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しおりを挟む◆◆◆第二章 希望のひかり◆◆◆
「ユウナだな?」
対峙している男は、もうわかりきっているだろうに、あえてゆっくりと確認してきた。
私が死にもの狂いで走ったためドロドロに汚れているにもかかわらず、男は全くと言っていいほど汚れていない。
それも当然。なぜなら悠々と車で到着したのだから。
まず私に追いついたのは、あの柄シャツ男をはじめとするチンピラたちだった。彼らに囲まれ、睨み合うこと数分。蟻一匹逃がさないといった面構えで警戒していた男たちが、突如頭を下げながら道を空ける。そこをさも当然のように歩いてきた男こそが、『マリス・ステラ』のオーナー・加賀見蓮司だった。
以前見かけた、秘書と思しき男も一緒だ。
だが加賀見がヤクザだということは、この一見真面目そうな男もそうなのだろう。加賀見の一歩後ろに立ち、こちらをじっと見据える瞳には、なんの感情も浮かんでいない。精巧な蝋人形のような印象に、ゾッと肌が粟立つ。私は思わず剥き出しの二の腕をさすった。
未だ加賀見の問いに答えようとしない私に、周りのチンピラたちが殺気立つ。
だが、加賀見の邪魔をすることはなかった。
「もう一度聞くぞ。お前が久藤優奈だな?」
形の良い薄い唇から、源氏名でなく自分の本名が出たことに、私は絶望しか感じなかった。
「黙っていたところで、良いことなんて何もありませんよ?」
呆然と黙ったままの私に苛立ったのか、後ろに立つ秘書が口を挟む。
「そう、です……」
無理やり絞り出した声はひどく掠れていた。走り回った上に、極度の緊張で喉がカラカラになっているのだから無理もない。
「俺たちがなぜここに来たか、わかっているな?」
ゆっくりと問う加賀見の声は、低く冷たい。『マリス・ステラ』では聞いたことのない声だった。
今思うと、彼らは彼らなりに、自分の店の娘のことは大切にしていたのだ。大切な金の卵を産む雌鶏といったところだろう。
「……山中さんのことですよね?」
「ああ、やはり知っていたか」
初めて加賀見の顔に表情というものが表れる。獰猛な肉食獣のような気配が、薄暗い路地に立ち込めた。つまるところ、私は群れからはぐれた哀れな草食獣といったところか。いや、彼らにしてみれば獣ですらない、『調理ずみの料理』なのかもしれない。
「ミーティングの前に、黒服からちょうど聞かされたところでした」
「なら話は早い。落とし前、つけてもらうぞ」
「でもっ! 私は紹介されただけで――」
「この世界はなあ、面子が大切なんだよ、お嬢さん」
私の必死の言葉を無情にも遮る声は、楽しそうだった。
「紹介されただけで知らなかった? 俺たちにとって、そんなことどうでもいい。大事なのは顔に泥を塗られて『どう落とし前をつけさせたか』だ」
ひどく身勝手な言い分に震えが走る。ヤクザなんてそんなもの、と頭では理解していても、いざその立場に自分が立たされたとき、心は必死に否定する。
「おい、連れていけ……島津、後の手順はわかっているな?」
「はい。会長は車でお待ちください。……お前たち、彼女を連れていきなさい。ただし大切な商品です。手荒なことをして傷をつけないように。価値が下がっては困ります」
淡々と紡がれる言葉に、思わず耳を塞ぎたくなる。自分の将来というものが一気に変わってしまった。
四方から伸びてくる手を、無我夢中で叩き落とす。握り締めたまま走っていた唯一の武器――家の鍵やお財布の入ったバッグを投げつけ、伸びてくる手を爪で引っ掻く。
「嫌だっ!! 離して! 触らないでっ!!」
「ちいっ! 島津幹部、傷をつけるななんて無理ですよ。このままだと、こっちが傷だらけになっちまいますって」
私に引っ掻かれた男が情けない声を上げながら、うっすらと血の滲んだ腕をさする。
「店に出せないような傷は困りますが、多少の切り傷や打撲は構いません。暴れているとはいえ所詮は女性です。力でなんとでもできるでしょう」
「はいっ」
その返事を待ってましたと言わんばかりに、男たちの手に力が込められる。手首に回された太い指をほどこうと、力の限り暴れてみるが、びくともしない。
両腕を捕らえられ、強引に連れていかれる。裸足の足裏に力を入れて踏ん張り、最後の抵抗を試みるも、力の差は歴然だ。ズルズルと地面にすれる足がひどく痛い。
――やっぱり神様なんていなかった。何が『運が向いてきたかも』だ。十数分前の呑気な自分に笑いが込み上げる。
「くっ、あははははは」
突然声を上げて笑い出した私を、薄気味悪そうに見つめる柄シャツの男。
「島津幹部、こいつ変ですよ? こんな状況なのに声上げて笑って、気持ち悪い」
「ヒステリーでも起こしたのでしょう。どうせそのうち壊れてしまいます。それが多少前後しても問題ありません。身体さえ無事ならね」
