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ファルスカ王国王女 ファリア
国にとって何が大切なのか
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父上はわたくしが食べ終わるのを黙って待っていた。
わたくしがラーメンのスープをある程度まで飲み終え、箸が進まなくなったのを見て、父上は店主に確認をとった。
「店主よ。ラーメンとはスープの一滴まで飲み干す必要はあるか」
ファルスカ王国はあらゆる資源が貴重であり、食料も全てが貴重とされている。好きなものを好きなだけ食べることができるのはわたくしのような立場の者だけで、一般市民にとって、食べ物を残すという行為は考えられないことなのだそうだ。ファルスカ王国民にとって、出された料理は最後まで食べ切るというのが礼儀だとは聞いていた。
「いいえ、満足の行くところまで食べたのであればそれ以上は残していただいて問題ありません。むしろ女性には量が多い故に、残すくらいが適量でしょうね」
店主が父上に答える。父上は、軽く頷いて発言した。
「左様か。ならば、箸を止めて良いぞファリア。良くぞここまで食べた」
わたくしに対して父上はそのように言った。
わたくしにとってはかつて食したことのない量であることは間違いなく、スープを飲みはじめた段階で、満腹と感じていた。これ以上食べ続けてはならないとわたくしの脳内で警笛が鳴り続けていたのだが、寸でのところで父上から箸を止めて良いとの許可が入った。
わたくしは、箸を置くと一息ついた。
考えても見れば一皿の料理しか食べてはいないのだが、麺もスープも野菜も肉も食べているからなのか、お腹は満たされたのは前述の通りとして心まで満たされた気がしている。満足とはこのことなのだろう。
「さてファリアよ。王宮の食事は出されたものは食べ切っているお前だが、料理人に作らせた料理は、味見程度に一口か二口しか食べてはいないな。違うか」
指摘されてみれば、確かに父上の言う通りである。食事として出されたものは、極力食べきっているが、城下の料理人に作らせたものは食事というよりは政務の心持ちだったせいか食べきることはなかった。
それに、一日に何種類もの料理が出される訳であり、一口ずつでなければ様々試すことができない。
「はい。違いありません」
嘘偽りを話す必要もない。父上の言うことは紛れもない事実であり、かといってわたくしの行動に間違いがあるわけでもない。
「此度は、一口だけ味噌ラーメンを食べて、他の料理を食べようとしたところ、店主から立ち去るように言われ、王女への反逆罪で店主へ死刑を処した。これも間違いはないな」
王女の命令に何度となく従わなかった店主に対して、死罪とすることは当然だ。
「はい。間違いありません」
父上の表情は変わらない。
「さてファリアよ。一欠片のパンをも食べられず飢餓で死んでゆく王国民がどれほどいるか知っているか。お前が料理人を王宮に呼んで作らせた料理で、食べずに捨てた分があればどれだけ多くの王国民を救うことができるのか考えたことがあるか」
優しい口調で父上はわたくしに対して問いかけをする。わたくしも答えようと口を開くが、言葉が出てこない。
「料理人が、一つの料理をつくるのにどれほどの苦労をしているのか分かるか。一つの店に、一つの料理に、一つの食材に、どれだけの人が関わっているのか想像できるか」
当然に知識がないわけではない。ファルスカ王国において、水・食料・鉱物・その他どの資源も貴重である。砂漠に囲まれた立地にあるため、自生している植物は皆無に等しく、水源もない。ダンジョン内であれば、あらゆる資源は手に入るが、当然モンスターも多数生息しており、探索するだけでも危険を伴う。またマジックボックスでは無機物しか保存ができないため、一度に大量の水や食料を地上へ持ち帰るのはいくら手練の冒険者でも厳しいのだと耳にはしていた。
水だけで言えば、水性魔術が扱える魔術師を雇って水を確保する者もいるが、決して安価ではない。
そのような環境下で料理屋を営むのだから、苦労がないはずはない。しかし、王宮に住むわたくしには、実感の湧かない話で、料理屋側に目を向けて考えたことはなかった。
