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第三話 仁嶺

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「ぃぃえ!」

 恐れていた事態。
 気の強そうな白髪長身のイケメンが、桃李に向かって声を掛けた。バッチリ目があったから間違いないが。
 聞き間違えた?

 と言うか、桃妃って何だ。

「だが、貴様からは仙桃の匂いがする。」

「待ちなさい義栄。桃妃はまだ記憶が戻っていない。私たちのことも覚えていない筈だよ。」

「先ずは、封印を解くべきだ。」

 バチッと目が合った白髪長身のイケメンは、義栄ぎえいというらしい。
 それを制したのは、真っ黒な黒曜の髪をした男て、名前は耽渊だんえんというらしい。


「お前名は。俺は耽渊。」

 漢字で書けるらしい。読み方まで教えてくれた。

天塚桃李あまつかとうりその、俺の知り合いだっけ?」

 桃李は問い掛けた。
 すると耽渊の横から青い髪の優しそうな男がズイ、と前に出てきた。
 何故か。
 慈しむように瞳を細めている。

 何だ。
 誰だ。

「桃の字が入っているのだろう。それに、苗字は天塚と言ったね?」

「あぁ。あんたは、なんて名前?」

「私は、仁嶺じんれいだよ、桃李。しかし、まったく困ったな。先程から君はとても美味しそうな匂いがする。」

「ぇ、ちょっ、な、ひぃ…っ!」

 仁嶺がツカツカと桃李の前まで迫って来た。
 驚いたのも束の間、ぐっと腰を抱え込まれ気が付くと唇を塞がれた。

 悲鳴序でに文句を言おうしたら、舌が入り込み、噛みつこうとしたらキツく吸われた。

「ひ、うあ…ッ。」


 忍び込む舌先が上顎を擦り始める。
 逃げ惑う桃李の舌を捕まえては絡みつく。

 息が出来ない。

「ふ…ん、んん。もぅ、やめろ」
 
 鼻で呼吸出来ない。
 熱い舌から逃げてなんとか薄い息でやめろ、と言えたのに。

「きもちいいかい、桃李。」

「うん。」
 
 次の瞬間にはどろっと脳みそが蕩ける。
 拒むには情熱的で、気遣いすらみせるキスに悪い気はしなかった。


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