【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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第二章:大統領補佐官

獅子とカラス 4*

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大陸の最北端に位置する独立国家ラン家。

正直な所、このゆったりとした雰囲気のパーティーで浮いてるのは俺達の方だ。
獣人の多い俺達の国ルノクと【精霊の森】を挟んだ隣国は二国で一つの大陸になっている。間を遮る森の国境はトップクラスのハンターでも抜けられない危険地帯だ。

普通は海を回ってくる。

陸の孤島のような二つの国でも、海のすぐ側には他国があり交易が盛んだ。隣国はあまり情勢が良くないらしいけど。

魔石にはランクがある。
大体は広く分布する物を輸入することが多い。
只、質の良い最上級の物を手に入れるとなると、どうしてもラン家から流れたものを更に取引のある国を通して輸入するしかなかった。

つまり凄くお金が掛かる。

魔石は何にもおいても欠かせない。
それこそ電気みたいに使う。
政府敷地内、全国のありとあらゆる所に。

そこに振って沸いた直接取引出来る機会。
国の為にもこの取引は成功させるつもりでは居た。
少なくとも、前回第二王子が使節団を伴って来られていた時点では。

それなのに。
ヴィンセント・クロウがラン家の第三王子と婚約した。
この大陸中で唯一この婚約にケチを付けようとしてるのは、俺達だけだろうな。

「完全にアウェイ。」

「何か言ったかトキ?」

「何でもないよ。」

パーティーの間中エルと腕を組んでないといけないのも面倒臭い。
俺は向こうの世界で、王族とかパーティーの作法とか詳しい訳じゃないけど、ずうーっと腕を組んでなきゃいけない様な作法は正直、変だと俺は思う。

懐かしいお妃教育の講師曰く、

"ルノクは愛の国です。
番となられた大統領夫妻は国の代表で在らせられるので、その様に振る舞って然るべき事なのです"

だったかな。腕疲れるんだよな。
エル、背高いからさ。

ユディール君のお陰でダンスも踊れる。
上手過ぎて、踊れば踊る分着いて行くのに必死嫌な記憶は薄れて行く。

今回も、パーティーと言うからには有るんだろうな。
ダンスタイム。嫌だぁー。


「トキ。」

「ん?」

「来たぞ。」

わぁっとホール中に歓声が上がる。
ああ、中東っぽいな。
首から足首までストンと落ちたような白地の布に、真っ赤な刺繍がこれでもかと施されてる。

「あれがラジクマルクス・ラン第三王子殿下だ。」

「じゃあ…あっちがヴィンセント・クロウ。」

「ああ。だが見違えたな。」

「うん。あの人あんな顔だったっけ。」

俺が覚えてるヴィンセント・クロウは何時も影を背負ってる感じがした。何か執着に駆り立てられてるような怖い顔の人だった。
最後に見た彼が負けた大統領選で、俺は憎悪するあの人の顔を見たけど。

今、目の前に立つ人は、なんというか毒気が抜かれたような顔をしている。
顎を覆っていた髭は無くなって紫の髪は綺麗に編み込まれて胸の前に垂れている。

同じ紫の衣装でも、髪より薄い。
あれどう見ても女性用のサリーに似てる。
頭から足首までを隠すような羽織には、ラジクマルクスとお揃いの白地に真っ赤な刺繍が施してある。

全く認識がない状態で見たなら、綺麗な人だと思ったに違いない。

けど、俺はこの人が仕向けた殺し屋が惨たらしい遺体を馬車から点々と物でも落とすかの様に転がし、政府関係者しか立ち入れない敷地へ入り、大統領の屋敷の前で同じ事をした。

丁寧に、脅しのメッセージまで付けただろ。

次はお前だ。

はっきりと誰を明記した訳では無くとも、家の前に投げ込まれたら
その目的が俺かエルムディンだと思う。

そして、秘密会議の盗聴。
その内容は俺が話す向こうの世界の事。
どんな武器、どんな手段、どんな文明でもって何が出来るのか。
何が起きて来たのか。

皆が言う。俺は利用価値があり過ぎる。
自分でもそう思う。
だから交易なんて必要すら無い程、決定的な資源を持つラン家の第二王子ですら俺に会いに来た。

「悪趣味だね。」

「僕も苦手ですねあの方。」

「ちょっと、こらっ。」

慌てて後を振り返る。
今回も勿論護衛を付けている。
それと適任者も借りた。

俺の護衛にはグゥルが。
ちゃんと人の姿で居るし、場に合うように仕立てさせたスーツは窮屈そうでかなり人相が悪い。

そしてエルの護衛にはマルロイ長官を借りた。
こっちも、ユディール君と国を越えてしまって氷みたいに冷えた顔付きになってる。彼には護衛という名目でありながら、罪人の逮捕の為に来てもらったけど。

