65 / 77
第二章:大統領補佐官
蒼鷹の翠 4
しおりを挟む
「聞きそびれたんだが、お前は何処まで許す。」
「トキが許す所まで、だろうか。」
「私には耐えられんな。」
「それはお互い性質が違うからだろう。」
「そうだな。陸の王の懐は空よりも広いらしい。」
私の家で妻が鳥を一羽可愛がろうが、その程度構うものか。
いつかは子供をと思っていたが、あまり不安定なのも良く無いとベルが言う。
せめてあと10年待って任命すれば、負担はもっと軽くなっただろうに。
私達は待っていられなかった。
「そうでも無い。」
「何だ、気にしてるのか。」
「トキに恋が何かと聞かれた。」
「耳が痛い話だな。」
ーーーーー
「ごめんトキ、もう一つ薬を飲んでくれる?」
「何で?」
「トキと話がしたい...だけど、その為にはさっき飲ませた薬を解毒したい。眠くなっちゃう前に。」
「それって他にも何か作用してる?」
「ちょっと、素直な身体になるかな。」
「成程。」
「あの、飲んでくれる、?」
「いや、いいよ。」
「良くないよ、飲みたくない?」
「あーいや、そう言うわけでは無いんだけど。」
ふらっと視線を彷徨わせ、とっくに見飽きただろう天井なんか眺めてる。
「俺に睡眠薬は効かないから、なぁーなんて。」
「は...ぁ、?」
それが本当なら。
嗚呼。
僕、今ので色々腑に落ちたよ。
どうりで、独占欲の塊みたいなひとが愛人制度なんて持ち出した訳だ、
思わず手近に有った左手を引いて、その指先に僕は額を押し当てた。
なんでこの人はこんなに頓着しないんだ。
「トキ。あの人が君に僕を与えるのは、ソレが理由なんじゃないの。」
またコトンと首を傾けて天井を眺めてる。
もう心当たりしか無いって顔だ。
「服気持ち悪く無い、着替える?」
ゆるゆる首を振って、その右手の親指で人差し指の側面へ小さく爪を立ててるのが見えた。
それを盗み見られてる事には気付いてない、か。
この距離でもバレないなら、何処まで誤魔化せるかな。
「トキ、僕からもひとつ提案があるんだけど、面白いよ。腹の探り合いとか辞めて、スッキリする事したくない?」
僕が得た権利は、トキの愛人と護衛。
その中に、あの人が招いた事も含まれてるんだとしたら。
「僕が一発あの人をぶん殴ってやろうか。」
あ、びっくりしてる。
「僕が今理解してるのは、トキをこれから何時でも抱ける、トキの側に居られる、そしてそれをしても大統領に殺されないって事だけど。合ってる?」
「合ってるけど。」
握ったままの左手を離さないで居てくれる。
だから、その右手の爪は僕が辞めさせてみせるよ。
「僕に抱かれてみたい?」
「ん。けど、自分が性悪だという自覚も有る。」
「自分を餌に僕を釣ったから?」
「そう。立場にあるまじき浅ましさだと思ってる。」
「やっぱり。」
「... ... 何、やっぱり、?」
これがあの人が招いた事なんだろう。
一時期トキを囲い込んでいたのは知ってる。
お父さん以外は誰も近づけなかった。
そして今、愛人制度を持ち出しておきながらこんな顔をさせるなら。
多分、教えなかったんだ。
今の今まで、知らない世界で、可愛い番の目が自分ひとりに向く様に。
「この国はね、トキ。」
人間と獣、半分ずつの神様が自分の体を裂いて二つに分けた。
それぞれがまた出会えてひとつになれたなら、憎かった筈の身体も、人生も、過去も全て愛せます様にって。
僕もたった今、それを実感してる所。
ーー過去も全て愛せます様に。
だって僕が僕で無いとトキは救えない。
僕は政治家には向いてなかった。
医者にも向いてない。
父さんを手伝って薬には詳しくなったけど、段々と興味が行ったのは、どうやったら深い傷を負わせ、治せるかだった。
あんまり僕の家族を狙う輩が多くて、僕の物心が付いた頃には兄弟は結託してクイレを守ってた。
母さんと他の幼い兄弟達を。
僕を庇って誘拐犯を蹴り飛ばす姉さんは格好良かった。
ソイツの折れた肋を、調子ハズレな鼻歌で程々に治してやる兄さんも、まんまと引っ掛かったなとその美しい体躯で油断させた姉さんも。
但し、誰に雇われたのか吐いてもらわないと。
そこで漸く僕は自分の役割を悟った。
薬にも毒にも詳しくて、人体にも、対人戦にも向いてる。
良過ぎる目と耳で物騒な仕事も出来る。
治癒魔法も有るしね。
「その神話なら聞いた事あるけど、?」
「あれね、続きがあるんだよ。」
女神様が居たんだ。
孤独で腕を裂き呻いてる神様に、そっと声を掛けた女神様が。
それは番じゃなくても愛して良い、というお話でもあるし。
恋人と番を天秤に掛けたくない人達が作った俗説だと言う話もある。
けど、実際に機能している制度だ。
その内、"女神様"の導きで異世界から現れる者だって居るかも知れない。
「つまり、俺が愛人を持つのは...普通?」
「そうだよトキ。この国で大切なのは何よりも"愛"だよ。恋人でも番でも、夫でも。愛する人をひとりぼっちにしない。だから僕の父さんは二人いる訳だし。トキはあと9人のクイレと結婚出来る。」
「グゥルは?」
「僕はトキの愛人。」
握った指先へキスをするのが、こんなに息が震えるとは思わなかった、
だけど盗み見た右手の爪は、もう立ってない。
「僕のキス、トキの気を引いた、?嬉しいっ。」
トキ。
トキの目が僕を見てる。
角度と光の加減で変わる黒と茶色の綺麗な瞳が、熱を込めて揺れてる。
「服、着替えたい?」
「もう少し、確かめた後で...そうする。」
「そう、?分かった、」
何が何処まで嫌じゃ無いか。
もう少し二人で確かめよう。
ーーーーー
そもそも避難するきっかけになったのは、とうとう俺に殺害予告が届いたからだ。
犯人は恐らく、俺が散々見た現場写真を作った屑。
それを捕まえたのが昨日の夜。
その報告の為に、グルーエントの家をエルが訪ねた。
彼が張った防護結界をお兄さんに空けさせて、秘密裏に。
その後は、少し目と耳を塞いでもらってこの身体に跡を着けた。
エルの身体で俺の顔なんて見えようが無いのに。
丹念に肌を撫でて、吸い付いて噛み付いて、舌でなぞって愛してくれた。
無理はするなよ、と俺に釘を刺して。
「ん...っ、ふ、」
身体が熱いし、あちこちが疼いて仕方ない。
あと、濡れ過ぎ。冷たくて気持ち悪いし。
今の所、指先と手首いっぱいのキスが熱くて、でももどかしい。
嫌じゃ無いんだ。無理なんてしてない。
それどころか、自己嫌悪の只中に居たんだけど。
よく考えれば、エルが許してくれた訳だし、多分この国で一番優秀な護衛が手に入るし、エルが居ない間俺の側にいて。俺を見ててくれる。
それがどんな意味を含んでいたとしても。
それが愛人だ。
その前に、恋人か。
俺の恋人。夫になる人、でもなく大統領でもなく。
ただ、俺を好いてくれてるひと。
これを火遊びなんかで終わらせたくはーー無い。
「グゥル...」
「うん。」
手を引き抜いて、見た目通り細い首に自分で腕を回した。
ここまでしてもう初心な言い訳は、例えば。
偶々当たった、とかもうそんな建前は要らない。
答え合わせは済んだ。
エルより薄い肩。
知らない触り心地、に寄りかかって良いんだ。
「ほ、んとうはー…さみしいんだ、」
「トキ、?」
「此処は俺のいた世界によく似てる、コーヒーも紅茶も風呂もある。けど、桜は無いしテレビは無いしコンビニも布団も無い。勿論、ベッドは最高で、エルがいる。ゼフもユディールも、デルモントさんもベルモントさんも、メイドに執事さんだっている。」
でも、俺を抱き締めてくれる人が足りない。
「エルだけじゃ...足りないんだ、」
浅ましい罪悪感の反面、エルに許された事で今までの成果が出たなとも思う。
無い物は作るし、頼めば良いし。
欲しい物は欲しがって良い。
それは声に出しても良い。
思い掛け無いものが手に入るかもしれない。
「グゥルは俺が欲しい、?俺は、慰めてもらうならグゥルが良い」
優しくて従順な男が欲しくなる気持ちが、今なら分かる。
その相手が自分を好きなら尚更、抱かれても良いなんて思う。
ちゃんと、恋してるんだ。
指と翠の瞳が俺を見てて欲しいんだ。
「トキは唯一無二だね。本当、綺麗だ。」
「あっ、うわっ、」
途端に抱きすくめられて、気が付けば一緒にベッドで横になってた。
力、強っ、!?
