【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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第二章:大統領補佐官

蒼鷹、補佐官の羽繕う 2

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愛人にグルーエントを選んでも良いですか、とデルモントさんに聞いた時の事を思い出していた。

相談役の為に作ったバーカウンターで、相談役が置いているボトルとグラスにお酒を注ぎながらつまみを何にしようか悩む。

悩みながら、どう切り出せば良いかと同時に考えたりもしたけど。
結局、直球で聞くのが一番手っ取り早かったりする。
ひとくちお気に入りだと言うお酒を貰って、やっぱり直球で聞く事に決めた。

「愛人に、グルーエントを選んでも良いですか。」

「何故私に効く?」


そんな事を言われても、一応お父さんな訳だから。
それに上司だし。

「人様の大事な子を愛人にするのに、許可は必要だと思ったもので。」

「堅苦しいな。」

俺だってまさか息子さんをください、なんて言う様な日が来るとは思わなかったさ。だけど許可は必要だろ。グルーエントはクイレの末の男の子なんだから。
俺より歳上だし、成人してる訳だから親の許可は要らない、とは言えない。

俺が只の一般人なら、俺が只の木原時昭なら。
俺だって親の許可なんか取らなかっただろうな、と思う。
要らない心配を掛ける必要も無かっただろうし。


「決めたのか。」

「半分は…はい。」

ルノク合衆国大統領夫人の愛人、なんて嫌でも名が知れる。
そもそも愛人を個人の書類に載せるという事も俺にはイマイチ理解出来てない。
愛の国だから、とエルは言うけど。

それにしたってグルーエントは優秀な護衛だ。
危ない目に遭う俺の側に居てくれると、助かる。

「懐かれたから面倒を見る気になったのかトキ。」

「いえっ!」

「だろうな。」

「勿論です。」

そんな犬猫の様なつもりは無い。飼ったこと無いけど。
グルーエントに好かれてるのは気が付いてた。
それはユディール君と昔したダンスの練習中の<悪い火遊びごっこ>なんか洒落にならないくらいギラつく視線が、俺を正面から見る。

俺も偶に同じ様な目を、エルに向けるし…向けられるからよく知ってる。
俺が欲しいんだって言われてる。
俺も、あの視線が嫌って訳じゃ無い。

「何処が気に入った?」

「ーーぇ、と。何処と言われると、その」

「無いのか。あれは…顔だけは私に似ているからな」

「顔は好きですっ、!」

「そうか?」


咄嗟にくちからでた、顔は好きですという言葉が実際自分の耳に聞こえたのは10秒くらい後だった様な気がするけど、そんなのは気のせいだよな。
つまり口が滑ったのも気のせいーーいや待て、全部が気のせいな訳有るか。

「いやッ、!顔だけじゃ無いですけどっ、」

「あの翠色の瞳だろう。お前は何時も見ていたからな。」

「ーー~ッ、」

返す言葉もないどころか、息を吐く隙さえ無い。
もう黙った方が賢明だと思っても、それじゃ何の為にデルモントさんに来てもらったのか…。俺は無心で茹で上がった枝豆をザルから上げた。


他にどんな説明をして、納得してもらえば良い。
何を、どんな好きな所を言えば良いんだろうか。
いくらそんな事言ってもグルーエントが被る<俺の愛人>という立場は変わらない。

