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ギルド副長 セシル
出発前
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地下第7階層に新たに設置するギルド支所には、ギルド副長である私だけが送られるようだ。
ラーメン屋の営業日と、その前後一日ずつの合計5日が私の週の勤務日となるらしい。休み中の緊急対応案件は、ギルド本部へとまずは連絡が行くようになっているようだった。
ギルドのダルゴニア支所初日は明後日を予定している。今日・明日は本来休日となるが、荷物整理や掲示板の準備などを行うために早めに行くことにしたのだ。
今日から行くことをラーメン屋の責任者であるニャティリに伝えたところ、店も休みであり、さらにニャティリは不在にしているが、店員二人が店にいるらしく行っても大丈夫とのことだった。
休みなどという概念は私自身は必要ないと思う人間だったので、休めと言われても休めないのかもしれない。むしろずっと仕事ができるのであれば、いつまでもしていたい。
そんな仕事の鬼を続けて来られたのは、やはり地下第5階層の惨劇を目の当たりにしたからなのだろうと思う。
あの時から私は変わった。
クラーケン事件以降の話だ。
まず、私が保護した二人の赤ん坊は、孤児院に預けることにした。名前については、奴隷たちの生き残りで知っていた者がいたので、両親が付けた名前をそのまま引き継げていると思う。名前は、イリスとマリアだった。
孤児院には、私も頻繁に通うようになった。特にイリスとマリアは私に良く懐いた。二人は冒険の話が本当に好きで、孤児院に行くと彼女たちからずっと質問責めにあっていた。
そして、事件から8年が経ち、彼女たちは冒険者になった。
当たり前だが、私は大反対した。
この時、私は彼女たちにクラーケン事件の話をしたのだ。いかにダンジョンが恐ろしいところなのかを力をいれて説明した。それでも、彼女たちは断固として私の言うことは聞かなかった。彼女たちが孤児院出身ということもあり、いともあっさりとギルド登録が完了したのだった。当時の最年少記録だった。
私も今思えば過保護だったが、彼女たちの護衛クエストを信頼できるパーティに依頼したりもしていた。まぁ、五年前に最年少での第10階層到達を達成してからは私もさすがに彼女たちの護衛クエスト依頼を出すことはなくなった。
クラーケン事件があって、私はどうなったかというと、ギルド内で出世していた。ギルド副長となり、同時期にギルド長となったダギリの右腕としてずっと働いている。
そして、私はあの時以来泣かなくなった。というか、泣けなくなっていた。
正確に言えば、喜怒哀楽をうまく表現することができなくなってしまっていた。ポーカーフェイスと言えば聞こえは良いが、感情の振れ幅が小さくなってしまったのだ。
だからこそ、今回のダルゴニアの地下第7階層での飲食店出店申請が来た時の私の感情の揺れには正直自分でも驚いた。久々に興奮を抑えきれなかったのだ。
そんなこんなで今に至るが、少しは冷静になったつもりでいても、たぶん未だに怒りは収まっていないと思う。何としてでも、地下第7階層での飲食店経営は、廃業に追い込まなければならないと強い決意のもとに、私はギルドダルゴニア支所長への昇進を受理していた。
そんなわけで引っ越しの日、荷物を運ぶ前に、転移するための座標軸特定のため、私は地下第7階層の入り口へと進んだ。
ラーメン屋の営業日と、その前後一日ずつの合計5日が私の週の勤務日となるらしい。休み中の緊急対応案件は、ギルド本部へとまずは連絡が行くようになっているようだった。
ギルドのダルゴニア支所初日は明後日を予定している。今日・明日は本来休日となるが、荷物整理や掲示板の準備などを行うために早めに行くことにしたのだ。
今日から行くことをラーメン屋の責任者であるニャティリに伝えたところ、店も休みであり、さらにニャティリは不在にしているが、店員二人が店にいるらしく行っても大丈夫とのことだった。
休みなどという概念は私自身は必要ないと思う人間だったので、休めと言われても休めないのかもしれない。むしろずっと仕事ができるのであれば、いつまでもしていたい。
そんな仕事の鬼を続けて来られたのは、やはり地下第5階層の惨劇を目の当たりにしたからなのだろうと思う。
あの時から私は変わった。
クラーケン事件以降の話だ。
まず、私が保護した二人の赤ん坊は、孤児院に預けることにした。名前については、奴隷たちの生き残りで知っていた者がいたので、両親が付けた名前をそのまま引き継げていると思う。名前は、イリスとマリアだった。
孤児院には、私も頻繁に通うようになった。特にイリスとマリアは私に良く懐いた。二人は冒険の話が本当に好きで、孤児院に行くと彼女たちからずっと質問責めにあっていた。
そして、事件から8年が経ち、彼女たちは冒険者になった。
当たり前だが、私は大反対した。
この時、私は彼女たちにクラーケン事件の話をしたのだ。いかにダンジョンが恐ろしいところなのかを力をいれて説明した。それでも、彼女たちは断固として私の言うことは聞かなかった。彼女たちが孤児院出身ということもあり、いともあっさりとギルド登録が完了したのだった。当時の最年少記録だった。
私も今思えば過保護だったが、彼女たちの護衛クエストを信頼できるパーティに依頼したりもしていた。まぁ、五年前に最年少での第10階層到達を達成してからは私もさすがに彼女たちの護衛クエスト依頼を出すことはなくなった。
クラーケン事件があって、私はどうなったかというと、ギルド内で出世していた。ギルド副長となり、同時期にギルド長となったダギリの右腕としてずっと働いている。
そして、私はあの時以来泣かなくなった。というか、泣けなくなっていた。
正確に言えば、喜怒哀楽をうまく表現することができなくなってしまっていた。ポーカーフェイスと言えば聞こえは良いが、感情の振れ幅が小さくなってしまったのだ。
だからこそ、今回のダルゴニアの地下第7階層での飲食店出店申請が来た時の私の感情の揺れには正直自分でも驚いた。久々に興奮を抑えきれなかったのだ。
そんなこんなで今に至るが、少しは冷静になったつもりでいても、たぶん未だに怒りは収まっていないと思う。何としてでも、地下第7階層での飲食店経営は、廃業に追い込まなければならないと強い決意のもとに、私はギルドダルゴニア支所長への昇進を受理していた。
そんなわけで引っ越しの日、荷物を運ぶ前に、転移するための座標軸特定のため、私は地下第7階層の入り口へと進んだ。
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