「ふっ、もっと足掻いても良いよっ、無理だと思うけど。」
「そんな訳ないーーっ、ううっ、」
硬いんですけどこの人。
そう言えば、肩は薄いけど、目の前の胸も腹も引き締まってる。
「そこ触るの、?」
「筋肉見たい、」
横を向いたまま、手早く上衣を脱いでくれた。
「凄ぇ、バキバキ」
「もう少し鍛えるよ。トキを守れる様にね。」
「ん。頼むよ、俺を守ってくれ。」
俺より鍛えられた身体は、俺より傷だらけだ。
まぁ、情報屋であり、物騒な仕事もして綺麗な身体では居られない。
「なるべく怪我もしないでくれると嬉しい。」
「大丈夫だよ、この辺のは全部古いもので大抵が兄さん達に負けた時の傷だから...全然痛く無いよ。」
俺の身体は、骨折も突き指もした事がない安全第一の見本体だ。
ギックリ腰もまだだ。重い物は俺以外が持ってくれる様になって尚更、怪我のリスクが減った。
「これは、?」
「ぁ、は...それは、生理反応かな、」
「見ても良い?」
「良いけど、本当に見たいの、?見なくても使い物になるのは間違い無いよ、」
「俺、道具は自分の目で見て選ぶタイプだから。」
道具扱いしてしまった。
けど、大丈夫そうだ。大きくなった。
蒼色なんだ。髪と同じか。そう言えば鷹の羽は青味掛かってるって聞いた事が有る。
「あ...っ、トキ、もう良いでしょ、」
紐を解いてぺらっと広げたズボンの中は、興味深い。
エルと自分の以外初めて見る。
そして、エル曰く大胆な俺は遺憾無くそれを発揮しようと思う。
もう吹っ切れた。
「ト、キ、!?」
「薬盛った責任取って...グゥ。」
「それ、可愛い、"ル"は何処に行ったの?」
デルモントさんより若い甘さをたっぷり含んだ声で、そんな事を言う。
「ほんとは、グゥルも言いずらい。」
「今日はトキの本音が幾つも聞けて嬉しい、もう一回聞かせて」
「何を?」
「僕を呼んで、トキ。」
「グゥ。」
「うん。」
「グゥ。」
呼ぶ度に熱が上がり、翠の瞳がキラキラ揺れる。
甘い声と徹底的な俺優位な態度。
俺にだけ優しくて俺にだけ従順な男の護衛兼愛人、か。
「確かに。俺、エルを一発位ぶん殴って良いのかも知れない。」
「あの人過保護だからね。」
「グゥ。」
「うん。」
「俺がアイツ殴るからその時は匿ってくれる?」
「勿論。僕はトキの愛人で護衛だよ。あの人の魔法も無力化してみせるよトキ。」
ーーーーー
その後、大統領補佐官にぴったり張り付く護衛が、あのデルモント・クイレの末息子だと広まると物騒な手紙も贈り物も、やましい目も随分と減った。
稀にその護衛が居ない時を見計らって、近付く輩が居たが。
何処からともなく現れた小さな鷹が、蒼い羽毛をたなびかせ、突き刺してくる。
「グゥ、おいで。」
その瞳が翠色で綺麗だな、と補佐官は惚けて眺めてる。
「獣化して俺の肩に留まるのは良いんだけど。皆が凄い顔で見てくるんだよね。もしかして人前で獣化するのってあんまりやらない行為なんじゃ。」
「ライオンの匂いさせて肩に鷹乗せてたら誰だってトキを特別扱いするに決まってる。ほら、会議遅れるよトキ。」
「ああっ、やべ。今日ユディール君居ないんだった、!」
ーーーーー
蒼鷹の翠 完
「トキが許す所まで、だろうか。」
「私には耐えられんな。」
「それはお互い性質が違うからだろう。」
「そうだな。陸の王の懐は空よりも広いらしい。」
私の家で妻が鳥を一羽可愛がろうが、その程度構うものか。
いつかは子供をと思っていたが、あまり不安定なのも良く無いとベルが言う。
せめてあと10年待って任命すれば、負担はもっと軽くなっただろうに。
私達は待っていられなかった。
「そうでも無い。」
「何だ、気にしてるのか。」
「トキに恋が何かと聞かれた。」
「耳が痛い話だな。」
ーーーーー
