異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア

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英雄ニャティリ

地下第7階層の秘密

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巨大ダンジョン「ダルゴニア」の地下第7階層。実はこの階層、わたしたち冒険者にとってはかなり鬼門だったりする。
なぜかというと、地下第7階層は壁から何からして石造りであり、自然資源が一切ないために、食料の調達ができないのだ。
さらには、天井が低く、一瞬で部屋に煙が充満してしまうために、焚火もすることができない。
光源も全くないため、真っ暗闇を進まなければならない。
そして、住み着いた魔物は地下第6階層に比べて狡猾で戦闘レベルも格段に高い。
さらには、地下第6階層から降りてきて割と近くに下層へ続く階段があるのだ。
そうした理由があり、地下第7階層を奥深くまで探索しようという冒険者は、あまり多くはいなかった。

だからこそ、わたしは好奇心が止まらなかった。
常に素通りしてきた地下第7階層だったけれども、ずっと奥が気になって仕方がなかった。
わたしは、ある日死んでも構わないという覚悟をもって、「ダルゴニア」のフロンティアである、地下第7階層の最奥到達への挑戦を一人で始めたのだった。
ダンジョンを一人で進むのは、自殺行為であると言われている。わたしも生まれて此の方二百年、ダンジョン探索を単独で行ったことは一度もなかった。
むしろ冒険者の禁忌を犯すことに非常にワクワクしている。いったいこの先に何が待っているのだろう。
エルフ族に伝わる秘伝の光魔術で擬似太陽を作成し辺りを照らしながら進む。
擬似太陽おかげなのか、一度も敵と遭遇すらしてない。地下第7階層に住む魔物は暗闇で生活しているため、光を弱点としているのだ。
さて、地下第7階層を進みはじめて半日程は経っただろうか。
ついにわたしの感知魔術が最奥の部屋を捕らえたのだ。そして、その部屋には巨大な魔物の反応があった。

『エルフの戦士よ。よくぞここまで一人で来た。』
最奥の部屋にいたのは、巨大な龍であった。
龍族なんておとぎ話でしか聞いたことがない。そんな龍族から念話で話しかけられているなんて、ここが現実か疑うレベルに信じがたい。
『我こそがダルゴニアのダンジョンマスターである』
さらなる驚きがわたしを襲う。ダンジョンマスターが未だ未踏の地下最下層ではなく、地下第7階層にいたということだ。
『残念ながら我は魔物ではない。我は聖龍族の生き残りである。この地で、この部屋を三千年に渡り守り続けてきた』
残念だとは思っていないが、念話で話しかけてきていることや、魔物ではないという発言からも、敵対する意思がないことは伝わってくる。
『この異世界の門を魔物が開かぬように守護してきた訳だが、魔物以外の誰かが訪れたのは、実に千年ぶりだ』
驚きのあまり、呆気に取られてしまい、わたしは言葉を発することもできなくなっていた。そんなわたしを尻目に龍は話を続けた。
『最奥まで到達するには、一人で探索をしなければならないのだ。そして、その者に金欲があってはならない。ダンジョンが清い心の持ち主だと認めなければ先には進ませないのだ。パーティ挑戦をする者や金に目が眩んだ者が地下第7階層を進もうとすれば、ダンジョンに住まう魔物たちが行く手に立ち塞がる。奥に進めば進むほど魔物のレベルは格段にあがる。奥の方などは、御主でも瞬殺されるぐらいのレベル設定にしてある』
冒険者で、パーティを組まず、さらには金欲がないというのは実に稀である。まぁ、第7階層という中途半端な階層で、尚且つ一人で奥を目指そうなんていう大バカものは歴史上にもいなかったのだろう。
「どうして、そのような設定にしたのですか」
聖龍は、わたしの初めての質問に対し、『ふむ』と一呼吸おいてから、説明を始めた。
『いくら我の戦闘力が桁外れであろうとも、集団戦闘をした場合に我が負かされる可能性もなくはないだろう。我らダンジョンマスターが死ねば、ダンジョンは崩壊するのだ。我らが生き延びるために、我らの住まう階層は最困難なレベル設定にしてある。それに、一人でここに来たとして、清い心の持ち主でなければ、異世界の門を悪用しかねない。そんなところだな』
閑話休題といった感じで、ダンジョンの核心に迫るような重大な秘密を教えてくれた訳だが、これからが本題といった面持ちに変わった。
『さて、我の頼みを聞いて欲しい』
まさに、これからが本題だった。龍は話を続けた。
『異世界の門を開き、異世界を見てきて欲しい』
龍の発言に何度となく驚かされて来たが、またもや度肝を抜かれた。まぁ、わたしも一端の冒険者で、恐怖心よりも好奇心の方が勝ってしまうようなエルフなので、考える間もなく、頷いていた。
龍は、『ありがとう』と一言添えて、話を続けた。
『三千年、異世界の門を守り続けてきたが、実をいうと門を開いたことは一度もない』
ダンジョンマスターも知らない未知の世界へと繋がる扉。いやはや、実に恐ろしい。
『各都市に存在する巨大ダンジョンでは、このような異世界へと繋がる門が存在し、その護衛でダンジョンマスターや魔物が存在している』
不意にダンジョンの存在意義までも告げられてしまう。
「どういうことですか。地下第7階層より下層は本来必要ないってことですか」
『冒険者への目眩ましの意味で必要は必要なのだが、最悪無くても良いのだ。そのような訳で、地下第8階層以下はもう我の趣味だ』
そんな裏話は聞きたくはなかった。だがまぁ、ここまでたどり着く者もいないわけだから、わたし一人が秘密を知ったところで体勢に影響はないのだろう。
「そうですか。でも、先ほど誰かがここに来たのは千年ぶりだと仰っていたじゃないですか。その人には、頼まなかったのですか」
『千年前に会ったのは、龍人族の知人での。其奴もダンジョンマスターを務めることになったらしく、挨拶に来ただけだったのだ』
つまりは、冒険者ではわたしが初めてここまで到達したということなのだろう。
『扉を開いた者は一人もおらん。我もその先に何があるかは知らんのだ』
何があるかは分からない。神のみぞ知るってことだ。冒険者のわたしにとっては、第7階層最奥到達の報酬として相応しい。
「分かりました。わたしが、責任を持って未知の異世界をこの目で見てきましょう。行ってきます」
わたしは、異世界の扉を開き、中へと一歩を踏み出した。
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