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第二話
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そうだ、今日は休みだった。
わたしはというと変わらず、腕に大和の頭を乗せジジジと鳴る目覚まし時計で目を覚ました。
最近ではわたしが大和を揺り起こす前に彼もむくりと起きてしまう。
それでも寝惚け眼の大和は愛らしい。
「何処かへ行こうか大和。」
「うー。」
「そこの神社まで散歩に行こうか。平日だから人も少ないし、あそこは空気が澄んでいて良いからね。」
「んー。」
「涼しくて綺麗な池があるんだが、」
「行くっ。」
どうやら寝惚け眼は終わった様だ。
わたしはタンスから用意周到に計画していたあるものを取り出した。
「慶介さん?」
「家の中では日がな一日パジャマでもわたしは気にしないけれど、お出かけとなると張り切らなければ。」
言いつつわたしは、ハサミでタグを切り次々に品を出していく。
「これ、慶介さんが仕事に行く時着て行く"シャツ"ですか?」
「いいや、これは確かに"シャツ"だけれど"ポロシャツ"と言うもので、これらはねわたしではなく君のものだよ。」
ええ、と大和が濃いオレンジの瞳を驚きに瞠いている。
「これは"サンダル"。あっちは"麦わら帽子"というんだよ。」
嬉しそうに見ている大和に、いそいそと店で服やサンダルを見繕うわたしの姿は知られたく無いなぁ。
「わたしもポロシャツを用意したんだ。
さあ、これに着替えて散歩に行こうか。」
じゃく、じゃくと神社の玉砂利を踏み歩くのを、大和は殊更楽しそうにしてはしゃいでいた。
こうして見ると、わたしはなかなかに危ない男のように見える。
せいぜい叔父と甥と言うところだろう。
しかし、ここ数日で大和はだいぶ背が伸びた。
それに、彼は人の子では無い。
だが今は、きちんと麦わら帽子を被り、左手にはアイスクリームを持っている。
神社の奥には茶屋がありそこの庭に綺麗な池がある。
それを大和はアイスクリームを食べながら
池の側で座り込んでいる。
きっと居心地が良いのだろう。
蓮の葉が浮く綺麗な池で確か、蛍が居るとか居ないとか。
「慶介さん。」
「ん?」
「頭がくらくらして変な、感じ。」
「何。」
ハッと見やると大和の瞳はぼうとしていた。
麦わら帽子を避け慌てて額に手をやるとそこは焼けた様に熱かった。
「ここに座りなさい、今すぐ冷たい飲み物を持ってくるから。」
わたしは慌てふためいて茶屋の反対側に回り込み自動販売機で水を買う。
すると、見知らぬ着流し姿の男が声をかけてきた。
どうかしたのか、と問うのでわたしは連れが熱中症かも知れない、と言った。
すると着流しの男が言ったのだ。
「ぬるま湯に幾つか氷を入れて身体を冷やしてあげてください。」
「はぁ。」
「それからよく冷えた砂糖水を。」
「え、」
何故、あなたが<それ>を知っているーーー
着流しの男は、
にい、と笑ってわたしを見ていた。
それから視線を茶屋の向こうに向けると言った。
「あの子を大切にしてくれている様なので。ほんの少しのアドバイスを。」
その物言いにわたしは漸く気が付いた。
彼は、この着流しの男は。
「ほら、あの子が呼んでますよ。」
さぁ、と促されわたしはまた今度慌ててペットボトルの水を握りしめ踵を返した。
「慶介さん、?どうかしたの怖い顔をしてる。」
「あ、あぁ。わたしのことは構わないから水を。ゆっくり飲むんだよ。」
「うん。」
大和は開けてやったペットボトルに口をつけると。
こくり、こくりと言われた通り休み休み水を飲んでいく。
「落ち着いたら帰って身体を冷やそう。」
