【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

文字の大きさ
上 下
36 / 77
番外編

お気に入り190記念 SS

しおりを挟む
あの日は給料日だった。

定時後10分で退社して、スーパーに行く筈だった。
ステーキ焼いて冷凍野菜をソテーするつもりで。
その前にATMへ行く途中、男の子の財布を拾った。

「すみません、そこの、財布落としましたよ!」

スニーカー、ウインドブレーカー、バックパックの男の子が隣の子に小突かれて、振り向くと慌てて走って来た。

「すみませんっ、!ありがとうございます!」

今時の子は背ぇ高いな。
しかもイケメン。モテそう。

「桃李ーっ!」

「今行くーっ、!じゃっ、ありがとうございますお兄さんっ!」

お礼にって、リュックから炭酸桃味の飴を取り出してくれた。
しっかり手も握られて眩し過ぎる笑顔で去って行った。

「若い。大学生か」

俺はしがないおっさんになったなぁ。
良いなぁ。モテモテだろうなぁ。
俺、大学はバイトばっかしてたからなぁ。
弁当屋の。

パートのおばちゃんどうしてるかなー。

そんな事を考えてたらATMに辿り着いた。
まぁ、想像通り混んでるけど。
さっきくれた飴、美味しいな。

「鱗太郎、」

「あん?」

「セツがまりとっ、まりとっそ...?と、紺様が苺大福食べたいそうだ。」

「あいつらデブらないのか。」

「まあ...紺様はともかくセツは粥ばかりだからな。」

「あぁー。」

珍しい物を聞いた。
今時固有名詞に様を付けるなんて。

「俺も。」

「うん?」

「明日の朝飯、お粥にする。」

「... ... 松様の分も買って良いか。」

「ウチのお供物そなえものって自由だよな。」

あぁ、御神体の話だったのか。
この辺にそんな神社有ったか?


「あ、なぁお兄さん。向こう空いたよ?俺ら次で良いからさ。」

「良いの?」

「良いよ。」

ーー今日はなんだかよく話しかけられる日だ。

「ありがとう。」

ペコッと頭を下げて譲らせて貰う。
随分不思議な雰囲気だな。
神職系の人って皆、ああなのか。

ATMを操作して、引き上げる時にまた頭を下げておいた。
というか仕事以外で人と喋ったの久しぶりだな。

「良いなぁ。」

俺も連れが欲しい。
恋人かあんな風に笑い合える友人でも良い。

えーっと、スーパーはあっちだから。
まぁ良いか。
偶には別の道でも通ろう。

「良悟ー、陸也居た?」

「居た。」

「わざわざ待ち合わせしてデートなんて、楽しみだね良悟。」

「買い出しはデートじゃ無いだろ。」

「そんな事ないよ?」

ーーーーー

「友康、」

「何だよ。」

「俺、何年かぶりに財布落とした」

「ふーん。何か縁が有るんだろ。旅先で財布無くすとか最悪な旅になる所だったなー?」

友康は普通の人には見えない物を見ていた。
薄桃色の風が吹き、ふわりと財布を落とさせ、"彼"は桃李の手ずから飴を受け取った。

封じていても仙桃妃だ。
無意識に整えて回るのを僕は止められない。
大学生の旅行先にしては特に何も無い場所だけど。
此処には稲置神社が有る。

結界の様子を見に来たという事を桃李は知らない。
まだ知らなくて良い。

それにしても彼、何か有るな。
桃李の加護が役に立つと良いんだけど。

「あの飴、最後の一個だったんだよなぁ。」



※天塚桃李~四人の龍王様の嫁になりました~
ーーーーー

「あのお兄さん、どうなる?」

「さぁ。俺には分からん。それより、天塚さんに出す茶菓子は何が良いだろうな。」

「探せば本人が近くに居そうだけどな。」

「紺様並みの神気だったな。」

「ヤバ過ぎだろ...マジで桃の匂いするんだな。」

最初は、あのお兄さんが食ってた飴かなんかだと思った。
けど、アレはそんな次元の話じゃ無い。

「変な不意打ち止めろよな。緊張してATMの順番譲るとか変な事した。」

「だが、表向きは只の観光だ。気を付けろよ鱗太郎。」

「あくまで大学生の神社観光だろ。セツが張り切ってた。」


とりあえず。
この辺を観光してる天塚神社から来て居るであろう二人の為に、茶菓子買わないと。

「さっきの、」

「あ?」

「明日の朝飯が粥で良いのは、本当か鱗太郎。」

「ホントに決まってるだろっ、」

「期待してる。」


※ 沼に頭から落ちたら恋人が出来ました。
ーーーーー

「良悟バス好きだよねー。」

「高校の時、バス通学に憧れた。」

「俺達歩きだったもんねー。」

少し遠くのスーパーの駐車場で陸也が待ってる。
バス停はちょっと遠くて、俺と和己は歩いて辿り着くしかない。

でも、帰りは陸也の車で三人で帰る。

偶に出かけるんだ。
陸也が会社を出る時間に合わせて、和己と二人でバス停まで散歩してスーパーの最寄で降りて、陸也に米を背負わせて三人で家に帰る。

その為に陸也の車はデカくてゴツイ。

「バスは楽しかったか良悟?」

「ん。お疲れ陸也。」

「お前もな。それで?米だろ。他にも有るか?」

「んーー。アイス。」

「それは和己に聞いてみろ。」

「分かった。」


※ 二人の主人と三人の家族
ーーーーー



人間の価値は諭吉の数ではないと言うが。
こんな時ばかりは、自分も社会の歯車に乗って、付加価値のある人間なのだと錯覚できる。

無意味で無色で冷たい自分の腹の中を誰かに溢した事は無い。
良い歳した男がそんな事をぼやけば、さぞ頼り甲斐のない男だと揶揄されてしまうだろう。
嫁に逃げられても文句は言えないのかもな。

「ま、そんな相手もいねえんだが。」

ハハッと苦笑する俺の横を、誰かがドンと押した。
声も出なかった。
気付いたら体は傾き、重心を直すことも無いまま池へと落ちた。

ドボンという音を聞いた気がする。

ーーーーー

それぞれがすれ違い、
それぞれがトキの為に
無意識でも、意識化でもほんの少しだけ願った。


「あのお兄さんに何か良い事があると良いな。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...