【完結】【R18】 二人の主人と三人の家族

mimimi456/都古

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本編'24

2月7日 (1

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その日は、出勤した時点で異様な空気がしていた。

あぁ、まただ。

俺は良く標的にされる。
若いからか、独身だからなのか。
俺の雰囲気がそれを許してしまうのか。

「八木さんっ、この前アレ間違えたんですか?」

「えっ?」

「前田さんに聞いたんです。酒井さんがやり直してくれたそうですよ?そう言う時は一度誰かに聞くと良いですよ。」

車を停めた時から、目の前で隠れるようにクスクス笑う二人を見た。
さっきの子は、只の操り人形だ。
前田さんの悪意を善意へと変換する。

そこで俺が酒井さんに謝罪に行く。
すると、彼女はそんな事とうに忘れていた話だから気にしないで、と笑う。
でも、気を付けてねと言ってくれるその言葉に悪意は感じられない。
俺も素直に謝罪し、改めなくてはと思うが。

やっぱり、と思い当たる節が有る。

酒井さんがやり直してくれた箇所は、俺が前田さんに教えてもらった所で。更にはそれだけではよく分からず、再度詳しく尋ねた筈。
そして、それはひと月以上も前の話だったからだ。
つまりは、そういう事だ。

ミスは誰にでも起こり有る。
どれだけ慣れたスタッフでも、
どれだけ慣れた作業でも、偶にはうっかりする事だって有る。

そのうっかりに、俺は良く当たるのだろう。

新人の世話は大変だしな。
教える方には教わる方と違ってコツが要るし、自分の足りない部分も見えてくる。

だから、多少いびりたい気持ちが浮かび上がる事にすら
俺にも理解出来る。



ーーーーー

「良悟ー?おかえりー?」

「ただいま」

こういう時、一人じゃ無い事が救いになる。
和己が在宅で本当に良かった。

「どうしたの。」

俺は、説明すら面倒で。
そもそもが、俺の思い過ごしかも知れない。

「多分、」

「なぁに。」

「多分...悪意に晒されている。」

「それは、どんな風な悪意だった。」

【晒す】とはつまり。
誰の目にも触れる様に置く状態で。
僕は、そう。
認識出来るひと、出来ないひとに関わらず僕は彼女のお喋りによって彼女だけが認識可能な悪意に晒されていた。

彼女は只の愚痴か、或いはあなたも気を付けてと注意のつもりで糸の付いた人形に囁く。

人形は糸の操るにままに動かされ僕に"気を付けて"と言いに来る。
人形使いは端の方でそれを見ていた。
ゾッとする話だろ。
全く関係のない第三者が、僕の視界に入らない所から僕を観察し、悪意が善意の瓶に入って、僕が苦そうな顔で飲み干すのを待ってる。