どう考えたって苦労するのはグルーエントだ。

ちまちま鞘から取り出していたら、デルモントさんがカウンター越しに立ち上がって半分貸しなさいと手伝いを申し出てくれた。

そうだよな。

この人のそういう所がズルいんだよな。

普段ビシビシ物を言う癖に、俺より周りを見てるすごい補佐官なんだ。
その人に、貸しなさいと言われたら誰も断らないどころか、嬉しいと思ってしまう。

人心掌握に長けてる。
俺の小手先なんかじゃ敵わない、圧倒的な経験に基づく行動だ。

「デルモントさん」

「何だ。」

「俺は今、家事を手伝ってくれる夫の素晴らしさに感動しました。」

「ふ…っ、くくっ、そうか。それは良い事を聞いた。グルーエントもだが私の子供は皆、大抵の事は何でも出来るぞ。アレには不利だな…ふふっ、」

「ずーっと眺めてるんですよね。」

気になってしょうがないし、ゼフ以外の料理人が居場所がなくてそわそわしてるのを見るとちょっと可哀想になる。つまり、邪魔だ。
ガタイも良いし。あの圧がヤバイ。

「昔、私に言葉を尽くせと言った男が居たが…クチだけだったか。」

グルーエントより深い皺と思慮深い瞳でグルーエントみたいに控えめに笑う。
それをカッコイイと思う。エルも歳を取るとこんな風になるんだろうか。

「それがなんと。俺の故郷には、目は口ほどに物を言う、という言葉が有りまして。」

「ああ、風よりも雄弁であるというのと同じか。」

「それです。」


枝豆を剥き終わると少し分けて、塩だけ振って出した。
その後で、枝豆とごぼうのサラダも出して、残りはかき揚げにする。

「美味いな。」

「偶には美味しくないって言ってください。皆に褒められて心配になります。」

「美味いから美味いと言う。その位の嘘を見破れないお前では無いだろ。」

「そうですけど。好みくらいは知りたいです。」


これだけお世話になっておいて、俺が知ってるのは仕事の手腕と、歯触りの良い食感を好むって事くらいしか知らない。あと、子煩悩で愛妻家。趣味はお酒とグラスを集める事と、<愛妻家>が趣味というか生きがいの様な人だと思う。

グルーエントもそうなんだろうか。
だとしたら俺はごめんけど、妻にはなってやれない。
やっぱり愛人だなんて、可哀想な話だろうか。


「餌をやり忘れるな。」

「…はい。?」

「飢えた時に食らう餌程、美味いものは無い。」

「…そ、れはつまり。」


態と限界まで腹を空かせてからご飯を食べるのが好きってこと、じゃないよな。
そんなに食べるの好きなのかグルーエント。
むしろ三度の飯より仕事がお好きだよなクイレって。
特にデルモントさんは倒れるまで仕事してたって聞いた事あるし。

「グルーエントがというより、私達の性質の話だな。」

「あ、ああっ、狩猟本能」

「まぁ…それでも良いだろう。」


今までなら何処か他人事だと思ってた節がある。
狩猟本能だなんて、テレビの中の動物にしか使わない言葉だけど、ここじゃ違う。
獣の耳や鉤爪、翼が有る人達が居て俺は飢えたライオンの怖さを知ってる。
デカくて重くて人間なんか敵うわけがないと思う。

「ライオンと、鷹なら…鷹の方が小さいですよね、」

のし掛かられても平気なのはエルだからだと思う。
それをグルーエントにも許せるかは分からない。
いざ狩猟本能と対峙して俺なんかが逃げられる筈はない。

でも、鷹なら小さいよな。確か。

「そうとも言い切れん。」

「え゛っ!?」

「完全な獣化をすれば…そうだな、お前の肩に乗れるほどだろうが。一部を残したままであればヒトの大きさのままで居る事も可能だ。」

「一部、?」

「一部だ。」


なんだ、その不自然な沈黙は。
じっ、とカウンター越しのデルモントさんを見つめると、目が合った。
バチっと合った目はすぅ、と右へ流れてゆっくり瞬いた。

濃い青色の瞳がほんの一瞬、熱を帯びてふるっと揺れた。
それは瞬きのほんの一瞬で瞼が持ち上がった時には、何時もと同じ冴えた瞳に戻っていた。

無意識に喉が鳴る。
ゴクリと息を呑んで空気中に漂った色気を流し込んだ。

「人の事言えませんね、ベルモントさん。」

「くっく…っ、私も捨てた物じゃ無いな。」

「俺が欲しいんですか、ベルモントさん。」

「ああ、欲しいぞ。」

「へぇ。」

「男は経験が無い。」

「嘘だぁ。」

「ハハッ、」


俺は知ってる。迷信のひとつだとは思うんだけど。
歴代大統領は顔が怖い。官僚の中で一番顔が怖い奴を選んだんじゃないかってくらい、怖い奴がなるらしい。
そして、それとは反対に歴代大統領補佐官は見目が良い。

「お前は使い勝手が良過ぎる。私にも懐いた。クイレの名が欲しいのなら私の養子になるかトキ。」

サクッとかき揚げの衣が齧られて音を立てる。
俺の揚げた枝豆と玉ねぎとにんじんのかき揚げを、デルモントさんが食べてる。
それだけなら何処にでもある風景なのに、言ってる事は現実離れし過ぎてる。

もっと普通の話をしてくれっ、いきなり飛躍しすぎだ。
ちょっとスパイスの効いた火遊びをしてた筈だろ、!?
そんな事を脳内で反論しながら、さっきの<一部>が恐らくナニなんじゃないかと当たりを付けた。

