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第五話

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バコバコ歩いて広い屋敷の中を歩き回る。

僕はねぇ、そういえば結構容赦がない人間だったなと思う。

好きな人は好き。
嫌いな人はずっと嫌いだった。
好きだったとしても、一度嫌いになってしまえば。
もう美徳を見つけ出すことはない。
例え見つけたとしても、僕の信頼を取り戻すには結構な時間が掛かると思う。

僕は敬虔なクリスチャンでは無いけれど、僕は僕の心には従ったし、僕自身の勘を信じた。
良い悪いの基準は法律と、道徳と、ほんの少しのマナーによって決まる。
そんなだから、僕は友達も少なかった。
でも、深くない仲の友達も、横を見て安心するような仲間も必要とは思えなかった。

でも、僕を害さない限りは良い人だし僕も知り合いだと位は言っても良い。

でも、今回のこれは違うと思うんだ。
僕の夫を誘拐し、僕の気分を酷く害した。
それだけで、彼らは僕と同じだけの痛みを味わう義務があると思うんだ。
だから、僕はもうこの屋敷で誰に会ったとしてももう優しく出来ないと思う。

それなのに、途中の部屋で女の子を見つけた。

隠し部屋だ。
魔法で封鎖してあった。
これに、マルロイ達は気付かなかったのかな。
そうだとしても無理はない。
これは、実に巧妙だ。

でも、間抜けでもあった。
パスワードを付けてなかった。
僕ならそうする。

向こうの世界なら誰しもがパスワードを付ける。そうでしょ。
だって、プライバシーを守りたいならそうしなきゃ。

だから、僕はうっかり開けちゃったんだよね。
例えるならトイレの個室の鍵みたいなもので、外からは開けられないけど中からは開けられる。
あと、姑息な手を使うなら上から忍び込むとかね。

僕はその姑息な方の手を使った。
勿論、中から開けられたのは限られた人物だけなんだろうね。
そうじゃなきゃ彼女達はここに閉じ込められてたりしない筈だ。

ここで何が行われていたかは僕でも分かる。
彼女達は酷く痩せて、瞳が虚ろになっていた。

僕の術もここまでは届かなかったらしい。
彼女達は気絶してなかった。
せいぜいが気持ちの悪い目眩かな。

「今、警察が来てる。もうすぐここにも辿り着く筈だから安心して。」

友達が少ないとこういう時に困るのかもね。
ごめんね。僕はもう少しコミュニケーション能力を磨いておくべきだった。
こんなとき、何て声を掛ければ良いのかが分からない。

取り敢えず、血を吐いてる子達は居ない。

僕は落ちていた石ころに術をかけた。
生憎、刃物は渡してあげられないけど、これなら彼女達の手足を自由にしてあげられる。
手前にいた一番マシそうな女の子の縄を解いて僕は部屋を出よう。

彼女らからすれば、僕がいるだけで気分が悪くなるかもしれない。

「これで、他の子達の縄を解いてやって。結界を張ってるからまだ屋敷の外には出られないけど、警察が来てる。ここの奴等は殆ど気絶してる筈だけど、一応まだこの部屋にいた方が良いかも知れない。」

少女は見たところ15か16か17か。
辿々しくも、僕の言うことに頷いて見せた。

「心配なら此処にも結界を張って行こうか。良い?」

少女は深く頷いた。

「誰も入れないようにする、でもそうすると君たちが出られなくなるからパスワードを付けたいんだけど、何が良いかな。君達が出るときの魔法の言葉がいるんだ。」

少女はポロリと乾いた唇を動かした。
聞こえたのは小さな声だ。

「なにを、つける、の。」

「結界だよ。誰も入って来れないように出来る。」

「うん。」

「そこの扉に誰も入れないように魔法を掛けるんだ。でも、出るときには合言葉が要るから何か”言葉”を教えてくれるかな。」

何でも、君の好きなものでも良いよと付け加えた僕に少女は良いパスワードを思い付いたらしい。

「シトロン」

「シトロン?」


今度は僕が聞き返す番だった。

「ママのケーキ。だめ・・・?」

「ううん。駄目じゃない。シトロンケーキ僕も食べてみたいな。ここを出るまでの辛抱だから良く聞いて。」

僕はもう一度結界の仕組みを説明して、今度こそ部屋を出た。
良い子だ。僕の話をよく聞いて理解していた。
縄も切ってあげていたから大丈夫。
この屋敷を出るまでは保つかも。

僕はまたバコバコ靴をならして奥へ進む。
途中やっと見つけた警察を捕まえて、彼女達の部屋に行くように言い付けた。
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