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番外編
番外編 空きっ腹に飯3
しおりを挟むやがて警察学校を卒業し、交番勤務を幾つかこなしていく中で、ひとつ転機があった。
「次の転属先、決めたか?」
数々の過酷な訓練をこなした猛者ですら、行きたく無い勤務地がある。
「俺達みたいな学舎上がりは馬鹿にされるんだよ。」
「交番で突っ立ってるだけの税金食い、つってな。」
先輩方は口々にうんざりして愚痴っていた。
ダメだ。腹が減って眠れない、とケチケチ小銭を出し合って夜食を合作した同僚達も、各地で似た様な目に遭っているらしい。
だが、転属希望先は毎年提出する仕組みになっている。
第三者候補までをこの掌サイズの紙切れに書く。
「じゃあ、俺が行く。」
「嘘だろ、」
「やめとけ、!」
毎年、希望なしと書いていた所に、初めて希望を書いてみた。
「おいマジかよ、絶対通るぞコレぇっ、」
勤務地は粗方希望通りに行く。
大体が実家や住まいの近くを選びたがるから、恐らく。この希望は通る。
俺みたいに単身で何処へでも行く奴は少ない。
「お前、ほんっとストイックだよなぁ。」
「骨は拾ってやる。何時でも帰って来いよな‼︎」
筋肉と愚直で出来た同僚達は何時も、温かい。
笑ってその年の冬を越した後、また俺の世界ぎ変わった。
「正直者が馬鹿を見る、という所ですか。」
「そうそうよく知ってるね君。因みにもうひとつ良い言葉を教えてあげよう。長い物には巻かれろ、だよ。学舎上がりの君では少し難しかったかなぁ?」
「いいえ。勉強になります警部補。」
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ーーー
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「ありがとう。」
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正直者が馬鹿を見下して笑うのさ。
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「正直、困ってたんだ。急に...」
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俺もそう思います。
ーーーキンッ!
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「俺は、魔法が苦手でまだ加減が上手く出来ないんだ。」
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まぁ、良いか。それで。
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「ヒッ、!」
「先に話す?嫌ならとりあえず殴って話す。どうする?」
「だ、誰かー助けて、」
「話さない?箒でも多分殴ればお前の足は氷と一緒に砕けるけど。それでもお前は、俺と会話する気無いの?」
この一件でひとつ誤解が生まれた。
俺が持っていた箒の柄が灰色で、何故か鉄パイプに見えたらしい。
凍ってたからかな。
鉄の男なんて二つ名が一人歩きし始めた。
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