【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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番外編

番外編 空きっ腹に飯5

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「大変だよユディール君。」

悲壮感を漂わせた顔で帰って来た夫の大変だよ、は大抵大変じゃ無い。

「何だよ。」

「僕に、ダンスを教えてくれないか。」

「はぁ?」

「さっき大統領に引き止められて、半分冗談の命令が降りたんだ。」

「半分冗談、の命令。」

「半分は冗談だけど、半分は命令だと言われた。」

官僚は辛いな、と心底同情するマルロイ。
冗談なのだろうと躱わせば、命令だぞと言われるんだな。多分。

「と言うか、教えるのは良いけど、今まではどうしてたんだよ。」

「警護を理由に壁の花をやってた。パートナーも居なかったし。けど、今年は君が居る。勿論、ユディール君には悪いけど僕とそのパーティーに行って一緒にお喋りしてれば良いと思ってたんだけど。」


この頓珍漢、やっぱりアレだ。
結婚式の時、こいつの先輩やら教官やらが散々僕に気をつけてやってくれって言って来た事は本当だったんだ。

ーーーいやまぁ、多分アレだ。
ーーーお坊ちゃんだから、少しな。
ーーー浮世離れしちゃってるんだよな。

普通。
あんたみたいな階級の、しかもパートナーを得て初めて行くパーティーで踊らないなんて普通!あり得ないからな!

むしろその為に呼ばれてる様なもんだぞ。
そして初めてだからこそ、誰のパーティーで踊るかは重要だ。
もし踊らなくて、こいつの言う通り壁の花なんかやってたら。
大統領と警察庁長官は仲が悪い、なんて噂が立ちかねない!

だから僕は最初から踊るつもりでいたのに。

「新婚の僕達が大統領の誕生日パーティーで踊らないのは不味いよマルロイ。」

「何故?」

案の定。
こいつ何で官僚なんてやれてるんだ。
僕は懇切丁寧、説明してやった。

「ユディール・ケプロン。」

「え。」

「この名前は社交界ではよく耳にしたんだ。顔の綺麗なハンサムがとっても優雅なダンスをするって。彼女の話もよく話題に出ていた。二人で踊ればその衣装がバカ売れ。流行りを生む天才。」

「あ、そう...」

「一度だけ見かけた事があるんだ。多分、あれは君だったんだなと最近、思い出したんだ。」

「へぇ...」

「とても綺麗だった。」

不味い。この流れは不味いぞ。

「だから尚更、君が踊る所は誰の目にも触れさせたく無いんだ。」

「あ、ちょっと、待てよっ、」

グッと腰を抱き込まれ腕を固定された。
完璧なホールド。
けど、僕はフォローをするのは初めてだし、こいつとこの距離でする事なんて決まってるから、不味いんだよ。

胸が合わさる程近い。
こいつの体温が分かる。
腰の手が熱い。

キスがしたい。

「僕を閉じ込めるなマルロイ・コールマン。僕は踊っても良いと思ってる。あんたは見た方がいい。大勢の人の中で、たったひとり。あんたの手の中で僕があんたの為に踊るのを見るべきだ...っ、うわぁっ」

いきなり、抱き上げるとダイニングテーブルに乗せられた。
男を軽々抱き上げるな。

「可愛い。」

「かっこいい。」

「僕のユディール。」

僕より低くなった目線のマルロイは、何の恥じらいもなく言う。

「本当は踊れるんじゃ無いのか。」

「どうだろう。多分踊れるだろうけど、君程綺麗には踊れないと思うんだ。君は評判だから。僕も見合う位踊れる様になりたいんだ。」

「良いよ。でもこれの面倒はどうするんだマルロイ・コールマン?」

「ぁっ、」

「勃ってる。」

可愛いのはこいつの方だと思う。
誠実が服を着てるみたいな奴で、僕の前だとバカになる。
目の前の熱にそっと手を添えて撫でる。
それだけで、こいつの表情が変わり、瞳が光る。

「キスがしたいな、コールマンさん。そしたらこいつの面倒を見てやっても良いよ。」

「あぁ。頼むよ。君じゃなきゃ駄目なんだユディール君。」

下から唇を食まれる。
合わさって吸いあって、それで漸く舌を絡める。
長くてしつこいくらい舌を味わって、溢れた唾液は全部。
マルロイが持っていく。

「はぁ。美味い。もっと飲ませて。」

「その前にベッド。夕飯を食べにいく体力も残しておいて。」

「分かった。」

「それ以外は、あんたの好きにしたら良いよロイ。」

「分かった、」


切羽詰まってるこいつは可愛い。
化けの皮が剥がれて、長ったらしい口調から単語だけになる。
一人称もブレブレの泥臭いお坊ちゃん。

かっこいいのはあんたの方だ。

ーーー

「大統領。」

「あぁ、デル。」

「マルロイにはちゃんと言ったんだろうな。」

「あぁ。今年は踊る様にと釘を刺した。半分は冗談だからなと、一応告げたが。まさか。」

「あぁ、そのまさかだ。大会並みの仕上がりで観客まで出来ていたぞ。」

「適当、が難しい男だからな。彼は。」

「だが良い兆候だ。彼の人気は治安に繋がる。」

「民主からの評判も良い。」

「あとはお前だけだぞエルムディン。」


ーーー3年後、それは異世界からやって来た。

噴水から引き上げた彼は真っ黒な髪と見知らぬ衣装で横たわっている。
彼が私の"右腕"。


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