START-UP 天才の"左腕"は魔道義手

mimimi456/都古

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第九話

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あれから僕は人生初めての事情聴取という奴に呼ばれた。

場所は、昨日僕がお邪魔して泣いた応接室。
扉続きの隣の部屋は執務室らしい。

「犯人の目星が付いた。」

「早いね。」

昨日の今日で犯人の目星が付くなんて、素晴らしく早いね。
それで、なんでそんなにカビ臭い顔をしてるのか聞いても良いのかな?
ジメジメしてて、キノコが生えそう。

「ダニエル、昨日君が張った結界について詳しく教えて欲しい。」

「良いよ。何か気になる事でも?」

あの日僕が張った結界の効果は、三つ。
一つ、結界内の人間を気絶させる。
二つ、結界内の人間を閉じ込める。
三つ、但し警察官は自由に出入り出来る。

「本当に凄いな君は。」

そう言えば、僕が何故彼をロイと呼ぶのか話して無かったね。
それは、僕がよく研究所を爆発させたり、法律スレスレの魔術を展開したりし続けて、その度に警察官が異変を察知するからだ。

流石の僕でも警察のシステムを無効化する事は出来ない。
何度か掻い潜ろうとはしたんだけどね。
どれも失敗しちゃって、何度目かのサイレンで彼が来た。
呆れ顔で肩をすくめてね。

「ひとつ確認したい。」

「勿論っ。」

「その結界を擦り抜ける事は可能かい?」

「うーん。」

僕は、そうだね。要領が悪いんだ。
トキみたいに一から十まで考えてそれを順番に熟す、なんて器用な事は出来ない。
ロイの奥さん、ユディール君は一から飛躍して六くらいまで考え付く頭の柔らかい人なんだけど。
僕は、何度も何度も試して間違って、こっちの可能性を潰して正しい道を探す以外の方法は向いて無かった。

だから、そうだね。

「抜け道はあるかも知れない。魔術は機械じゃない。」

あの時、結界に付けた条件は三つ。
この中で漬け入り安そうなのは言わずもがな三つ目だと僕は思う。
警察官は自由に出入り出来る。

あの日あの場に居た人達を、警察官とそれ以外に分ける為に僕は彼ら警察官に腕章を着けてもらうように言った。

「腕章を予め用意して、通り抜けたとかどう?」

「腕章を、となると制服か。確認してみるよ。他には。認識阻害の魔法なんかは考えられないか?」

「あの屋敷の魔術から言って、僕より高度な認識阻害が掛けられていたらお手上げだけど、そんな反応は僕の方では感知出来なかったよ。」

警察官に化けるか、透明人間になるか、そうじゃないとすれば。
考えられる手はあと一つだね。

「被害者の中に犯人が居た、とか。」

それなら説明が付く。
彼女達はかなり疲弊していて、足取りも覚束無くて勿論一人では結界も通れない。

但し、警察官と一緒なら話は別だ。
並んで歩けば通り抜けられる。

「そうか。やっぱりそうなるか。」

僕はロイの変な口振りが気になった。
やっぱりそうなるか、ってそれは犯人の目星と言うか、まるで。
もう何処の誰か分かってるみたいじゃないか。

「ダニエル、写真を幾つか見てほしい。」

僕に取っては古き良き懐かしのポラロイド写真。
おじいちゃんの家に良く飾ってあったんだ。
けれど、ここじゃ現役最先端のカメラだね。

目の前のテーブルに写真が次々と並べられていく。
6枚。

「この中に見覚えのある顔は居る?」

自慢じゃないけど、僕は興味無い人間の顔なんて覚えられない。
ごめんね、って思いながら眺めていく写真の5枚目に、まさか自分でもこうなるとは思わなかったよ。

「この子、見た。」

「何処で?」

「えっと、あの、女の子たちが沢山押し込められていた部屋だよ。そこで一番手前に座ってた、目が合って焦点もしっかりしてたからパスワードを何にするか聞いたんだ。」

「パスワード?」

「そう。まだ屋敷に変な奴がいるかも知れないと思って、あの部屋にも別で結界を張ったんだ。そこの解除コードを彼女と決めた。何にするって、僕が聞いて彼女はシトロンが良いって答えた。ママのケーキだからって。」

それは、僕が今までに経験した何よりも重い沈黙だった。
誰も何も一言も話そうとしない。
皆が息を詰めて、体をこわばらせた。

「彼女がどうかした、の」

僕の声にいち早く反応したのは、他でもないダーリンだった。
けどそれは僕の為の反応ではなくて。
ひとつ舌打ちをして、応接室を出ていってしまった。

ロイが誰かコーヒーを、と言うので一緒に居た警察官も部屋を出て行った。残ったのは僕とマルロイの二人だけ。

「僕は何かした?」

「いいや、君は貴重な目撃者で御手柄だ。それは間違いない。」

「その割には、」

「そう。その割には、空気が良く無いのは彼女とニコラスに深い因縁があるからだけど。僕の口からそれを言う訳にはいかない。彼から何も聞かされてないんだろ。」

「何も、聞いてない」

「でも、今なら話すべきだ。君もこうして関わってる。被害者でもある。十分聞く権利があると僕は思うよ。」

「けど、ニックは話したがらない。」

何時もそうだ。
僕だっておしゃべりで大抵の事は聞き出したり引き伸ばしたり、はぐらかしたり出来るのに。
僕は、肝心なおしゃべりをした事が無い。
当たり障りなく話すのは得意だから。

初めてどうして腕を無くしたの、と聞いた時も。
僕としてはかなりの勇気を振り絞って、口に出したんだ。
すると、狩りで無くしたと答えてくれた。

相手がどんなだったのか聞くと、首を振って答えを濁した。

それで、良いと思う。
僕は彼の意見を尊重する。
話したく無い事は話さなくて良い。
話したくなったら、僕は聞いてみたいってだけで。

けどニックは。
僕が聞けば大抵の事には答えてくれた。
僕の10分の1も喋らないけど、何時もさりげなく手を握りたがるのは彼だし。朝のキスは毎回あぁしないと嫌がる癖に、帰ってきた時のキスは何時彼が寄って来る。

だから、話したく無い事は聞かない。
それでも僕達の信頼は成り立っていると信じている。

「彼は無口がトレードマークだからね。」

ロイがテーブルの端を人差し指でトン、と叩く。
僕も他に言う言葉が見つからず、またトントン動く指を見ていた。

「けど、話したいと思って居たりもする。タイミングが掴めないだけでね。僕はそうだった。」

「そうかな。」

「僕もユディール君に初めはよく疑われた。御伽話の神様なんかと思うかも知れないけど。この国に住む獣人にとって、君達"右腕"は何よりも手にしたい拠り所だと言える。君は自信を持つべきだダニエル。手負いの獣をあれだけ手懐けているんだからね。」

さぁ、と言われ僕は応接室を追い出された。
何処に行けば良いのかは分かる。

ダーリンの魔力は例え極僅かでも僕は感知出来る。

「手負いの獣、ね。」

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