「ごめんトキ、もう一つ薬を飲んでくれる?」
「何で?」
「トキと話がしたい...だけど、その為にはさっき飲ませた薬を解毒したい。眠くなっちゃう前に。」
「それって他にも何か作用してる?」
「ちょっと、素直な身体になるかな。」
「成程。」
「あの、飲んでくれる、?」
「いや、いいよ。」
「良くないよ、飲みたくない?」
「あーいや、そう言うわけでは無いんだけど。」
ふらっと視線を彷徨わせ、とっくに見飽きただろう天井なんか眺めてる。
「俺に睡眠薬は効かないから、なぁーなんて。」
「は...ぁ、?」
それが本当なら。
嗚呼。
僕、今ので色々腑に落ちたよ。
どうりで、独占欲の塊みたいなひとが愛人制度なんて持ち出した訳だ、
思わず手近に有った左手を引いて、その指先に僕は額を押し当てた。
なんでこの人はこんなに頓着しないんだ。
「トキ。あの人が君に僕を与えるのは、ソレが理由なんじゃないの。」
またコトンと首を傾けて天井を眺めてる。
もう心当たりしか無いって顔だ。
「服気持ち悪く無い、着替える?」
ゆるゆる首を振って、その右手の親指で人差し指の側面へ小さく爪を立ててるのが見えた。
それを盗み見られてる事には気付いてない、か。
この距離でもバレないなら、何処まで誤魔化せるかな。
「トキ、僕からもひとつ提案があるんだけど、面白いよ。腹の探り合いとか辞めて、スッキリする事したくない?」
僕が得た権利は、トキの愛人と護衛。
その中に、あの人が招いた事も含まれてるんだとしたら。
「僕が一発あの人をぶん殴ってやろうか。」
あ、びっくりしてる。
「僕が今理解してるのは、トキをこれから何時でも抱ける、トキの側に居られる、そしてそれをしても大統領に殺されないって事だけど。合ってる?」
「合ってるけど。」
握ったままの左手を離さないで居てくれる。
だから、その右手の爪は僕が辞めさせてみせるよ。
「僕に抱かれてみたい?」
「ん。けど、自分が性悪だという自覚も有る。」
「自分を餌に僕を釣ったから?」
「そう。立場にあるまじき浅ましさだと思ってる。」
「やっぱり。」
「... ... 何、やっぱり、?」
これがあの人が招いた事なんだろう。
一時期トキを囲い込んでいたのは知ってる。
お父さん以外は誰も近づけなかった。
そして今、愛人制度を持ち出しておきながらこんな顔をさせるなら。
多分、教えなかったんだ。
今の今まで、知らない世界で、可愛い番の目が自分ひとりに向く様に。
「この国はね、トキ。」
人間と獣、半分ずつの神様が自分の体を裂いて二つに分けた。
それぞれがまた出会えてひとつになれたなら、憎かった筈の身体も、人生も、過去も全て愛せます様にって。
僕もたった今、それを実感してる所。
ーー過去も全て愛せます様に。
だって僕が僕で無いとトキは救えない。
僕は政治家には向いてなかった。
医者にも向いてない。
父さんを手伝って薬には詳しくなったけど、段々と興味が行ったのは、どうやったら深い傷を負わせ、治せるかだった。
あんまり僕の家族を狙う輩が多くて、僕の物心が付いた頃には兄弟は結託してクイレを守ってた。
母さんと他の幼い兄弟達を。
僕を庇って誘拐犯を蹴り飛ばす姉さんは格好良かった。
ソイツの折れた肋を、調子ハズレな鼻歌で程々に治してやる兄さんも、まんまと引っ掛かったなとその美しい体躯で油断させた姉さんも。
但し、誰に雇われたのか吐いてもらわないと。
そこで漸く僕は自分の役割を悟った。
薬にも毒にも詳しくて、人体にも、対人戦にも向いてる。
良過ぎる目と耳で物騒な仕事も出来る。
治癒魔法も有るしね。
「その神話なら聞いた事あるけど、?」
「あれね、続きがあるんだよ。」
女神様が居たんだ。
孤独で腕を裂き呻いてる神様に、そっと声を掛けた女神様が。
