【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

文字の大きさ
上 下
23 / 77
番外編

番外編 タカの我欲のままに 4

しおりを挟む
あたしが好きなのは、歌に躍り、馬車、それから料理。
料理は大好き。
ストレス発散になるし、好きな味に出来る。

女ばっかの集団でいると何もかもがとっ散らかってくる。
皆が綺麗で整っているのは外を歩く時間の全て、だけど。
宿に泊まったりした時は悲惨だよ。

服は脱ぎっぱ、靴は転げ回って次の日には片っぽ無い。
だから次の日に皆でぎゃあぎゃあ騒ぎながら探す。

だから食事は最悪。

普段なら。
誰に何を勧められてもそれが客なら淡く微笑んで唇を開く。
当然、交わし方も分かっているけど、キスは与えられた果実の味の方が良いだろう?

あたしたちが歌い踊る場は限りなくそういう場だった。

そんな女たちが誰に気兼ねするでもなく、食事をするなら何を食べると思う。
とても男には見せられないような大口を開けて、血が滴る肉にかぶりついたり、一人で大きなケーキを平らげたり、温野菜をこれでもかって程に食べたりする。

あたしはそんな彼女たちの食事を作った。
誰が何が嫌いだとか、今日はみじん切りにしないと食べたくないとか、卵が無いと嫌とか。
彼女たちは散々リクエストを聞かせてくれた。

まぁ、最悪ってのは言い過ぎかもね。
あたしも風変わりなリクエストは面白かったし、作る量が増えればあたしのストレスも減った。
叩ききった野菜には感謝しかないよ。

でも、ケーキは無理。
ケーキに限らずお菓子は全部、無理。
苦手。
手間と神経が掛かりすぎる。

思い出しても嫌だ。
普段なら、”菓子ならあたしに頼まないで買ってこい”って言うんだ。
でも、あたしたちはどうしようもなく女だったから。
どうしてもケーキが食べたい時があるんだ。

あたしも時々、ある。
3ヶ月か、半年に1回くらいでどうしてもケーキが無いと何も乗りきれないって時がある。
それまではポリポリ菓子を摘まんでた娘たちや、普段は肉しか食べないような、砂糖嫌いの娘達までもが金を握ってあたしの所に来るんだ。

「ナタリアぁ~っ、おねがいぃいいいっ。」

あたしは細かいのは苦手なんだ。
歌も躍りも結局は好きにやってしまう。
だから、分量通りに量ったり粉を振るったり、とにかくパパっと出来ないのが苦手なんだ。
ケーキなんかその筆頭だよ。
なにもかもが準備と、手順をきちんと守らないといけない。

まるで偉い人のパ=ティーみたいに。
マナーも仕来たりもだいっきらいだ。
しかも、ケーキは仕事じゃない。

彼女たちがその身ひとつで稼いできた金で作るケーキだ。
材料費だってバカにならない。
この金があれば3日は夕飯が豪華になるって言うのに、彼女たちはケーキを食べたがった。


「あの日々は無駄じゃなかったよ。」

この国には、勿論仕事できていた。
冬の仕事は楽でありがたい。
お屋敷はどこも暖かくて、あたしたちにも暖を整えてくれる。
そんな仕事の帰りだった。

雪まみれの格好で隈が濃くて、髭も髪もボサボサの男があたしを貰ってくれるって言うんだ。
この国の神話は知っていた。
だから、そういう人が現れたら言いねって話もしたけど。
まさか、あたしだとは思わなかった。

それに、医者の卵だって言う。
金も心配なさそうだし、あたしの下の世話もしてくれるって言うんだ。
おかしかった。
今まで、そんな事を言う男は居なかった。
酒が入ってようが、無かろうが女を口説くのに下の世話を持ち出すなんて。

久しぶりに腹を抱えて笑った。
ひーひー言って、もしかしてと思ったら仲間も笑ってた。
まぁ、半分は呆れて笑ってたけど。
それでも、長い付き合いだから言いたいことは分かった。
女同士だしね。

彼はいい人だと皆が思った。

あたしもそう思ったけど、まさか彼の兄までは予想しなかったよ。

でも悪い人じゃない。
恋人とひどい別れ方をした、とベルが言っていた。


でも、最近はそうでもない。
なんでかこの兄弟はあたしを鹿に似てると言って太ももや、手首を触ってくる。

ベルは患者を助ける合間に、あたしに似合うと言って限りなく無害な爪染色を作った。
黄色と少し茶色が入ってる。美味しそうな小麦色。
それで、何故か鹿ってだけでピンを買ってきたデルモントはあれから随分良くなった。

良く分からないけど、多分あの鹿はあたしへの贈り物だったと思う。
だから、あたしもこうして苦手なケーキを焼くことにしたんだ。

だって、今日は二人の誕生日だから。

彼のお母様はすごい。
3歳差で同じ誕生日に二人を産むなんて。
そんなお母様のレシピを以外にもデルモントが持っていた。

「ただいまぁ~」

「おかえりベル。」

しまった、粉まみれの手だと彼を抱き締められない。

「ただいま美人さん。今日も美しいね。ところでそれは?」

そんなにしみじみ言わなくても分かってる。
デルは夜勤明けで帰ってくると必ずあたしに美しい、って言う。
誉めすぎだと思う。

「これは、お母様のレシピを真似してるとこ。見てここ。」

あたしはこの兄弟に幸せが訪れることを祈ってる。
勿論、仲間たちにも。
全ては無理でも、あたしの両隣だけは幸せにしてあげたい。

彼らのお母様がノートの隅に書いた一言があたしをそうさせた。
通りにはあたしでも知ってるようなベイカーがあるけど、あたしはこのレシピを再現する。

「なにか書いてあるのか、ん、んん?これ、母さんの字じゃないか!?」

「そうだよ働き者さん。ほら、ここ見てよ。」

粉まみれの手でもノートを汚さないように再度指を指せば今度こそベルは言葉を失った。


「これ、どこにあったんだ。」

「お兄さんが持ってたの、借りてきたんだ。」

「そうか、まだあったんだな。」

「好きに使えって言ってくれたけど、汚したくないから。」


察してくれて、もう少しだけノートを向こうに寄せてくれた。
なにせ、あたしは雑な女だから気を付けていても汚しちゃうかも。
それだけは避けたい。

「君がこれを作ってくれるのかい?」

「失敗するかも。頑張ってもお母様には及ばないと思う。」

だって、母親の愛情は特別。
それに彼女は間違いなく彼らを愛していた。

ノートがそう言ってる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...