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番外編
番外編 ライオンの旦那 前篇
しおりを挟む俺は今、豪華な自宅で。
虎と触れ合おうとしている。
虎とはその通り、百獣の王と言われるあのライオンを、俺はなんと背もたれにしている。
程良い筋肉質な体躯は俺が体重を掛けて寄りかかってもビクともしない。
さらに例え動物園のライオンといえど猛獣というイメージは拭えない生き物だが、このライオンに限っては決して俺を傷付けない。
何故なら、これが俺の“旦那”だからだ。
俺、木原時昭は池に頭から落ちたら、ライオンの獣人さんと番になりました。
ーーーまだ、致していないけど。
「怖いか。」
「… … 若干、」
「好きに触って良いぞ。噛まないし唸らない。爪も立てない、お前に忠実なかわいらしい猫だ。」
「かわいくない、」
かわいくは無いし、何なら絶賛“怖い”まっしぐらだよ。誰がライオンと寄り添って呑気に背中なんか撫でてやれると思うんだよ。
そんな日本人俺は一人しか知らねぇよ!?
それでも俺はこのロードマップに足を掛けた。
正確には手だな。やってやる。生きてみせる。そう決めたんだ。
だからまずは触れ合って、慣れるところから。
残念だけど俺は犬派だ。猫も可愛いけど、飼ったことがない。あんまり触る機会もなくて、俺の短い人生で猫に触れたのは3回ぐらいだ。
それがいきなり、ライオンだなんてハードルがバカ高すぎるだろ。
「理性も意識もしっかりしている。一思いに触ってみろ、男の子だろうトキ?」
「うっ…じゃあ…ぃ、いっきまーす、」
もふ。
もふ。
もふもふ…もふっ。
もふもふ。
結論。
最高。
「ぉおおおっ‼︎もふもふだぁっ!凄え柔らかいっ!もふもふだぞエル、!あんた凄いなっ!指がここまで埋まる。」
木原時昭 27歳 男。
もふもふは偉大だと知る。
柔らかくて、しっかり身体の厚みもあって。
これは揉みごごちが良すぎるぞ。
更に、エルの体温が温かくて堪らない。
もう何といえば伝わるのか。
冬のあったかい毛布と炬燵と、みかん並に居心地が良い。
もう一生ここで眠りたい。
「随分だらしない顔になっている。」
「んふふ。エルきもちいいねぇ。」
真っ昼間からなんて贅沢な気分を味わっているんだ、と思うとゴリッと何かに額を押された。
「ひぃ、」
パッと目を開けて先には大きな口が見えた。
それがガパッと開いて、閉じた。
「あ、くび…?」
「これでも緊張しているんだ。」
「あぁ。そっか…エルもそんな事思うんだな。」
「お前に嫌われたくないからな?」
穏やかな口調でそんな事を言う。
それは本当なのか、からかっているのか。
どっちか、なんて。どっちでも良いのか。
俺たちはこれからお互いを理解していく所なんだから。
「エル。」
「ん?」
「このまま、ここで寝ても良いかな。」
そこはリビングの床だ。
エルに負けないほどのふかふかな絨毯が敷いてあるが。
「此処では体を痛めるぞ。」
「いい。ここで寝たいんだ。」
「そうか。」
「うん。凄く…よく眠れそうなんだ…」
「そうか。良い夢を。」
温かくて甘くて、近いようで程よく遠い。
今の俺たちの心の距離はそんな所なんだろうな。
その日は一日、俺はライオンのエルと過ごした。
流石に風呂やご飯は人型の方が過ごしやすいそうで。でもライオンでいる方が気が楽なのだという。
「おやすみエル。」
「おやすみトキ。」
エルがライオンのままベットに乗ると、ズッとマットレスが傾いて面白かった。
しかもデカくて、無駄に広いベットの意味がよく分かったよ。
でもお陰で、側にいるのがよく分かって。
俺はその日こちらにきて、1番安心して眠れたかも知れない。
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