異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア

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ギルド長 ダギリ

半チャーハンと餃子

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箸を置いて、しばし呆然としているとニャティリから話しかけられた。
「驚きました?でも、これだけでは終わりませんよ。イリス、次の出してあげて」
「はいはーい。半チャーハンです。どうぞ」
出てきたのは、ライスの料理だ。卵と何かの挽肉をライスと炒めただけのシンプルな料理に見える。
見た目も見事な半球体で皿に映えている。
ラーメンから少しだけ離れて、チャーハンを口に運んだ。
『……うまい。これも、うまい』
ラーメンもうまかったが、ここに来てライスはズルい。スープと麺を食べ続け、ちょっとした固形物を欲していたそのタイミングで畳み掛けるように出てくるのがこのライスというのは、流石に反則じゃないかと思う。
それも、塩加減といい、具の卵と挽肉のバランスといい、完璧なのだ。貶せる所が一つとして見当たらない。
「ギルド長。チャーハンを一掬いしたあとに、残ったラーメンのスープに浸して食べてみてください」
ニャティリは、手をククッとするジェスチャーをしながらそう言った。
言われた通りにやってみる。
『……そりゃそうだ。うまいに決まってる』
最強に最強を合わせて最強にならないわけがないのだ。ラーメンは麺を食べきってもスープがある限り、まだ楽しめる。
魔術で例えれば、炎の最上位魔術を使ったかと思えば、風の最上位魔術も同時展開して、最終的に炎と風が一体となりファイアストームとなって襲い掛かってくるようなものだ。それも、一部の隙もなく連続行使され続けているような間隔で放たれる。逃げ道がないのだ。
「さて、マリアちゃん。止めの一発お願い」
そうしてニャティリの背後から最後の刺客が現れた。
「セットの餃子です。わたしたちの餃子は、調味料文化がないファルスカに合わせてそのまま食べられるように味がしっかりついているんですよ。中は凄く熱いので気をつけて食べてくださいね」
可愛らしい形をして、その匂いは刺激的だ。ただ、嫌な感じではなくむしろ食欲がそそられる。
チラチラと調理過程が見えていたが、焼いた後に蒸すという二段構えで作っていた。俺が料理屋の息子だからその技術力の高さが分かるが、地上の料理人にアンケートを取れば、焼いて蒸すという調理法は秘伝中の秘伝だと誰もが答えるだろう。
技を惜しげもなく披露するが、食材や味付けが秘伝であり簡単には真似できないからこそできる芸当なのだ。そもそも、地下第7階層まで来なければならない時点で一般民衆にはハードルが高い。そうした意味でニャティリも良く考えていると思う。
最後の刺客である餃子を口にする。
『あぁダメだ。こりゃうまい』
噛んだ瞬間に口に広がる肉汁。具は、挽肉と野菜を混ぜているのだろうが、肉感が強くあるのに野菜もしっかり感じられて、味は複雑だが濃厚だ。それに、皮は焼き面がパリッとしているのに周りはモチモチで、中の具を引き立てている。
これがまた、ラーメンやチャーハンと合う。
あっという間に、餃子3個なんて食べ終わってしまう。
チャーハンもあと少しで、スープも残り僅かとなっていた。
「締めに胡椒を使うといいですよ。これがまた味も変わって最高ですから」
そう言って、ニャティリから円筒が手渡される。
俺は自分の耳を疑った。何かの聞き間違いだろうか。
とはいえだ、監査役として薦められたものを断る訳にもいかない。
俺は一振、スープに胡椒をかけて、まずはスープだけを飲んでみた。
『嘘だろ……本当に胡椒だ』
何度か貴族たちとの会食で胡椒を食べたことはあったが、まさに同じ味がした。いや、それ以上に美味しいかもしれない。
そして胡椒を入れたことで、今までのラーメンから味の印象もガラリと変わった。今までが、旨味が口の中一杯に広がってじわじわと味の深みに嵌まって行くような感じだったのに対し、胡椒を入れたら、キリッとしていて口中に電撃が走るような感覚が駆け巡ったのだ。
胡椒という国宝級の代物を、最初からではなく敢えて最後に使うのは常識的にはあり得ないが、料理としてはこれ以上はないほどにタイミングから味から何から何まで完璧だった。
そして、胡椒の入ったスープを残りのチャーハンにかけて、一気にかっ込んだ。
昇天しそうな程に、俺の胃袋も心も満たされていた。
もう残ったのはスープが一口のみ。
名残惜しさを感じながらも最後の一滴まで飲み干した。
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