11 / 14
猫だるま古書店・訪問編
ミッションコンプリート!?
しおりを挟む「あるじさま! ごぶじですか。うち、つよいけっかいのせいではいれなくて、どうしようって。うち、がんばってけっかいをこわそうとしたのに、こわれなくて。あるじさまが、しんぱいで」
チズがしゃくりあげながら、涙目でたどたどしく喋る。
ミトラはそんなチズを労わるように、肩をポンポンして宥めた。
「わかってる。もう大丈夫、私が手を引くからチズも結界を越えられるよ。ほら」
チズは半信半疑の顔だったが、ミトラに両手を引かれるまま、問題なく入店できた。
「うち、はいれました!」
チズが満面の笑顔で、嬉しそうにぴょこんと跳ねる。
ミトラは笑い、チズと繋いでいた手を放す。
「うん、よかったね。じゃ、任務続行。あと私の用事が済むまで静かにしているんだよ」
チズは大きな赤い瞳を輝かせ、元気よく「はあい」と返事した。
「すみません、お待たせしました」
ミトラが謝罪を口にすると、アジャリは軽く首を横に振った。
「謝らなくても大丈夫。僕は君を待つのはちっとも苦じゃないから」
甘い言葉をサラッと告げて、アジャリがミトラを「おいでおいで」と手招く。
アジャリ、ミトラ、チズの順で一列に並び、土間の通路を先導して進む。
「さ、遠慮なくどうぞ」
声を弾ませてアジャリが言い、襖を開けて中の間に上がる。
中の間は七畳ほどの和室で、まず眼を惹かれたのが床の間の大きな猫だるまだ。その他にも、日本画の掛け軸や椿の生け花が飾られていて、部屋のほぼ中央には質感が味わい深い長方形の座卓が置かれ、座布団が敷かれていた。
欄間や障子を含め、どの調度品も使い込まれた温かみがあり、ゆったりと調和がとれている。
ミトラはくつろいだ気持ちになって言った。
「素敵なお部屋ですね。特にあの『福』の字が書かれた猫だるま、愛嬌のある顔がとてもいい」
褒めたところ、猫だるまの白い頬に赤みがさした。
ミトラがギョッと眼を瞬く。恐る恐る、訊いた。
「……もしかして、その猫だるま生きてます?」
「生きていると言えば生きてるのかな。つくも神になってるから」
平然と言って、アジャリは床の間を背にして腰を下ろす。
「彼はこの部屋の見張り番でね、気に入らない客だと追い返してしまうんだ」
「そ、それは、すごく頼もしい見張り番ですね。……追い返されないよう、気をつけますぅ」
「なに言ってるの。僕がいて、君にそんな乱暴を許すわけないでしょ」
この一言で、ミトラはアジャリを見直した。ちょっと変な人だと思ってすみません、と心の中で平身低頭、謝る。
上座にアジャリが座り、向かいにミトラが座った。チズは入り口近くにちょこんと正座する。
ミトラは姿勢を正し、畳に手をついて頭を下げた。
「改めまして、ご挨拶申し上げます。私は高橋ミトラと申します。今日は亡き祖父、高橋那加麿の名代で参りました」
「ご丁寧にありがとうございます。どうぞお座りください」
「失礼します」
アジャリに勧められて、ミトラは座布団ににじり上がった。
「そのう……大変申し訳ないのですが、手みやげがダメになりまして」
すまなそうに言い、ミトラはお化け金魚を封じた霊符をちらりと一瞥した。
だがアジャリは軽く手を上げて、ミトラの謝罪を止める。
「お気になさらず。むしろ、こちらの不始末に巻き込んでご迷惑をかけた上、騒動の解決にご尽力をいただいたのです。ぜひ、お礼を申し上げたいと思っておりました。僕としては、このままお茶でも飲みながら色々とお話しを伺いたいところですが、まずはご用件を承りましょう」
ミトラは小さく頷いて、風呂敷で包まれた本を両手で差し出した。
「祖父からです。預かっていた本をお返しするように、との遺言でした」
アジャリが受け取る。包みを解いて、本の表紙をじっと見た。
「なるほど」
「確かにお返し致しました」
ミトラは肩の力を抜いた。緊張感から解放され、自然と口角が持ち上がる。
……ごたごたしたけど、これでミッションコンプリートだ!
ところが、一旦は受け取った本をアジャリは突き返してきた。
「せっかくですが、これはお受け取り致しかねます」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
深淵界隈
おきをたしかに
キャラ文芸
普通に暮らしたい霊感女子咲菜子&彼女を嫁にしたい神様成分1/2のイケメンが咲菜子を狙う心霊・怪異に立ち向かう!
★★★★★
五歳の冬に山で神隠しに遭って以来、心霊や怪異など〝人ならざるもの〟が見える霊感女子になってしまった咲菜子。霊に関わるとろくな事がないので見えても聞こえても全力でスルーすることにしているが現実はそうもいかず、定職には就けず悩みを打ち明ける友達もいない。彼氏はいるもののヒモ男で疫病神でしかない。不運なのは全部霊のせいなの?それとも……?
そんな咲菜子の前に昔山で命を救ってくれた自称神様(咲菜子好みのイケメン)が現れる。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
王宮書庫のご意見番・番外編
安芸
ファンタジー
『瞬間記憶能力』を持つ平民の少女、カグミ。ある事情により、司書見習いとして王宮書庫に出仕することになった彼女は、毒殺事件に関わる羽目に。またこれを機に見た目だけ麗しく、中身は黒魔王な第三王子に『色々』と協力を求められることになってしまう。
新刊書籍『王宮書庫のご意見番』の番外編小話です。
基本的に本作品を読了された読者様向けの物語のため、ネタバレを一切考慮していません。また時系列も前後する可能性があります。他視点あり。本編に登場していない(Web限定特別番外編に登場)人物も出てきます。不定期連載。これらを考慮の上、ご一読ください。ネタバレは一切気にしないよ、という方も歓迎です。*尚、書籍の著者名は安芸とわこです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる