【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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番外編

番外編 空きっ腹に飯2

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交番で暇そうにしてる奴等もこれをこなしていたのか。
警察学校はとにかく体力が求められた。
卒業式の3日後から寮へ移り、早朝から夕方まで徹底した時間管理の下、一般科目、法学、警察実務、体術、魔法技術などをこなす。

今日も、早朝から教官の怒号を受け筋肉を虐め抜き、汗だくでシャワー室へ向かおうとした所、引き止められた。

「制服に着替え教官室へ来る様に。」

「はい!」

何故、制服なんだ。
活動服でなくて良いのだろうか。

「先輩、なんで制服か分かりますか?」

すると聞いた先輩どころか、一緒に居た他の先輩達もこぞってぎょっとした顔でこっちを見てきた。

「お前、今日が何の日か知らないのか!?」

「おーい、お坊ちゃんがまた浮世離れしてんぞー」

「どうするよ、多分あいつまたアレだぞ。」

頭の中が疑問だらけだが。
命令違反は不味い。この3ヶ月で嫌というほど学んだ。
サッ、とシャワーを浴びて、入学以来二度目の制服に袖を通す。

「マルロイ・コールマンです!入ります!」

「よし入れ。」

「失礼します!」

この、全てに対し大声で答える方式も少しは慣れた。

「お呼びでしょうか。」

「お前が来る前、隊の先輩が大慌てで此処へ来たぞ。」

「は、それは、申し訳ありません、?」

「いや、お前は悪く無い。何の事だかか分からんのだろう?」

「はい。」

「お節介な先輩に何か言われなかったか?」  

教官は終始、笑いを堪えているような口振りで、一体俺の何がそんなに面白いネタになったのだろうか?

「今日が何の日か知らないのか、と聞かれました。」

「それで?」

「休校日と答えましたが違うと言われ、他に存じ上げませんでしたのでその様に答えると、"また坊ちゃんが浮世離れしてる"と、話していました。」

「グッ、ダハハハッ!お前は本当に祝い甲斐の有る奴だな‼︎」

祝い甲斐?俺の誕生日はもう終わったが。
着慣れない制服も鬱陶しい。

「マルロイ・コールマン研修生、起立!」

「は!」

突然の号令。
それに素早く反応するのも訓練。
不動の態勢で教官の次の指示を待つ、が聞こえたのは思いがけない言葉だった。

「成人おめでとうマルロイ。今日これからお前は親の庇護を離れ、一人前の大人として扱われる。お前の行動の全ての責任をお前が持て。だが、もし自分では手に負えない事態が来たら、誰かの力を貸してもらいなさい。お前の所のお節介な先輩でも、私でも友人でも誰でも良い。良いな。」

「ーーー…ぃ、」

「聞こえないぞ研修生!返事!」

「ハイッ‼︎」

途端、教官室のドアが開きハイテンションな先輩達が雪崩れ込んできた。

「俺達のルーキーが大人になったぞー!」

「おいおい坊ちゃん、泣いてんじゃん、!」

「お前も鼻水拭けよ!」

「食堂で飯奢ってやるぞ!」


何なんだこいつら。
何でこんな嬉しそうなんだ。
たった3ヶ月一緒過ごしただけなのに、こんなに言葉を貰えるなんて、いや、祝って貰えるなんて微塵も思っても見なかった。

何時もの鬼教官が嘘みたいに優しくて、筋肉野郎の先輩達は口々に祝っては頭をぐしゃぐしゃ撫でて、泣いて、鼻水を付けそうになりながら俺が成人した事を祝ってくれた。

なんだこれ、嬉しいな、クソ!

「昔から18の小僧が身一つで飛び込める世界は限られているからな。」

「教官もですか。」

「そうだ。貴族では無いがな。だが貴族出身の子も居た。成人の義を境に帰る家を失う子も。家に帰りたく無い子もな。だが、祝うのは何も親の特権と言う訳でもない。仲間を大切にしてこその私達だ。」

「御心遣いありがとうございます。」

「良いんだ。それより私が言ったことを忘れない様に。」

「はい!」

「せっかくの休校日だ。お節介な先輩に存分に祝われ遊んで来なさい。」

「有難うございます!」

ーーーーー




それから、世界は何かが変わった様に見えた。
俺は何をしても自由だった。
体術の試合に負けてどうしようもなく悔しく、腹が立ち、この感情の行き先をどうしたら良いのか分からなくなったら、真っ先に先輩達の居る寮部屋を叩いた。

「何だ、試合負けたのかお坊ちゃん?」

「負けました。凄く悔しいです。どうしたら先輩みたいに強くなれますか。」

「分かったから、泣くなっ、!」

「嫌です。」

「全く、熱いねお前。点呼までには帰れよ。」

「はいっ、」

飯が食える、寝床もある、給料も出て、仲間も居て、飯は余計に美味く感じる。
食堂に変なおばさんが居る。
ここは3食、時間内ならいくらでも食わしてくれる
最初は飯も普通に盛っていたら、その変なおばさんが有無を言わさず俺の皿にドン、と追加した。

「あたしらはあんた達に美味しいご飯を腹いっぱい食わせるのが仕事なんだよ。あんた、そんなに少なくて本当に腹いっぱいになるのかい?」

「いえ、どのくらい食えば良いのか分からなくて。」

おばさんがきょとん、として何を当たり前の事をと言う。

「腹いっぱいになるまでだよ!これで足りなかったらまた並びな!向こうのオムレツも食べな。筋肉付けて教官をビビらせるんだぞヒヨッコ達!」

そんなおばさんも気が付けば、俺の飯の量を把握する様になっていた。
食堂が閉まる寸前に滑り込んだ夕食は、人がまばらだった。

「おばさん。」

「うん?」

食堂は何時も美味い飯を食わせてくれるから俺からもう少し金を取った方が良いとボヤいた。
だってこのおばさんのお陰で、俺は初めて自分の金で腹一杯飯を食った。
勿論、午後の授業は眠気に襲われ、訓練では気持ち悪くなった。
けど、もっと評価されるべきだと思った。
何か、感謝を示したかった。
すると耳が壊れそうな程大声で笑われた。
豪快で明るくて見ているこちらも楽しくなるよう声で、ありがとうと言われた。

「どうしてもって言うなら、よく噛んで早く食べてくれたら、早く帰れるんだけどねぇ。」

「分かった!」

「ちゃんと噛んで食べるんだよ。」

「分かった。」

「ケーキも食べな。」

彼女は恐らく母と歳がそう変わらない。
それなのに蔑みもせず、しかめもせず、ありがとうと言われた。

その時、息が止まった様な気がした。
胸を後ろから強く殴られたような感触。
初めてだ。
これが僕が欲しかったもの。

僕という存在を否定しない僕の事を考えてくれる母親が欲しかったのか。
そうか。
だがそれはもう手に入らない。
けれど、勝手に母の様な人だと思った人にお礼を言われるのは気分が良い。

あぁ。飯が、美味い。
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