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第十四話 試練
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穢れなき強さを持つ四龍も、
それ故に今はもう地上では生きられず、
そして、
神々の住まう天界では、
人の姿を持った仙桃は決して育たない。
何故なら、神は神であり仏ではないのだから。
触らぬ神に祟りなし、という言葉がある。
神は良くも悪くも、
気紛れで人を救い、気紛れで人を祟る。
四龍とて、神だ。
かつて、四龍は愛を知り得なかった。
必要も無かったのだ。
永遠の時を生き、腹も空かず、眠りを要らず。
何事も不自由が無かった。
それ故に、己の名も、命も、
他の兄弟である四龍にさえも全く興味が無かった。
ただ、1つ。
その身に護る宝珠だけが、唯一護るべきものであった。
しかし、
愛を知らぬ生き物に、愛を学ばせ
地上を慈しみ護らせるのが天帝の目論見であった。
ある時、天帝は彼らの大切な宝珠を
恭しく傅く彼らの眼前で、
突如、吸い寄せ、集め、ドロドロに溶かした。
それから、
傍で実っていた仙桃を1つもぎ、
人へと創り変えると、溶かした宝珠を飲ませた。
ごくり、ごくり。
喉を鳴らし、やがて飲み干してしまった。
すると、人はその身に変化を現した。
髪は、薄桃色になり、
瞳や、唇の色までもが、淡く色付いていった。
「ぁ、う...。」
やがて発した声は、
何とも軽やかで、とろりと甘い香りがした。
その姿こそが、仙桃妃の真の姿である。
◯◯◯◯◯◯◯
「ぁ、ぁあ、そんな、!」
騒ぎを聞きつけ、仁嶺に伴われて桃李の祖母が現れた。
「嫗、桃李が!」
「えぇ、封印が解かれかけていますっ、」
「何故だ、まだ時期が早い。」
「ですが義栄様、この子の髪が変わっていますっ、間違いありませんわ。」
変わらず倒れたまま目を覚まさない桃李だが、その真っ黒な髪色が、毛先から徐々に薄い桃色へと変化している。
「このままでは、桃李が危ない。」
「 耽淵様、畏れ多いことを申し上げます。
直ぐにこの社に結界を張っていただけますか。それから、前回、この子を封印したのはどなたです。」
仙桃には、乱れた気を浄化する効果がある。
穢れにとっては最大の敵だが、
無垢で純白な気は、より深い常闇の穢れを引き付けたりもする。
長く地上に降りられない四龍の為にも、
仙桃妃を人の手で護っていける様、
四龍にしか解けない封印を毎回施していた。
だが、その封印が原因不明の事態により解けかけている。
結界を張ろうと手を伸ばしていた耽淵だったがそれを聞きビシリ、と固まった。
「...それ、僕だ。桃妃を最後の時、封印したのは僕だ。
巡りから言って、僕がその時最適だったから...」
「だったら、ここは俺がやる。」
「騰礼が...、?」
「そうだ。兄貴はさっさと結果を張れ。嫗、俺が適任だ。違う?」
微動だにしない、床に寝込んだままの桃李を一瞥し騰礼は言う。
「えぇ、確かに。耽淵様は四龍のうちの玄武。水を司る方なので騰礼様とは相反します。」
「だから、兄貴の封印も俺なら解ける。それに、時期も良い。今ならコイツも居る。」
騰礼は、顎をしゃくって桃李を示す。
桃妃の居ない20年で、四龍たちの気力は少しずつ減り今や枯渇している。
ふだんならそんな状態で満足に力を振るえはしないが。
桃李に施された封印が解けかけた今、豊潤な気が身体から溢れ出ている。
「場所を、変えます。桃李と二人で奥の部屋へ。」
「あぁ。」
だらりとした桃李を軽々と抱え彼は振り向く。
「翁、こいつは必ず助ける!」
祭壇で、ただひたすらに祝詞を唱え続けている
桃李の祖父へと声を張り上げた。
すると、祝詞を唱える口のまま