素直に頷く大和はわたしの胸の内に駆け巡る、嫌に黒い衝動をまだ知らない。
帰り道わたしは参道の土産物屋でビニルプールを見つけた。
大和には少し小さいだろうか、と思いつつわたしは買うに至った。
「どうだい?」
わたしは縁側で下着姿の大和に声をかける。
足元にはあのビニルプールを置いて。
着流しの男の言う通り、ぬるま湯に氷を幾つか浮かべている。
そして今し方入れてきた冷たい砂糖水とわたし用の緑茶を縁側に置く。
「さっき着流しの男に会ったよ。」
「え。」
「濃紺の地に水の流れる模様の入った着流しの男だったんだ。その男に君が熱中症の様だと話したんだ。」
「うん。」
「そしたらこれを教えてくれてね。ぬるま湯に氷を幾つか浮かべる様にと。すまない、大和。こんな言い方は良くない、だが。わたしを嫉妬深い男だと思うかい。」
わたしは酷い男だったのだ。
この感情は、この黒いもやもやとした感情は明らかな嫉妬だ。しかもそれを今この子にぶつけている。
すると、大和がぽつりと言った。
「店主さまは僕たちの親代わりだから。きっと僕たちの事に詳しいんだと思う。」
ぱしゃと水を蹴る音がする。
大和が足先で遊んでいる。
「でも僕が嬉しいのは。このビニルプールとポロシャツと、麦わら帽子と慶介さんです。」
「大和。」
「店主さまが同じ事をしてくれても、僕はこんなに息が止まりそうなのは慶介さんのせい、だと思う。」
「それは...すまない事をしたかな?」
そんな風に可愛らしい事を言うものだから、わたしは思わず笑ってしまった。
それからわたしの邪な嫉妬心はあっという間に形を潜め、代わりに意地悪な心が湧いてきた。
「そんな訳無いの知ってるくせに。」
大和は冷たい砂糖水を飲んでいる。
可愛い腹いせだ、隣に座るわたしの足に水を蹴りかけてきた。
「知っているさ。わたしたちは求め合っているのだな。」
その日は寄り添って、一晩中手を握るだけで眠りについた。
そうだ、今日は休みだった。
わたしはというと変わらず、腕に大和の頭を乗せジジジと鳴る目覚まし時計で目を覚ました。
最近ではわたしが大和を揺り起こす前に彼もむくりと起きてしまう。
それでも寝惚け眼の大和は愛らしい。
「何処かへ行こうか大和。」
「うー。」
「そこの神社まで散歩に行こうか。平日だから人も少ないし、あそこは空気が澄んでいて良いからね。」
「んー。」
「涼しくて綺麗な池があるんだが、」
「行くっ。」
どうやら寝惚け眼は終わった様だ。
わたしはタンスから用意周到に計画していたあるものを取り出した。
「慶介さん?」
「家の中では日がな一日パジャマでもわたしは気にしないけれど、お出かけとなると張り切らなければ。」
言いつつわたしは、ハサミでタグを切り次々に品を出していく。
「これ、慶介さんが仕事に行く時着て行く"シャツ"ですか?」
「いいや、これは確かに"シャツ"だけれど"ポロシャツ"と言うもので、これらはねわたしではなく君のものだよ。」
ええ、と大和が濃いオレンジの瞳を驚きに瞠いている。
「これは"サンダル"。あっちは"麦わら帽子"というんだよ。」
嬉しそうに見ている大和に、いそいそと店で服やサンダルを見繕うわたしの姿は知られたく無いなぁ。
「わたしもポロシャツを用意したんだ。
さあ、これに着替えて散歩に行こうか。」
じゃく、じゃくと神社の玉砂利を踏み歩くのを、大和は殊更楽しそうにしてはしゃいでいた。
こうして見ると、わたしはなかなかに危ない男のように見える。
せいぜい叔父と甥と言うところだろう。
しかし、ここ数日で大和はだいぶ背が伸びた。
それに、彼は人の子では無い。
だが今は、きちんと麦わら帽子を被り、左手にはアイスクリームを持っている。
神社の奥には茶屋がありそこの庭に綺麗な池がある。