最悪、彼にも物騒な仕事をしてもらう事になる。

なんだか人の物を勝手に持ち出してる様な気分だ。
広く言えば、このマルロイ長官もユディール君も俺の配下なんだけど。

とにかくやるしかない。
俺達は確かに婚約パーティーに呼ばれた。
ヴィンセント・クロウが自国で指名手配されていると知っていながら。

だとしたら。
なにか罠の一つや二つ有ったとしても不思議じゃない。
何せここには、大統領とその補佐官で番が居る。

都合の良い鴨ネギか、危険に飛び込む夏の虫か。
どっちだろうなー。

「もし失敗したらごめんね、大統領。」

「最悪の想定は済ませただろトキアキ。」

組んだ腕をさらりと撫でてくれる。
尻尾もポンポンと背中を擽ってくれて、その仕草にちょっとだけ勇気を貰う。

「ありがと。」

「問題無い。あれはルノクの国民で、罪人だ。」

そう。これは婚約パーティー。
ヴィンセント・クロウの身元はまだルノクに有る。
俺達がジッと見詰める先で、祝福される二人はこちらを見向きもしない。

今夜パーティーが終わる時、俺達の取引が始まる。

ーーーーー

初めのひと月、私はラジィの部屋から出る事が出来なかった。
朝から晩までアイツの帰りを待つ。

その間、アミールが側に居た。
只、何もせずそこに居るだけの使用人は、私が部屋を出る事以外は何をしようと止めなかった。

本を読もうと、湯浴みしようと、ラジィの部屋の花瓶を割ろうと、アミールは何もしなかった。

「お前が片付けるんじゃないのかアミール。」

「ご自分でなされては如何ですか。」

「はっ、?お前は使用人だろ、何故片付けない」

「我が主人は貴方ではありませんヴィンセント様。」

そう言ってまた扉の側で過ごす。
それが夕刻になると、私を雁字搦めに拘束しあのペタペタしたスライムに食わせるのだ。

気色悪いっ。

腹の中まで洗われ、済んだ頃にラジィがやっと部屋の扉を開けて帰ってくる。
その扉はアミールが出る時にまた閉じられ朝まで開かない。

「今日は何をしていた、僕の雛鳥?」

「知るか。」

「それならアレは何だろうかヴィンス。」

グッと奥歯を噛み締めて、甘ったるい声を出す男の視線を追う。
そこには私が昼間ぶちまけた花瓶が割れたそのまま落ちていた。
花も散らかって萎れたままでいる。

「お前の使えない使用人が片付けを怠ったんだ。」

「そうか。でも僕は花瓶を割れなんて命じていない。」

「ハッ、使用人の癖に割れた花瓶も片付けられない奴が悪い。」

何の為の使用人だ。
使えない男なんざさっさと捨ててしまえ。
あんな奴の代わりは、掃いて捨てるほど居るだろ。

「アレは僕の使用人だヴィンセント。」

「だったら俺が使っても良いだろっ」

「何故かな。」

「この部屋はお前の部屋だ。お前の部屋を掃除するのはお前の使用人の仕事だ。」

「ううん…確かにそうだね」

それなのに、あの使えないアミールは半日以上割れた花瓶を放置した。敷物が水を吸おうと、割れた破片が飛び散ろうと奴には関係ない様な顔をして突っ立っていた。

あんなのが使用人とは、恐れ入る。
第三王子は木偶しか雇えないのか。

ーーカチャ、カチャン。

何処からか音がした。
ザマァ見ろと閉じた扉を見ていたら、側にいた筈のラジィが居ない。

「な、にをしてる…」

「僕の雛鳥が割った花瓶を片付けている」

「何でだ」

「君が僕の雛鳥だからだヴィンス。」

割れた陶器の破片をラジィが慎重に拾っていく。

「やめろ」

その光景がかつての自分に見えた。
孤児院で割った花瓶を俺は…片付けていた。

何でも良かった。

むしゃくしゃしていて子供の自分でも割れる物なら何でも良かった。
あっさり割れて、派手な音でも立てて粉々になってしまえば何かが変わると思った。

可哀想だろう俺は。
もっと憐んでくれ。
俺は孤児だ。

俺は孤独だ、
誰にも理解されない、だが俺の孤独は此処にあるぞ。

割れた花瓶が、目に見えない孤独を形にして見せてくれた。

俺は可哀想な子供に見えただろうか。
いいや。残念ながら大人達は俺を叱った。
俺が寄付されたばかりの高価な花瓶を割ったからだ。

「やめろ、」

そんな物が何なる。
食えない物を有り難がるより、俺を見ろ。
俺は何も持たない可哀想な子供だ、その筈だ。

「やめろっ、ラジィ!」

結局俺はこっ酷く叱られて、一人で惨めったらしく割れた花瓶の破片を片付けた。
途中、指を切って怪我をしても誰にも見向きもされなかった。

ーー痛ぇ。

その時、割れた陶器に触ると痛いという事を知った。

「ヴィンス。どうかしたのか?」

「怪我、」

「まだしていないよヴィンス。もしかして僕を心配をしてくれたのか。」

掌を上に開いて見せるその指は、どれも怪我をしてなかった。

「とても臆病で寂しがり屋で、だが義理堅い生き物が何か分かるかいヴィンス?賢いのに、寂しがりのせいで一人では生きられず群れの中で過ごす事を選ぶ。」

敷物に染みた水を指に付け、ラジィが床に何かを書いていく。
花瓶を囲う二重の円、その間に文字の様なものを書き足していく。

「その内、道理を気にして群れの中で望まれるように生きていく。それがどんな生き物か君に分かるかなヴィンス。」

円の縁に指を付き、魔力が流れていくのを感じる。

青い光が円の中で走り、消えた時には陶器の花瓶は元の形に戻っていた。

「ヴィンス、早くしてくれないか。崩れそうだ。」

「あ、あぁ」

よく見ると花瓶には隙間があった。
破片全部を吸収できなかったらしい。
その代わりを水とラジィの魔力が留めている。

花瓶の繋ぎなら土塊でも、と思ったがそんな物はこの部屋に無い。
なら、プツンッと髪を一本抜いて円の中に落とす。
更にラジィの書いた円に指を添わせ、自分の魔力を上乗せし編み込んでいく。

青に混ざる紫の光を見た。
短い髪でも継ぎ目くらいは埋まるだろ。

光が終わった。
現れた花瓶は元の形を保ちながら、割れた隙間に紫の溝を作っていた。

「これで君の花瓶だヴィンス。次割ったら、君が片付けるんだ。」

「お…っ、わたしの花瓶じゃないっ、」

「僕のでもない。君が割った僕の花瓶は、もうヴィンスの魔力で出来ている。美しい紫だね。」

「馬鹿馬鹿しい、!」

ベットに逃げるように立ち去れば、当然ラジィも入ってくる。
この部屋はコイツの部屋だ。

「ヴィンス。」

「何だ。」

「僕の雛鳥。」

黙っていた。
無視を決め込んだが、ラジィが肩を掴んで振り向かせる。

「ヴィンセント。僕に身体を見せなさい。」

こんな事が三月、毎日毎晩続いた。

断らなかった。
私にあるのはこの身体だけで、更にコイツは私を妻にすると言った。

他国の王家の妻となれば、犯罪人引き渡し条約すら締結していないあの国は、俺を捕まえられない。
指名手配すらすり抜け、王族にまで上り詰めるとは。

都合の良い話だ。出来が良いではないか。

「ヴィンス...はぁっ、君の肌は随分滑らかになったね。スライムはまだ気持ち悪いかい?」


俺も、相手がコイツなら尚更都合が良かった。

「ん…っ、は、ぁ、ラジィ、」

何時かの夏の事を思い出す。
あの日々だけが、俺を俺らしくさせていた。

戻りたい。
何度思ったか知れない。
あの夏に、この部屋に戻りたいとずっと思っていた。

「ラジィ、」

私がヴィンセント・クロウにならなければ、お前には会えなかった。

だがこうして、恥を晒して生きていく日々も私がクロウでなければ存在しなかった筈だ。

孤独に塗れてせいぜい泥棒にでも身をやつして死んで行っただろうに。
何故、こうしてまだ生き恥を晒しているのか。

私は義父が望んだ様には生きられなかった。

「ヴィンスっ、」

なのに、俺の名前を呼ぶ男が此処にいる。
コイツもまた俺を捨てるのだろうか。

「は...っ、ふ、ぅ、ぁっ、あっ、らじぃ、やめっ、」

「やめない。」

「はー…っ、嗚呼っ、!」

腹の中まで暴かれながら、爪を立てて背中に傷を付ける。
今の私に出来る抵抗は、それくらいしか思い付かなかった。

「ヴィンスっ、くは、はぁ...っ、はっキツイな。」

ラジィが額から汗を垂らして俺の腹の中に精を注ぎ込む。
ぬぷぬぷとしつこい腰の動きで更に襞へと摺り込める。

「うぅっ。」

元々、私なんて言い方は気に食わなかった。
もうこんな事までして…取り繕うのは面倒になって来たな。

「もっと…っ、もう一度良いねヴィンス。」

腕を伸ばして腹の立つ髪を掴む。
どっちが痛いだろうな、血塗れの背中か髪か。
返事をしてやるつもりはない。

例えその反動で腰が押し付ける様に上がったとしても、これは返事なんかじゃない。


「は…、ははっ、嗚呼。美しいねヴィンス。ヴィンス。ヴィンス。ヴィンセント…君はずっと僕の雛鳥だったんだ、嗚呼、また君の名前が呼べる...僕の腕の中に居るねっ、ぅくっ、熱、搾り取るつもりか…っ?」


うわ言も睦言も興味は無い。
そんな物より、ガツガツと腹の中を穿つ硬い物に興味が有るだけだ。


「嗚呼...っ、うぅっ、らじぃー…っ、」

「ヴィンス、ヴィンス…ヴィンス。」


甘ったるい声がする。

お前、手紙の返事をくれなかったじゃないか。




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