「……………」
沈黙で答えることしかわたくしにはできなかった。
わたくしは国益のために動いてきた。そのことまで私自身で否定したくはなかった。
目の向けどころは異なるが、わたくし自体の行動が間違っていたとは思わない。王女として国のために行動することは当たり前であり、時には何かを犠牲にしてでも国益のために動くべき時がある。
「私も一国の王だ。お前の気持ちや考えも手に取るように分かる。だが、ファリアよ。国のことを想うのであれば、国よりもまずは民のことを考えて行動せねばならない。その前提は守らなければならない。此度のお前の行動は民のための行動としてふさわしいと思うか。さぁ答えはどうだ」
民の為となることを第一として行動はしていないが、国益優先でのわたくしの行動は、先を見据えれば民のためにはなるはずである。
「わたくしは此の度、民のために動いたわけではありませんし、民のための行動をしているとは言えません。それでも、将来的に国が栄えることで民にも還元されます。国を守ることは、民を守ることと同義だとわたくしは思いますわ。わたくしの店主に対する応対が間違っていたとは思えませんわ」
わたくしは、王宮内では家庭教師から学び、フィーマ帝国にも留学して法学や政治学も学んできた。皆が言う大原則は、秩序なくして国家なしだ。そして王政においてヒエラルキーの頂点に君臨するのが王族だ。王族が秩序を守らなければ、国の秩序は崩壊し、民を守るどころか国が滅びる結果となるはずだ。
一つの綻びが、破滅を招く。だからこそ、いついかなる時でも、王族に反抗する者を許してはならない。
わたくしはそう学んできた。
「もしも王族に逆らってもお咎めがないという実績ができた場合、王権が失墜したと飛躍した思想を吹聴する者が王国内に現れ、国内秩序が保たれなくなると考えているのではないか」
父上の言う通りである。ここで、店主のわたくしへの発言や態度を許してしまった場合、わたくしが店主の無礼を許したという事実が残る。すると、王国内で犯罪を犯したものが、「なぜ店主は許されたのに私は許されないのか」といったような理由をつけて無罪を主張するようになる。当然、最終的には罰することになるのだが、現場で有罪かを判断できない事象が増えれば、王族への確認が入るようになり、犯罪者たちに猶予が生まれ、あるいは犯罪者たちが徒党を組んで反乱を引き起こす可能性もある。
「はい。そうです」
「確かにお前の考えも間違ってはいない。王宮内や公衆の面前であれば、そのようなことも起こりうるだろう。それに、王女反逆罪で店主が処刑したとして、関係者を保護することでラーメンのレシピは王宮の手に渡るから問題はないと考えた。違うか?」
「はい。そのように考えました」
わたくしも常に頭は回している。咄嗟の判断というところでは深くまで考えられていた訳では無いが、店主を処刑するしないでどちらの不利益が大きいかは当然考えた。父上が言うように、店主を処刑したところで、店員からレシピを聞き出すことができるのであれば体制に影響はないと考えたのも確かであり、わたくしの決断の一助になっているのも間違いない。
「では、店主を処刑したことで、この場にいる全ての冒険者が王国に反感を持ち、冒険者が徒党を組んで反乱を起こす。その可能性がないと言えるか」
父上のその言葉に、わたくしは即答ができなかった。
考えを巡らせば、その可能性は否定できない。
わたくしが店主に処刑を宣告した際に、冒険者たちは店主を捕らえようとせず、静観していた。いや、静観とは決して呼ぶことのできない暴言の数々をわたくしに放っている。
そうした冒険者たちの反応を鑑みれば、父上の言う筋書は、わたくしの論説よりも現実味がある。
「もしくはだが、店主を処刑したあとで、店員も自害し、レシピも残らなかった場合、ラーメンの作り方を知る術がなくなる。これも絶対に起こり得ないと言い切れるか」
店員が自害する可能性はある。
「言い切れません」
わたくしの返答に父上は小さく頷いた。
そして父上は、わたくしへの問いかけを続けた。
「ではファリアよ。王族と民というのは何だと考える」