「壊れてなんか、ないわよっ!」
島津と呼ばれた秘書を睨みつける。幹部ということは、そこそこの地位にあるのだろう。
だがこうなってしまえば、もう怖いものなんてない。どうせ逃げられないのだ。奇跡でも起こらない限り。
「絶対、許さないから。死んだとしても呪ってやるから」
「呪いなんてものを信じると思いますか? 我々が?」
「それより、神様にでもお願いしたらどうだ?」
「神様~、哀れな仔羊をどうぞお助けください! ってか?」
島津に続いて柄シャツの男が、私をバカにしたように口を開く。それに呼応するように他のチンピラが、ギャハハと笑いながら両手を合わせて祈るフリをした。
「お前たち、ふざけるのも程々にしなさい。会長が車でお待ち――」
チンピラたちのしまりのない様子に、島津が注意を促したときだった。
眩い光が辺りを包み込み、私は思わず目を瞑る。まぶたの裏が真っ白に染まった後、徐々に暗くなったところで、ゆっくりと目を開く。男たちも突然の眩しさに目が眩んだようで、誰一人動ける者はいないようだ。
そして光が収まったあと、全員の目に映るのは、一人佇む男性の姿だった。
突如現れた男性は動く様子もなく、ただこちらをじっと見据えていた。
不思議な光の大洪水。その中から現れたと言ってもいいほど突然の登場に、周りの男たちも唖然とした表情で彼を見ている。
島津だけがすぐ我に返り、「お前たち、早く彼女を車に」と指示を出す。さすがに私を拉致するところを見られてはまずいと思ったのだろう。それを聞いた男たちは、慌てたように行動を再開する。
だが私にしてみれば、この男性の登場は正に最後の望み。
どこの誰だか知らないが、『助けてくれ』なんて贅沢は言わない。せめて『女性が拉致されそうだ』と警察に通報してくれたら、と一縷の望みをかけて男性に叫ぶ。
「助けて!! この人たちに拉致されっ――」
男たちの一人に口を塞がれ、声にならないうめき声を漏らす。力の限り叫んだものの、未だカラカラなままの喉では、あの男性が聞き取れるだろうギリギリの声しか出なかった。
これであの人が通報してくれなければ――ゲームオーバーである。
口と一緒に鼻も半分塞がれてしまい、呼吸すら満足にできない。両手を拘束されている上に、口も塞がれてはどうすることもできず、だんだんと視界が霞む。
でも……助けてもらえないのなら、このまま死んでしまった方が遥かに楽なのかもしれない。そんな暗い考えが頭を過ったそのとき、私の背後で鈍い音が響いた。
「幹部!」
「島津幹部!」
驚く男たちの力が緩んだ隙に、首を捻って呼吸を確保することに成功した。両親からもらったこの命……生きることを、諦めたくなかった。
後ろの様子を確認すると、男たちが慌てて駆け寄る先に、倒れ込む島津の姿。道路の塵芥を含んだ泥水の中に倒れたため、スーツが悲惨なことになっているが、いい気味だ。ザマーミロ。
「てめえ、何しやがるっ! 誰に喧嘩吹っかけたのか、わかってんだろうなあ? ああ?」
一人の男が島津を殴ったのであろう男性に、凄みを利かせながら近寄った。だが、次の瞬間にはその身体が吹っ飛び、路地の壁に激突する。
正直、何が起こったのかわからなかった。
だが、男性の片足が地面から浮いているところを見ると、蹴ったのだろうか? それにしては、凄まじい威力だ。まるで車に撥ねられたかのような勢いだったが……
さすがにこの状況では私に構っていられないようで、私を捕まえていた二人の男も慌てて男性の方へと走り出す。
私は助けてくれた男性から距離をとりつつ、雑居ビルの壁際でしゃがみ込む。突っ立っていては男性の邪魔をしかねないし、このまま一人路地から逃げ出しても、車にいる加賀見に見つかってしまう。
男性が早々に二人を伸したといっても、それは島津たちが油断していたからだろうし、彼らに敵として認識されてしまった今、一対多数で圧倒的に不利な状況だ。
だが救い主である男性は、敵の数に怯むこともなく、確実に一人ずつ倒していく。
――しかも全てが一発だ。
空手、ボクシング、ムエタイ……何かの武術の達人だろうか? あっという間に全ての男を倒したあと、その人は私のいる方へゆっくりと近づいてくる。
そのときになってようやく気が付いた。彼が日本人ではないことに。
鮮やかな真紅の髪に、緑の瞳。肌は日に焼けているものの、彫りの深さを見るに西洋人だろう。通った鼻筋にキリッとした眉。鋭い瞳に薄い唇……うん、イケメンだ。
服装はシンプルな黒のパンツに白いインナー、その上に黒いコートというありふれた格好だが、だからこそスタイルの良さが際立っていた。
そして、とても先程まで乱闘していたとは思えないほど穏やかな雰囲気だった。息すら乱れていない。
彼は私の前に立つと、そっと手を差し伸べてくる。
