【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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番外編

番外編 空きっ腹に飯1

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とにかく金が欲しかった。
金があれば。
学舎でも昼飯が食えた筈で、菓子の一粒、いや、屋台串の一本でも良いから、金が欲しい。コイン1枚が欲しいんだ。

朝から学舎に通い昼も近くなるとは腹が減る。
休憩時間には皆が購買に行ったり、好きな場所で飯を食う。
僕も、そうしたい。

けど、出来の悪い僕へ両親はお金を出し渋っていた。
僕は只の子供で、お金の稼ぎ方も手段も持ち合わせていなかった。
学舎も学院程では無いにしろ費用が掛かる。
その度に揚げ足を取りチクチクと文句を聞かされた。
大した物が買いたかった訳じゃない。
鉛筆とノートと、消しゴムと、なんだろ。
それくらいだった筈だ。


腹、減ったーーー…

親は子供が飢えないようにするもんじゃないのか。
法律でそう決まっている筈だ。
僕の面倒を見る義務がある筈だ。

けれど、そんな事面と向かって言えるもんか。
だから今だけ。
晩飯までのほんの6時間、その間だけ我慢すれば良い。
僕なんかより教会から通う子達の方が、厳しい生活を送っている。
それに比べれば、僕は贅沢だ。
耐え忍ぶべきなんだ。
これは出来の悪い僕への罰なんだから。

その日も、何時もの様に腹を空かして家に着いた。
晩飯は家族皆で摂るきまりになっている。
父親の帰宅を待ちながら宿題を片付け、やっとありついた晩飯に手を付けようとして、口の端がぐにゃりと歪んだ。

慌てて両手で口を覆ったが、今度は視界が滲み出した。

何だ。
なんで、何が起きている。
病気か、魔法か、何か危険な...、

違う。違う、僕のこれは、なんで。
なんで僕は、泣きたがっている、?

家族は誰もこっちを見ていない。
見向きもしない。
その理由はひとつ。
僕が出来損ないだからだ。

目の前の家族達はお互いに笑い合い、今日あった事、会社の話しをしているそいつらは、どんな思いで僕が食卓に着いているのか知りもしない。
理由は明白だ。
僕に興味が無いからだ。

歪む口と滲む目にグッと力を入れて、もう一度カトラリーを握る。
気を抜けば嗚咽が漏れ、涙が落ちそうだった。
気取られたくない、その一心で手を動かし咀嚼し続けた。

自室へ下がり、靴もシャツも投げ捨てて僕は訳も分からず泣いた。
悔しい。
こんな風に、黙って泣くしか能がない庇護される立場の僕が、心の底から憎い。
そして馬鹿だ。
どうしてこんな事をされても両親を嫌いになれないんだ。

腹が減る度同じ気持ちになり、そのうち、涙も1分足らずで止まる様になった。

日々削られていく、残り少ない自尊心。
僕の成績は伸びなくなった。
学院に行ける成績を維持すれば良いだろ。
どうせ誰も僕を見ていない。
僕は罰を受けているーーー筈だった。

僕は勘違いしていた。
そこそこの出自のお坊ちゃんには、外聞だけでも良いキャリアを求めるだろうと唯一最後の期待すらしていた。

だが、僕の事を何も知らない両親の頭の中で、僕はこの先就職する事になっていた。

「愚息には早いうちから社会経験を積ませるべきだと考えています。」

「学院なんてとんでもない。見た所、酷くは無いにしろ優秀とも言えないこの成績で、他に打ち込む物も無い人間ですから。せめて社会の為に尽くさせなくてはと思いますの。幸いにも就職先なら... こちらも...」

教師は呆気に取られた顔をしている。
僕もだ。
そんな話、今まで聞いた事もなかった。
コイツら、何を言ってるんだ。
僕は1年後には仕事をしてるって言うのか?
コイツら学院と学舎による生涯年収の差を知っているのか?
何故そんな不利益をするのか理解出来ない。
困惑に固まった俺を両親は"何だその顔は"と呆れ半分で心底愉快そうに嘲笑う。

何万回も聞いてきた文句だ。

理不尽だと睨む度、絶望を覚える度に言われ続けた言葉で。
この日、ついにプツンと何かが切れる音を聞いた。

俺に課せられた罰は、何時になったら終わる。
何時まで耐えれば許される。
罰は今までだって充分に受けた筈だろ。

食いたい盛りから昼飯を、遊びたい盛りから自由を、学びたい盛りから将来を奪うなら。
コイツらはもう親では無い。

親子であっても所詮は他人であり、血の繋がりなど串焼き一本の価値も無かった。

面談を終え、帰宅したまま書斎は呼ばれ突き付けられた一枚の書類。

「就職先を与えてやる。それが嫌ならここにサインをしろ。そして、この家を出て行け。」


ーーーーー
絶縁状

マルロイ・コールマン
上記の者を成人の儀を以って、絶縁する。

ーーーーーーー

連綿と続くコールマン家。
古くは商家が成り上がり貴族連中の仲間入りを果たした過去を持つ。
そんな少しだけ歴史あるコールマン家から、ひとり脱落者が生まれた。

「この書類、もう一部ください。」

「良いだろう。」

成人の儀までおよそ10ヶ月。
卒業式は7ヶ月後。
それまでに働き口を探さなくては。

その夜、持ち物を全て整理した。
翌日からは進学クラスを外れ、他の就職組と合流した。
ひとつ、嬉しい誤算があったとすれば。
俺の他にも面談を機に進学クラスから移動してきた人が居たという点だ。

そして、求人はいくらでも有った。
当然だ。
誰もが学院に行くわけでは無い。
そして気付いた。
これだけの求人があるのなら、学歴に拘る必要は無かったのでは。
とにかく金が欲しい。
ひとりでも生きていける金と、住む家が欲しい。
正直者が馬鹿を見るこの家から、出るんだ。
俺は目の前の募集要項に飛び付いた。
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