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番外編
番外編 空きっ腹に飯1
しおりを挟むとにかく金が欲しかった。
金があれば。
学舎でも昼飯が食えた筈で、菓子の一粒、いや、屋台串の一本でも良いから、金が欲しい。コイン1枚が欲しいんだ。
朝から学舎に通い昼も近くなるとは腹が減る。
休憩時間には皆が購買に行ったり、好きな場所で飯を食う。
僕も、そうしたい。
けど、出来の悪い僕へ両親はお金を出し渋っていた。
僕は只の子供で、お金の稼ぎ方も手段も持ち合わせていなかった。
学舎も学院程では無いにしろ費用が掛かる。
その度に揚げ足を取りチクチクと文句を聞かされた。
大した物が買いたかった訳じゃない。
鉛筆とノートと、消しゴムと、なんだろ。
それくらいだった筈だ。
腹、減ったーーー…
親は子供が飢えないようにするもんじゃないのか。
法律でそう決まっている筈だ。
僕の面倒を見る義務がある筈だ。
けれど、そんな事面と向かって言えるもんか。
だから今だけ。
晩飯までのほんの6時間、その間だけ我慢すれば良い。
僕なんかより教会から通う子達の方が、厳しい生活を送っている。
それに比べれば、僕は贅沢だ。
耐え忍ぶべきなんだ。
これは出来の悪い僕への罰なんだから。
その日も、何時もの様に腹を空かして家に着いた。
晩飯は家族皆で摂るきまりになっている。
父親の帰宅を待ちながら宿題を片付け、やっとありついた晩飯に手を付けようとして、口の端がぐにゃりと歪んだ。
慌てて両手で口を覆ったが、今度は視界が滲み出した。
何だ。
なんで、何が起きている。
病気か、魔法か、何か危険な...、
違う。違う、僕のこれは、なんで。
なんで僕は、泣きたがっている、?
家族は誰もこっちを見ていない。
見向きもしない。
その理由はひとつ。
僕が出来損ないだからだ。
目の前の家族達はお互いに笑い合い、今日あった事、会社の話しをしているそいつらは、どんな思いで僕が食卓に着いているのか知りもしない。
理由は明白だ。
僕に興味が無いからだ。
歪む口と滲む目にグッと力を入れて、もう一度カトラリーを握る。
気を抜けば嗚咽が漏れ、涙が落ちそうだった。
気取られたくない、その一心で手を動かし咀嚼し続けた。
自室へ下がり、靴もシャツも投げ捨てて僕は訳も分からず泣いた。
悔しい。
こんな風に、黙って泣くしか能がない庇護される立場の僕が、心の底から憎い。
そして馬鹿だ。
どうしてこんな事をされても両親を嫌いになれないんだ。
腹が減る度同じ気持ちになり、そのうち、涙も1分足らずで止まる様になった。
日々削られていく、残り少ない自尊心。
僕の成績は伸びなくなった。
学院に行ける成績を維持すれば良いだろ。
どうせ誰も僕を見ていない。
僕は罰を受けているーーー筈だった。
僕は勘違いしていた。
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だが、僕の事を何も知らない両親の頭の中で、僕はこの先就職する事になっていた。
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「学院なんてとんでもない。見た所、酷くは無いにしろ優秀とも言えないこの成績で、他に打ち込む物も無い人間ですから。せめて社会の為に尽くさせなくてはと思いますの。幸いにも就職先なら... こちらも...」
教師は呆気に取られた顔をしている。
僕もだ。
そんな話、今まで聞いた事もなかった。
コイツら、何を言ってるんだ。
僕は1年後には仕事をしてるって言うのか?
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何故そんな不利益をするのか理解出来ない。
困惑に固まった俺を両親は"何だその顔は"と呆れ半分で心底愉快そうに嘲笑う。
何万回も聞いてきた文句だ。
理不尽だと睨む度、絶望を覚える度に言われ続けた言葉で。
この日、ついにプツンと何かが切れる音を聞いた。
俺に課せられた罰は、何時になったら終わる。
何時まで耐えれば許される。
罰は今までだって充分に受けた筈だろ。
食いたい盛りから昼飯を、遊びたい盛りから自由を、学びたい盛りから将来を奪うなら。
コイツらはもう親では無い。
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面談を終え、帰宅したまま書斎は呼ばれ突き付けられた一枚の書類。
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ーーーーー
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ーーーーーーー
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「この書類、もう一部ください。」
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これだけの求人があるのなら、学歴に拘る必要は無かったのでは。
とにかく金が欲しい。
ひとりでも生きていける金と、住む家が欲しい。
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俺は目の前の募集要項に飛び付いた。
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