僕は人形使いを嫌う。
声も聞きたく無い。話し掛けて欲しくもない。
だから、これをどんな風な悪意だったかと言うと。

「頭の悪い人形劇みたいな感じ。」

そんな風に告げると、和己は一気に険しかった顔を崩してパッと悪い顔付きになった。

「ふーん。それはそれはっ。うちの良悟には釣り合わない劇だね。」

「そう、だっ。」

「そうだね。」

和己は廊下の壁に肩を付けて、腕を組んで立っている。
いつもの愛しくて堪らないって瞳で、僕を見てる。

「僕の劇は、甘くて熱くて、時々厳しくて、激しい劇だ。」

「そう。」

「僕は可哀想な独り身の男なんかじゃない。」

僕は二人の男を愛してるひとりの男で。
この一軒家で和己と陸也と三人で暮らしている。
二人に抱かれて、キスをしたりして、時々激しい事もする。

「僕は二人の家族だ。」

「大正解。」

和己が組んだ腕を解いて、ハグをしてくれた。
俺もいつもの好きな匂いに包まれて、ふぅっと息を吐いた。

「反撃したの?」

「したっ。」

「何したの勇者さん?」

意地悪な声が楽しそうに笑って尋ねる。
俺なんかよりよっぽど悪い悪魔が目の前に居たな。

完璧な営業スマイル
完璧な営業猫撫で声で

「にっこり笑って馬鹿の振りをして来たよっ。」


吹き出した和己が腹を抱えて笑い出した。

二人が教えてくれたんだ。俺の感性はピカイチだって。
だから、悪意の味が分かる。悪意の経緯も、その濃度も。

「只の退屈凌ぎとマスタベーションに、僕がこれ以上付き合う必要は無い。」

僕は。俺は、退屈凌ぎなら和己にキスをしたい。
マスタベーションなら、他と違って二人も見せる相手がいる。

「かっこいいねぇ。」

「ご飯の前に、和己がほしい。」

「うーん。ちょっと、今、手が離せないんだよね。俺の何が欲しいのかにもよるなぁ。」

「む、」

確かに。
よく考えていなかった。
俺の様子がおかしいから慌てて出て来てくれたんだろう。
それに、ご飯の前に欲しい和己の部分、って何処だ?

「あの、そんなに考えないで良いよ???」

「とりあえず、お湯沸かしてくる。」

「えっ、まじ?」

「マジ。ちょっと考えてくる。」

手を洗って制服を脱いで、部屋着に着替えてからキッチンは向かう。
お湯を沸かすのは、コーヒーの為で。
だけど、カップ麺でも良いかも。ただ、足りないんだよな。

「おにぎりでいっか。」

そう言えば餃子が残ってたな。
この前、春巻きかの二択で残った方だ。

卵焼き、ウインナー、餃子を焼いて。
おにぎりを握る。
海苔とふりかけを取り出して、ふと考えた。

「和己ーーごはーん。」

「はーいっ」

今日の昼ごはんはローテーブルに運ぶ事にした。
日も当たるし、今日は少し暖かい。
庭へ続く窓も開けて、空気の匂いを嗅いだ。

「あれ、今日は日向ぼっこでランチ?」

「そうっ。運ぶの手伝って。ラーメンがあとちょっとだから。」

カウンターからダイニングへ運ぶより手間だが、リビングで食べるご飯も偶には美味しい。
陸也だってこの前、足を出して物干し用のサンダルを履いてハンバーガーを食べていた。

「良悟、どっちにする?」

「シーフード」

「俺もシーフードが良いなぁ。」

「じゃあ普通のでも良いや。」

「半分こしよっか。」

「ううん。普通ので良い。ひとくち頂戴っ。」

「オーケー」

家族と半分こしたカップ麺は美味いし、
海苔を巻いてくれたおにぎりを渡してくれるのも嬉しい。
ふりかけも半分こするくらいだ。

こんなの、何処の誰より幸せに決まってる。

「ご機嫌になった?」

「なった。飯が美味い。陸也が可哀想になるくらいっ。」

「ふっ、それはそうだねぇ。」

ーーーーー

陸也は昼ご飯でさえ、外で食べる事にしてる。
下手したら晩御飯だって飲みの席に変わってしまう。
上司や取引先、後輩、沢山のひとに誘われて行く事が多いからだ。


「仕事って、大変だねぇ。」

今夜は皿うどんだ。
胡瓜の浅漬けと、鯖の味噌焼きだ。

「俺の仕事は大変じゃない。」

「そうだねぇ。大変なのはそれ以外、かな。」

今のパート先を選んだのは、同じ敷地内にスーパーが有るからだ。
スタッフはたったの6人。
午前と午後の入れ替わりで、3人ずつが出入りする。
只のクリーニング屋さんだ。

俺は午前だけ。
面白いのは、退勤時に"配達に行ってきます"と言う札を下げる事。
俺は配達なんか行かないし、行くのは店長だ。

そしてその店長は、配達以外は殆ど働いていないというローコスト具合だ。一応、呼べば飛んで来れる距離に住んでいるらしい。
一日働けるスタッフを3人程雇うより、短時間で6人雇う方が安く済む。
世知辛いのか便利なのかよく分からない社会システムだ。

「俺より、二人の方が大変そうだ。」

「ふっ、大変なのは三人とも同じだよ?俺はチームプレイなんかやりたくないし。陸也は、お金以外に興味が無いんだから。」

「でも、家族を愛してる。」

「そうだね。俺も二人となら仕事してみたいかもねぇ。」

「カフェとか?」

「カフェかぁ。」

それなら可能かも知れない。
三人とも顔は良いし、料理は俺と陸也が出来る。
インテリアやデザインは、ここにプロが居るし、配膳なら誰でも出来る。

「ゴリラがフロアに居たら邪魔だ。」

「ふっ、ははっ。」

と、なると。
厨房に陸也が入り、俺がメインでフロアに立つ。
和己が皿洗いとレジをすればイケるのでは。
電子決済にすれば、一瞬で済むけど。いいや。やっぱり。

「駄目だ。」

「うん?」

「スタッフの顔が良過ぎて、店の回転率が悪い。」

「あ、そう?」

「それなら、弁当屋の方が儲かりそう。」

くだらない話をして、晩御飯を済ませる。
皿を洗ってくれる和己の横で、俺はおにぎりを皿に盛る。
その姿を、和己が意味ありげにじっと見ていた。

「昼間食べたじゃん。」

「そうだけど。俺は時々、陸也が羨ましいよ。」

へぇ珍しい。
ヤキモチだ。

「昼に食べたおにぎりが美味しかったから、陸也にも同じ物を用意してあげる。皿うどんと鯖もあるのに、ウインナーと卵焼きをわざわざ焼いて。」


悪いけど鼻で笑ってしまった。馬鹿な奴だ。
俺だって、自分ひとりならウインナーも卵焼きも焼いたりしない。
栄養ブロックかカップ麺なのに。

陸也の為に手間をかけるのが気に食わない。

「三日前、俺を自分の部屋のソファで好き勝手に犯したのはだーれだ。」

「俺だね。」

「その時のキスマークがこれだ。」

俺は首の付け根に有る、エグい色の皮下出血を部屋着の首元を引いて見せ付ける。
制服は襟が付いてて隠れるけど、暫くVネックは着られない。

「俺の身体に付いてるキスマークの中で、一番濃いのがこれだ。それでも陸也が羨ましいデスカ?」

「ごめんってば、良悟ぉ。」

「俺は、おにぎりに海苔を巻いてくれた和己が好きだし。俺を置いてけぼりにしても金稼ぎが好きな陸也も好きだ。」

「ぐぅっ、」

「それに、今日は袖を捲ってあげられる。ほら、出来たっ。」

この前は怖くて出来なかった事だ。
でも今日は違う。あの時と同じセーターを着ていても、こうして左右どちらの袖も上手く捲れた。
これは、根気強く爪切りをしてくれて、慰めてくれた和己のお陰だ。

「分かった?」

「分かったよ、ごめんってばぁっ。」

弱気なのは似合わない。
和己は俺より悪い顔をする、強かな男だ。

「愛してる。」

俯いて誤魔化しながら皿を洗う可愛い男に、俺はキスをした。
それで、駆け足で逃げた。

ダイヤモンドアートの続きをするからだ。
リビングまで運ぶのは、結構面倒なんだ。
何回か往復するから、そしたら皿も洗い終わるだろう。

案の定。
行って戻れば、シンクで耳まで真っ赤にする顔の良い男が突っ立っていた。

「ばぁーか♡」

「うるさいよっ、」


こっちも準備が出来た。
和己も手を拭いて、リビングに向かってくる。
背中から抱きついて、グリグリ頭を擦り付けてくる。

「一緒にお風呂入らない?」

「言うと思った。」

「意地悪言ってごめんね良悟。」

「良い。あれは意地悪じゃない。可愛いヤキモチだ。」

「恥ずかしい事言わないで、」

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