【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

文字の大きさ
上 下
9 / 77
番外編

番外編 彼に賞杯を1

しおりを挟む


異世界は意外と休みが取れる。
まるでバイトみたいに今日暇だから帰って良いよ、と言われる。
ありがてぇ。

ダイニングテーブルにデコを打ち付けた成果だ。

向こうでも明日明後日休んで良いぞと言われたりはした。
同じことを言われている筈なのに今の方が腹が立たないのはなんでだろうなぁ。

使いたい時に使えない癖にそういう事はするんだよな。

まぁ、いいや。それで。
そう言う時は昼飯もそこそこに片っ端からレシピサイトに検索をかける。
メモして、リスト作って、金を降ろしてスーパーに行く。
俺だけの華金タイムの始まりだ。

それを今、異世界でやっている。

昼過ぎに帰ると町中が眩しく見えるのは気のせいじゃないよな。
目に染みる。

そんな疲労困憊の身体に鞭打って俺は今、メレンゲを作っている。
向こうで男の俺がハンドミキサーを買う勇気は無かったけど、こっちには有る。
更に、残念ながら魔法が使えない俺の為に補佐まで付いている。

補佐官の補佐見習いの料理補佐、ゼフだ。
訳わからんな。

ゼフが魔法仕様ハンドミキサーのスイッチを入れてくれて、止めたい時もゼフに頼めば止めてくれる。

どっかの誰かさんとは大違いだなぁー?

細々としたレシピを覚えてる訳じゃない。
忘れても良い様に分かりやすい分量のレシピだけ選んで作る。
例えば、全部10グラムずつとか。
バター5グラム、砂糖10グラム、牛乳100グラムとか。
山勘で"確か増えていくパターンだったよな"で作れる奴だ。

お陰でスマホが無い魔法世界でも、なんとなーく作れる。

あぁ、でも砂糖がボウルの中でジャリジャリ混ざる音は少し苦手だ。
卵黄と混ぜてシャクシャクにする。
ジャリジャリはダメだ。
シャクシャクは良い。美味そうな音だ。
薄力粉も入れる。
えぇーと。確か。
卵2個、砂糖2杯で、バニラ2滴だから薄力粉は20グラムだった筈。
んで、牛乳が100ccだ。

まぁ、そんなもんだろ。
バター塗って、うん、?

「なぁ、ゼフ。バター塗るのって全体の方が良いと思う?ちょっと記憶に自信がない。」

ニコニコと俺の側に控えてるこの厨房の主人に聞いてみる。

「底だけでも構わない様に思いますが。念には念を入れて全体の方が良いかも知れませんね?」

「んーそう?」

「えぇ。焦がしてしまっては勿体無いですし、香り付けが効いています。薄く塗れば風味が変わることは無さそうにお見受け致しますな。」

「じゃあそうする。」

なんか、底だけに塗るってレシピに書いてあった気がするんだけど、俺は心配性だから前作った時も容器全部に塗った気がする。
そこまで覚えてねぇよ。細けぇ。けどあれだな。

「バター塗るの癒しだわ。」

ぬるぬる溶けて広がるの気分良いな。はぁ。癒し。
確かバターを直塗りする為のグッズがあったよな。ペンみたいに。
あれやってみたかったわ。

ま、それはいいや。
とりあえず、シャクシャクの卵液とメレンゲを混ぜて冷やした奴をゼフ一押しの耐熱容器に入れていく。

「お任せくださいトキ様。」

「ふっ、さすがゼフ。芸が細かいなぁ。」

職人気質のこの料理人は生地を流し込んだ器を持つと、ナイフで綺麗に平らにし、器の縁を拭う。

「美しいもの見たさでつい。申し訳ありません。」

いや、分かる。食い物は見た目も大事だ。
というか楽しそうだなゼフ。
もしかして飾り付けとかやってくれそうだな。

「よし、あとは焼くだけだ。」

例に漏れず3つ焼いて、俺とゼフと予備分。

「うまぁ。」

はぁ。まじでうまい。バニラとふわふわ生地最高。
うんまぁ。
出来立て熱々のスフレってまじで冷えてる時とは別の美味さがあるよなぁ。
しみじみ味わってイライラしてた脳みそが溶けていくのを感じていると、目の前の料理長が何やらスッと席を立った。

「ぜ、ゼフ?」

その後ろ姿が声を掛けずらい物々しさで。
思わず黙って眺めていたら、気が付いてしまった。
さすがだわ。ゼフ。天才だ。料理長。

「失礼しますトキ様。こちらホットチョコレートとバナナをご一緒に如何ですか。」

バニラ風味のスフレの上にスライスしたバナナと、あったかいチョコレートが注がれて。
えへへ。
やばい。ニヤニヤが止まらねぇ。

「上物だけで何種類作れるんだろうね。」

「ざっと、4つは思い付きましたトキ様。」

「俺は3つ。」

そこからはお互い無言で作業を繰り返す。
試食がアイデアを生み出し過ぎた。粉砂糖万歳。
黙々とこなす"美味しい"の為の作業はすっきりストレス発散になった。

それをエルムディンが居ない間に邸中の皆で食べて、皆がニコニコ美味いって食べてくれる。
此処に来なきゃ永遠に味わえなかった幸せだ。

この幸せを分けてあげたい奴がいる。

結婚する前、デートに誘ってくれたあの時間達がどうやって捻出されていたのか疑問な程、エルは多忙で、まともに顔を合わせていない日々が続いていた。

勿論、仕事で会わない時も有る。会えたらラッキーだ。
そんなラッキーに遭遇した今朝、アイツは心底不機嫌そうな顔をして廊下を歩いていた。

イケオジの真顔って怖過ぎるだろ。
こいつでも食って機嫌直せ。

スフレに手紙を付けて置いておく。
明日はアイツ休みらしい。俺も。

ライオンの大統領は甘い物好きって、誰も知らないだろうな。
俺はストレス発散できて良いけど。
そういえば、アイツのストレス発散方法ってなんだろうな。聞いた事無かった。

追伸
ストレス発散方法を教えてください。 トキアキ・K
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...