START-UP 天才の"左腕"は魔道義手

mimimi456/都古

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第四話

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「ダニエル、結界を張ってくれるかい?」

「結界だけで良いの?」

「それは、良い度胸だね。爆破でもするのかい?」

「可能だよ。逃がすよりはその方が好都合でしょう。」

「それは次の機会にお願いするよ。まずは君の夫を取り戻さないとね。」

僕たちは郊外の外れにある古ぼけた屋敷に辿り着いた。
ここは以前、高貴な人の別邸だったらしい。
それも少し曰く付きの。

本当に、愛というのは突然にやって来て、恋というものはもっと単純にやって来る。
目が合ったとか髪がブロンドだとか胸が大きいとか。
そんな理由で恋に落ちるのは向こうもこっちも変わらないらしいね。
此処に住んでいたのは、人間と亜人の恋人たちだった、らしい。
ここまでは別に珍しくは無いでしょ。
でもある時、その人間の方に鳥を連れた獣人が現れた。

魂の片割れと、人間と、その恋人の亜人。

そこから見出される苦悩とか泥沼劇に僕は興味無いけど、なんとも言葉にし辛いものが有るかもね。
でも、きっと本人達にしか分かり得ない事情がそこには有ったんだと思うよ。
そんな屋敷にならず者が住み着くなんて、嫌な気分だろうね。僕ならそう思う。


「ダニエル、そちらの首尾は出来てるかな。」

「良いよ。君達が突入するのと同時に、僕が屋敷の人間中を気絶させる。それからきっかり60秒で結界を発動させる。皆、腕章は着けてるよね。」

「あぁ、勿論だけど必要なら再度確認させよう。」

「分かった。必ず付けさせて。結界の出入りをする時の認識コードに腕章を入れるから、付けてない人は出られなくなっちゃう。」

「...相変わらず、凄いな君は。」

「ありがとうマルロイ。君達が突入した後、僕はどうすれば良い?」


ここにいて、とマルロイは言った。
それは良いけど僕は一体何をしたら良いんだ。
勿論、ここまで着いてきたのは僕だし、力になれると思ったからそれで良かったんだけど。
僕の仕事はたった今、ここに彼らを案内してひとつ終わった所だし、次の仕事はもう数分先になりそうだ。
マルロイが今、隊員に腕章を着けるよう指示を飛ばしている。

それで、中の連中をクラッシュさせて突入したあと僕はどうしたら良い?
どこか冷静で居られたのは本当に彼が捕まっていると、分かるまでだ。
どこかで思ってたんだ。
僕のダーリンは凄腕だから、本当は返り討ちしたけどワザと捕まってるんだとそう思ってたんだけど。

ーーー実際は、違う。

今、僕の目の前で沢山の警察官が突入の準備をしている。

もう間もなく開始されるだろう。

「ダニエル。」

ほら来た。
スリーカウントだ。

沈黙の中、立てられた指が3・2・1と減り、最後1本になり、4本指がゴーサインを出した。
先頭の警察官がドアを蹴破り雪崩れるように突っ込んでいく。

さぁ、出番だ。


「STARTUPー起動ー」


起動確認。コード確認。
範囲確定、効果確定、
付与魔法確定、概要補正複確定。


「RUNー実行ー」

突入は音もなく行われた。さらさらと静かに部隊は屋敷へと滑り込んでいく。
それもそうだ。僕が逃がさず、死なせない結界を作動させたからだ。

人間の体は簡単に混乱する。僕らは繊細で脆い生き物だからね。

例えば、三半規管。
耳の奥にある平衡感覚を監督する器官で、詳しく言うと面倒だから省くけど、砂が有るんだ。
その砂が動くことによって、人間は上下左右奥行きの感覚を脳へと伝達している。
つまりはその砂を激しく揺さぶってやると、かなり不快な気分になる。
例えば、後ろから思いきり殴り付けるとか。
もしくは、視界を乱反射させたりすると、軽い吐き気から立っていられない程の目眩まで。
俗に言う乗り物酔いだけど。
今回は僕の特別製だから、皆にしっかり気絶してもらう。
最悪だと思うよ。
あぁ、勿論。この術に僕のダーリンは含まれていない。


さぁて、僕はこれからどうしようかなぁ。

不思議と、さっきまでは何をしようとか、どうしようとか思ってたけど。
やる事をやってしまえば、僕の望みがはっきりと分かった。
ちゃんと結界も張ったし。

僕は僕の大事な人を助けに行くんだ。
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