7 / 77
番外編
番外編 ライオンの旦那 前篇
しおりを挟む俺は今、豪華な自宅で。
虎と触れ合おうとしている。
虎とはその通り、百獣の王と言われるあのライオンを、俺はなんと背もたれにしている。
程良い筋肉質な体躯は俺が体重を掛けて寄りかかってもビクともしない。
さらに例え動物園のライオンといえど猛獣というイメージは拭えない生き物だが、このライオンに限っては決して俺を傷付けない。
何故なら、これが俺の“旦那”だからだ。
俺、木原時昭は池に頭から落ちたら、ライオンの獣人さんと番になりました。
ーーーまだ、致していないけど。
「怖いか。」
「… … 若干、」
「好きに触って良いぞ。噛まないし唸らない。爪も立てない、お前に忠実なかわいらしい猫だ。」
「かわいくない、」
かわいくは無いし、何なら絶賛“怖い”まっしぐらだよ。誰がライオンと寄り添って呑気に背中なんか撫でてやれると思うんだよ。
そんな日本人俺は一人しか知らねぇよ!?
それでも俺はこのロードマップに足を掛けた。
正確には手だな。やってやる。生きてみせる。そう決めたんだ。
だからまずは触れ合って、慣れるところから。
残念だけど俺は犬派だ。猫も可愛いけど、飼ったことがない。あんまり触る機会もなくて、俺の短い人生で猫に触れたのは3回ぐらいだ。
それがいきなり、ライオンだなんてハードルがバカ高すぎるだろ。
「理性も意識もしっかりしている。一思いに触ってみろ、男の子だろうトキ?」
「うっ…じゃあ…ぃ、いっきまーす、」
もふ。
もふ。
もふもふ…もふっ。
もふもふ。
結論。
最高。
「ぉおおおっ‼︎もふもふだぁっ!凄え柔らかいっ!もふもふだぞエル、!あんた凄いなっ!指がここまで埋まる。」
木原時昭 27歳 男。
もふもふは偉大だと知る。
柔らかくて、しっかり身体の厚みもあって。
これは揉みごごちが良すぎるぞ。
更に、エルの体温が温かくて堪らない。
もう何といえば伝わるのか。
冬のあったかい毛布と炬燵と、みかん並に居心地が良い。
もう一生ここで眠りたい。
「随分だらしない顔になっている。」
「んふふ。エルきもちいいねぇ。」
真っ昼間からなんて贅沢な気分を味わっているんだ、と思うとゴリッと何かに額を押された。
「ひぃ、」
パッと目を開けて先には大きな口が見えた。
それがガパッと開いて、閉じた。
「あ、くび…?」
「これでも緊張しているんだ。」
「あぁ。そっか…エルもそんな事思うんだな。」
「お前に嫌われたくないからな?」
穏やかな口調でそんな事を言う。
それは本当なのか、からかっているのか。
どっちか、なんて。どっちでも良いのか。
俺たちはこれからお互いを理解していく所なんだから。
「エル。」
「ん?」
「このまま、ここで寝ても良いかな。」
そこはリビングの床だ。
エルに負けないほどのふかふかな絨毯が敷いてあるが。
「此処では体を痛めるぞ。」
「いい。ここで寝たいんだ。」
「そうか。」
「うん。凄く…よく眠れそうなんだ…」
「そうか。良い夢を。」
温かくて甘くて、近いようで程よく遠い。
今の俺たちの心の距離はそんな所なんだろうな。
その日は一日、俺はライオンのエルと過ごした。
流石に風呂やご飯は人型の方が過ごしやすいそうで。でもライオンでいる方が気が楽なのだという。
「おやすみエル。」
「おやすみトキ。」
エルがライオンのままベットに乗ると、ズッとマットレスが傾いて面白かった。
しかもデカくて、無駄に広いベットの意味がよく分かったよ。
でもお陰で、側にいるのがよく分かって。
俺はその日こちらにきて、1番安心して眠れたかも知れない。
10
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる