【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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番外編

番外編 タカの我欲のままに 4

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あたしが好きなのは、歌に躍り、馬車、それから料理。
料理は大好き。
ストレス発散になるし、好きな味に出来る。

女ばっかの集団でいると何もかもがとっ散らかってくる。
皆が綺麗で整っているのは外を歩く時間の全て、だけど。
宿に泊まったりした時は悲惨だよ。

服は脱ぎっぱ、靴は転げ回って次の日には片っぽ無い。
だから次の日に皆でぎゃあぎゃあ騒ぎながら探す。

だから食事は最悪。

普段なら。
誰に何を勧められてもそれが客なら淡く微笑んで唇を開く。
当然、交わし方も分かっているけど、キスは与えられた果実の味の方が良いだろう?

あたしたちが歌い踊る場は限りなくそういう場だった。

そんな女たちが誰に気兼ねするでもなく、食事をするなら何を食べると思う。
とても男には見せられないような大口を開けて、血が滴る肉にかぶりついたり、一人で大きなケーキを平らげたり、温野菜をこれでもかって程に食べたりする。

あたしはそんな彼女たちの食事を作った。
誰が何が嫌いだとか、今日はみじん切りにしないと食べたくないとか、卵が無いと嫌とか。
彼女たちは散々リクエストを聞かせてくれた。

まぁ、最悪ってのは言い過ぎかもね。
あたしも風変わりなリクエストは面白かったし、作る量が増えればあたしのストレスも減った。
叩ききった野菜には感謝しかないよ。

でも、ケーキは無理。
ケーキに限らずお菓子は全部、無理。
苦手。
手間と神経が掛かりすぎる。

思い出しても嫌だ。
普段なら、”菓子ならあたしに頼まないで買ってこい”って言うんだ。
でも、あたしたちはどうしようもなく女だったから。
どうしてもケーキが食べたい時があるんだ。

あたしも時々、ある。
3ヶ月か、半年に1回くらいでどうしてもケーキが無いと何も乗りきれないって時がある。
それまではポリポリ菓子を摘まんでた娘たちや、普段は肉しか食べないような、砂糖嫌いの娘達までもが金を握ってあたしの所に来るんだ。

「ナタリアぁ~っ、おねがいぃいいいっ。」

あたしは細かいのは苦手なんだ。
歌も躍りも結局は好きにやってしまう。
だから、分量通りに量ったり粉を振るったり、とにかくパパっと出来ないのが苦手なんだ。
ケーキなんかその筆頭だよ。
なにもかもが準備と、手順をきちんと守らないといけない。

まるで偉い人のパ=ティーみたいに。
マナーも仕来たりもだいっきらいだ。
しかも、ケーキは仕事じゃない。

彼女たちがその身ひとつで稼いできた金で作るケーキだ。
材料費だってバカにならない。
この金があれば3日は夕飯が豪華になるって言うのに、彼女たちはケーキを食べたがった。


「あの日々は無駄じゃなかったよ。」

この国には、勿論仕事できていた。
冬の仕事は楽でありがたい。
お屋敷はどこも暖かくて、あたしたちにも暖を整えてくれる。
そんな仕事の帰りだった。

雪まみれの格好で隈が濃くて、髭も髪もボサボサの男があたしを貰ってくれるって言うんだ。
この国の神話は知っていた。
だから、そういう人が現れたら言いねって話もしたけど。
まさか、あたしだとは思わなかった。

それに、医者の卵だって言う。
金も心配なさそうだし、あたしの下の世話もしてくれるって言うんだ。
おかしかった。
今まで、そんな事を言う男は居なかった。
酒が入ってようが、無かろうが女を口説くのに下の世話を持ち出すなんて。

久しぶりに腹を抱えて笑った。
ひーひー言って、もしかしてと思ったら仲間も笑ってた。
まぁ、半分は呆れて笑ってたけど。
それでも、長い付き合いだから言いたいことは分かった。
女同士だしね。

彼はいい人だと皆が思った。

あたしもそう思ったけど、まさか彼の兄までは予想しなかったよ。

でも悪い人じゃない。
恋人とひどい別れ方をした、とベルが言っていた。


でも、最近はそうでもない。
なんでかこの兄弟はあたしを鹿に似てると言って太ももや、手首を触ってくる。

ベルは患者を助ける合間に、あたしに似合うと言って限りなく無害な爪染色を作った。
黄色と少し茶色が入ってる。美味しそうな小麦色。
それで、何故か鹿ってだけでピンを買ってきたデルモントはあれから随分良くなった。

良く分からないけど、多分あの鹿はあたしへの贈り物だったと思う。
だから、あたしもこうして苦手なケーキを焼くことにしたんだ。

だって、今日は二人の誕生日だから。

彼のお母様はすごい。
3歳差で同じ誕生日に二人を産むなんて。
そんなお母様のレシピを以外にもデルモントが持っていた。

「ただいまぁ~」

「おかえりベル。」

しまった、粉まみれの手だと彼を抱き締められない。

「ただいま美人さん。今日も美しいね。ところでそれは?」

そんなにしみじみ言わなくても分かってる。
デルは夜勤明けで帰ってくると必ずあたしに美しい、って言う。
誉めすぎだと思う。

「これは、お母様のレシピを真似してるとこ。見てここ。」

あたしはこの兄弟に幸せが訪れることを祈ってる。
勿論、仲間たちにも。
全ては無理でも、あたしの両隣だけは幸せにしてあげたい。

彼らのお母様がノートの隅に書いた一言があたしをそうさせた。
通りにはあたしでも知ってるようなベイカーがあるけど、あたしはこのレシピを再現する。

「なにか書いてあるのか、ん、んん?これ、母さんの字じゃないか!?」

「そうだよ働き者さん。ほら、ここ見てよ。」

粉まみれの手でもノートを汚さないように再度指を指せば今度こそベルは言葉を失った。


「これ、どこにあったんだ。」

「お兄さんが持ってたの、借りてきたんだ。」

「そうか、まだあったんだな。」

「好きに使えって言ってくれたけど、汚したくないから。」


察してくれて、もう少しだけノートを向こうに寄せてくれた。
なにせ、あたしは雑な女だから気を付けていても汚しちゃうかも。
それだけは避けたい。

「君がこれを作ってくれるのかい?」

「失敗するかも。頑張ってもお母様には及ばないと思う。」

だって、母親の愛情は特別。
それに彼女は間違いなく彼らを愛していた。

ノートがそう言ってる。

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