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第二章:大統領補佐官
蒼鷹の翠 2
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自分が性悪だという事は分かっている。
久しぶりに吸った悪意の味は薄ら寒い景色を思い出させた。
コンクリート、ATM、給与明細、立ち並ぶビルと常にギラついた攻撃的な人間の目。
人恋しい夜に、行き付けの飲み屋で女の子に誘ってもらう事も有った。
決してそういう店では無かったにしても、人の良い美味いつまみを出す女将さんは出会いの場を提供するのが好きだった。
そこで出会って結婚したという夫婦と居合わせた事も有る。
おめでとう、とグラスを掲げた事も有れば。
何となく、その日の寂しさを紛らわせる為に肌を合わせた女の子も居る。
良いな、と思う子も居た。
優しくて柔らかくて、自分の言う事を聞いてくれる大人しい男を欲しがってくれた。
今、その気持ちが痛い程分かる。
ユディール君の時もそうだった。
ダンスの時間が苦痛で、逃げる訳にも行かず、愚痴るのも何か違うと思った。
あの時囁いたジョークがジョークで済むこの国は、とても優しい。
エルだってそうだ。
よく求めてくれると誉めてくれるけど。
只、寂しいだけだ。
仕事してれば何とも思わないんだけどな。
時々限界が来て強請るととても喜んでくれる。
俺はそれが嬉しい。
エルの腕の中は、優しくて甘くて怖い事は何も無い世界だと思わせつつも。
現実に、俺の夫は大統領で国を一つ抱えてる。
俺も厄介な立場になってしまった。
いっそ補佐官なんて辞めて、家で引き篭もっていれば良いと考える事も有る。
まぁ、そんなのは性に合わないんだが。
かと言って他所へ出る訳にもいかない。
安全な場所が確保されない限り無理だ。
感傷に浸り過ぎた日は、独寝が辛い。
なのに、別々の場所でまた俺を狙った誰かの為に時間を割いている。
俺のためでも有るんだが。
まぁ。仕方ないな。諦めも肝心だ。
「トキ、僕だけど」
遠慮がちなノックが鳴る。
眠るには少し早い時間に部屋を訪れたとして、招き入れない筈が無い。
「入って良いの、」
「どうぞ。君の家だからね。」
「トキ、僕はーー、」
その続きを言わせる訳にはいかなかった。
一歩踏み出して、ぐっと彼の懐へ入り込む。
思わず息を詰めた緑の瞳が、興奮からか揺れるのが分かった。
「それを言うと、俺は君を部屋へ入れる訳にはいかなくなる。」
黙り込んだ彼は、数秒沈黙したのち改めて口を開いた。
「防護結界に不備がないか確かめても、良い?」
それなら。
断る理由は無い。
「座っても良い?」
「勿論。ここは君の部屋でも有る。俺は偶に貸してもらってるだけ。」
「それは、つまり、じゃあ。僕が僕の家の客室で何をしようとトキは関与しない?」
良いね。賢い。
本当はもっと背が高い筈なのに、猫背のせいで何だか気弱な印象を与えるグルーエントだけど。
情報屋の肩書きは、ユディール君の夫マルロイ長官のお墨付きで、年相応よりも多くの色々な物を見てきたと聞いた。
参考までに幾つか教えて貰ったけど。
人の嫌なところは上から下まで見て来た感じだ。
自分でも不思議なんだ。
何でこんなに、彼に反応するのか。
「流石に何か手伝いくらいは出来るかも知れない。魔力が無い俺でも構わないならだけど。」
「それは...っ、どの程度、手伝ってくれるの」
「俺と君が嫌じゃ無い程度とか、どうかな。」
「そ、っか。そうだね、そっか。」
部屋の中を暫く行ったり来たりする。
この如何にも含みを持たせている会話の意味を、その行き先を考えてるんだ。
そんなに広く無い部屋だから、同じ場所をぐるぐる回るだけだ。
なんでこんなに彼が気になるんだろうな。
俺、人妻なんだけど。
「トキ」
「うん?」
「何が嫌じゃ無いか、確かめてみても良いっ、?」
「ふっ、」
なんだろうな。可愛いんだよな。
「言っておくけど、何が駄目かは俺にも分からないからね。」
「良い...っ、確かめてみようトキ、それで僕の方が諦めが付くかも知れない」
やっぱり可愛い。
悪い大人が初恋を弄ぶ様な心境とは、こんな感じなんだろうな。
まぁ。お互い未成年でも無いし、この国は生きる神話で愛を推奨している。
つまり、これが火遊びかどうかは結果による。
「分かった。俺は何をすれば良い?」
ーーーーー
指先で僕の知らない服の布地を辿る。
この家には無い。トキが持ち込んだ物。
太腿をひと撫でした。
「毒の中には、神経を麻痺させる物もあるんだよ。」
「知って、る。」
「どう、感じる?」
「んっ、」
ベッドに並んで座っても、トキは嫌がらなかった。
向かい合って、まだ床に伸びてる足を触らせてくれた。
トキの知識は広くて、トキの賢い頭は全く違う世界で生きてきた筈なのに、僕と同じ物を見てくれる。
「毒じゃないけど...っ、ふ」
「なに?」
「△△△効果って言うのが有る、」
「どんな効果、?というか...効果って変な言葉だね」
「例えば。んーそうだな。何か薬っぽいの持ってる錠剤とか」
「... ... 中身は何が良いの」
あっ。しまった、クソッ、最悪だ
聞き方を間違えた、焦り過ぎだろ僕のバカっ、
トキがヒントを与えすぎるからだ、ああどうしようっ、嫌われた?
がっつき過ぎた?
薬を盛る男は最低だって、母さんが言ってた、
「中身は何でも良いよ?栄養剤とかラムネとか。ラムネはちょっと美味しすぎるか。」
クスッと笑って、肩を揺らしてる。
可愛い。
可愛いのに、本気で言ってるのかどうかが分からない...っ、
夜更け前に部屋に来た男に、中身が何でも良い薬を持って来させる?
本気?
冗談かも。それか遊びか。
でも、僕は本気だ。
「少し待って、」
「うわ、なにそれ」
「空間収納、だけど。トキ初めて見た?」
「 △△△かよ、」
「え、なに?」
時々、トキの言う言葉が理解出来ない。
早口になった様な、言葉を逆から読んだ様に聞こえたりする。
魔法が無い異世界でトキはどんな物を見て来たんだろう。
それより、今の顔も可愛い。
あの人は何時もこんな無邪気なトキを見てるんだな。
「これとか、どう?」
「粉薬」
「やっぱり、嫌いなんだ、トキ。」
季節毎に具合が悪くなるトキの為に父さんが薬を持たせていた。
粉の方が即効性が高いのに、トキは何時も薬が効くまで頭痛を我慢してた。
「目敏いね。これ、何の薬?」
「"栄養剤"でしょトキ。」
「はははーー…。俺、自信無くなってきた、腹の探り合いって苦手なんだよなぁ。」
「なんで?上手だよトキ。俺もさっきミスったし。」
「ふっ、そんな事ない。」
それで。
この後トキはどうするんだろ。
僕が思ってる通りなら、トキが言う"薬っぽい物を使うなんとか効果"って奴は飲んだ方と飲ませた方とで役割が変わる筈だ。
僕はその粉薬が何なのか知ってる。
トキには栄養剤だって言った。
トキがその言葉を信じるなら、只の栄養剤だ。何も起こらない。
だけど、トキがその粉薬を。
例えば体温が少し上がって、胸がドキドキして、身体が少し発情しちゃう様な薬だと認識したなら。
効果が有るかも知れない。
「もしかして知ってた?ベルモントさんは知らなかったけどなぁ。」
「知らないよ。でも、予測出来たしヒントをくれたから。」
「それをヒントって言える辺り、情報屋だな怖っ。」
「目も耳も良いからね僕。」
トキが話し方に気を付けてるのは、知ってる。
さっきみたいに僕達に届く様に、言葉を選んでくれてるんだ。
なのに、わざわざ分かりづらくして聞かせたって事は、僕に分かりやすく説明するとその技は使えなくなるからだ。
だからこれは賭けなんだよねトキ。
トキが薬のせいにして僕を欲しがってくれるか。
僕が本気で媚薬を盛ったか。
「それで。この栄養剤をどうするのトキ。」
可愛い悪い顔した歳下の男の子は、僕の手から薬包紙を受け取った。
ーーーーー
「良いのか。」
この建物でトキが聞いてはいけない話など、存在しないが。
聞かせるに値しない物もある。
例えば、屑の汚い悲鳴とかだろうか。
ベッドの上であれだけ美しく淫らになりながら、そのベッドで事件現場のやや凄惨な死体の写真を並べて見る様な所が有る。
自分の妻ながら豪胆な男だなと感心した。
それなのに、犬や猫が打ち捨てられるのを殊更嫌がった。
この国でそんな事は起こらないから大丈夫だと話すと、良かったと言って。
また写真を丹念に見ていた。
「良くはないが、気の毒ではあるな。恩師の息子をひとり傷物にするかも知れない。」
「ふっ、そうだな。」
私もまさか。トキの妙に揺れる瞳を見るとは思わなかった。
いいや。何時も兆しは有った。
何より、求められる事に喜びを見出すのだ。
ユディールの手を握った時から危惧していた。
だが、女は抱きたくないと言うから気にしていなかったが。
トキはモテる。
後輩、新人、先輩、次から次に愛想を振り撒いては。
次の瞬間、
アイツ嫌い、と言い放ったりもする。
勿論、気に入った者の方が圧倒的に多過ぎて妬く事すら無くなって居たが。
「トキには言ったのか。」
「勿論だ。釘も刺しておいたが、どうだかな。」
「似た者同士だ。馬が合うんだろう。」
「恐らく、その事にトキは気付いてない。」
「あれは自分が好かれる事に未だ鈍感だからな。」
悲鳴も雑談も此処では地上どころか、廊下にすら届かない。
いつまで経ってもトキを狙う屑が居るのなら、ひとり位腕の立つ者を付けた方が良いだろう。
トキの側で、トキが知らぬ間に護れる者を。
「そっちこそ良いのか。」
「良い。」
「もう少し、心配してやったらどうだ末息子だぞ?」
「無駄だ。偶に餌でもくれてやれ。それより、トキが子供を欲しがってたぞ。」
「そう、かっ。」
「二人で良い、とも言っていたな。」
「... 少ないな。」
「私もそう言っておいた。」
「だが、身体に負担が掛かる」
「そうか?」
「...そう言えば。卵は少し楽だと聞くが、今ので信憑性が増したな。」
何せ十人も子供がいる。
流石の私でも、多いなと思えるが。
そろそろ、頃合いか。
「すみません、お待たせしました。」
「終わったか。」
「何か吐いたかマルロイ。」
「えぇ、バッチリ全部ゲロって逝きましたよ。」
私とデルがウイスキー片手にとカードゲームに興じる間、マルロイが手を貸してくれたが。
「物言いが似て来たな。」
「... ... マルロイ、報告してくれ。」
「あ、失礼しました、!」
こんな所でもトキの影響を感じると言うのに、本人は今頃別の男の手を引いているのか。
だがあくまで、あれは私の右腕だ。
誰にも譲るつもりは無い。
ーーーー
※ 「△△△効果って言うのが有る、」
久しぶりに吸った悪意の味は薄ら寒い景色を思い出させた。
コンクリート、ATM、給与明細、立ち並ぶビルと常にギラついた攻撃的な人間の目。
人恋しい夜に、行き付けの飲み屋で女の子に誘ってもらう事も有った。
決してそういう店では無かったにしても、人の良い美味いつまみを出す女将さんは出会いの場を提供するのが好きだった。
そこで出会って結婚したという夫婦と居合わせた事も有る。
おめでとう、とグラスを掲げた事も有れば。
何となく、その日の寂しさを紛らわせる為に肌を合わせた女の子も居る。
良いな、と思う子も居た。
優しくて柔らかくて、自分の言う事を聞いてくれる大人しい男を欲しがってくれた。
今、その気持ちが痛い程分かる。
ユディール君の時もそうだった。
ダンスの時間が苦痛で、逃げる訳にも行かず、愚痴るのも何か違うと思った。
あの時囁いたジョークがジョークで済むこの国は、とても優しい。
エルだってそうだ。
よく求めてくれると誉めてくれるけど。
只、寂しいだけだ。
仕事してれば何とも思わないんだけどな。
時々限界が来て強請るととても喜んでくれる。
俺はそれが嬉しい。
エルの腕の中は、優しくて甘くて怖い事は何も無い世界だと思わせつつも。
現実に、俺の夫は大統領で国を一つ抱えてる。
俺も厄介な立場になってしまった。
いっそ補佐官なんて辞めて、家で引き篭もっていれば良いと考える事も有る。
まぁ、そんなのは性に合わないんだが。
かと言って他所へ出る訳にもいかない。
安全な場所が確保されない限り無理だ。
感傷に浸り過ぎた日は、独寝が辛い。
なのに、別々の場所でまた俺を狙った誰かの為に時間を割いている。
俺のためでも有るんだが。
まぁ。仕方ないな。諦めも肝心だ。
「トキ、僕だけど」
遠慮がちなノックが鳴る。
眠るには少し早い時間に部屋を訪れたとして、招き入れない筈が無い。
「入って良いの、」
「どうぞ。君の家だからね。」
「トキ、僕はーー、」
その続きを言わせる訳にはいかなかった。
一歩踏み出して、ぐっと彼の懐へ入り込む。
思わず息を詰めた緑の瞳が、興奮からか揺れるのが分かった。
「それを言うと、俺は君を部屋へ入れる訳にはいかなくなる。」
黙り込んだ彼は、数秒沈黙したのち改めて口を開いた。
「防護結界に不備がないか確かめても、良い?」
それなら。
断る理由は無い。
「座っても良い?」
「勿論。ここは君の部屋でも有る。俺は偶に貸してもらってるだけ。」
「それは、つまり、じゃあ。僕が僕の家の客室で何をしようとトキは関与しない?」
良いね。賢い。
本当はもっと背が高い筈なのに、猫背のせいで何だか気弱な印象を与えるグルーエントだけど。
情報屋の肩書きは、ユディール君の夫マルロイ長官のお墨付きで、年相応よりも多くの色々な物を見てきたと聞いた。
参考までに幾つか教えて貰ったけど。
人の嫌なところは上から下まで見て来た感じだ。
自分でも不思議なんだ。
何でこんなに、彼に反応するのか。
「流石に何か手伝いくらいは出来るかも知れない。魔力が無い俺でも構わないならだけど。」
「それは...っ、どの程度、手伝ってくれるの」
「俺と君が嫌じゃ無い程度とか、どうかな。」
「そ、っか。そうだね、そっか。」
部屋の中を暫く行ったり来たりする。
この如何にも含みを持たせている会話の意味を、その行き先を考えてるんだ。
そんなに広く無い部屋だから、同じ場所をぐるぐる回るだけだ。
なんでこんなに彼が気になるんだろうな。
俺、人妻なんだけど。
「トキ」
「うん?」
「何が嫌じゃ無いか、確かめてみても良いっ、?」
「ふっ、」
なんだろうな。可愛いんだよな。
「言っておくけど、何が駄目かは俺にも分からないからね。」
「良い...っ、確かめてみようトキ、それで僕の方が諦めが付くかも知れない」
やっぱり可愛い。
悪い大人が初恋を弄ぶ様な心境とは、こんな感じなんだろうな。
まぁ。お互い未成年でも無いし、この国は生きる神話で愛を推奨している。
つまり、これが火遊びかどうかは結果による。
「分かった。俺は何をすれば良い?」
ーーーーー
指先で僕の知らない服の布地を辿る。
この家には無い。トキが持ち込んだ物。
太腿をひと撫でした。
「毒の中には、神経を麻痺させる物もあるんだよ。」
「知って、る。」
「どう、感じる?」
「んっ、」
ベッドに並んで座っても、トキは嫌がらなかった。
向かい合って、まだ床に伸びてる足を触らせてくれた。
トキの知識は広くて、トキの賢い頭は全く違う世界で生きてきた筈なのに、僕と同じ物を見てくれる。
「毒じゃないけど...っ、ふ」
「なに?」
「△△△効果って言うのが有る、」
「どんな効果、?というか...効果って変な言葉だね」
「例えば。んーそうだな。何か薬っぽいの持ってる錠剤とか」
「... ... 中身は何が良いの」
あっ。しまった、クソッ、最悪だ
聞き方を間違えた、焦り過ぎだろ僕のバカっ、
トキがヒントを与えすぎるからだ、ああどうしようっ、嫌われた?
がっつき過ぎた?
薬を盛る男は最低だって、母さんが言ってた、
「中身は何でも良いよ?栄養剤とかラムネとか。ラムネはちょっと美味しすぎるか。」
クスッと笑って、肩を揺らしてる。
可愛い。
可愛いのに、本気で言ってるのかどうかが分からない...っ、
夜更け前に部屋に来た男に、中身が何でも良い薬を持って来させる?
本気?