それを大和はアイスクリームを食べながら
池の側で座り込んでいる。
きっと居心地が良いのだろう。
蓮の葉が浮く綺麗な池で確か、蛍が居るとか居ないとか。
「慶介さん。」
「ん?」
「頭がくらくらして変な、感じ。」
「何。」
ハッと見やると大和の瞳はぼうとしていた。
麦わら帽子を避け慌てて額に手をやるとそこは焼けた様に熱かった。
「ここに座りなさい、今すぐ冷たい飲み物を持ってくるから。」
わたしは慌てふためいて茶屋の反対側に回り込み自動販売機で水を買う。
すると、見知らぬ着流し姿の男が声をかけてきた。
どうかしたのか、と問うのでわたしは連れが熱中症かも知れない、と言った。
すると着流しの男が言ったのだ。
「ぬるま湯に幾つか氷を入れて身体を冷やしてあげてください。」
「はぁ。」
「それからよく冷えた砂糖水を。」
「え、」
何故、あなたが<それ>を知っているーーー
着流しの男は、
にい、と笑ってわたしを見ていた。
それから視線を茶屋の向こうに向けると言った。
「あの子を大切にしてくれている様なので。ほんの少しのアドバイスを。」
その物言いにわたしは漸く気が付いた。
彼は、この着流しの男は。
「ほら、あの子が呼んでますよ。」
さぁ、と促されわたしはまた今度慌ててペットボトルの水を握りしめ踵を返した。
「慶介さん、?どうかしたの怖い顔をしてる。」
「あ、あぁ。わたしのことは構わないから水を。ゆっくり飲むんだよ。」
「うん。」
大和は開けてやったペットボトルに口をつけると。
こくり、こくりと言われた通り休み休み水を飲んでいく。
「落ち着いたら帰って身体を冷やそう。」
素直に頷く大和はわたしの胸の内に駆け巡る、嫌に黒い衝動をまだ知らない。
帰り道わたしは参道の土産物屋でビニルプールを見つけた。
大和には少し小さいだろうか、と思いつつわたしは買うに至った。
「どうだい?」
わたしは縁側で下着姿の大和に声をかける。
足元にはあのビニルプールを置いて。
着流しの男の言う通り、ぬるま湯に氷を幾つか浮かべている。
そして今し方入れてきた冷たい砂糖水とわたし用の緑茶を縁側に置く。
「さっき着流しの男に会ったよ。」
「え。」
「濃紺の地に水の流れる模様の入った着流しの男だったんだ。その男に君が熱中症の様だと話したんだ。」
「うん。」
「そしたらこれを教えてくれてね。ぬるま湯に氷を幾つか浮かべる様にと。すまない、大和。こんな言い方は良くない、だが。わたしを嫉妬深い男だと思うかい。」
わたしは酷い男だったのだ。
この感情は、この黒いもやもやとした感情は明らかな嫉妬だ。しかもそれを今この子にぶつけている。
すると、大和がぽつりと言った。
「店主さまは僕たちの親代わりだから。きっと僕たちの事に詳しいんだと思う。」
ぱしゃと水を蹴る音がする。
大和が足先で遊んでいる。
「でも僕が嬉しいのは。このビニルプールとポロシャツと、麦わら帽子と慶介さんです。」
「大和。」
「店主さまが同じ事をしてくれても、僕はこんなに息が止まりそうなのは慶介さんのせい、だと思う。」
「それは...すまない事をしたかな?」
そんな風に可愛らしい事を言うものだから、わたしは思わず笑ってしまった。
それからわたしの邪な嫉妬心はあっという間に形を潜め、代わりに意地悪な心が湧いてきた。
「そんな訳無いの知ってるくせに。」
大和は冷たい砂糖水を飲んでいる。
可愛い腹いせだ、隣に座るわたしの足に水を蹴りかけてきた。
「知っているさ。わたしたちは求め合っているのだな。」
その日は寄り添って、一晩中手を握るだけで眠りについた。
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