【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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第一章:キハラ トキアキ

第五話

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俺がこの国に落ち着いたのは、ひと月程経ってからだった。それまでは、とにかく具合が悪かった。日がな一日眠りこけていたり。かと思えば、高熱が出てうなされたり。

たまに何ともないかと思えば、ぼーっとして頭が回らず。
気が付けば夕方だったりする。

親父やお袋には悪いことをしたな、と。それだけが心残りだが、思い悩んでもどうにもならない事だ。

そういう所は、大人になって良かったと言える。

何と言うか。
諦めは肝心だとよく言うが。
本当に、歳を食うほどに悩みは増えていく。
しかも、そのどれもが解決のしようが無いものばかりになっていく。

政治に金に、人間関係。
そういう時は諦めが肝心だ。
どうにもできない時は、もうそれで良いのだ。

代わりに、出来ることにベストを尽くす事だ。

出来ることと、できないことが分かって来たからこそ言えることだな。


俺は此処でも、とにかく出来そうな事を考えてみた。
極論だが、誰でもやって出来ない事は無い。

たった一人、俺にも尊敬する先輩がいた。
その先輩は妙に効率重視で、もたつく事が大層嫌なのだそうだ。

「想定できる事があるのに、何故想定しておかない。」

そんなことを素面で言うような人だった。
実際先輩の言うことは正しかったし、先輩がミスをするところを俺は殆ど見た事がない。

一度本気で聞いてみた。

「先輩は、ミスしたことあるんですか?」

「有るに決まってるだろう。」


冗談だと思った。
常に予測をたて、対処法をいくつも持っているような人が一体なぜ失敗するのか。

「今でこそ、教育係なんてやっているが。俺の新人の頃は今の所お前より酷かったぞ。」

「えっ!?嘘だ!」

「嘘じゃない、」

先輩が珍しく、目線を逸らして否定したのを覚えている。

「本当に、新人の頃は酷かったんだ。お前、この間部長に頼まれた資料コーヒーぶちまけただろう。」

「はい。」

「俺は。たまたま視察に来ていた社長の靴にコーヒーをぶちまけた。」

「ひっ!?マジっすか!?」

「しかも、喫煙所でな。」

当時新人の先輩は、たまたま喫煙所で一緒になったひとがまさか社長とは知らなかったそうだ。
その時はそれで済んだが、そこから先がまた酷かった。

これまた退社時に、その社長を見つけた先輩がただの社員さんだと思って謝罪に駆け寄ったそうな。
そこには、今の部長も居合たらしい。

ことの顛末を聞いた部長はお冠で。

「そこから1週間、署内の窓拭きをさせられた。」

その時、先輩が教えてくれたのだ。


「他人ができるのに、自分ができないなんて思うな。俺だって、普通やらないようなミスまでやったから最悪の状況が想定できる様になっただけだ。」

ーお前も社長の靴にコーヒーをぶち撒ければ、考えるだろ?ー

そりゃ、そうだが。
出来れば俺はそんな目には遭いたくない。

だから、考えるようにしたのだ。
先輩ほどの度ミスをやらかさない為に、ロードマップは隅から隅まで踏破しようと。

だから、此処が異世界でも変わらない。
俺は、俺のロードマップを踏破するだけだ。

そうは言っても、俺の話し相手は専らおじいちゃん先生なのだが。
エルムディンさんが、他の人を近付けたくないのだそう。

「そうじゃのお。」

おじいちゃんが俺に聴診器を当てながら、話してくれる。

「最近はこの国の知識も入っておるので。次は文字かのう。」

「そうですよね。」

この国にもペンや鉛筆、ノートが揃っている。
リサイクルが徹底されているこの国の紙は、少し黄色掛かっている。懐かしいな。

昔、学校でこういう紙を使っていた。

俺は勉強のためにと、与えてもらったノートに日本語でメモをとっていた。

「今日はお出になるので?」

「うん。半日休みなんだって。」

俺とあの人の距離は、未だ微妙な真綿を含んでいた。

「お互い思い合っておるのは、見え見えなんじゃがの?」

「俺もそう思います。」

それでもその真綿の距離が縮まらないのは、さて。
俺があの人に至らないと思っているからなのか。
あの人が、俺を巻き込むまいとしているからなのか。

それを話し合えるほど。
俺たちはまだ。


「そう、思い悩むものではありませぬ。」

そうおじいちゃんは言ってくれる。

「そうだよな。」

俺のロードマップ、最前の一歩は。

「一先ず、これだな。」

もう一度ノートに目を落とす。
まずはこれから片付ける。

愛の囁き方はそのあとで、学ぼう。


ーーーん?誰に学ぶんだ?
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