父上の問いかけは、わたくし達ファルスカ王国の王族が、政治学を学ぶ際に最初に教えられるものだった。
「王族は王国民を守る者であり、民は守られる者ですわ」
この答えに間違いはないと思う。
ファルスカ王国の王族であれば何度となく教えられ、そのたびに答えてきているためにわからない者はいないだろう。
しかし、父上はこの問いを投げかけた理由が分からない。この場には関係のない話のように感じてしまう。
「あぁ、そうだ。それは間違ってはいない。ただ、答えはそれだけではない。分かるか、ファリアよ」
父上はわたくしに問いかける。しかし、わたくしは答えが出ない。
「民は国を作る者で、王族は民を導く者であるとも言える。国を形作るのは民であり、王族ではない。その意味は分かるか」
父上の言葉をわたくしは頭の中で何度も反芻した。
「つまりは、民を守ることと国を守ることは同義ではないということですか」
王族は民を守り、民は王族に守られる。
国は民が作り、王族は民を導く。
民を守ることは国を守ることには繋がるが、国を守ることが民を守ることに必ずしも繋がるとは限らない。
王族は政治によって民を導くが、国を形作るのは民であり、いくら政治が正しい行いをしようが、民を蔑ろにすれば国は簡単に崩れてしまう。
わたくしが真に考えるべきは、国益ではなく、民のためになるかどうかなのだということを父上は言わんとしているのだろう。
「そうだ。民の幸せは国の幸せに繋がっていく。政治を動かすのは我々王族かもしれないが、国が成り立つのは民がいるからなのだ。そのことを忘れては行けない」
そして、父上は言葉を続けた。
「政治は民のために行うものだ。そして、民の幸せを願わなければ国を発展させることは難しい。そのことが頭にあれば、いかにお前の行動が浅慮だったのか、もう分かったのではないか」
父上の言葉を、わたくしは改めて反芻する。
国益のために行動することは重要だ。しかし、国を作るのは民である。そしてその民が幸せに暮らせるような政治を行うのが王族だ。わたくしも王女として国のことを学んだつもりだったが、知らないことばかりだったことを思い知らされる。
「はい」
「そうか。ならよい」
わたくしが頷いたのを見て、父上は優しい笑みを浮かべたあと、言葉を続けた。
わたくしがラーメンのスープをある程度まで飲み終え、箸が進まなくなったのを見て、父上は店主に確認をとった。
「店主よ。ラーメンとはスープの一滴まで飲み干す必要はあるか」
ファルスカ王国はあらゆる資源が貴重であり、食料も全てが貴重とされている。好きなものを好きなだけ食べることができるのはわたくしのような立場の者だけで、一般市民にとって、食べ物を残すという行為は考えられないことなのだそうだ。ファルスカ王国民にとって、出された料理は最後まで食べ切るというのが礼儀だとは聞いていた。
「いいえ、満足の行くところまで食べたのであればそれ以上は残していただいて問題ありません。むしろ女性には量が多い故に、残すくらいが適量でしょうね」
店主が父上に答える。父上は、軽く頷いて発言した。
「左様か。ならば、箸を止めて良いぞファリア。良くぞここまで食べた」
わたくしに対して父上はそのように言った。
わたくしにとってはかつて食したことのない量であることは間違いなく、スープを飲みはじめた段階で、満腹と感じていた。これ以上食べ続けてはならないとわたくしの脳内で警笛が鳴り続けていたのだが、寸でのところで父上から箸を止めて良いとの許可が入った。
わたくしは、箸を置くと一息ついた。
考えても見れば一皿の料理しか食べてはいないのだが、麺もスープも野菜も肉も食べているからなのか、お腹は満たされたのは前述の通りとして心まで満たされた気がしている。満足とはこのことなのだろう。
「さてファリアよ。王宮の食事は出されたものは食べ切っているお前だが、料理人に作らせた料理は、味見程度に一口か二口しか食べてはいないな。違うか」
指摘されてみれば、確かに父上の言う通りである。食事として出されたものは、極力食べきっているが、城下の料理人に作らせたものは食事というよりは政務の心持ちだったせいか食べきることはなかった。
それに、一日に何種類もの料理が出される訳であり、一口ずつでなければ様々試すことができない。