それなら、本当に抵抗のしようがない。
鋭い鉤爪や嘴を持ちながら、細身とは言えあの身長ならいくら胸を押してもグルーエントはびくともしない。

それに、腹の中にソレが入ってるんなら…無理だろ。たぶんっ。

とっ散らかる思考、目の前で揚がるかき揚げ。
ベルモントさんの瞳と問い掛けに対する沢山の答え。

俺はとにかく答えた。
この勝負、黙ったら負ける。沈黙はやましいことの肯定になる。
それだけは避けたい。俺にいま必要なのはベルモントさんからの信用だけだっ。

「グルーエントが、良いです」

「何故だ。」

「ベルモントさんより、扱い易そう…だから、です」


どうせ、嘘は吐けない。この人には何を隠したってバレる。
デルモントさんの前では思ったことは全部言うに限る。
どうやってその答えに行き着いたのか、何が気になっているのか、それを話し合って齟齬を潰して来た。

求められているのは、正しいかどうかではない。
誠実かどうかだ。

この人と俺の思考はよく似ていて、話してて楽しいのも心地良いのも認める。
だけど。

「ベルモントさんとキスは出来ない、と思います。」

「私は、養子の話をしていたつもりだったが。」

「ーーぇ。?は?あ、れ…」

「ヘマをしたなトキ。」


フンッと鼻先であしらわれた。
そこでようやく気付く。

「うげっ。」

ベルモントさんの仕掛けた罠にまんまとハマっていた。

「国の外は私より老獪な者ばかりだぞ。油断するな。」

「あぅ、はい…。」


この人の脳内を覗けるものなら覗きたい。

何をされたかと言うと、あれかな。色仕掛けに近い。
ベルモントさんが良く使う手、だし。
俺も同じ様な事をやる。

向き不向きがあるけど、俺には向いてる。
俺を好きな子は皆可愛いと思うくらいには、性悪だし楽しめる。
だから護衛を増やせなんて言われるんだけど、エルだって色仕掛けを辞めろとは言わない。

使える物は使う主義だからな。

大抵の人間は下心が擽られると、NOと言うべき場面でYESと答えてしまう。

例えば色気たっぷりの横顔で、下心を擽る様な事を聞いておく。
一体何処から仕掛けられていたのか検討も付かないけど、明確なのはあの・・・瞳を一瞬揺らして見せた時だよな。

それだけだと俺は反応しないだろうから、と更に打っ込む。
俺も反撃したんだけどな、そこまでは良かった。合格だ。

問題は次。

動揺した相手に返事に困る様な質問をぶつける。
難しい事を聞いても良い。
グラつく理性では簡単に返事できない様なことだ。

養子にならないか、とかな。

ここで俺はミスを犯した。
ベルモントさんの養子にはなりません、と答えるべきだった。
所が、あんな瞳で俺が欲しいと言われて、男は抱いた事が無いなんて言う。
だから一瞬でも想像する。

俺とシュッとした理知的な凄みのあるこのひとと、キス出来るかな、て。

キスは出来なくても、多分セックスは出来る。
正直な所、興味は有る。
尊敬する人とは出来るって言うだろ…。

触れば分かる事って結構有る。
息遣いや指の這わせ方で何を考えてるのか、どう気遣ってくれるのか。
知りたく無い訳が、無い。

知ればまた一歩、このひとに近付ける。

「トキ。」

「はい?」

「私は辞めておけ。」

「そうですか?」

ベルモントさんが隠しもせずに声を溢して笑う。
褒めてるのか呆れてるのか、でも楽しんでる様にも見える。

「アレは」

グルーエントとはキスする所が想像出来た。
ベルモントさんが本当に聞きたかったのはこれ、だろうな。
俺もいまやっと気付いた。

やっぱり、そうなんだな。


「苦労するぞ。」

「もうしてます。大統領の妻でその補佐官ですよ。」

「フッ、それもそうだな。」


納得したらしいベルモントさんが、それでも最後にひとつ付け加えて念を押した。


ーー餌をやり忘れるな。


これがそうなのか。
引っ込んだ涙と緩んだどころじゃ無い扉に掛かっていた筈のチェーンをぶっ壊して、その先の扉まで開けられた。

そんな気分。

エルとは違う恐ろしく手間の掛かる手法だな。
そのお陰で俺は前へ進める気がしてるー…。

その為に必要なのか、あまりにも入念なボディチェックをされた。
いや、触診か。
先ずは足を診た。

その後に指の爪の先を撫でて長さ、形、指の側面を何度も行ったり来たり撫でペンダコやら関節やらまで確認している。

指は手足で20本も有るのに、あとどれだけ時間を掛けるつもりなのか。
片手が終われば5本の指全部にキスをした。
手の甲にも。関節にも。

「ぐ、ぅる…」

「うん。」

「触診、長いな。」

「ごめんね、次左手だから。」

同じ様に左手も時間を掛けて診て、撫でてキスした。
これは本当に触診か?

