異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア

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聖龍軒本店店員 天ヶ瀬ヒカリ

インスタント醤油ラーメン

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さて、今日のお昼にはとっておきのものを用意している。

「今日のお昼はインスタントラーメンです!」

そう。某食品メーカーのかの有名な袋麺を用意していた。
味はスタンダードに、醤油と味噌と塩を持ってきている。どれが好きかというのはわたしの周りでも論争が巻き起こっているほど、意見の分かれるところだ。まぁ、結局は皆で分け合って食べ比べることになるのだが、取りあえず進行上三人ずつのグループに分けたかったため、今時点でどの味を食べたいか選んでもらうことにした。
その結果、醤油ラーメンはニャティリさん、ダニアさん、バルモアさんの三人、塩ラーメンは、マリアちゃん、セシルさん、ミシェルダさんの三人、味噌ラーメンは、ファリアさん、イリスちゃん、ダギリさん、の三人になった。わたしは説明係で三回とも作ることにしている。父さんは、フリーで皆を手伝ってもらう。
早速、一人に一つ卓上コンロと鍋を配って袋麺は二袋ずつ渡していった。
初めて見る卓上コンロと袋麺に、渡された皆がキョトンとしている姿を見て、わたしはニヤニヤ顔になっていただろう。
まぁ、何も知らない人がいきなり袋麺を渡されても混乱するのは仕方がない。
わたしは皆に説明を続けた。

「これは、インスタントラーメンといって、簡単にラーメンが作れる商品です。まずは、醤油ラーメンから作るので、ニャティリさん、ダニアさん、バルモアさんはわたしに注目してください。それぞれのラーメンは二人前ずつ作るので皆で分けましょう。あっ、各回で手が空いている人はトッピングの準備をお願いします」

皆の反応を見たいので、一種類ずつ、ラーメンを作ることにした。皆に卓上コンロの使い方をレクチャーして、とりあえず水を沸騰させるところまでは、進めてもらう。ニャティリさんたちの世界では、分量を計るということをしないようで、概念自体がないため、1リットル強の水を用意するというところからわたしと父さんで各テーブルを回って説明した。聖龍軒で働くメンバーは、分量計測の何たるかを理解しているので、それ以外のメンバーへ伝えるのがメインだったのだが、皆頭が良くてすぐに理解していた。ちなみに、水を1リットル強としたのも理由がある。一袋の麺を茹でるのに沸騰した湯が500ミリリットル必要でその二倍だから1リットルの沸騰した湯が必要となる計算だ。そして沸騰時に水量が減ることを想定して、1リットル強の水を用意したという訳だ。
ちょうどわたしを除いて九人なので、それぞれのテーブルに三人ずつが集まって協力し合って進んでいた。

「水が沸騰したら、麺の袋を開けて乾麺だけを取り出してお湯の中に入れてください。その後三分待ちます」

用意したタイマーで、三分をセットして待ってもらう。タイマーは、聖龍軒の厨房にも置いてあるので聖龍軒のメンバーの大きなリアクションはなかった。ただ、この時までタイマーの存在を知らなかった王宮近衛兵の二人はとてつもない衝撃を受けていた。近衛兵団のトレーニングに利用したいから、購入したいと父さんに鬼の形相で迫っているので思わず笑ってしまった。
これも余談だが、異世界での時間の概念は日本で言えば江戸のものに近いのだそうだ。そのため、異世界語が日本語に自動翻訳されると、江戸時代の言い方になるみたいだ。前にファリアさんに聞いた話だけれど、そもそも時計がなくて時間的制約もあまりないような生活らしく、なんとなくの時間感覚で活動している人も多くて、何かを時間で区切るということ自体に感銘を受けたとも言っていた。こんな日本では当たり前のことも、異世界では革新的として驚かれるようなことがまだまだたくさんあるのだと思う。

「はい!三分経ちました。スープの素を入れて、混ぜてください。そうしたら、それぞれの器に移して、トッピングを乗せたら完成です」

さて、これでインスタントの醤油ラーメンの出来上がりだ。
わたしは、店のラーメンとインスタントラーメンとは、全く別物で、インスタントラーメンはインスタントラーメンの良さがあると思っている。誰でも簡単に作ることができるのだから、凄い食べ物だなとわたしは常々思っているのだけれど、果たして異世界人の皆はどう思うのだろう。

「いただきます」

皆が一斉に、醤油ラーメンを口に運んだ。
その瞬間、一斉に歓声があがった。

「ヒカリ、このラーメン凄いわ。どうして今まで教えてくれなかったの?」

この発言はニャティリさんだ。確かに一年以上日本の本店でも働いてもらって、インスタントラーメンを出したことはなかったかもしれない。私も父さんも、『店にいるならちゃんとしたラーメンをつくらないといけない』みたいなポリシーをもっていて、お店でインスタントラーメンは邪道だと思っている節はある。悪気はないのだが、今日が初出しなってしまったのにはそんな理由があった。
まぁ、今日は持ってきてないけれど、他のインスタントラーメンやカップラーメンも時々紹介してあげるのはいいかもしれない。

「人前においそれと出られぬ我にとっては、うってつけのラーメンではないか。なぜ黙っておったのだ。愚か者」

ダニアさんも、割とマジトーンでそう言った。言われみればそうなのだが、異世界のなんたるかを一つも理解してない地球人の小娘に、考えつくはずがないだろうに。まったく。
まぁ、そんな表情も一瞬だけで、口元を緩めて頷きながら黙々と食べていた。

「王女殿下、私がかつて食べたことのあるラーメンとは全く異なります。縮れた麺がスープを吸って、美味しいとしか表現ができません」

興奮したバルモアさんが、ファリアさんに向かって饒舌に話していた。ファリアさんも同じものを食べているのだが、誰かに話さないと気が済まなかったのだろう。素のリアクションを見たいと思っていたわたしにとっては、これ以上ない反応で嬉しくなってしまう。

三人以外の皆も、それぞれ驚きの声をあげて、一様にとても美味しいと言っていた。
だがしかし、これで終わりではない。
塩ラーメンと味噌ラーメンが残っている。
醤油ラーメンでこの反応なら、後の二つはどんな反応をしてくれるのだろうか。
楽しみで仕方がない。
さてさて、それじゃあ次に行ってみよう。
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