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イリスとマリア
計画
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「それで二人とも、わたしとラーメン屋をやらない?」
閑話休題といった感じで切り出したニャティリさん。唐突な提案に、私とマリアは固まってしまった。
「そうよね。そういう反応よね、そりゃ」
確かに驚いた。急な話でまだ思考がついていけてないが、直感的には人生のターニングポイントが今まさに訪れているのだと感じ取っている。
ニャティリさんは、話を続けた。
「ダルゴニアでラーメン屋をやろうと思うのだけれど、店員を探しているの」
これはかなり革新的な話だ。
ダンジョン内に飲食店。
死と隣合わせの冒険者が飲食店経営を行う。
異世界の料理を再現する。
何もかも前例のない大博打だ。
「順を追って説明するわ」
立ち上がったニャティリさん。
ニャティリさんのイメージしている映像が思考の片隅に浮かび上がってきた。どうやらニャティリさんは思考共有魔術を私たちに行使したらしい。
「聖龍からこっそり教えてもらったのだけれど、第7階層に降りてくる階段の手前側ってモンスターの出現しないセーフティゾーンらしいのよ」
ニャティリさんの図解説明によると、第6階層から第7階層へ降りてくる階段から奥側に第8階層への階段やら異世界へと通じる門が存在しているが、手前側の部屋はモンスターが出現しないセーフティゾーンという設定がされているらしい。
「聖龍自体もダンジョンマスターではあるけれど、ダンジョンの区画ごとのセキュリティ設定までは変更できないようにできているらしいの。ただ、どのような設定で、どのような造りなのかは把握できるようになっているらしいわ」
「聖龍には、ダンジョンを拡張できる権限があって、拡張した区画のセキュリティ設定は、ダンジョンが自動的に決めるらしいわ。ただ、一部いくら拡張してもセーフティゾーンとなる区画があって、第7階層の場合はそれが第6階層から第7階層へ降りてくる階段の手前らしいの」
確かにダンジョンでは、昨日なかった部屋が突然現れることがしばしばあるが、出現モンスターの種類などは周囲の既存区画とさほど変わったりはしない。
しかしながら、古くから冒険者の間でもモンスターが出現しない区画の情報というのは研究され共有されてきたが、新たに出現した区画がセーフティゾーンだったという話は聞いたことがない。
それはつまり、ダンジョンマスターである聖龍が、わざわざセーフティゾーンを拡張するという行為をしなかっただけで、実際は拡張可能ということだ。
「ダンジョンの地下第7階層のセーフティゾーンは、聖龍が今、拡張してくれているわ。日本との行き来がしやすいように、入口と店を繋ぐ転移門も作ってくれるみたいだし、まだ店員はいないけどダンジョン内に社員寮も作ってくれているみたいよ」
脳内ビジョンでその間取りが展開されるが、凄い面白い構造をしていた。
第6階層から第7階層へ降りてくる階段のすぐ手前に一本の通路があり、ドアが設置されている。ドアは、ラーメン屋につながるか第7階層のエントランスへつながるか、日時や人によって変えて設定できるようになっているのだそうだ。
ラーメン屋につながる方のドアを開くと、広場のような広い空間が現れる。奥の壁際にカウンターと厨房が置かれており、全てオープンな感じだ。カウンターの手前には、テーブルを複数置くつもりらしい。見た感じ、一番イメージとして近いのが、ギルドの受付だ。大体のギルドには酒場も併設されているし、非常に似通っている。
その厨房の奥にまた通路があり、社員の休憩スペース(リビング)や各寮部屋、大浴場、フィットネスジム、転移魔方陣室、食料庫、工房などの部屋が展開されていた。恐らくはどんな王宮よりも設備は良いに違いない。
ただ、一点気になった。地下ということもあり、換気ができるのであろうか。換気ができなければそもそも飲食店をダンジョン内でやるというのは不可能だろう。
思考共有魔術使用中のため、そんな私の疑問がニャティリさんに直接伝わったらしく、ニャティリは私の疑問に答えてくれた。
「ダンジョンの構造的に、全フロアで空気循環結界がかけられているらしくて、実は換気はしっかりしているそうよ。ただ、一般的な空気循環結界と大して変わらないみたいだから第7階層では焚火はできないけどね」
まぁつまり、火事は起こせないということだ。
「という訳で、ダルゴニアの地下第7階層に聖龍軒の支店を作ろうと思うの。そのお店を二人に手伝って欲しいのだけれど」
遠慮がちに私たちを見つめてくるニャティリさん。
私の答えは決まっていた。
「私は是非お受けします。伝説の英雄であるニャティリさんと一緒にラーメン屋をできるなんて光栄です」
そしてマリアもニャティリさんに向けて答える。
「わたしもです。ラーメンの味を知ってしまったら、ラーメンなしではもう生きていけないくらいです。それが身近で食べられるようになるなんて夢のような話です」
マリアと顔を合わせて、思わず笑顔になる。
冒険者を長年続けてきたが、こんなにワクワクするのは久しぶりだ。
「そう。嬉しいわ。ありがとう」