一瞬、その手を取ることをためらった。先程の動きからして一般人とは思えなかったからだ。もしかしたら加賀見に恨みを持つ、同業者という可能性も……
なんてことを考えてみたが、私が手も足も出なかった相手を、数分で完膚なきまでに叩き伏せた人だ。抵抗したところで勝てるはずもない。
おずおずと見上げると、男性の表情はとても優しい。そのことに希望を抱きつつ、私はその手を取った。
私が立ち上がると、目の前の男性は自分の上着を脱いで、そっと羽織らせてくれる。
「失礼、レディ。今はあなたにお貸しできるものが、私の上着しかありません」
男性は恭しく腰を折る。彼の口から流暢な日本語が飛び出したことよりも、その言葉遣いや仕草に驚いた。芝居がかった仕草にポカンとした表情を向けると、そっと優しく微笑まれた。
「もう大丈夫です。あの暴漢たちは、しばらくの間起き上がれないでしょう。今のうちに戻られた方がいい」
礼儀正しいのだが、なんだろうこの違和感は? それとも私の世界が狭いだけで、外国の紳士にとってはこういうのが普通なのか? これがレディファーストなのか?
助けてもらってこう言うのもなんだが、なんか、この人変だ!
そう思ってもう一度男性を見たとき、その腰に目が留まった。
――あれは?
一点を凝視する私を見て、不審に思ったのだろう。男性が声をかけてきた。
「どうされました?」
「あの……それ……」
そう言いながら、男性の腰に提げられている『剣』を指差す。
「ああ、なるほど」
男性は納得したように微笑むと、そっと左手を剣に添える。
「ご安心ください。もちろん、あのような下劣な者たち相手には使っておりません。白騎士の剣は、主をお守りするためのモノですから」
「剣……主……白騎士……」
私は呆然と呟く。
「レディは騎士団関係者のご息女か何かでしょうか? 隊服も着ておりませんのに、一目で白の騎士団の所属と見破られるとは、思いもよりませんでした。ご自分も危ない目にあっていたというのに、私の心配をしていただけるとは、光栄です」
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「いえいえ、騎士として当然のことをしたまで。礼を言われることではございません」
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「へ? はい」
わけもわからず、勢いで頷いてしまった次の瞬間、身体がふわりと浮いた。
「なっ、何?」
「暴漢に襲われたときに、靴を失くされてしまったのですね。よろしければ、馬車まで私がレディの足となりましょう」
すぐ傍から聞こえる低音ボイス……なんてことだ。騎士が私を抱きかかえている。
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身をよじって暴れると、すぐに騎士は地面に下ろしてくれた。
「しかしその傷では――」
「いえいえ、大丈夫。家に着いたら手当てしますから。まずはここから逃げないと!」
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私は、少し迷ったものの頷いた。
「レディ、私に解決できることでしたら、喜んでお手伝い致します。ですから、お話しくださいませんか?」
「でも、見ず知らずの方にそこまでご迷惑をおかけするのは心苦しくて」
もし加賀見に姿を見られたら、確実に騎士も追われる対象となるだろう。
「レディ、私はレニアス・オディアール。どうかレニアスとお呼びください」
騎士は突然名乗った。
「は、はあ」
「これで見ず知らずではございません。それに、レディは遠慮などするべきではございません。騎士は、か弱き者を守るために存在しているのですから」
どこの貴婦人が相手だ! と思わず問いたくなるようなキスを手の甲に落とす彼。
「………………ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
ここで断ったら、この路地裏から逃げられない。この人も危険かもしれないが、今は目を瞑ろう。生きていれば、いつか恩返しできるときが来る。
それにこの人は強い。きっと大丈夫。
そう自分自身に言い聞かせて事情を話すことにした。
助けてもらったお礼として、レニアスの徹底した『騎士ごっこ』に付き合うべく、細部をそれらしい言い回しに変える。なぜか私のことを『レディ』と呼んでくれるので、その夢設定を壊さぬようにしつつ、状況を手早く説明するのだった。
◆◆◆
騎士と名乗るレニアスのおかげで、私は加賀見に見つかることもなく路地から逃げ出すことに成功した。
もちろん投げつけたバッグも忘れずに回収したので、自宅の鍵も財布もある。そのことが、少し心強かった。
