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本編

#9 仮面舞踏会〜中編〜

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ジュリーと別れて壁の花になった私。絶賛ドレス観察中だ。


「あ、あの・・・・・・」


あぁっ、あの人素敵っ! とても華があって一目見たときのインパクトがっ。
わぁっあそこのカーテンの近くに居る方のドレスも悪くないわね。お淑やかながらも静かに光っている。うつむいているけどもっと自信もっていいのに。背筋を伸ばしたらもっと美しくみえるはず。
あーっと今入ってきた方はっ、、、ちょっと髪色と合ってないかも。もう少し明るめが似合いそうだわ。ドレス自体のデザインは可愛いんだけどね。


「そこのお嬢さん、白い仮面をつけたお嬢さん、少しお話を・・・・・・聞いてますか?」


あの可愛らしい優しい色の名前はなんだったかしら。えっと、えっーとス、ス・・・・・・。もうここまでは出てきてるのに! ってあーあ、フロアの真ん中にいる人の趣味悪いわね。よく見ると周りにいる人も! あの集団酷すぎないかしら。どんどん趣味悪めの集団が出来ていく。きっとローズマリーもあの中にいるのでしょうね。


「おーいご令嬢! お話を。って、おーい、聞こえてますかー? あれ・・・・・・」


ドレスの美しさを知らないのね、あの方達は。どんな奴が作ってるのよ。あ~もう気分悪くなるじゃない。せっかくのドレス見放題なのにぃー。こんな時は居なかったことにして、他の美しいドレスを見るに限る。あ、あんなとこに・・・・・・


「あーもうっ! そこのアイリスのドレスを着た令嬢! 」


うるさいわねっ! さっきからぶつぶつ近くで話していてって、もしかして私? アイリスのドレスって......顔をそろそろと右に向ける。


「はぁ、やっと目が合った」

「えっと、どちら様? どうされましたの? 」

振り向くと黒い仮面をつけた背の高い男性がたっていた。黒で銀のふちどりのある上着に、細いストライプのはいったズボン。男性ものの服はそれほどまでに詳しくないけれどかなり上等なことは分かるし、小物も含めセンスがとてもいい。

彼のじっと仮面越しにこちらを見つめる視線から、私に話しかけていたことは容易に分かる。
まさか私に話しかけていたなんて。あまり慣れていないものだから困る。これはき、緊張するわね。これまではローズマリーに話しかけている人を見るだけだったし。どんどん顔が火照っていくのが自分でよく分かる。あーもうっ、私って人見知りだったのね。パタパタ熱くなった頬を扇で扇ぐ。

そんな私を見た彼が少し笑ってから話し出す。


「いや、君のドレスが少々変わっていると思ってな。袖口とか刺繍の感じが。思わず話しかけてしまった。その・・・・・・君に似合っているが、見たことがない形で、」

「まぁ! も、もしかしてお分かりになるのですか? このドレスのこだわりポイント! 」

「あぁ」

「あの、よろしければドレスの感想を頂いてもいいかしら」


嘘でしょう。男性なのにこのドレスの良さが? 袖口に気づいてくれたってことよね、シンプルに嬉しい。そう思うと、するすると言葉が出た。少しだけ話してみたいと願ってしまった。いいのかな。これってもしかしなくても、はしたないのかしら? あ~もう正解が、わ、わからないわ。テンパる脳内をよそに、彼は提案してきた。


「あぁ勿論。良かったらあそこのテラスで少し話さないか? 」

「えぇ。しょう、そうしましょう」


か、噛んじゃった。思わず動揺が出ちゃったわ。恥ずかしい。でも彼は何も聞かなかったように、サラッと手を出してくれる。手馴れてらっしゃるわ、優しいのね。あぁ断られなくてよかった。空いているテラスへと向かいながら話しかける。これだけは言わないと。


「先程はすみませんでした。すぐに話し掛けられていることに気づけなくて」

「あぁいいんだ。でも驚いたな。何度も声を掛けたのに返事どころか目を合わせやしないからな」

「そう、ですよね。言い訳になってしまうのだけれど、ドレスを観察・・・・・・いや、見ていて」

「なるほどなあ、そうなのか」

「???」

「いや、気持ちは分かる」


怒ってなかったみたい、よかった。それにしてもドレスを見ていたと言っても笑わないのね。それどころか肯定してくれるなんて。今まで会ったことないタイプの不思議な人だわ。