「グゥル。」

「うん?」

「まだ?」

「まだだよ。次、骨盤を診るね。」


デルモントさんみたいな冴えた瞳が、ベルモントさんみたいなお医者さんの目で俺を診て、見つめて…触って行く。


これ、あれだ…毛繕い。
いや、毛じゃ無いか。

なんだっけ。鳥だから

ああ、羽繕いか。

もしかしてこれがグルーエントの愛し方なのか。
丁寧に手間暇かけて俺を身綺麗に整えるのが好きなのか。

そう言えば、さっきもお湯を乾燥機みたいに吹き飛ばしてたな。
もしかして世話好きーー?

愛妻家、って妻じゃなくても適応されるのか。???


ーーーーー


それから僕はトキの身体のあちこちを診た。
涙が止まっても、まだ少しだけ潤む瞳を押し倒して裸のトキを見た。

「綺麗だ。」

性器を隠そうと膝を擦り合わせるのも、良い…っ
それなのに、診ても良いよと言った手前、両手を挙げて枕を握るその格好にも、その誠意にも下心がムクムクと顔を出す。

「綺麗だね。」

せめて何か言いたかったけど、出てきたのはありきたりの言葉だけだった。

「そう言うのは、言わなくて良い…っ。」

ふい、と顔を逸らされたけどとても嫌がってる風な顔には見えない。

大丈夫だよ。
トキの身体に傷が無い事は知ってる。
振り翳したナイフは、トキの肌に触れて止まったんだろうね。
賢い頭だから、それが無意味な事に気付いたのかも。

アザも傷跡もない滑らかな肌だ。

だからあの人は今の今まで僕にトキを見張らせておきながら側には置かなかったた。
でもそれももう限界だね。

僕達は反省した。
トキを狙う屑はそこかしこに居て、それをトキは味方を増やす事で煙に巻いたりした。
問題なのは、外からの敵じゃ無い。
トキ自身の中に有った。

どこかイカれてないと務まらない仕事だと僕は思う。
そんな事は父さんを見れば分かる。
だけど、僕達はトキにもトキの事を大事にして貰いたい。

あの人はきちんと君の身体を調べていたよトキ。
この身体の何処にどんな傷が有るのか、無いか。
だから僕は、あの人が取りこぼした物を少し確かめるだけ。

それがどんな結果をもたらすのかは分からない。
だけどトキがどんな生活をしてきたのか、それは本人も思いがけない様な所で身体に現れたりする。

自分の何処が魅力的かを知っているトキには、そんな所見えてないだろうからね。

例えば、足の指先が少しきゅっと丸まってるのは、合わない靴を履いて来たせいだとか。
外で走り回った遊んだ感じの足じゃないな、とか。
左側の腰が少しズレてるのは、そっちを下にして眠ったからだとか。
左膝の上の部分に少し窪みが有るのは、角度的にそこに右膝を乗せてたからだろうって予測できる。
つまり、丸くなって眠る子供だったんだね。


トキがそうして眠る姿は、此方に来た初め以降、確認していない。
つまり、この膝と身体のズレは向こうに居た時の跡。

だから左右の肩の位置もズレてる。
僕が治しても良いんだけど、その前に執務中に肘を付くのを辞めさせたり、軽い運動をさせたりしないとあまり意味が無いから、それは父さんと相談するよ。

それと手の指先。
こうやって隈なく触らないと分からないけど、両手の中指や人差し指、薬指もか。とりわけ右手に多いね。
利き手の爪の両端の皮膚が妙に硬い。

これは、僕も前に見た<困った癖>の一部だね。

僕達が数人掛かりでこうまで必死になるのには、理由が有る。

トキが自分に頓着しないからだよ。

困った癖や困った傷を作ったりする子って言うのは、誰かに見える様にして助けを求めていたり、或いは見せる事で気に掛けて貰いたがったりするものなんだよ。

それを見つけて僕達は手を伸ばしたりする。
残念ながら、僕達は助けて、と言ってくれないと聞こえない非常に愚鈍な耳しか持って居ない。

手を伸ばして傷を見せてくれないと、何で泣いてるのか分からないんだ。
僕達医者は万能薬にはなれない、僕達大人は狡いこともする。

トキは恐らく早い段階でそこに気が付いた。

そっか…だから見せないのか。
見せる事がことが目的じゃないんだ。

見せても助けは来ない、なら。
心配されたくないというより、心配される必要すらないと思うかも知れない。
トキは縋り付いて泣き喚いたりしない。しても良かったんだ。
だけど、アトリウムで声を殺して泣く姿を知ってる。