それは番じゃなくても愛して良い、というお話でもあるし。
恋人と番を天秤に掛けたくない人達が作った俗説だと言う話もある。
けど、実際に機能している制度だ。
その内、"女神様"の導きで異世界から現れる者だって居るかも知れない。
「つまり、俺が愛人を持つのは...普通?」
「そうだよトキ。この国で大切なのは何よりも"愛"だよ。恋人でも番でも、夫でも。愛する人をひとりぼっちにしない。だから僕の父さんは二人いる訳だし。トキはあと9人のクイレと結婚出来る。」
「グゥルは?」
「僕はトキの愛人。」
握った指先へキスをするのが、こんなに息が震えるとは思わなかった、
だけど盗み見た右手の爪は、もう立ってない。
「僕のキス、トキの気を引いた、?嬉しいっ。」
トキ。
トキの目が僕を見てる。
角度と光の加減で変わる黒と茶色の綺麗な瞳が、熱を込めて揺れてる。
「服、着替えたい?」
「もう少し、確かめた後で...そうする。」
「そう、?分かった、」
何が何処まで嫌じゃ無いか。
もう少し二人で確かめよう。
ーーーーー
そもそも避難するきっかけになったのは、とうとう俺に殺害予告が届いたからだ。
犯人は恐らく、俺が散々見た現場写真を作った屑。
それを捕まえたのが昨日の夜。
その報告の為に、グルーエントの家をエルが訪ねた。
彼が張った防護結界をお兄さんに空けさせて、秘密裏に。
その後は、少し目と耳を塞いでもらってこの身体に跡を着けた。
エルの身体で俺の顔なんて見えようが無いのに。
丹念に肌を撫でて、吸い付いて噛み付いて、舌でなぞって愛してくれた。
無理はするなよ、と俺に釘を刺して。
「ん...っ、ふ、」
身体が熱いし、あちこちが疼いて仕方ない。
あと、濡れ過ぎ。冷たくて気持ち悪いし。
今の所、指先と手首いっぱいのキスが熱くて、でももどかしい。
嫌じゃ無いんだ。無理なんてしてない。
それどころか、自己嫌悪の只中に居たんだけど。
よく考えれば、エルが許してくれた訳だし、多分この国で一番優秀な護衛が手に入るし、エルが居ない間俺の側にいて。俺を見ててくれる。
それがどんな意味を含んでいたとしても。
それが愛人だ。
その前に、恋人か。
俺の恋人。夫になる人、でもなく大統領でもなく。
ただ、俺を好いてくれてるひと。
これを火遊びなんかで終わらせたくはーー無い。
「グゥル...」
「うん。」
手を引き抜いて、見た目通り細い首に自分で腕を回した。
ここまでしてもう初心な言い訳は、例えば。
偶々当たった、とかもうそんな建前は要らない。
答え合わせは済んだ。
エルより薄い肩。
知らない触り心地、に寄りかかって良いんだ。
「ほ、んとうはー…さみしいんだ、」
「トキ、?」
「此処は俺のいた世界によく似てる、コーヒーも紅茶も風呂もある。けど、桜は無いしテレビは無いしコンビニも布団も無い。勿論、ベッドは最高で、エルがいる。ゼフもユディールも、デルモントさんもベルモントさんも、メイドに執事さんだっている。」
でも、俺を抱き締めてくれる人が足りない。
「エルだけじゃ...足りないんだ、」
浅ましい罪悪感の反面、エルに許された事で今までの成果が出たなとも思う。
無い物は作るし、頼めば良いし。
欲しい物は欲しがって良い。
それは声に出しても良い。
思い掛け無いものが手に入るかもしれない。
「グゥルは俺が欲しい、?俺は、慰めてもらうならグゥルが良い」
優しくて従順な男が欲しくなる気持ちが、今なら分かる。
その相手が自分を好きなら尚更、抱かれても良いなんて思う。
ちゃんと、恋してるんだ。
指と翠の瞳が俺を見てて欲しいんだ。
「トキは唯一無二だね。本当、綺麗だ。」
「あっ、うわっ、」
途端に抱きすくめられて、気が付けば一緒にベッドで横になってた。
力、強っ、!?