ニャティリさんが手を差し出してきて、握手をした。
こうして、私たちは聖龍軒の店員となった。
閑話休題といった感じで切り出したニャティリさん。唐突な提案に、私とマリアは固まってしまった。
「そうよね。そういう反応よね、そりゃ」
確かに驚いた。急な話でまだ思考がついていけてないが、直感的には人生のターニングポイントが今まさに訪れているのだと感じ取っている。
ニャティリさんは、話を続けた。
「ダルゴニアでラーメン屋をやろうと思うのだけれど、店員を探しているの」
これはかなり革新的な話だ。
ダンジョン内に飲食店。
死と隣合わせの冒険者が飲食店経営を行う。
異世界の料理を再現する。
何もかも前例のない大博打だ。
「順を追って説明するわ」
立ち上がったニャティリさん。
ニャティリさんのイメージしている映像が思考の片隅に浮かび上がってきた。どうやらニャティリさんは思考共有魔術を私たちに行使したらしい。
「聖龍からこっそり教えてもらったのだけれど、第7階層に降りてくる階段の手前側ってモンスターの出現しないセーフティゾーンらしいのよ」
ニャティリさんの図解説明によると、第6階層から第7階層へ降りてくる階段から奥側に第8階層への階段やら異世界へと通じる門が存在しているが、手前側の部屋はモンスターが出現しないセーフティゾーンという設定がされているらしい。
「聖龍自体もダンジョンマスターではあるけれど、ダンジョンの区画ごとのセキュリティ設定までは変更できないようにできているらしいの。ただ、どのような設定で、どのような造りなのかは把握できるようになっているらしいわ」
「聖龍には、ダンジョンを拡張できる権限があって、拡張した区画のセキュリティ設定は、ダンジョンが自動的に決めるらしいわ。ただ、一部いくら拡張してもセーフティゾーンとなる区画があって、第7階層の場合はそれが第6階層から第7階層へ降りてくる階段の手前らしいの」
確かにダンジョンでは、昨日なかった部屋が突然現れることがしばしばあるが、出現モンスターの種類などは周囲の既存区画とさほど変わったりはしない。
しかしながら、古くから冒険者の間でもモンスターが出現しない区画の情報というのは研究され共有されてきたが、新たに出現した区画がセーフティゾーンだったという話は聞いたことがない。
それはつまり、ダンジョンマスターである聖龍が、わざわざセーフティゾーンを拡張するという行為をしなかっただけで、実際は拡張可能ということだ。
「ダンジョンの地下第7階層のセーフティゾーンは、聖龍が今、拡張してくれているわ。日本との行き来がしやすいように、入口と店を繋ぐ転移門も作ってくれるみたいだし、まだ店員はいないけどダンジョン内に社員寮も作ってくれているみたいよ」
脳内ビジョンでその間取りが展開されるが、凄い面白い構造をしていた。
第6階層から第7階層へ降りてくる階段のすぐ手前に一本の通路があり、ドアが設置されている。ドアは、ラーメン屋につながるか第7階層のエントランスへつながるか、日時や人によって変えて設定できるようになっているのだそうだ。
ラーメン屋につながる方のドアを開くと、広場のような広い空間が現れる。奥の壁際にカウンターと厨房が置かれており、全てオープンな感じだ。カウンターの手前には、テーブルを複数置くつもりらしい。見た感じ、一番イメージとして近いのが、ギルドの受付だ。大体のギルドには酒場も併設されているし、非常に似通っている。
その厨房の奥にまた通路があり、社員の休憩スペース(リビング)や各寮部屋、大浴場、フィットネスジム、転移魔方陣室、食料庫、工房などの部屋が展開されていた。恐らくはどんな王宮よりも設備は良いに違いない。
ただ、一点気になった。地下ということもあり、換気ができるのであろうか。換気ができなければそもそも飲食店をダンジョン内でやるというのは不可能だろう。
思考共有魔術使用中のため、そんな私の疑問がニャティリさんに直接伝わったらしく、ニャティリは私の疑問に答えてくれた。
「ダンジョンの構造的に、全フロアで空気循環結界がかけられているらしくて、実は換気はしっかりしているそうよ。ただ、一般的な空気循環結界と大して変わらないみたいだから第7階層では焚火はできないけどね」
まぁつまり、火事は起こせないということだ。
「という訳で、ダルゴニアの地下第7階層に聖龍軒の支店を作ろうと思うの。そのお店を二人に手伝って欲しいのだけれど」
遠慮がちに私たちを見つめてくるニャティリさん。
私の答えは決まっていた。
「私は是非お受けします。伝説の英雄であるニャティリさんと一緒にラーメン屋をできるなんて光栄です」
そしてマリアもニャティリさんに向けて答える。
「わたしもです。ラーメンの味を知ってしまったら、ラーメンなしではもう生きていけないくらいです。それが身近で食べられるようになるなんて夢のような話です」
マリアと顔を合わせて、思わず笑顔になる。
冒険者を長年続けてきたが、こんなにワクワクするのは久しぶりだ。
「そう。嬉しいわ。ありがとう」
ニャティリさんが手を差し出してきて、握手をした。
こうして、私たちは聖龍軒の店員となった。
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