しかし私に逃げられたことに加賀見が気付いたら、自宅にも手が回るだろう。そう思うと、あまりうだうだしてもいられない。
緊張と全力疾走により、喉が張りつきそうなほどカラカラだった私は、路地からかなり離れた場所で後ろを振り返る。周りを確認しても、追っ手らしい姿は見えない。
そのため自宅と路地のちょうど中間に位置する公園で、一息つこうと考えた。自動販売機でペットボトルの水を買い、レニアスにも一本手渡す。
レニアスは水をマジマジと見つめたものの、一向に口を付けようとはしなかった。どうも先程から様子が変だ。
だが、私に時間はあまり残されていない。早く家に帰って逃げる用意をしなくては……
私はどこかぼんやりとした様子のレニアスに、改めて頭を下げた。
「レニアスさん、ありがとうございました。おかげで命拾い致しました」
「いえ……それは良かったです」
歯切れの悪い様子が気にかかり、つい尋ねてしまう。
「あの、先程から少し様子が変ですが、どうかされましたか?」
すると彼は怪訝な表情を私に向けてくる。
「レディは、何も感じないのですか?」
「何のことでしょう?」
「この不思議な街並みについてです」
「……不思議? この街並みが? 普通だと思いますが?」
不思議と言われても、理解ができない。今いるのは住宅街の中にある公園で、周りを取り囲むのはマンションに一軒家にコンビニという、ありふれた景色なのだから。
「……ここが、普通?」
「ええ」
海外とはそんなに違うのだろうか?
「あの、レディ。すみませんが、ここの地名を教えてはいただけませんか?」
「地名? 住所のこと? それなら**県**市ですけど?」
「**? ……聞いたことがないな。アルディア国内ではないのですか?」
「アルディア? ここは日本ですけど……」
もしかして記憶喪失? 自分が日本に旅行に来ていることすら忘れているのかな?
「日本…………アルディアという国名に聞き覚えはありませんか?」
世界中の国を知っているわけではないので、残念ながらわからなかった。
「ごめんなさい、知りません……小さい国ですか?」
「いえ、アンブロシナ大陸を統べる、大国の一つです」
「アンブロシナ大陸? うーん、聞いたことないなあ。世界有数の大国といえばアメリカ、ロシア、中国、それに日本も国土こそ小さいものの、世界的には有名な国ですよ?」
どこか噛み合わない話に、知らず知らずのうちに眉を顰める。レニアスも浮かない顔だ。
「アメリカ、ロシア……あの、今日の日付を世界暦で言っていただけますか?」
「世界暦? 西暦のこと? 今日は二〇**年*月*日ですよ」
このレニアスという人、役になりきりすぎて記憶障害でも起こしているのだろうか?
助けてもらったはいいものの、いつまでもこんなやり取りを続けていたら、加賀見たちに自宅を押さえられてしまう。そうなったら逃げられない。だからこそ早く荷物をまとめて、とりあえずホテルにでも隠れようと思っているのに……
しばらくレニアスの反応を待ってみるものの、じっと黙ったまま話さなくなってしまったので、ここらで見切りをつける。
「レニアスさん、今日は助けていただきありがとうございました。お礼は後日、改めてさせていただきます。よろしければ、ご連絡先を教えていただきたいのですが」
私の言葉に口を開きかけたものの、やはり黙ったままのレニアス。
もうっ! 時間がないんだってば。
「あの、これ。私の電話番号とメールアドレスになりますので、こちらにご連絡いただけないでしょうか?」
そう言って小さなバッグから仕事用の名刺を取り出し、裏にプライベートで使用している携帯電話の番号を書き込む。
「上着も汚してしまいましたので、クリーニングしてお返ししますね」
濡れた身体の上に羽織っていたため、レニアスの上着も湿っている。高そうなコートが台無しだ。おそらく新しいものを用意しなければダメだろう。
「メール、アドレス」
小さく呟き、名刺を裏返したり湾曲させたり、大きな手の中で弄ぶレニアス。
「では申し訳ございませんが、私急ぎますのでこれで」
頭を下げて踵を返そうとしたそのとき。
それまでどこかぼんやりとしていたレニアスが、素早く口を開く。
「すみません! 少し、お時間をいただけないでしょうか」
何やら怪しいキャッチのような言い方ではあるが、命の恩人の頼みを無下にするわけにもいかず、私は渋々頷く。
「なんでしょうか? 時間がないので、できれば手短にお願いします」
内心焦りながらも、表面上はにこやかに尋ねる。
「信じていただけるかわからないのですが……どうやらここは、私のいた世界とは違うようです」
「は?」
真面目な表情で、とんでもないことを口にするレニアス。これまた突飛な設定が飛び出したことに、思わず素で返してしまう。
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