「ふっ、もっと足掻いても良いよっ、無理だと思うけど。」
「そんな訳ないーーっ、ううっ、」
硬いんですけどこの人。
そう言えば、肩は薄いけど、目の前の胸も腹も引き締まってる。
「そこ触るの、?」
「筋肉見たい、」
横を向いたまま、手早く上衣を脱いでくれた。
「凄ぇ、バキバキ」
「もう少し鍛えるよ。トキを守れる様にね。」
「ん。頼むよ、俺を守ってくれ。」
俺より鍛えられた身体は、俺より傷だらけだ。
まぁ、情報屋であり、物騒な仕事もして綺麗な身体では居られない。
「なるべく怪我もしないでくれると嬉しい。」
「大丈夫だよ、この辺のは全部古いもので大抵が兄さん達に負けた時の傷だから...全然痛く無いよ。」
俺の身体は、骨折も突き指もした事がない安全第一の見本体だ。
ギックリ腰もまだだ。重い物は俺以外が持ってくれる様になって尚更、怪我のリスクが減った。
「これは、?」
「ぁ、は...それは、生理反応かな、」
「見ても良い?」
「良いけど、本当に見たいの、?見なくても使い物になるのは間違い無いよ、」
「俺、道具は自分の目で見て選ぶタイプだから。」
道具扱いしてしまった。
けど、大丈夫そうだ。大きくなった。
蒼色なんだ。髪と同じか。そう言えば鷹の羽は青味掛かってるって聞いた事が有る。
「あ...っ、トキ、もう良いでしょ、」
紐を解いてぺらっと広げたズボンの中は、興味深い。
エルと自分の以外初めて見る。
そして、エル曰く大胆な俺は遺憾無くそれを発揮しようと思う。
もう吹っ切れた。
「ト、キ、!?」
「薬盛った責任取って...グゥ。」
「それ、可愛い、"ル"は何処に行ったの?」
デルモントさんより若い甘さをたっぷり含んだ声で、そんな事を言う。
「ほんとは、グゥルも言いずらい。」
「今日はトキの本音が幾つも聞けて嬉しい、もう一回聞かせて」
「何を?」
「僕を呼んで、トキ。」
「グゥ。」
「うん。」
「グゥ。」
呼ぶ度に熱が上がり、翠の瞳がキラキラ揺れる。
甘い声と徹底的な俺優位な態度。
俺にだけ優しくて俺にだけ従順な男の護衛兼愛人、か。
「確かに。俺、エルを一発位ぶん殴って良いのかも知れない。」
「あの人過保護だからね。」
「グゥ。」
「うん。」
「俺がアイツ殴るからその時は匿ってくれる?」
「勿論。僕はトキの愛人で護衛だよ。あの人の魔法も無力化してみせるよトキ。」
ーーーーー
その後、大統領補佐官にぴったり張り付く護衛が、あのデルモント・クイレの末息子だと広まると物騒な手紙も贈り物も、やましい目も随分と減った。
稀にその護衛が居ない時を見計らって、近付く輩が居たが。
何処からともなく現れた小さな鷹が、蒼い羽毛をたなびかせ、突き刺してくる。
「グゥ、おいで。」
その瞳が翠色で綺麗だな、と補佐官は惚けて眺めてる。
「獣化して俺の肩に留まるのは良いんだけど。皆が凄い顔で見てくるんだよね。もしかして人前で獣化するのってあんまりやらない行為なんじゃ。」
「ライオンの匂いさせて肩に鷹乗せてたら誰だってトキを特別扱いするに決まってる。ほら、会議遅れるよトキ。」
「ああっ、やべ。今日ユディール君居ないんだった、!」
ーーーーー
蒼鷹の翠 完
21
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる