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番外編
番外編 空きっ腹に飯4
しおりを挟む氷漬けにすると情報をポロポロ引き出せる代わりに、デスクワークも増える。
大勢の部下が情報の裏取りに奔走してくれる。
その結果として、解決率が上がると報告書は溜まるし、広報の確認、備品の許可、施設管理許可、許可、許可、許可。
許可待ちの書類も溜まる。
そろそろ癒しが欲しい。
美味しいご飯を一緒に食べてくれるひとが欲しい。
腹が減った時、一緒に食べてくれるひとも。
可愛い子が良いな。
最近は美味しいご飯を食べても、少し寂しいんだよな。
家に帰ると尚更で。
さっき食べた筈なのに腹が減るんだ。
「はぁ。サンドイッチ食べたい。」
「あ、まさか!」
「ちょっと、長官!?まだお昼休憩じゃありませんよっ、!」
「うん。でもお腹空いたんだよね僕。」
ひらっ、と手を振って席を立つ。
後ろで部下がゴネてる声がする。
楽しい部下達だ。
文句を言いつつ、僕の我儘を許してくれるんだから。
ヨレヨレのシャツ。
眩しい太陽。
少し寂しいサンドイッチ、の最後の一口を齧ろうとした時。
目の前に烏が降りて来た。
トントン、と歩いて僕の目の前で止まった。
「え?」
トントン、と向こうへ歩いて止まる。
スンッ、と首を振る烏。
「着いてこい、って?」
誰か教えてくれないかな。烏って溜め息吐いたりするのかな。
「い、行きます!行くよ!」
大慌てでサンドイッチを口に詰め、転びそうになりながら羽ばたいた烏の後を追う。
もしかして。
もしかして。
僕にも、出来損ないの俺でも、番が居るー…っ。
どうしよう。
どうしよう。ヨレヨレのシャツ、
ボサボサの頭で行って嫌われたりしないだろうか。
「あの‼︎!こっちに烏は飛んで来ませんでしたかっ」
彼は美しかった。
側のガラスケースが陽の光で煌めいていたのは、彼を美しく演出する為に違いない。
それに可愛い!
「結婚しましょう!」
「嫌です。」
「何故っ、!?」
何故!?
何としても譲れない。だって君は可愛い。
君は僕が手に入れたい。誰に盗られるより先に君を貰い受けたい。
彼の驚いた顔はとっても可愛かった。
大きな瞳が溢れそうな程にまるくなり、煌めいていた。
可愛い。
可愛いな。
可愛い。可愛い。可愛い。
なんで可愛いんだ?
瞳が宝石みたいだ。
それなのに、感情が冷めた瞬間、瞳の煌めきは隠れてしまった。
「あんたなんか"あんた"で良いだろ。僕はあんたの名前なんか知りたくも無い。」
あぁ。そうだね。
僕も、僕の名前なんかどうだって良い。
それより君の名前をいっぱい呼んで、君の事がいっぱい知りたいんだ。
「長官、休憩から戻って何か調べ物をしていらっしゃるんですが。」
「何だろう、指名手配犯でも見付けたのか?」
「未解決事件の手掛かりかも。」
「凄まじい集中力だ。」
僕は生まれて初めて、コールマンの名前に感謝した。
絶縁状は、唯の紙切れなんだ。
法的効果は何も無い。
更に、先の倒産騒ぎで僕たち家族は取引をした。
演出だ。
18から寮に入り泥臭い叩き上げの青年は、家族に礼を言う。
家族も僕に謝罪する。
お互い辛い状況でよくここまでのし上がり、耐えた事を賞賛し合う。
これから僕たち家族は、今までより更に強い絆でコールマン家を建て直していくと言う演出は効果抜群だった。
僕の就任式は盛り上がり、幸いにも彼の父上の耳にも入っていた。
「ですが、随分なご苦労をなさったでしょう。」
「えぇ。一時は恥じてもおりました。ご存知かも知れませんが私は学院を出ていません。ですが多くの学びを得たのも確かです。」
「そうでしょう。私共ケプロン家も祖父の代まではそうでした。コールマン家は私共が這っても手の届かない名家ですが聞いた噂では。」
「えぇ。"成り上がりのお貴族被れ"と私なんかは未だに囁かれてしまいます。」
「息子には聞かせられませんな。」
「申し訳ない。」
「いいえ。それは私も...隣国と言えど道は何処も同じですな。では、これから私共はどう策を練りましょうか。未来の義理の息子の手腕をお聞かせ戴きたい。」
ーーー
「遅らせちゃってごめんね。」
そう言う僕に彼はさっきからずっと不機嫌そうにしている。
君が言ったんじゃ無いか。
あんたなんか"あんた"で充分だ、って。
それなのに、さっき人伝に聞いたコールマンという名前にぷんすか怒っている。
今は、彼の父上と話し込んだ僕の素性にも興味がある。
「父が知っているならそれで十分です。」
そんな風には見えないな。
彼は自分の容姿には自信がある。
けど、ケプロン家という自分にまるで価値を感じていないようだ。
僕もだ。ケプロン家の君にはまるで興味が無い。
ユディール、君のキスはどんな味だろうか。
あぁ。
腹減った。
食べたい。
彼のキスが欲しいな。
これは意外だった。
彼のキスは情熱的で、身体もぐいぐい押し付けて来て、僕も腰を強く抱いてしまった。
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あんなにぷんすかしているのに、こんなキスをして。
僕は必死で理性を掻き集め、宥めた。
吸い付く感覚を小さく、短く、鼻先を擦り合わせてそっと肩を押す。
「可愛い顔だね。」
「ばかじゃないのか」
でも、薄暗い路地裏で爆発して君を抱きたく無いんだ。
君は僕が用意したベッドでのびのびぬくぬく寝て、起き抜けにキスして欲しい。
はぁ。
それより、なんで連れ込まれた路地裏でこんなエロいキスをするんだ。
かっこいいな君は。
それに比べて、送ってくれた宿の部屋の中で、扉を背にズルズルしゃがみ込んだ僕はカッコ悪いな。
「はぁ。可愛い。どうしよう。」
僕は絶対、父上を説得するよユディール君。
ーーー続
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