「はい。違いありません」
嘘偽りを話す必要もない。父上の言うことは紛れもない事実であり、かといってわたくしの行動に間違いがあるわけでもない。
「此度は、一口だけ味噌ラーメンを食べて、他の料理を食べようとしたところ、店主から立ち去るように言われ、王女への反逆罪で店主へ死刑を処した。これも間違いはないな」
王女の命令に何度となく従わなかった店主に対して、死罪とすることは当然だ。
「はい。間違いありません」
父上の表情は変わらない。
「さてファリアよ。一欠片のパンをも食べられず飢餓で死んでゆく王国民がどれほどいるか知っているか。お前が料理人を王宮に呼んで作らせた料理で、食べずに捨てた分があればどれだけ多くの王国民を救うことができるのか考えたことがあるか」
優しい口調で父上はわたくしに対して問いかけをする。わたくしも答えようと口を開くが、言葉が出てこない。
「料理人が、一つの料理をつくるのにどれほどの苦労をしているのか分かるか。一つの店に、一つの料理に、一つの食材に、どれだけの人が関わっているのか想像できるか」
当然に知識がないわけではない。ファルスカ王国において、水・食料・鉱物・その他どの資源も貴重である。砂漠に囲まれた立地にあるため、自生している植物は皆無に等しく、水源もない。ダンジョン内であれば、あらゆる資源は手に入るが、当然モンスターも多数生息しており、探索するだけでも危険を伴う。またマジックボックスでは無機物しか保存ができないため、一度に大量の水や食料を地上へ持ち帰るのはいくら手練の冒険者でも厳しいのだと耳にはしていた。
水だけで言えば、水性魔術が扱える魔術師を雇って水を確保する者もいるが、決して安価ではない。
そのような環境下で料理屋を営むのだから、苦労がないはずはない。しかし、王宮に住むわたくしには、実感の湧かない話で、料理屋側に目を向けて考えたことはなかった。
「……………」
沈黙で答えることしかわたくしにはできなかった。
わたくしは国益のために動いてきた。そのことまで私自身で否定したくはなかった。
目の向けどころは異なるが、わたくし自体の行動が間違っていたとは思わない。王女として国のために行動することは当たり前であり、時には何かを犠牲にしてでも国益のために動くべき時がある。
「私も一国の王だ。お前の気持ちや考えも手に取るように分かる。だが、ファリアよ。国のことを想うのであれば、国よりもまずは民のことを考えて行動せねばならない。その前提は守らなければならない。此度のお前の行動は民のための行動としてふさわしいと思うか。さぁ答えはどうだ」
民の為となることを第一として行動はしていないが、国益優先でのわたくしの行動は、先を見据えれば民のためにはなるはずである。
「わたくしは此の度、民のために動いたわけではありませんし、民のための行動をしているとは言えません。それでも、将来的に国が栄えることで民にも還元されます。国を守ることは、民を守ることと同義だとわたくしは思いますわ。わたくしの店主に対する応対が間違っていたとは思えませんわ」
わたくしは、王宮内では家庭教師から学び、フィーマ帝国にも留学して法学や政治学も学んできた。皆が言う大原則は、秩序なくして国家なしだ。そして王政においてヒエラルキーの頂点に君臨するのが王族だ。王族が秩序を守らなければ、国の秩序は崩壊し、民を守るどころか国が滅びる結果となるはずだ。
一つの綻びが、破滅を招く。だからこそ、いついかなる時でも、王族に反抗する者を許してはならない。
わたくしはそう学んできた。
「もしも王族に逆らってもお咎めがないという実績ができた場合、王権が失墜したと飛躍した思想を吹聴する者が王国内に現れ、国内秩序が保たれなくなると考えているのではないか」
父上の言う通りである。ここで、店主のわたくしへの発言や態度を許してしまった場合、わたくしが店主の無礼を許したという事実が残る。すると、王国内で犯罪を犯したものが、「なぜ店主は許されたのに私は許されないのか」といったような理由をつけて無罪を主張するようになる。当然、最終的には罰することになるのだが、現場で有罪かを判断できない事象が増えれば、王族への確認が入るようになり、犯罪者たちに猶予が生まれ、あるいは犯罪者たちが徒党を組んで反乱を引き起こす可能性もある。
「はい。そうです」
「確かにお前の考えも間違ってはいない。王宮内や公衆の面前であれば、そのようなことも起こりうるだろう。それに、王女反逆罪で店主が処刑したとして、関係者を保護することでラーメンのレシピは王宮の手に渡るから問題はないと考えた。違うか?」
「はい。そのように考えました」
わたくしも常に頭は回している。咄嗟の判断というところでは深くまで考えられていた訳では無いが、店主を処刑するしないでどちらの不利益が大きいかは当然考えた。父上が言うように、店主を処刑したところで、店員からレシピを聞き出すことができるのであれば体制に影響はないと考えたのも確かであり、わたくしの決断の一助になっているのも間違いない。
「では、店主を処刑したことで、この場にいる全ての冒険者が王国に反感を持ち、冒険者が徒党を組んで反乱を起こす。その可能性がないと言えるか」
父上のその言葉に、わたくしは即答ができなかった。
考えを巡らせば、その可能性は否定できない。
わたくしが店主に処刑を宣告した際に、冒険者たちは店主を捕らえようとせず、静観していた。いや、静観とは決して呼ぶことのできない暴言の数々をわたくしに放っている。
そうした冒険者たちの反応を鑑みれば、父上の言う筋書は、わたくしの論説よりも現実味がある。
「もしくはだが、店主を処刑したあとで、店員も自害し、レシピも残らなかった場合、ラーメンの作り方を知る術がなくなる。これも絶対に起こり得ないと言い切れるか」
店員が自害する可能性はある。
「言い切れません」
わたくしの返答に父上は小さく頷いた。
そして父上は、わたくしへの問いかけを続けた。
「ではファリアよ。王族と民というのは何だと考える」
父上の問いかけは、わたくし達ファルスカ王国の王族が、政治学を学ぶ際に最初に教えられるものだった。
「王族は王国民を守る者であり、民は守られる者ですわ」
この答えに間違いはないと思う。
ファルスカ王国の王族であれば何度となく教えられ、そのたびに答えてきているためにわからない者はいないだろう。
しかし、父上はこの問いを投げかけた理由が分からない。この場には関係のない話のように感じてしまう。
「あぁ、そうだ。それは間違ってはいない。ただ、答えはそれだけではない。分かるか、ファリアよ」
父上はわたくしに問いかける。しかし、わたくしは答えが出ない。
「民は国を作る者で、王族は民を導く者であるとも言える。国を形作るのは民であり、王族ではない。その意味は分かるか」
父上の言葉をわたくしは頭の中で何度も反芻した。
「つまりは、民を守ることと国を守ることは同義ではないということですか」
王族は民を守り、民は王族に守られる。
国は民が作り、王族は民を導く。
民を守ることは国を守ることには繋がるが、国を守ることが民を守ることに必ずしも繋がるとは限らない。
王族は政治によって民を導くが、国を形作るのは民であり、いくら政治が正しい行いをしようが、民を蔑ろにすれば国は簡単に崩れてしまう。
わたくしが真に考えるべきは、国益ではなく、民のためになるかどうかなのだということを父上は言わんとしているのだろう。
「そうだ。民の幸せは国の幸せに繋がっていく。政治を動かすのは我々王族かもしれないが、国が成り立つのは民がいるからなのだ。そのことを忘れては行けない」
そして、父上は言葉を続けた。
「政治は民のために行うものだ。そして、民の幸せを願わなければ国を発展させることは難しい。そのことが頭にあれば、いかにお前の行動が浅慮だったのか、もう分かったのではないか」
父上の言葉を、わたくしは改めて反芻する。
国益のために行動することは重要だ。しかし、国を作るのは民である。そしてその民が幸せに暮らせるような政治を行うのが王族だ。わたくしも王女として国のことを学んだつもりだったが、知らないことばかりだったことを思い知らされる。
「はい」
「そうか。ならよい」
わたくしが頷いたのを見て、父上は優しい笑みを浮かべたあと、言葉を続けた。
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