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ギルド副長 セシル
入店
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地下第7階層へ到着した。やはり、ここはいつ来ても不気味だ。全面石造りで、光源もなく真っ暗であり、天井も低いので圧迫感がある。
地下第6階層へと繋がる上り階段の裏手に一本の通路があり、その先に扉がある。扉を開いて条件を満たせばギルドのダルゴニア支所とラーメン屋のある大広間へと行けるようになっているとのことだ。
私はギルド支所長となったため、いつでも大広間に行ける設定がされているらしい。そのような設定なのは、ギルドで言えば私とギルド長の二人だけなのだそうだ。
さて、扉を開き通路を抜けて大広間までやって来た。ここで、いきなり天井も高くなって、実に解放感のある広い空間となる。
広間に入ってすぐ右手に無人のカウンターがある。これが恐らく私の職場だろう。入ってすぐ左手の奥の壁に大きな掲示板が埋め込まれている。そして、大広間には大小様々なテーブルが置かれていた。大広間の奥まで行くと座席付きのカウンターと調理場がある。ここがラーメン屋らしく、二人の女性店員が忙しなく動いていた。
挨拶をしようと近づいて、私は絶句した。
「「いらっしゃいませ。聖龍軒へようこそ」」
出迎えてくれたのは、私もよく知る二人だったのだ。
イリスとマリアの二人。あの忌まわしいクラーケン事件の際に私が助け出した当時の赤ん坊である。
「セシルお姉様、とりあえずそちらにお座りください。イリスちゃん、お水用意できる?」
「はいよ。セシル姉さん、はいおしぼりとお水」
二人とは、孤児院でもギルドでもよく会うので、話し慣れてはいた。マリアはちょっとだけフランクな敬語で、イリスは基本タメ口なのだが、イリスも敬称だけは姉さんって気遣っている当たり、普段と全く変わらない。
「店員って、あなたたちだったの?」
「そうだよ。ニャティリさんから聞いてなかった?」
イリスが回答してくれた。しかしながら、ニャティリもギルド長も店員については何にも言っていなかった。ニャティリがわざわざ店員のことまで説明しないのは分かるが、彼女たちのことも私のことも良く知っているギルド長に至ってはわざとだろう。
「そういえば、あなたたち最近めっきりギルドに来なくなったわよね。そういうことだったのね」
冒険者であれば、1ヶ月に一度ぐらいは最低でもギルドに来るのだ。情報収集や、依頼の確認、報酬の受け取り、素材の換金など、ギルドへの用事は案外多いので、ギルドへ行かないといけないというのが正直な所だ。
だからこそ、ここ三ヶ月ぐらい二人がギルドに来ていないというのはおかしな話ではあった。ギルド長がダンジョンで会ったと言っていたし、孤児院にも仕送りが毎月入ってるという話は聞いていたから、心配をそこまでしてなかったのも事実だった。うまく隠したものだと思う。きっと、私が大反対するからギルド長が配慮したのだろう。
「ギルドには行きたかったんだけどさ、私らもギルド長に止められてたんだ」
イリスは溜め息をついてそう答えた。申し訳なさそうな顔で、マリアも続く。
「このラーメンのレシピとかってトップシークレットなので、わたしたちの記憶とかから盗まれないように、結界内から出ちゃいけないんですよ。ラーメン以外にも色々知ってしまったんで、ニャティリさんやダギリさんがいない限りは、ここから出ちゃいけないんです」
やはり、ギルド長が止めていた。
理由はちょっと想定外だったが、ますますラーメンという食べ物が非常に怪しく感じてくる。トップシークレットなんて言葉は久々に聞く。それこそ、ギルド隠密部隊にいた時以来ではないだろうか。
仕切り直しといった面持ちでマリアが私に話しかけてきた。
「セシルお姉様、今日のスープはわたしが仕込みました。ニャティリさんには遠く及ばないんですけど、美味しくできたと思います」
しかしながら、この店で料理を作っているのは、何年もの修行の末に店を構えた料理人ではなく、つい数ヶ月前には冒険者だった素人料理人の二人でなのである。ものの数ヶ月で、人々を唸らせる料理を作れてしまったら、確かにトップシークレットな何かがあってもおかしくはない程、馬鹿げた話ではある。
「それで、せっかく来店してもらったので、ラーメンを食べていってもらいたいのですが……」
心配そうな様子で質問してくるマリア。どのみち、ラーメンを食べないことには地下第7階層での営業に反対することができないと私も思っていた。ちょうど良い機会だ。
「いくらあなたたちが店員だからって、私はそう甘くないわよ」
実際、イリスとマリアが店員だからこそ、地下第7階層での飲食店経営なんて続けさせてはならないと思う。
