異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア

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イリスとマリア

辿り着いた先

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扉の向こうは、何かの料理屋のようだった。
「あら、いらっしゃい。二人とも冒険者かな?」
オーラが尋常じゃない人から声を掛けられた。格好は料理人だが、明らかに人ならざる魔力を帯びている。あぁそうか、良く見ると認識阻害魔術が掛けられているが彼女はエルフだ。人間ではない。
「二人でなんて、良くたどり着いたね。わたしの名前はニャティリよ。よろしくね」
そして、目の前の人は私が追い求めた伝説の英雄ニャティリその人だった。
ニャティリさんは、私たちをカウンターに案内してくれた。その後、私たちの知らない言語で、ニャティリさんは厨房にいる二人の店員に話しかけていた。直後男の店員が調理を始めたからには恐らく注文だったのだろう。
「どうやって二人で進んだの?確か、一人で進まないと……」
ニャティリさんはどうやらダンジョンの仕組みを理解していたようだった。それでも、二人で抱きついて進むなんていうトリッキーな方法は思い付かなかったのだろう。
私たちは、ニャティリさんに一部始終を説明した。
「まさか、そんな方法があったなんて……」
ブツブツと自問自答を始めるニャティリさん。少々話しかけづらい雰囲気も漂っていたが、思いきって私からアプローチをしてみる。
「あのっ私、この本を読んで感動して、最終章に書かれていた至宝がどうしても気になってここに来たんです」
私の話声が聞こえたのか、ニャティリさんはパッと私の方を見てくれた。
「その本、見せてくれる?」
ニャティリさんに本を渡すと、パラパラと本を読み始めた。
「わたしも、実はイリスちゃんが凄い一生懸命読んでいるのを横で見ていたんで、買って読みました。イリスちゃんが突然いなくなって寂しくて凄い心配になって慌てて追いかけたのですが、ちょっとわくわくもしていました」
マリアがうつむきながら、黙々と本を読むニャティリさんに話しかけた。
「二人とも、流石の冒険者よね。恐怖心があっても、好奇心には抗えないってね」
あぁ、全くその通りかもしれない。第7階層の奥へ進むというのはすなわち死を意味しているのだ。そんな常識の中で私は、たった一冊のたった一行の記述を信用して単身第7階層の奥へと歩を進めた。その蛮行を嘆くばかりか、私の残したメモの通りに私を追って一人でマリアは来てくれたのだ。それも、マリアは攻撃型ではない。ヒーラーだけでモンスターと相対するというのは自殺行為だ。モンスターに会ってしまったが最期、それは死を意味する。マリアの単身での第7階層探索は、私よりも明らかにその意味は重い。よくぞ生きてここまで来たと思う。
「二人ともここまで来てくれて嬉しいわ。もう、あなたたちも英雄よ」
ポンと本を閉じるとニャティリさんはそう言って、立ち上がった。
「ラーメンができたわ。まずは、これを食べてみて。驚くわよ」
歩き続けてやっとの思いでここにたどり着いたわけで、食べ物を食べられるというだけでも、神に感謝したいという心情だった。
「英雄ニャティリをも魅了した至宝をとくとご堪能あれ」
私たちの目の前に現れたのは、世にも珍しいスープ料理だった。
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