「ここが空いてるな」

「そうですね」


テラスに出る私達。
ザワザワした空気が少し遠くなってほっとする。


「どこの部分から話そうか。......っと自己紹介してなかったな」

「ふふっ、ここは身分すら関係ない仮面舞踏会ですよ。そうですね、なんてお呼びしたらいいかだけ教えて下さる?」

「そうだった。じゃあウィンと呼んでくれ。君も教えてくれないか」


ウィン様、ね。なんだかとても話しやすくて緊張がおさまってきたかも。よし、いつもの侯爵令嬢モード平常運転開始。なんて答えましょう? 本名のリリアナからとるべきよね。アナはいつも呼ばれているからバレでもダメだし・・・・・・。そうだ、リリーでいいわ。そうしましょう。


「えぇウィン様、では私はリリーとでも」

「リリー嬢か、響きが良いな」

「ありがとうございます、ウィン様」

「あぁ、様は付けなくていい。呼び捨てで構わない。さぁドレスについて話そうか。薄々感じとっているかもしれないが俺はドレスが好き、というか興味があってね。君のドレスが気になったんだ」

「ウィンですね、あぁなら私も嬢は要りませんわ。私もドレスは大好きですが、貴方もなんですか? あの不躾ですが男性がドレス好きというのは......」

「そうなるよな。まぁこれにはちょっと事情があってな。なんなら今日来たのも9割ドレス目当てだ」

「まぁ本当に? ふふっ私も同じくドレス目当てで来ましたわ」

「そうか。じゃあ失礼だがはじめに一つ質問させてくれ。パーティーで真ん中にいる集団をリリーはどう思うか? 」

「なるほど、私のセンス、ドレス愛が試されているのですね。では、はっきり言わせてもらいますわ。あの方達は最悪です。何を考えていらっしゃるのか。デザイナーは勿論、あれを好んで着ているのが有り得ません。流行だからと言ってあのゴテゴテしたリボンとフリル。色も驚く程に彼女たちにあっていないように見えるし。そして確か多くの人が着てるあのブランドは、」

「あぁもう分かったよ。リリーは真のドレス好きだと」


ウィンに認めて貰えたってことよね!? とても嬉しいわ! でも少し言い過ぎちゃったかな。まぁいいや、どうせこれっきり。よくよく考えたら仮面舞踏会なんだから。あっドレスの感想を聞かないと。


「ふふっ嬉しいですわ。あの、ドレスの感想を」

「そうだな。何から伝えようか。まず俺が最初に見た時に君は輝いて見えたよ。1人だけドレスのオーラが桁違いだったんだ。そのまま吸い寄せられるようにして話しかけたわけだが......嫌ではなかったか?あいにく、慣れてなくてな」

「いいえ、大丈夫ですわ」

「それなら良かった。それで近づいていくと細かいところまで工夫があるのだと思ったのだ。例えば裾。凝った刺繍があって上手いことシンプルで上品な感じを出していると思った。この模様は花......あぁアイリスか。なるほど色と掛け合わせた訳だ。これでこんなに纏まって見えるのかもしれんな」

「そうです、アイリスなんです。そこまで見抜くなんて! お詳しいですね」

「まだ終わりじゃないぞ。後回しにしていたが何より袖。なんなんだその袖は。これまでのドレスとは違う、新たな形。本当に驚いた。これはどこのドレスだ? デザイナーは? よかったら教えてくれないか」

「嬉しい。そんなに褒めてもらって」

「ん? 」

「これは、恥ずかしながら私が作ったものなのです」

「えっと、ドレスの要望を出したってことか? 」

「いえ違います。デザインするところから縫うところまで全て私と侍女の2人で作りました。ですからここ! 少し縫い目が不揃いでしょう? 」

「あぁ確かに。1から作ったのか。参った、これは面白いな」

「ふふっ」

「じゃあここの部分は......」


そこから1時間近く話した私達。初めの緊張感はとっくに消えている。こんなにドレスについて対等に話すことが出来るのは初めて。とっても楽しいわ。ふふっとさっきからにこやかに頬が緩むのは許して欲しい。
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