「これが塩ラーメンです。どうぞ、お召し上がりください」
出てきたのは、スープ料理だった。
地下第6階層へと繋がる上り階段の裏手に一本の通路があり、その先に扉がある。扉を開いて条件を満たせばギルドのダルゴニア支所とラーメン屋のある大広間へと行けるようになっているとのことだ。
私はギルド支所長となったため、いつでも大広間に行ける設定がされているらしい。そのような設定なのは、ギルドで言えば私とギルド長の二人だけなのだそうだ。
さて、扉を開き通路を抜けて大広間までやって来た。ここで、いきなり天井も高くなって、実に解放感のある広い空間となる。
広間に入ってすぐ右手に無人のカウンターがある。これが恐らく私の職場だろう。入ってすぐ左手の奥の壁に大きな掲示板が埋め込まれている。そして、大広間には大小様々なテーブルが置かれていた。大広間の奥まで行くと座席付きのカウンターと調理場がある。ここがラーメン屋らしく、二人の女性店員が忙しなく動いていた。
挨拶をしようと近づいて、私は絶句した。
「「いらっしゃいませ。聖龍軒へようこそ」」
出迎えてくれたのは、私もよく知る二人だったのだ。
イリスとマリアの二人。あの忌まわしいクラーケン事件の際に私が助け出した当時の赤ん坊である。
「セシルお姉様、とりあえずそちらにお座りください。イリスちゃん、お水用意できる?」
「はいよ。セシル姉さん、はいおしぼりとお水」
二人とは、孤児院でもギルドでもよく会うので、話し慣れてはいた。マリアはちょっとだけフランクな敬語で、イリスは基本タメ口なのだが、イリスも敬称だけは姉さんって気遣っている当たり、普段と全く変わらない。
「店員って、あなたたちだったの?」
「そうだよ。ニャティリさんから聞いてなかった?」
イリスが回答してくれた。しかしながら、ニャティリもギルド長も店員については何にも言っていなかった。ニャティリがわざわざ店員のことまで説明しないのは分かるが、彼女たちのことも私のことも良く知っているギルド長に至ってはわざとだろう。
「そういえば、あなたたち最近めっきりギルドに来なくなったわよね。そういうことだったのね」
冒険者であれば、1ヶ月に一度ぐらいは最低でもギルドに来るのだ。情報収集や、依頼の確認、報酬の受け取り、素材の換金など、ギルドへの用事は案外多いので、ギルドへ行かないといけないというのが正直な所だ。
だからこそ、ここ三ヶ月ぐらい二人がギルドに来ていないというのはおかしな話ではあった。ギルド長がダンジョンで会ったと言っていたし、孤児院にも仕送りが毎月入ってるという話は聞いていたから、心配をそこまでしてなかったのも事実だった。うまく隠したものだと思う。きっと、私が大反対するからギルド長が配慮したのだろう。
「ギルドには行きたかったんだけどさ、私らもギルド長に止められてたんだ」
イリスは溜め息をついてそう答えた。申し訳なさそうな顔で、マリアも続く。
「このラーメンのレシピとかってトップシークレットなので、わたしたちの記憶とかから盗まれないように、結界内から出ちゃいけないんですよ。ラーメン以外にも色々知ってしまったんで、ニャティリさんやダギリさんがいない限りは、ここから出ちゃいけないんです」
やはり、ギルド長が止めていた。
理由はちょっと想定外だったが、ますますラーメンという食べ物が非常に怪しく感じてくる。トップシークレットなんて言葉は久々に聞く。それこそ、ギルド隠密部隊にいた時以来ではないだろうか。
仕切り直しといった面持ちでマリアが私に話しかけてきた。
「セシルお姉様、今日のスープはわたしが仕込みました。ニャティリさんには遠く及ばないんですけど、美味しくできたと思います」
しかしながら、この店で料理を作っているのは、何年もの修行の末に店を構えた料理人ではなく、つい数ヶ月前には冒険者だった素人料理人の二人でなのである。ものの数ヶ月で、人々を唸らせる料理を作れてしまったら、確かにトップシークレットな何かがあってもおかしくはない程、馬鹿げた話ではある。
「それで、せっかく来店してもらったので、ラーメンを食べていってもらいたいのですが……」
心配そうな様子で質問してくるマリア。どのみち、ラーメンを食べないことには地下第7階層での営業に反対することができないと私も思っていた。ちょうど良い機会だ。
「いくらあなたたちが店員だからって、私はそう甘くないわよ」
実際、イリスとマリアが店員だからこそ、地下第7階層での飲食店経営なんて続けさせてはならないと思う。
「これが塩ラーメンです。どうぞ、お召し上がりください」
出てきたのは、スープ料理だった。
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