上 下
13 / 39

第十三話 天帝

しおりを挟む

雅豊かな雅楽の音も、舞も無く。

ただ粛々と、厳かに。
天塚神社の神主であり、天塚桃李の養祖父が低く祝詞を唱え始めた。

「掛けまくも畏き 天塚大神の御祖 高天原にて禊ぎ祓へ給ひし時に 誓ひし四龍 仙桃妃をば御地に護り給ひ... ...」

神前より向かって右に、四龍が袴を着て座っている。
同じく左には、白無垢を纏った桃李と直衣姿の友康。

この場と、この身を先ず清めることから儀式は始まった。

「諸々の禍事・罪・穢 有らむをば 祓へ給へ清め給へと白すことの... ...」


「来るよ。」

「おう。」

やがで、祖父が柏手を打ち、一礼。

2つ目の祝詞が始まった。


「天と地に御働きを現し給う龍王は
大宇宙根源の御祖の御使いにして 一切を産み一切を育て... ...」

突如、真っ青に晴れ渡っていた空に曇天雷雨が現れ始めた。

「すげぇ」

木々がざわっと揺れ風は漲る程に吹き荒れ始めていく。

「萬物を御支配あらせ給う王神なれば
一ニ三四五六七八九十の十種の御寶を... ...」


遠くで、祖父の祝詞を唱える声がする。
白無垢のせいか、桃李は前がよく見えていない。
それどころか、次第に頭が重くなっている様な気がする。


"そう言えば、友康の声がしな、ぃ... ..."

ドサッ、と何処かで何かが倒れる音がした。
それでもまだ、祖父の祝詞の声が聞こえてくる。

"なんでかな。すごく眠くなってきた...じーちゃん。
ばーちゃん、ともやす...どこいったんだ。"


桃李は霞む意識と、重い頭で
自分の名前を叫ぶ声を確かに聞いたーーー

「ばーちゃ、ん...」


◯◯◯◯◯◯◯


声がする。
聞き覚えのある優しい声と大好きなお話。

「昔々。ひとをお創りになって、大切に育ててくれた神様とその1番偉い神様が、私たちの住む地球を悪いものから守ってくれることになりました。」


それは、桃のお姫様の物語。

「そこで4匹のとっても綺麗な龍が選ばれました。
この4匹の龍は、1つずつ持っているたった1つの宝物を
地球に来る時、1番偉い神様に預けて来ました。」

"この声だれだ...け?"

「大切な物を預けて来てしまった龍たちですが、寂しくて、切なくて時々泣き出してしまいました。
それでも、1番偉い神様と約束したので寂しくても我慢して、地球を悪いものから一生懸命に守りました。」


"ばーちゃん...?"

「時には、痛くてたまらない程の大怪我もしました。
それでも、龍たちは約束したので、痛いのも、寂しいのも我慢してまた、一生懸命に地球を守り続けました。
そんな4匹の龍を、あなたは守れますか?」


"え。"

「4匹の龍は、とても優しく、とても勇敢で、とても賢く、とても一途な生き物です。
どれだけ痛くとも、どれだけ寂しくとも4匹の龍たちは人々を守ってあげました。
では、この4匹の龍たちをあなたは守ってあげられますか?」


"これは、この声は...まさか天帝っ、!?"



ハッと、目を覚ました桃李は、
目覚めてもまだ、真っ白な空間にいた。

右も左も、上も下も前も後ろも真っ白な世界。

そこに、たった一人で立っていた。


「あなたは、守ってあげられますか?」

まるでエコーがかかった様に
その台詞だけが響き続けている。

「あなたは、寂しい龍を守ってあげられますか?」

「あなたは、痛がる龍を守ってあげられますか?」

「あなたは、苦しがる龍を守ってあげられますか?」

「あなたは、孤独な龍を守ってあげられますか?」


突如頭の中に、沢山の映像がフラッシュしてきた。

"くそがぁああ!"
"やめろ、騰礼!"
"義栄、そいつを止めなさいっ!"
"駄目だ、間に合わないっ、"

龍は皆、ボロボロで怪我だらけだった。

"僕じゃ、弟たちを守れない...っ、"
"もう誰も、傷を増やさないでくれ。"
"俺の、俺の作戦がいけなかったのか、"
"誰か、こいつらを...守ってくれ、!"


仁嶺、義栄、耽淵、騰礼、が
何かと、命を懸けて戦う姿が見えた。 
だが、その命はもう風前の灯火。

「やめろっ、やめてくれっ、!
傷が開いてるし、血が出てる...だろ、!」

「彼等は逃げられない。それが役目。」

「馬鹿言うな、死ぬぞ!」

映像は、まだ続いている。
四龍は、まだ戦い続けている。

「フラついて、地べたに膝まで着いてこんな状況で何を守るって言うんだよ!」

「あなたを。」

「何だ、と」

「あなたを護っているのよ、天塚桃李。」


◯◯◯◯◯◯

「翁、桃李が倒れた!目を覚まさないぞ。」

「己がすがたと変じ給いて 
自由自在に天界地界人界を治め給う... ...」

桃李は、床に突っ伏したまま微動だにしない。
それでも彼の祖父は祝詞を唱え続ける。

「仁嶺、嫗を。ここは俺がやる。」


そう言って、前に出てきたのは火を司る四龍のひとり、朱雀の名を冠する者。

名を騰礼とうれいーーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんな異世界望んでません!

アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと) ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません) 現在不定期更新になっています。(new) 主人公総受けです 色んな攻め要員います 人外いますし人の形してない攻め要員もいます 変態注意報が発令されてます BLですがファンタジー色強めです 女性は少ないですが出てくると思います 注)性描写などのある話には☆マークを付けます 無理矢理などの描写あり 男性の妊娠表現などあるかも グロ表記あり 奴隷表記あり 四肢切断表現あり 内容変更有り 作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です 誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします 2023.色々修正中

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

処理中です...