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ギルド副長 セシル
記憶
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意味が分からなかった。
事前申請がなされた時点で、私はギルド長に直訴していた。
地下第7階層に飲食店なんてあり得ない。そもそも、ダンジョン内で商売を行うこと自体、言語道断じゃないのか。
絶対に許可してはなりませんと何度も直接伝えていた。それをギルド長は静かに聞いて、そして「分かった」と答えてくれた。
それなのに、ギルド長は帰ってきて、「ニャティリの店に出店許可を与えた」と言った。
私の頭は真っ白になった。
ギルド長もあの時のことを覚えているはず。だって、私たちは当事者だったから。
だからこそ、絶対に不許可にしてくれると信じていた。信じていたのに。
ギルド長からは、ニャティリの店の監視を私に一任すると言われた。どうやら、ニャティリの店のフロアにギルドの支所を設けることが出店の条件となったらしい。
ギルド副長からギルドダルゴニア支所長となれば、私にとっては出世となる。女性管理職はそもそも珍しいのに加え、受付嬢あがりの私が支所長になるというのは、相当な栄転である。逆にいえば、何かが起こった時に、支所長が女性だったからといった感じで、責任転嫁がしやすいという利点もあるのだろう。
ギルド長から、危険な兆候が少しでもあれば、いつでも営業停止命令ができるようにしてあるとは言われている。それも、現行犯逮捕という形でも良いと合意をとっているようだ。まぁ、騎士団を通して逮捕をしたとしても、ギルドの発言力に勝てる一般人などいないので、結局は犯罪者となるのだけれど、ギルドの現行犯逮捕に応じるという条件付きの契約は店側のリスクは非常にある。現行犯で逮捕されれば、隠蔽工作などの時間が一切なくなるからだ。
事実、以前のダンジョン内での不正取引事件でも、逮捕までに時間がかかってしまい、隠蔽工作が行われて有罪判決から免れた極悪人達が今ものうのうと生きている。そういう意味では、店側にとってギルド職員による現行犯逮捕を許可するというのは、自らの首をわざわざ自ら絞めるリスクの非常に高い行為といえる訳だ。
犯罪者となれば、ファルスカ王国からは追放となるか、刑務所にいれられて刑期が終わるまで出てくることができなくなる。
そのリスクを背負ってでも地下第7階層での営業をしたい理由があるのだろう。そして、自信も持っているのだろう。絶対に事故は起こらないと。
しかし、事故は思わぬところから起こる。予測なんて誰もできない。そして、起きてからでは遅い。絶対に安全なんてあり得ない。
あの時のような惨劇は二度と起こしてはならない。
だいぶ世間の記憶からも風化されてきてはいるけれども、あの時のことは忘れもしない。
私の人生を大きく変えた事件だった。
事前申請がなされた時点で、私はギルド長に直訴していた。
地下第7階層に飲食店なんてあり得ない。そもそも、ダンジョン内で商売を行うこと自体、言語道断じゃないのか。
絶対に許可してはなりませんと何度も直接伝えていた。それをギルド長は静かに聞いて、そして「分かった」と答えてくれた。
それなのに、ギルド長は帰ってきて、「ニャティリの店に出店許可を与えた」と言った。
私の頭は真っ白になった。
ギルド長もあの時のことを覚えているはず。だって、私たちは当事者だったから。
だからこそ、絶対に不許可にしてくれると信じていた。信じていたのに。
ギルド長からは、ニャティリの店の監視を私に一任すると言われた。どうやら、ニャティリの店のフロアにギルドの支所を設けることが出店の条件となったらしい。
ギルド副長からギルドダルゴニア支所長となれば、私にとっては出世となる。女性管理職はそもそも珍しいのに加え、受付嬢あがりの私が支所長になるというのは、相当な栄転である。逆にいえば、何かが起こった時に、支所長が女性だったからといった感じで、責任転嫁がしやすいという利点もあるのだろう。
ギルド長から、危険な兆候が少しでもあれば、いつでも営業停止命令ができるようにしてあるとは言われている。それも、現行犯逮捕という形でも良いと合意をとっているようだ。まぁ、騎士団を通して逮捕をしたとしても、ギルドの発言力に勝てる一般人などいないので、結局は犯罪者となるのだけれど、ギルドの現行犯逮捕に応じるという条件付きの契約は店側のリスクは非常にある。現行犯で逮捕されれば、隠蔽工作などの時間が一切なくなるからだ。
事実、以前のダンジョン内での不正取引事件でも、逮捕までに時間がかかってしまい、隠蔽工作が行われて有罪判決から免れた極悪人達が今ものうのうと生きている。そういう意味では、店側にとってギルド職員による現行犯逮捕を許可するというのは、自らの首をわざわざ自ら絞めるリスクの非常に高い行為といえる訳だ。
犯罪者となれば、ファルスカ王国からは追放となるか、刑務所にいれられて刑期が終わるまで出てくることができなくなる。
そのリスクを背負ってでも地下第7階層での営業をしたい理由があるのだろう。そして、自信も持っているのだろう。絶対に事故は起こらないと。
しかし、事故は思わぬところから起こる。予測なんて誰もできない。そして、起きてからでは遅い。絶対に安全なんてあり得ない。
あの時のような惨劇は二度と起こしてはならない。
だいぶ世間の記憶からも風化されてきてはいるけれども、あの時のことは忘れもしない。
私の人生を大きく変えた事件だった。
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