医者や大人達を当てにしない生き方をして来たのか。

誰かに見せる必要の無い傷でも必要だと言うなら、それは。

自分だけがこれは傷だと認知する事に意味があるんだ。
誰かに見せて気に掛けてもらう事も、助けも求めていない。

只、苦しみを処理する事が目的で。
傷付けてる、と言う意識すら無いのかも知れない。
無意識でやる。

「何時もやってるからそうする。」

決まった行動には、意味が有る。
父さんが教えてくれた。
人は無意味な事はしない。

必ず何か思う所があって指が動く。

トキは長い間傷を負ったままでいた。
それを何時もやってるから、と繰り返す。

その理由は考えた事、有るの?

無さそうだね。
「ついついやっちゃうんだよな、」とか言いそうだ。

場所から言って爪切りが妥当かな。
トキが作らせた爪切りは面白い形をしていて、子供でも扱えそうだとあっという間に広まった。

僕は鋏の方が使い慣れてて良いんだけど、だから見落としてたな。
今度確認しないとな。
流石に手元を見るのは監視だけじゃ難しい。

獣化した僕の前でも爪を切る所はまだ見た事が無い。
大統領に許可を貰ってゴミ箱を漁るかな。

僕が毎日指先を確認したら、逆にトキの感情の行き場を無くす可能性が有る。
これは少し様子見が必要だね。

あと、骨盤は問題無いかな。
少しズレてるけど、今からする事を考えたら治せないな。
ごめんね、あとで僕が正しい位置に嵌めてあげるから。

「良いよ。うつ伏せになってトキ。」

のそのそ、と動くお尻と足の間から見える性器が僕の目を誘う。
思わず舌舐めずりをした所だけど、トキにはバレてない。

良かった、
視線って慣れるんだよ。
今の所、正面から見ない限りトキは僕が見てる事に気付いてない。
こんな事の為に慣らした訳じゃ無いんだけど、怖がらせたく無いし。
良いよね。

「トキは運動してないのに、筋肉付いてるね。」

僕が前に抱いた時から結構時間が経ってるのに、お腹も背中もそれなりに筋肉が有る。特別運動をしてる訳じゃない。
あり得ない程の机仕事と激務をこなしてるだけだ。

一日中歩き回ってる事もある。

「姿勢だろ、正座だと思う、他に運動なんかしてないし」

体力も結構有るよね。
父さんなんか、何度倒れたか知れないのに。
その正座って座り方がトキの筋肉を維持させてる。

姿勢の美しさはしなやかな筋肉が無いと保てない。

「昔、猫背をしてみたことがあるんだ。」

「してみようと思ってする物じゃないよっ。」

「良いだろ、悪い事がしたかったんだよ。」


序でに肩周りをぐうっと、押して凝り固まった筋肉を解していく。
硬いなぁ。

「それで、どうだったの?」

「息苦しくてダメだった…内臓が圧迫されるし腰は痛いし…うぐっ、」

「あぁー…痛い?」

「い、たくない…っ、」

「痛いんだね。」

少し苦しそうだけど、軽く解してあげるくらいしないと。
辛いのはトキなんだよ。
それより、股関節が思ったより硬いねトキ。
これでどうやってあの人と過ごしてるの。

「トキ、大統領にはどんな風に抱かれてるの」

「ーーは?」

「これじゃ痛いでしょ。交尾は前から?それとも」

「うわぁああーーーっ」



なに。どうしたの。

「トキ?」

「うーーーわーーーーぁーーー。」

「ふはっ。何、それ。照れてるの?こんな事で?」


冗談、じゃなさそうっ。
後ろから見る耳が真っ赤になってる。
ああっ、背中まで赤くなって来た。

可愛い。
可愛いね、時昭。

「ぁ。んッ、♡」

「こんなに胸を尖らせてるのに、交尾の格好を聞かれるくらいで恥ずかしいの?」

「う、るっさい、んッ、♡」

「僕、トキの悪いくちも好きだよ。大人しく無いトキは可愛くて元気が良い。」


膝立ちの背中に覆い被さって胸を捕まえる。
三本の指で胸の先を転がして、擦ってコリコリとした手触りを楽しむ。

「触診…はっ、?」

「してるよ。」

「んッ、ふ、してないだろ…ンぁッ♡」

「乳首が勃起してる事を確認してる、かな。」

「それって、なんの診断ーーっ、?」

感じてるくせに元気なくちが可愛い。
負けず嫌いだよねトキ。
あくまでこれを触診だって言い逃れる為に、僕は何で返せば君は楽しんでくれる?

父さんが仕込んだ、お気に入りだからなぁ。
つまり僕好みでも有る。

「触診って言うのは、病気を見つける為にするだけじゃ無いんだよ。健康ですね、って確かめる為にもするから、その質問は意味を成さないかな。」

「ベルモントさんみたいな事言う…ッ、!」

「トキ。」

それは流石に言っちゃダメだよ。

「ひ、ンぁ、♡ぁ、ごめっ、ん」

「父さんの方が良いのトキ?顔だけなら結構似てるんだけど。」

トキの身体は今、転換期に入ってる。
胎は本能であの人を求めてるし、より強い雄を求める事もある。
僕より父さんの方が、強い所もあるけど。

「僕の方がトキの良い所、知ってるんだよ。」

内臓の上の皮膚に左手を押し当てる。
右手はトキの素直な胸を擦って摘んだりする。
胎の下には子宮が有る。

この国に、あの日落ちてくるまでトキには無かった器官だ。

ここをあの人に何回愛されたの?
僕、どちらかと言えば医者の知識が多いからこの時期の番の胎を、ゆっくりと押しながらじわじわ揺らすと、堪らなく気持ちいいらしいんだって知ってるんだけど。

「どう?気持ち良いーートキ?」

「ぅーー…っ、?ぅ、あぅ…ンっふ、う?」

「トキの子宮、揺れてるの分かる?」

持ち上げる事は出来ないけど、一定の間隔で揺らされる胎は覚えてるんだよ。
不思議な事にこのゆさゆさと揺れる感覚を、今、交尾の真っ最中なんだって。

「この動き、身に覚えは無い?それとももっと早い方が良い…っ?」


初めてトキを抱いたあの夜。
何度も思い返したから僕は覚えてるよ。
トキがどうやって子宮を愛されるのが好きなのか、僕は知ってるけど…っ、トキは僕の事を思い出してくれた、?

ずっと待ってたんだ、
次は何時、トキを抱けるんだろうって

だって約束したから。
僕は何時でもトキを抱けるって、それをしても大統領に殺されない筈で。
だけど僕も、分かってる。

そう簡単にトキを抱ける筈が無い。

走らせるボールペンを奪って僕に縋り付かせる事は出来ても、それをやるには許可が要る。
トキが嫌がる事をすれば、僕は殺される。

本気で嫌がられるとは思ってないけど。
邪魔をして嫌われたく無い。

トキは大統領の番で、この国の補佐官で。
けど、僕の愛人だろ

「トキ、時昭」

「ん、なに、グルーエント…どうした?」


左手にトキの胎を抱いて、右手に胸を捕まえて抱き締めた。

「僕にご褒美をくれる、?」


僕にも時昭が欲しいーー。
もう仕事は済んだ。
あの人にも父さんにも話す事は出来た。

もう、我慢したくない。

「良いよって言って、トキ。トキが言わないと僕はイケナイ手を使う。」

魔法でぼんやりさせても良い。
くちだけ動かす事も出来る、僕は物騒な事をするのが仕事だからね。

「んふっ、悪い護衛だな、」

「そうだよ。知らなかったの?」

トキがクスクス笑う。
あぁ、だめだ。
可愛いな。

その声、もっと聞きたい…こっち見てトキ。
グリグリと顎を押し付ける。

「痛いって。甘えん坊なのかっ?」

「恋人に甘えるのは普通だよ。」

「恋人にイケナイ事をするのは良く無いと思うけどっ。」

面白そうに笑うけど、正直僕はやりかねない。
あまり怖がらせたくは無いんだけど、一度くらいはトキをぐちゃくちゃにしてみたいとは思ってるんだよ、これでも。

だけど、クイレの執着は異常だって知ってるから。
我慢してる…っ、こんなに可愛い生き物が腕の中にいるのに、嘴も爪も伸ばさずにいる。

僕の我慢強さを誉めてくれて良いんだよトキ。


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ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

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