そうか?
そこでふるふると頭を振って考えることをやめた。時間はまだまだあるのだし、ゆっくりと部屋で紅茶でも飲みながらお喋りしたらいいわ。

1歩踏み出して、部屋に向かおうとした時だった。背後からコツ、コツ、コツと軽やかな足音がした。もう見なくても分かる。ローズだ。キツいバラの香水の香りが辺りに漂った。あらまぁもっとふわりと香る方がいいのに。香水のつけすぎね、勿体ないわ。
立ち止まっていても仕方ないのでそっと振り返る。


「あらあら、ゴミお姉様? なぁんだ今帰られたんですねぇ。流行遅れすぎて恥ずかしくなって、すぐに帰ったのだと思っていましたわ」

「そんなことないわ。それよりローズ、もう帰っていたのね? 」


ローズはいつも終わるギリギリまで会場にいて、なんなら終わってからもずっと話していて。遅く帰ってくるのが彼女の当たり前だから不思議でたまらない。そっと質問の答えを待つ。迷っていた視線がいつの間にか絡まってじっ、とローズと見つめあった。ゆっくり数えて3秒間。

......意外といい目の色してるわね。濁ってない光のある目。お母様とローズの色は同じなのよね。とローズを観察していると、じわじわとローズの頬が赤く染まっていく。どうしたのかしら?


「~っ! 別にお姉様には関係ないわ! 」


そのままズカズカとローズは廊下の向こうを走り去って行った。なんだか涙目だった気がするのだけど気のせいかしら? 

うーん変ね、弱気。いつものローズらしくないわ。

まぁいいや、それより早く部屋に戻ってサリーに話さないと。いつもより素早く、けれども上品に部屋に戻った。



☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



部屋にてサリーに今日あったことを話す。結局ウィンのことから話すことにした。ドレスはレポートにまとめてからね。今話しきれるとは思えないもの。今夜は眠れない、忙しくなるわ。忘れないうちに出来るだけ書きとめておかないといけないもの。


「・・・・・・という訳なの。これが今日仮面舞踏会で会ったウィンの話」

「なるほどね......言いたいことは色々あるわ。お嬢様はじめに今回だいぶ危ういことしたの分かってる? 相手に騙されたりしてる可能性はちゃんと考慮したのよね? 」

「もちろん考えたけど・・・・・・ドレス好きに悪い人はいないし。あんなに話の会う人いなかったんだもの。ウィンはちゃんとした礼儀のある紳士だったわ」

「本当に、大丈夫なのね? その言葉信用していいのね」

「えぇ。服にだいぶ上等な布を使っていたし。それなりの地位にいる方だと思うわ」

「布ねぇ、独特の判断だけどまあいいわ。次からもう少し、危ないヤツに引っかからないように細心の注意をはらいなさいね」


そう言われて反省する。確かに久々のパーティーで浮かれて判断力に欠けてたかも。ウィンがいい人だったから良かったものの、今冷静に考えてかなり危うかったわ。

反省中のさなかパンッと手を叩いてサリーが話し出す。


「じゃあちゃあんと反省したところで、次に言いたいこと。お嬢様っ! やっと、やっとね! 」

「え、や、やっと? 」

「えぇそうよ! まさかまさかお嬢様のお口からそんな話が聞けるとは! 」


どんどん前のめりになっていくサリーに少し引く私。なんでこんな熱量なのかしら。声も少し大きいし。と言うかなんなら泣き出しそうだし、って近い。近いわ。落ち着いて、サリー。それにさっきからやっとやっと!ってどういうことかしら?

んー・・・・・・あっ!

分かったわ。

きっと今まではサリーにしかドレス関連のことを話してこなかったけど、他に話す人が出来たからよ。

そうドレス友達、略してドレ友よ!ドレ友が出来たから。

確かにこれまではサリーしかいなかったけど、サリーはそこまでドレスが好き、興味があるわけでは無いものね。忙しそうな時でも話しちゃってたから。

それに私友達もほぼいないもの。ジュリーやサリーの他に友達が出来て安堵しているんだわ! きっとこれまで心配かけちゃってたのね。気づかなかったわ、でももう大丈夫よ。


「ぁ、あ~お嬢様っ。そうだ。お、お祝いです! しましょう」

「まぁお祝い? 」

「えぇ、今日は革命の日。記念日ですよ!  逃してはいけません、この縁は。なにかしらの力をつけないと」

「そ、そうなのかしら。サリー、あなたちょっと落ち着」

「皆に、そう料理長に今すぐ話しにいかないと。みんな今日という日を心待ちにしていたから」


行ってらっしゃいを言う前に、もうサリーは部屋を出ていった。は、早い。こんなにすごいことなの? 特段すごいことを言ったつもりはないのだけど。
・・・・・・そうかそんなにすごいのか。ドレ友って。
うふふっ。なんだか急にめちゃくちゃ嬉しくなって来た。幸せだなぁ。にこにこが止まらない。いい日、記念日。

“ウィン”

決して声には出さないけれどそぉっと口を動かす。

ふわふわと気分が高揚してきて、暖かく心の中に光が灯る。なんとも言えない甘い痺れを感じた。


⋯⋯友達って、ドレ友っていいなぁ。
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