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ファルスカ王国王女 ファリア
味噌バターコーンラーメン
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「味噌バターコーンラーメンです」
再びラーメンがわたくしの目の前に置かれた。父上の時は、小皿にバターとコーンを載せて別で提供されたが、わたくしのは初めから乗せられて出てきた。
ミシェルダが毒味をしようと一歩前に出るが、わたくしはそれを手で制した。
父上が毒味をしなかった以上、娘であるわたくしだけが毒味をするというのは、体裁上些かよろしくない。
そもそも、この期に及んで、毒味は必要ないとわたくしは判断した。
理由は複数ある。
まずはわたくしも鑑定魔術は会得していること。この場にはファルスカ王である父上もいること。そして、今更毒を盛ったところで、得する者が誰もいないこと。
わざわざわたくしに対する心象を悪くしてまで、毒味をしてもらう必要性はないと、わたくし自身結論づけた。
とにもかくにも、目の前のラーメンを食べることに専念をすることとする。
ラーメンの入った器を取り、わたくしの目の前に置くと箸を構えて食べ始める。
「…………美味しいですわ」
意図せず、そのような言葉が漏れ出ていた。
バターとコーンを入れただけで、先程食べた味噌ラーメンとは全く違うものになっていた。より深みが増したというべきか。
驚くべき変容ぶりだ。
初めて味噌ラーメンを口にした時点で、王宮内も含めてファルスカ王国では食べたことがない程、味が濃いと感じた。
しかし、塩が効きすぎているというような単純な話ではなく、未知の味なのだ。濃いという感覚が美味しいと感じたのは初めてだった。様々な味が複数に絡み合っており、かつそれぞれの味が邪魔することなく融和している。これが味噌ラーメンを初めて口にした時のわたくしの感想だった。
そこにバターとコーンを加えただけで、全く別物になった。はじめに食べた味噌ラーメンとは味がまるで違う。
しかしながら、明らかに味が変化しているにも関わらず、言葉で表現するとなると「濃くて複雑な味」となる訳であり、感想としては同じになってしまう。どちらも唯一無二の味わいだからこそ、ふさわしい言葉が見当たらないのだ。
共通して言えることは、信じられないほどに美味しいということだ。ファルスカの数多ある料理を食べてきたわたくしでさえ、その美味しさへの理解が追いついていない。
バターが溶けた所から少し離れた箇所のスープも飲んでみた。
やはりまるで味が違う。
ベースとなるスープは、濃くて厚みのある味とでも言うべきだろう。塩が効きすぎた濃さではない。広がりのある濃さなのである。
そこにコーンが入ってくると、甘みをより感じるようになる。
そしてバターがより深さを感じさせ、まろやかさも加わってくる。
『ファルスカでは到底再現できませんわね』
ファルスカで見る麺料理は、小麦のゆるい生地を薄く焼いて、細く切ったものに、水気を帯びた野菜を細かく切って液状に近くしたものを和えた料理である。使用する麺は、白さが目立ち、かなり太く、焼いたとしても食感や味に粉っぽさが残っている感じがするのだ。そのため、麺だけではお世辞にも美味しいとは言えない。麺と絡めるソースにしても、トマトなどの水分を多く含む野菜を細かく切るかすり潰して液状にしたのみで塩以外に調味料は加えないため、どうしても味が淡白なのである。城下町の飲食店でも数店舗でメニューに載ってはいるが、高価な割に量も少なく、味が淡白ということで、わたくしのようにお忍びで城下を回っている貴族、王族でなければ注文することはないだろう。
そのような先入観があったからこそ、余計に衝撃的だったのかもしれない。一口で、一品分の味を超えた。大げさかもしれないが、一口だけで、高級肉数切れを味わった程に感動がある。
『文句のつけどころがないですわ』
また、麺がまた恐ろしく美味しい。
麺は縮れていて美しい黄色をしている。
スープが濃いだけに、麺とスープが絡まって絶妙な味わいになっている。
そう考えると、具材も全てがスープと合うように考えられている。挽き肉などと、なんと勿体のない肉の使い方をすると思ったが、ラーメンの中にあっては麺とうまく混ざり合うと良い塩梅で口に入ってくるのでより一層美味しく感じるのである。
