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第二十一話 最古の御伽話

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今は昔竹取の翁といふ者ありけり
野山に混じりて竹を取りつつ
よろづのことに使ひけり
名をば讃岐の造となむ言ひける
その竹の中にもと光る竹なむ一筋ありける
あやしがりて寄りて見るに筒の中光りたり。


「ほぉ、懐かしいのぉ。」

「えぇ、桃李が小学生の頃の教科書が見えて。つい、口ずさんでしまいました。」

天塚桃李が天界 高天原へ発った数日後。
祖母は、彼が使っていた部屋に座り国語の教科書を眺めていた。

ここで、幾日も繰り返された掛け替えのない愛おしい日々。
ここで、眠り、目を覚まし、勉学に励み、友人と遊んでいたこの部屋にもう"彼"が戻ってくることは無い。

ふと、佇む内に手持ち無沙汰になり押入れに空気を入れようと戸を開ける。

その下、隅の方に段ボールにしまわれた教科書や紙のファイルが見えた。
手に取り、はらりとページを捲ると現れたのは「竹取物語」の文字。


-ばーちゃん、おれちゃんと覚えたから聞いて!-

-はいはい、どうぞ?-

学校で暗記する様に宿題が出たのだそう。
まだ、あどけなさの残る桃李が自慢気に台所へと駆けてきた。

-教科書、持っててね!
おれ、全部すらすら言えるんだから。-

-はいはい、じゃあテストしなきゃね?-


大切で、愛おしい神聖な神の子。
だが、彼女が神の子を預かったのはこの子が初めてでは無かった。

それは、今となっては遠い遠い昔の話。

ーーーーー

「この子が仙桃妃様で、何れ天界へお帰りになる事が分かっていても。この子が、我が子の様に守り育ててきたこの子が、わたしの腕から居なくなる日が来るなんて。考えるだけでも、胸が痛くて堪りません。」

「そうだなぁ、僕も惜しい。この子は全く目に入れても痛くないんだから。」

うんうん、と頷く男はおきなと呼ばれていた。
その隣で、切なそうに顔を顰めている女性がおうな


「この子には四人の龍の殿方が待っているんだ。 流石、別嬪さんだからなぁ桃妃様は。」

「天帝様の御子ですからね。」

またもや、うんうんと頷く翁。
彼らはそれから数年後、愛して止まない仙桃妃は己の役目を知り自らの意思で選び天界へと帰っていった。

それが地上を穢れで覆った人と穢れを祓い清めた天帝との約束だった。

天帝は仰った。

【あなた方を護った四龍の宝珠を守り育てなさい。
地上の命を尊びなさい。そして、地上の全てを愛しなさい。】

それでも、我が子の様に育てた子が居ない日々はとてつもなく寂しく、虚しく、尊い日を思い起こさせた。

そんな時だった、翁が物語を書いてみてはどうかと言ってきたのは。

「君は、賢く暖かい言葉を沢山知っている。僕は何時も君の言葉に救われているからね、どうかな?」

「物語をですか」

「そうだよ。なんと言っても、天帝や四人の殿方、そして桃妃様がいる。こんなに摩訶不思議な世界の中心に君はいるんだ。きっと、琵琶法師にも、和尚様にも語れない愛が溢れて止まない素敵な話が書けるさ。」

そう説得されて、嫗は慣れない物語を書いてみた。
気が付けば夢中で話はどんどん紡がれていく。

愛おしい桃妃様、勇ましい四人の龍、そして、偉大なる天帝との約束を、あの手この手で想像を膨らませ書いた。

そうして、出来た物語が
まさか後世まで渡り語り継がれるとは、この時には思いもしなかった。

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