異世界ダンジョンの地下第７階層には行列のできるラーメン屋がある

聖龍軒本店店員 天ヶ瀬ヒカリ

砂浜三本勝負

インスタントラーメンの食べ比べ昼食会も終わって、片付けも皆で行った。午後の部は、2グループに分かれて海を楽しむことになった。ニャティリさん、セシルさん、ダギリさん、バルモアさん、父の五人は、日本から持ち込んだ釣竿で釣りをしに行くようだった。バルモアさんがファリアさんと別のグループになったことには驚いたのだが、話を聞くと明らかに釣りに行きたそうにしているバルモアさんを見かねてファリアさんがバルモアさんに釣りグループの方に行くように命令したらしい。それでもバルモアさんはファリアさんに付いてこようとしたようで、ファリアさんから「このままわたくし達に付いてきたら、わたくしに反逆したものとみなしますわよ」と、バルモアさんが釣りグループに行くように脅したらしい。

わたしたちのグループは、ファリアさん、イリスちゃん、マリアちゃん、ダニアさん、ミシェルダさんとわたしという構成になった。女子だけでなんだか凄く楽しい。そういえば、お店を手伝うようになって、友達からの遊びの誘いも断り続けたりしていたから、皆でワイワイ楽しむのもかなり久しぶりかもしれない。わたしもわたしで、こういう息抜きみたいなことが必要だったのかもしれない。
ちょっと残念なのは、地球側で異世界のことを広めると扉が閉じてしまう可能性があるということ。そんな制約があるから、地球の友達をファルスカ王国に連れてくることができない。逆にダンジョンから出ることのできないダニアさんや、地球へ通ずる扉に辿り着いたことのないセシルさんやファリアさんをはじめとするギルドや王宮所属の皆さんは、理由があって地球に来ることができないようだった。
ただ、わたしと父だけなら異世界に来たところで問題はないようで、わたしはわりと頻繁にダルゴニア支店の手伝いに来ている。わたしと父は特別扱いで、ダンジョン内であればダニアさんと一緒に自由に移動できる。地球人とバレると不味いから、会話は聖龍軒の関係者だけとか、異形種に会っても絶対に驚かないとか、『ギルドからヘルプに来ているギルド受付嬢で、実は城下町の元料理屋（今は廃業）の娘』だとか、細かい制約や設定を作って頭に叩き込んでいる。ニャティリさんが凄すぎて、身バレしそうな危ない言葉を発しようとすると咳き込むようにしてくれたり、ダルゴニアに来ているときだけ偽の記憶を植え込んであたかもファルスカ王国で過ごしてきたかのように振る舞うことができたりと、意味のわからない高等魔術をかけてくれる。笑っちゃうのが、その偽の記憶のおかげで、簡単な魔術が習ってもいないのに使えてしまったことだ。日本人が魔術を使えちゃダメでしょって、当の本人のわたしも思っているのだけど、流石に異世界限定の能力のようで、日本では使えないらしい。

さて、酷く脱線したが、話を戻そう。
わたしたちのグループは、砂浜でできる遊びをしようということになった。
3人ずつの2チームに分かれて3つの種目で勝負することにした。Aチームは、ファリアさん、マリアちゃんとわたし。Bチームは、ダニアさん、イリスちゃんとミシェルダさんという構成だ。
まずはじめは、砂アートでの対決ということに決まった。1時間かけて自由に砂で
作品を作って、どちらが優れているか決めるというルールだ。実際わたしも含めた全員が魔術を使えるので、魔術使用は問題ないが、砂と海水以外の素材を使うのは禁止とした。
相手の様子が見えないように目隠しの結界をダニアさんが張ってくれた。ぼんやりとモザイクがかかったようになって、相手が見えない。声も聞こえてこない。完璧な不正防止対策だと思う。