冗談かも。それか遊びか。
でも、僕は本気だ。
「少し待って、」
「うわ、なにそれ」
「空間収納、だけど。トキ初めて見た?」
「 △△△かよ、」
「え、なに?」
時々、トキの言う言葉が理解出来ない。
早口になった様な、言葉を逆から読んだ様に聞こえたりする。
魔法が無い異世界でトキはどんな物を見て来たんだろう。
それより、今の顔も可愛い。
あの人は何時もこんな無邪気なトキを見てるんだな。
「これとか、どう?」
「粉薬」
「やっぱり、嫌いなんだ、トキ。」
季節毎に具合が悪くなるトキの為に父さんが薬を持たせていた。
粉の方が即効性が高いのに、トキは何時も薬が効くまで頭痛を我慢してた。
「目敏いね。これ、何の薬?」
「"栄養剤"でしょトキ。」
「はははーー…。俺、自信無くなってきた、腹の探り合いって苦手なんだよなぁ。」
「なんで?上手だよトキ。俺もさっきミスったし。」
「ふっ、そんな事ない。」
それで。
この後トキはどうするんだろ。
僕が思ってる通りなら、トキが言う"薬っぽい物を使うなんとか効果"って奴は飲んだ方と飲ませた方とで役割が変わる筈だ。
僕はその粉薬が何なのか知ってる。
トキには栄養剤だって言った。
トキがその言葉を信じるなら、只の栄養剤だ。何も起こらない。
だけど、トキがその粉薬を。
例えば体温が少し上がって、胸がドキドキして、身体が少し発情しちゃう様な薬だと認識したなら。
効果が有るかも知れない。
「もしかして知ってた?ベルモントさんは知らなかったけどなぁ。」
「知らないよ。でも、予測出来たしヒントをくれたから。」
「それをヒントって言える辺り、情報屋だな怖っ。」
「目も耳も良いからね僕。」
トキが話し方に気を付けてるのは、知ってる。
さっきみたいに僕達に届く様に、言葉を選んでくれてるんだ。
なのに、わざわざ分かりづらくして聞かせたって事は、僕に分かりやすく説明するとその技は使えなくなるからだ。
だからこれは賭けなんだよねトキ。
トキが薬のせいにして僕を欲しがってくれるか。
僕が本気で媚薬を盛ったか。
「それで。この栄養剤をどうするのトキ。」
可愛い悪い顔した歳下の男の子は、僕の手から薬包紙を受け取った。
ーーーーー
「良いのか。」
この建物でトキが聞いてはいけない話など、存在しないが。
聞かせるに値しない物もある。
例えば、屑の汚い悲鳴とかだろうか。
ベッドの上であれだけ美しく淫らになりながら、そのベッドで事件現場のやや凄惨な死体の写真を並べて見る様な所が有る。
自分の妻ながら豪胆な男だなと感心した。
それなのに、犬や猫が打ち捨てられるのを殊更嫌がった。
この国でそんな事は起こらないから大丈夫だと話すと、良かったと言って。
また写真を丹念に見ていた。
「良くはないが、気の毒ではあるな。恩師の息子をひとり傷物にするかも知れない。」
「ふっ、そうだな。」
私もまさか。トキの妙に揺れる瞳を見るとは思わなかった。
いいや。何時も兆しは有った。
何より、求められる事に喜びを見出すのだ。
ユディールの手を握った時から危惧していた。
だが、女は抱きたくないと言うから気にしていなかったが。
トキはモテる。
後輩、新人、先輩、次から次に愛想を振り撒いては。
次の瞬間、
アイツ嫌い、と言い放ったりもする。
勿論、気に入った者の方が圧倒的に多過ぎて妬く事すら無くなって居たが。
「トキには言ったのか。」
「勿論だ。釘も刺しておいたが、どうだかな。」
「似た者同士だ。馬が合うんだろう。」
「恐らく、その事にトキは気付いてない。」
「あれは自分が好かれる事に未だ鈍感だからな。」
悲鳴も雑談も此処では地上どころか、廊下にすら届かない。
いつまで経ってもトキを狙う屑が居るのなら、ひとり位腕の立つ者を付けた方が良いだろう。
トキの側で、トキが知らぬ間に護れる者を。
「そっちこそ良いのか。」
「良い。」
「もう少し、心配してやったらどうだ末息子だぞ?」
「無駄だ。偶に餌でもくれてやれ。それより、トキが子供を欲しがってたぞ。」
「そう、かっ。」
「二人で良い、とも言っていたな。」
「... 少ないな。」
「私もそう言っておいた。」
「だが、身体に負担が掛かる」
「そうか?」
「...そう言えば。卵は少し楽だと聞くが、今ので信憑性が増したな。」
何せ十人も子供がいる。
流石の私でも、多いなと思えるが。
そろそろ、頃合いか。
「すみません、お待たせしました。」
「終わったか。」
「何か吐いたかマルロイ。」
「えぇ、バッチリ全部ゲロって逝きましたよ。」
私とデルがウイスキー片手にとカードゲームに興じる間、マルロイが手を貸してくれたが。
「物言いが似て来たな。」
「... ... マルロイ、報告してくれ。」
「あ、失礼しました、!」
こんな所でもトキの影響を感じると言うのに、本人は今頃別の男の手を引いているのか。
だがあくまで、あれは私の右腕だ。
誰にも譲るつもりは無い。
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※ 「△△△効果って言うのが有る、」
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