深々と一度、
床に擦りつく程頭を深く垂れた。
「許せよ...桃李。」
それ故に今はもう地上では生きられず、
そして、
神々の住まう天界では、
人の姿を持った仙桃は決して育たない。
何故なら、神は神であり仏ではないのだから。
触らぬ神に祟りなし、という言葉がある。
神は良くも悪くも、
気紛れで人を救い、気紛れで人を祟る。
四龍とて、神だ。
かつて、四龍は愛を知り得なかった。
必要も無かったのだ。
永遠の時を生き、腹も空かず、眠りを要らず。
何事も不自由が無かった。
それ故に、己の名も、命も、
他の兄弟である四龍にさえも全く興味が無かった。
ただ、1つ。
その身に護る宝珠だけが、唯一護るべきものであった。
しかし、
愛を知らぬ生き物に、愛を学ばせ
地上を慈しみ護らせるのが天帝の目論見であった。
ある時、天帝は彼らの大切な宝珠を
恭しく傅く彼らの眼前で、
突如、吸い寄せ、集め、ドロドロに溶かした。
それから、
傍で実っていた仙桃を1つもぎ、
人へと創り変えると、溶かした宝珠を飲ませた。
ごくり、ごくり。
喉を鳴らし、やがて飲み干してしまった。
すると、人はその身に変化を現した。
髪は、薄桃色になり、
瞳や、唇の色までもが、淡く色付いていった。
「ぁ、う...。」
やがて発した声は、
何とも軽やかで、とろりと甘い香りがした。
その姿こそが、仙桃妃の真の姿である。
◯◯◯◯◯◯◯
「ぁ、ぁあ、そんな、!」
騒ぎを聞きつけ、仁嶺に伴われて桃李の祖母が現れた。
「嫗、桃李が!」
「えぇ、封印が解かれかけていますっ、」
「何故だ、まだ時期が早い。」
「ですが義栄様、この子の髪が変わっていますっ、間違いありませんわ。」
変わらず倒れたまま目を覚まさない桃李だが、その真っ黒な髪色が、毛先から徐々に薄い桃色へと変化している。
「このままでは、桃李が危ない。」
「 耽淵様、畏れ多いことを申し上げます。
直ぐにこの社に結界を張っていただけますか。それから、前回、この子を封印したのはどなたです。」
仙桃には、乱れた気を浄化する効果がある。
穢れにとっては最大の敵だが、
無垢で純白な気は、より深い常闇の穢れを引き付けたりもする。
長く地上に降りられない四龍の為にも、
仙桃妃を人の手で護っていける様、
四龍にしか解けない封印を毎回施していた。
だが、その封印が原因不明の事態により解けかけている。
結界を張ろうと手を伸ばしていた耽淵だったがそれを聞きビシリ、と固まった。
「...それ、僕だ。桃妃を最後の時、封印したのは僕だ。
巡りから言って、僕がその時最適だったから...」
「だったら、ここは俺がやる。」
「騰礼が...、?」
「そうだ。兄貴はさっさと結果を張れ。嫗、俺が適任だ。違う?」
微動だにしない、床に寝込んだままの桃李を一瞥し騰礼は言う。
「えぇ、確かに。耽淵様は四龍のうちの玄武。水を司る方なので騰礼様とは相反します。」
「だから、兄貴の封印も俺なら解ける。それに、時期も良い。今ならコイツも居る。」
騰礼は、顎をしゃくって桃李を示す。
桃妃の居ない20年で、四龍たちの気力は少しずつ減り今や枯渇している。
ふだんならそんな状態で満足に力を振るえはしないが。
桃李に施された封印が解けかけた今、豊潤な気が身体から溢れ出ている。
「場所を、変えます。桃李と二人で奥の部屋へ。」
「あぁ。」
だらりとした桃李を軽々と抱え彼は振り向く。
「翁、こいつは必ず助ける!」
祭壇で、ただひたすらに祝詞を唱え続けている
桃李の祖父へと声を張り上げた。
すると、祝詞を唱える口のまま
深々と一度、
床に擦りつく程頭を深く垂れた。
「許せよ...桃李。」
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