異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア

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ギルド副長 セシル

回想 惨劇

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息を殺して船内を進む。
私が今いるのは、地下第5階層第4の島の港に停泊中の巨大遊覧船の内部だ。
ギルド隠密部隊特殊情報群の隊員より伝達された情報によれば、私が潜入したこの巨大遊覧船内の船底に人身売買用となる奴隷を隠しているという。
捕らえられている奴隷は18人で、内10人は子どもという話だ。私たちは、気配遮断スキルを行使し慎重に船内の魔術結界を解除しながら、船底へ着々と近づいていた。
人の気配が全くなかった。警備が一切敷かれていない。順調過ぎるほどに下へ下へとと進めている。私たちは少しずつ不気味さを感じ始めていた。
これは罠かもしれないと思い始めたころには、船底へとたどり着いてしまった。

小さな檻がいたるところに置かれていた。檻の中には、ゴミ箱のようなものに蓋をする簡易的なトイレが置かれており、全員が全裸で入れられていた。子どもと女しか見当たらない。
簡易トイレはあるものの箱に蓋をするだけなので、部屋中に汚物の臭いが漂っていた。かなり、劣悪な環境だった。。
手当たり次第、魔術で施錠を外し、捕らえられていた全員を檻の中から出していった。始めは突然の出来事に怯えていた奴隷たちも、最終的には私たちが味方であることを理解し行動してくれていた。
さぁ、後は転移魔術を展開して全員をダンジョン入口まで送れば良いと最終段階に入った矢先に、敵が仕掛けた魔術結界が突如として発動した。瞬間、私たちは魔術が使えなくなってしまった。
『おやおや、どうやらネズミが忍び込んでいるらしいですねぇ。聞こえますか、ネズミたち?』
耳障りな男の声が船内に響き渡る。音声転信魔術と視覚転送魔術により男は遠隔地にいながら私たちとコンタクトをとってきていた。
『罠だと知らずにご苦労なことです。商品を廃棄するのは勿体ないですが、存在を知られたからには、皆殺しにする必要がありますねぇ』
男がそう言うと、部屋の奥の方で"バチッ"という音がなり、巨大な魔方陣が展開された。あらかじめ設置されていた転移魔方陣だったのだろう。魔方陣の中から次から次へと魔物が現れたのだ。
『きゃっきゃっきゃっ。哀れですねぇ、哀れです。皆で仲良く死にましょうねぇ』
ざっと見ただけでも、サーベルウルフ、キラービー、ジャイアントベアー、アイアンキメラクネ、ポイズンフロッグなど地下第6階層で出現する凶悪な魔物たちが群れで現れていた。
魔術が使えれば、私たちも対抗できるが、魔術阻害の結界が展開されていることで物理戦闘しか行うことができない。
「檻をうまく使いながら、敵を分散させて一匹ずつ仕留めろ!!」
ダギリ隊長の怒声が室内に轟く。隊員たちは、瞬時に散ってモンスターとの戦闘を始めた。
私は、近くにいた親子を庇いながらも前方の魔物たちを毒矢で攻撃する。
『いいですねぇ、楽しいですねぇ。これぞエンターテイメント!録画して販売すれば奴隷の損害分は余裕で取り返せますねぇ』
魔術が封じられているため矢の補充はできない。有限の毒矢を無駄にしないためにも、一発必中で敵を狙っていった。
「……キリがない」
敵を倒しても倒しても次が現れる。完全に絶望的な状況だった。
30はあった矢も底を尽きようとしている。剣術の心得もあるが、私の力量では自衛で精一杯である。

『……これまでか』

万事休すとその場の全員が諦めかけたその時だった。

"ガタガタガタガタガタ"

突如、船内全体が激しく揺れ出した。尋常ではない揺れだった。
揺れが収まると魔術阻害の結界や転移魔方陣も崩壊して、魔術が使えるようになっていた。
良く分からないが、起死回生のチャンスが到来したのだ。
「魔術を畳み掛けろ!!一気に行けぇ!!!」
ダギリ隊長の号令とともに、隊員が一斉に魔術行使をし、魔物たちを一掃した。

全員が安堵したその瞬間、あり得ないことが起こった。
全員が宙に浮いたのだ。

突然の出来事にも、私は飛翔魔術を使って対応した。そして落下していく奴隷たちに向かって手を伸ばした。
『……嘘、届かない』
凄い速度で落下していく奴隷たちを私は誰一人として掴めなかった。さっきまで隣にいた親子さえも、誰一人として……。
『……そんなっ……待って』
それは刹那の出来事だったのだ。次の瞬間には、グシャッという音がした。
眼下を見ると、私が庇っていた親子の母親の首がグニャリと曲がり倒れていた。
私の頭は真っ白になった。しかし、その時に聞こえた泣き声に私の体は反応したのだ。即座に急降下して、先ほどの母親の元へ行った。母親が抱え込んで腕の中にいた赤ん坊が、力強い声で泣いていた。私は、必死になってその子を抱き抱えた。
すると、もう一つの泣き声が近くから聞こえてきた。必死になって探して、その子のことも見つけることができた。
その子の母親も、子どもを抱きかかえて落下したようで、やはり頭を打っていた。もう頭部が酷い損傷をしており、見るに耐えない状態だった。
私は二人の子を抱きかかえて、飛翔した。

また、その瞬間に大きな衝撃が走る。
今でもその時の光景は忘れられない。

船底と思われる天井に穴が空き、その先に空を覆うように巨大なクラーケンが目に映ったのだった。
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