『これは完敗ですわね』
心の声が脳内を巡るとともに、口から大きな溜息が漏れていた。
再びラーメンがわたくしの目の前に置かれた。父上の時は、小皿にバターとコーンを載せて別で提供されたが、わたくしのは初めから乗せられて出てきた。
ミシェルダが毒味をしようと一歩前に出るが、わたくしはそれを手で制した。
父上が毒味をしなかった以上、娘であるわたくしだけが毒味をするというのは、体裁上些かよろしくない。
そもそも、この期に及んで、毒味は必要ないとわたくしは判断した。
理由は複数ある。
まずはわたくしも鑑定魔術は会得していること。この場にはファルスカ王である父上もいること。そして、今更毒を盛ったところで、得する者が誰もいないこと。
わざわざわたくしに対する心象を悪くしてまで、毒味をしてもらう必要性はないと、わたくし自身結論づけた。
とにもかくにも、目の前のラーメンを食べることに専念をすることとする。
ラーメンの入った器を取り、わたくしの目の前に置くと箸を構えて食べ始める。
「…………美味しいですわ」
意図せず、そのような言葉が漏れ出ていた。
バターとコーンを入れただけで、先程食べた味噌ラーメンとは全く違うものになっていた。より深みが増したというべきか。
驚くべき変容ぶりだ。
初めて味噌ラーメンを口にした時点で、王宮内も含めてファルスカ王国では食べたことがない程、味が濃いと感じた。
しかし、塩が効きすぎているというような単純な話ではなく、未知の味なのだ。濃いという感覚が美味しいと感じたのは初めてだった。様々な味が複数に絡み合っており、かつそれぞれの味が邪魔することなく融和している。これが味噌ラーメンを初めて口にした時のわたくしの感想だった。
そこにバターとコーンを加えただけで、全く別物になった。はじめに食べた味噌ラーメンとは味がまるで違う。
しかしながら、明らかに味が変化しているにも関わらず、言葉で表現するとなると「濃くて複雑な味」となる訳であり、感想としては同じになってしまう。どちらも唯一無二の味わいだからこそ、ふさわしい言葉が見当たらないのだ。
共通して言えることは、信じられないほどに美味しいということだ。ファルスカの数多ある料理を食べてきたわたくしでさえ、その美味しさへの理解が追いついていない。
バターが溶けた所から少し離れた箇所のスープも飲んでみた。
やはりまるで味が違う。
ベースとなるスープは、濃くて厚みのある味とでも言うべきだろう。塩が効きすぎた濃さではない。広がりのある濃さなのである。
そこにコーンが入ってくると、甘みをより感じるようになる。
そしてバターがより深さを感じさせ、まろやかさも加わってくる。
『ファルスカでは到底再現できませんわね』
ファルスカで見る麺料理は、小麦のゆるい生地を薄く焼いて、細く切ったものに、水気を帯びた野菜を細かく切って液状に近くしたものを和えた料理である。使用する麺は、白さが目立ち、かなり太く、焼いたとしても食感や味に粉っぽさが残っている感じがするのだ。そのため、麺だけではお世辞にも美味しいとは言えない。麺と絡めるソースにしても、トマトなどの水分を多く含む野菜を細かく切るかすり潰して液状にしたのみで塩以外に調味料は加えないため、どうしても味が淡白なのである。城下町の飲食店でも数店舗でメニューに載ってはいるが、高価な割に量も少なく、味が淡白ということで、わたくしのようにお忍びで城下を回っている貴族、王族でなければ注文することはないだろう。
そのような先入観があったからこそ、余計に衝撃的だったのかもしれない。一口で、一品分の味を超えた。大げさかもしれないが、一口だけで、高級肉数切れを味わった程に感動がある。
『文句のつけどころがないですわ』
また、麺がまた恐ろしく美味しい。
麺は縮れていて美しい黄色をしている。
スープが濃いだけに、麺とスープが絡まって絶妙な味わいになっている。
そう考えると、具材も全てがスープと合うように考えられている。挽き肉などと、なんと勿体のない肉の使い方をすると思ったが、ラーメンの中にあっては麺とうまく混ざり合うと良い塩梅で口に入ってくるのでより一層美味しく感じるのである。
『これは完敗ですわね』
心の声が脳内を巡るとともに、口から大きな溜息が漏れていた。
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