異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア

文字の大きさ
上 下
29 / 54
ダンジョンマスター 聖龍

回想 準備

しおりを挟む
着々とダルゴニアでラーメン屋を開店する準備は進んだ。ニャティリは、日本の聖龍軒で住み込みの修行を行なった。一方で我は、第7階層の大改変を決行した。セーフティゾーンを作ったり、結界を何重にも構築したり、地球の科学を参考にして、ガスや電気や水道の設備をそのまま異世界でも利用できるように空間を形成したのだ。

魔術に精通した我にとっても、地球の科学は理解するのに時間がかかった。魔術理論という概念はあるのだが、魔術というのは個々人の感覚的な要素が強いのだ。それに対し異世界地球の科学は、理論的研究が幾年と積み重なって体系化され、魔術でも真似できないようなものを次々と創り出していった。ダンジョンを司る我を以てしても、冷蔵庫やオーブンレンジ、食洗機やパソコンなどは地球からの輸入に頼らざるを得なかった。そうして、日本の最先端のキッチンを忠実に再現できるように、科学と魔術を組み合わせて試行錯誤を重ねていた。電気の配線や水道・ガスの配管を、地球から輸入した建材で行ない、できる限り地球の聖龍軒に近いレイアウトに仕上げていった。

我ながら異世界情緒溢れる渾身の出来となった。他の聖龍ではこう巧くは造れまい。いやはや、我は天才である。

………あいたっ!………っと、いかんいかん。

脳内の思考は同族たちに筒抜けなのだった。この頭痛の感覚は久し振りだな。

我もダンジョンマスターとなる前の感覚を取り戻してきたのかもしれぬな。聖龍の感情は、ダンジョンマスターとなると徐々に希薄になっていく。他者と関わらなくなって行くが故、仕方ないことなのかもしれんがな。

さて、聖龍軒のダルゴニア支店の建設も竣工に近づいた頃のことだった。第7階層の最奥に向かって進む人間をダンジョンが察知して信号が送られてきたのであった。

実を言えば、ニャティリの自叙伝をギルド経由で作らせたのだが、その自叙伝を読んだ者でニャティリと共鳴する者達のみが第7階層最奥を目指すように、結界に設定を施しておいたのだ。

そして第7階層を進む者が現れたのだが、予期せぬ出来事が起きた。

第7階層を奥に向かって進む者が別々に二人現れ、二人が合流してしまう事態が発生しようとしていた。
我に辿り着いた際にパーティであった場合、我が負かされる可能性も微量に出てきてしまうという懸念があり、第7階層をパーティーで進む者に対してはモンスター達も最大戦力を以て殲滅するようにレベル設定してあるのだ。途中で合流した場合も例外ではなく、合流した時点からダンジョン最強レベルのモンスターが大量に現れてくるようになる。

普段であれば、絶対に人間への干渉はしない。しかし、異世界への扉を開いたニャティリへの協力に関しては何よりも優先される。ニャティリの意志に共鳴する者たちを見殺しにすることはできなかった。我はこの時、二人を第7階層の入口まで強制移送しようと転移陣を創り始めていた。

まさに転移陣を展開しようとしたその瞬間、二人は驚きの行動に出たのだ。

抱擁し合っていた二人が離れたかと思えば、防具を脱ぎ出し始めたのである。

そして、イリスがマリアをおぶる形で再び歩き始めたのだった。そんな二人をダンジョンは「一人」だと判断したということだ。

今まで我のもとに辿り着いたのはニャティリだけであったからして、ダンジョンの脆弱性テストをしたことすらなかった訳だが、それにしても一瞬の状況判断で我ですら気づかなかった設定の穴を見つけ出して実行に移したのには感服した。

その後二人は異世界の門を開き、ラーメンを食べた後に、ラーメン屋の店員となることを快く許諾した。こうして、ダルゴニアでラーメン屋を開業するための最後のピースも揃い、準備も最終段階へと進んだ。

ただ、我はこの後一月程、ダンジョンの脆弱性対策に頭を悩ますこととなる。お陰様で、ダンジョンはアップデートされ、第7階層は聖龍軒関係者と共鳴する者たちであれば、パーティでも強力なモンスター達に会わずに進めるようになったのであった。しかしながら、結局今のところ、第7階層を奥に進もうという冒険者は現れていない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで220万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...