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番外編

番外編 タカの我欲のままに 1

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鳥が、窓ガラスを叩いている。
かれこれ3日。
毎朝こうしてやってくるのを無視し続けている。
しばらくは窓辺で私が動くのを待っているのだが、一時経てば何処かへ飛んでいってしまう。
この寒空の中、可哀想だとは思うが彼らはただの鳥ではない。

この国で彼らは神の遣いなのだ。

「だが、今日は飛んで行った方向が違うようだな。」


これで良い。
そう自分に言い聞かせている。
私の番は彼女だけで良かった。

ーーーリタ、彼女だけだったのだ。

彼女だけがその表情、その体温で私を救ってくれた。

私の中の二人を別った原因である出世欲は彼女との日々を失った今でさえ滾り続けている。
むしろ拍車が掛かっているように思うが、仕事に追われる日々は心地が良い。
疲労困憊になるまで肉体と脳を酷使する。
それによって磨かれる知識欲と言い様もない達成感に酷く高揚する。

これは私たちの”性質”だ。
今更もう変えようが無いと、何度も思い知らされている。
そして彼女を失って漸く、この性質を受け入れ始めている。

遅すぎた位だ。

ーーー私もまだまだ、青い。

こんな寒い日に、彼女はよく私の書斎に来て暖炉の側で編み物をしていた。
細い指先で黙々と編むその時が私には愛しかった。
この机から眺める君の横顔にどれ程の価値があったと思う。

君の真剣な横顔がどんなに美しいか語って聞かせたことは無かったけれど君は分かっていた筈だ。
私も君が怒っているときの目は直ぐに分かった。
何時にも増してギラっと輝く君の瞳はとても美しかった。

「ふっ。」

彼女を連れて過ごしたあの家はとうに売りに出したんだ。
母も呆れるほどの華美な装飾のせいで中々に買い手が付かないでいる。

私も弟も装飾品には一切の興味を示さなかった。
父は嘆いていたが、母は強気に言った。
自分達が死んだら売り払って遺産にしなさいと。
横で悲鳴を上げる父に「あの世に絵は持っていけません」と一喝するような面白い人だった。

金や銀の骨董品はすぐに売れたんだがな。
壁紙や柱や窓の装飾が良くないそうだよ。

そう言えば君もあの家が苦手だった。
廊下の壁に飾ってある鹿の剥製は夜中に見ると相当だものな。
思い出しても小さな笑みが浮かんでくる。

どれも遠く、今は決して私のそばにもう居ない。
父と母。
そして彼女の思い出と、まあまあな財産と名声だけを胸に死んでいくのだと、そう思っていたが。

”運命”というものがまたしても私に付きまとい始めている。
鳥が来たという事は、そういう事。
私の番がこの国に居る。

神が身を裂くほどに焦がれた愛を私は遠退け避けている。
そんなものの為に彼女は私から身を引き、神が遣わした鳥に従い別の男の元へ行った。
彼女が私の番で在るべきだった。

「兄さんっ、!起きてるか兄さん!聞いてくれ、紹介したい人がいるんだ!」

私の家の扉をこんなにも騒がしく開けるのは我が弟だけだな。
居もしない者へ思いを馳せるより生きてこんな私の事を気に掛けてくれる我が弟を迎え入れなくては。

「ベル、私はまだ昼食を摂っていな、い...っ、」

びぅ、と冷えた空気と共に一迅の風が吹き込んできた。

それは。
私と同じ瞳を持っていた。
それは鋭い爪を持ち、小さな身でありながら、風を捉える空の王。


「... ... お前の鳥がここまで着いてきたのか。」

「いいえ兄さん。あれは、俺のじゃない。」


やはり運命はやって来た。






私たちの両親は’’運命”には従わなかった。

そもそも何時出会えるかも分からない代物なのだ。
この国にいて、若くして会えれば良好。しかし、神の遣いは何故か国を越える案内はしない。
つまり、番が他国にいるとなれば奇跡が起き、この国に相手が入ってこなければ決して出会えない。

それどころか歴代の中には異世界からやって来る番までもいるのだ。
どんな奇跡も起こりうるがそれを待っているほど、我々は暇ではない。
恋は運命よりも容易く、命はそれよりも儚い。

我々は自分で愛しい人を選んだ。
父もそう。

私たちの父はタカの獣人だった。
母は、ワシの亜人でその特徴は遠くまで見える鋭い瞳だけだった。
見た目は人間とさほど代わり無い。
更に、タカとワシの明確な違いは無い。
からだの大きさ、という実にアバウトな見分けぐらいしか付かないのだが。

ーーー流石は神の遣い。

私たちの性質の違いを分かっているようだ。
弟はその賢さと優しさ、思想の強さでワシの特性をよく現していた。
一方の私は賢さに加え、厳しさ、そして強すぎる欲望を有している。

父だけがこの苦悩を分かっていた。
この苦しみは我々にしか分からないものだと慰めてくれた。
ひとはそれを”我欲”と言う。

「ちょっとお邪魔しても良いかしら?」

場の空気に耐えかねたのか玄関に立ち尽くす私たちに弟が連れてきた女性が口を開く。

「つまり、あたしの旦那様はあなた達兄弟ってこと?」

「どうやらそのようだな。」


ーーーだが、私の心は決まっていた。
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